50万打&2周年お礼企画エロ第一弾

「俺の彼女は宇宙一」−2 








「は…母上……ここは一体?」

 血盟城の一部であることは分かる。だが、城壁の谷間にある茂みの影、殆ど外からは分からない部分のフックを引いて出てきた小さな扉を潜ると、見たこともない通路が存在した。

「あたくしの代に作らせた秘密通路よ」

 悪戯っぽく人差し指を唇に寄せる仕草で、お忍び…というか、夜這い用の秘密通路なのだということが分かる。

「ユーリは知っているのですが?」
「教えて差し上げようと思ったのだけど…うっかり忘れていたのよ」

 確かに脱走癖がある有利にしてはこの通路を使ったという形跡はない。
 靴音を響かせながら洋燈の明かりを頼りに細い道を歩いていくと、積み重なった分厚い埃が靴の裏に付いてくる。

「ここ…は……」

 見慣れた…魔王居室。

 ヴォルフラムが滞在するとき、以前は当然のように使用していたのだが、有利が女体となったことで流石に遠慮も生まれ、それ以降は訪れたことのない部屋である。
 一体どういう仕組みになっているのかと手を伸ばせば、透明な硝子に手が触れる。
 どうやら、壁に掛けられた鏡が二重構造になっていて、こちらから室内は見えるが室内からは見えないらしい。ふと…ヴォルフラムは不安になった。そんな構造を有利やコンラートにも知らせることことなく残していて良いのだろうか?

 魔道による鍵が掛かっているため、ツェツィーリエが能動的に開かないと入れないとは言うが…ツェツィーリエ自身が騙されて、不審な者の道案内をしてしまう可能性は大いにある。
 …というか、我が母ながら情けない話だが…ツェツィーリエ自身が不審者として夜伽に向かわないとも限らないのだ。

『教えてやるべきでは…』

 そう思うヴォルフラムの目の前で、コンラートは寝台の上で果汁を飲む有利に口吻た。 



*  *  *





「ユーリ、少し息は整いましたか?」

 つるりと舌先で唇をなぞると、ほっとしたように息をつく。

「うん、元気出てきたからマメも治したしね」
「良かった…痕にはならないみたいだ」
「足だぜ?ちょっとくらい疵が残ったって…」

 《大袈裟だなぁ…》と有利が肩を竦めるが、コンラートはの方は大真面目に仏頂面を作った。そう言う顔をすると、この男は実に長兄に似る。

「あなたの身体に少しでも疵を残すようなら、俺はあの無遠慮な貴族共を一刀両断したくなる…」
「物騒だな」

 くすくすと笑いながら、有利はストッキングを脱いだ生足をしどけなく寝台の上に伸ばす。たくし上げられたスカートは腿の半ばまでで蟠り、透き通るような内腿が燈火を浴びて果実のような光沢を呈する。

「美味しそうな腿だ」
「ん…くすぐったい」

 ぺろりと脚を舐めるコンラートは、野生の獣を思わせる敏捷な動きで恋人の上にのし掛かると、そのままぺろぺろと悪戯めかせた動きで胸元や首筋、頬を嘗めた。

「白粉の味がする」
「うん、べたべたする…早くとりたいな」
「お風呂に入ろうか?脱がせてあげる」
「口で?」
「ええ」

 かぷ…っと胸元の布地に噛みついて引き下ろせば、下着ごと布地がずり降ろされるから、勢いよくぽぃん…と乳房が露出してくる。元々細いウエストをコルセットによって《これでもか!》というほど締めあげているから、その形良い胸は常よりも更に大きく…扇情的に映る。

 先端で少し硬くなり始めた桜粒も、視線を奪うような艶やかさだ。

「可愛い桜色だ。こんなに毎日しゃぶっているのに、綺麗なままで…あなたそのものだね」
「馬鹿…」

 かぷりと桜色の突起を口に含んで甘く犬歯を立てると、痛いような…むず痒いような感覚が有利を煽り立てていることが分かる。この微妙な痛覚が、少しずつ有利の理性を溶かしていくことを、コンラートは幾度も過ごした夜の中で学んでいた。

「美味しい…」
「ん…もぉ……あんた、そこばっか…」
「こっちも…欲しい?」
「ん…にゃ……っ」
「猫みたい。可愛い声」

 スカートの中にするりと指を差し入れれば、小さな布地に巧みなレース細工を施した下着が、溢れ出る蜜液を受け止めかねて濡れそぼっていた。
 笑みを深めてくにくにと指先を蠢かせていたコンラートだったが…

 不意に眉を跳ね上げたかと思うと、背後を振り向き…静かに剣を取る。

「コンラッド…どうしたの?」
「いえ…気のせいかも知れませんが」

 折角艶めいた雰囲気になっていたところに残念だが、王の守護者たるコンラートとしては、僅かな懸念であっても看過することは出来ない。

 コンラートの持つ知識から言えば、《そこ》には何もないはずであった。
 壁に掛けられた大鏡…有利の警護を始めたときの検分でも、この鏡を外した背後の壁には何もなかった。

 だが…今、確かにそこから視線を感じたのだ。

「………」

 人を射殺せそうな殺気を漂わせて、剣の柄に手を掛けたまま…コンラートはつかつかと大鏡に近寄っていった。



*  *  *




「は…母上!」
「見つからないわよぅ…。この鏡と壁はアニシナに特注したのよ?私、その為にかなりの魔力を提供したんだから!」
   
 しかし、警戒を示すコンラートの表情は硬く、先程まで蕩けそうな顔で恋人を愛撫していたのと同一人物とは思えないほどだ。

『コンラートは…全身全霊をあげてユーリを警護しているのだ…』

 大鏡を外し、壁を叩いたり剣を突き立てて検分し…怪しい要素が何もないことが分かってもコンラートの愁眉が晴れることはない。アルノルド帰りの勘というやつは、アニシナの魔道具を持ってしても完全に退けることはできないらしい。

「どしたの?」

 有利が裸足のまま、とてとてとコンラートの傍に寄ってくると鏡を不思議そうに見やった。

『わ…っ!』

 色事に関しては純朴もいいとこのヴォルフラムは、あられもなく胸を露出させた有利に顔を真っ赤に染めてしまう。
 ぬめるように白い素肌には随所に紅色の華が咲き、愛撫に濡れた唇や桜粒はえもいえぬ色香を湛えていた。

「あらぁ…陛下ったらまた胸が大きくなられたのかしら?それに、形が良くって張りがあって…コンラートじゃないけど、あんまり美味しそうだから囓って差し上げたくなるわぁ…」
「母上…っ!」

 囁き交わす言葉が聞こえたわけではないのだろうが、またコンラートが気がかりな顔をした。

「何もないのですが…おかしいな。確かに、気配を感じたんです」
「この部屋で?なんか…やだな」

 ふるる…っと肩を揺らして有利は怯えの色を滲ませると、胸元の布地を掻き寄せた。
 それはそうだろう。城内で一番くつろげるはずの自室で《人の気配がする》と言われたのだ。
 コンラートの方も不要に有利を怯えさせてしまったのではないかと懸念したのか、努めて何でもない風を装った。

「多分…気のせいです。ゴメンね、ユーリ…怖がらせて」
「ううん…。あんたが気になるってんなら、本当に何かあんのかも知んないし…今度、大工さんとか呼んで確認して貰おうよ」
「そうですね…」

 甘い大気を希釈されたせいか有利からは艶かしい雰囲気が薄れるが、それでもコンラートが傍にいることの満足感は変わらないらしい。ぴと…っと身を寄り添わせると、しあわせそうに微笑んで見せた。

「過敏になるくらい、俺のこと心配してくれてんだよね」
「当然です。あなたにもしもの事があったら…俺は、生きていられない」

 本心からの言葉は、ヴォルフラムと同じ思いだ。
 だが…護り続けること、護り抜く事への執念と警戒心にかけて、果たしてコンラートに勝るものをヴォルフラムは持っていただろうか?

 同じ寝台の上で眠っていながら、ヴォルフラムは常に有利よりも先に熟睡して、有利よりも後にのろのろと起きていた。その間、コンラートは常に警戒心を解くことなく、有利の身を案じ続けて警護に立っていたのだ。

 何時眠っているのだろうと、疑問に思ったこともある。
 一日中起きていればそれだけ集中力もなくなるから、どこかで睡眠は取っていたのだろうけれど、でも…少なくともヴォルフラムが起きている時間の中で、彼が惰眠を貪っているのを見たことがない。

 《護衛なのだから当然》と、以前はヴォルフラムも単純に信じていた。
 だが、剣聖ウェラー卿コンラートが…《ルッテンベルクの獅子》と讃えられた男が、尊崇する魔王陛下の為とはいえ単なる護衛官で居続けることを自ら希望したのだ。それが、どんな意味を持つことであるのか、ヴォルフラムは一度でも真剣に考えたことがあっただろうか?

 コンラートは、誰かが護ってくれると単純に信じることなどできないくらいに…有利を自分自身の手で護りたかったのだ。

「あんたが護ってくれるんだもん。なにがあっても平気だよ」

 ああ…何という顔で笑うのだろう?全て委ねきって…安心しきった表情。
 それは、一度だってヴォルフラムには与えられなかったものだ。

 それほどまでにコンラートを信頼しているのか。
 そしてまた、全幅の信頼を寄せたその笑顔を向けられるだけのことを、コンラートは地道に積み重ねているのだ。

『勝てるわけ…ない……』

 ヴォルフラムは苦い敗北感の中で、皮膚が切れるほどに唇を噛みしめた。

「ユーリ…今日はもう休まれますか?」
「…やっぱりまだ心配?あんた…不寝番に立つ気だろう」
「すみません。少しでも気になることがある時には、眠れないんですよ」
「俺も起きときたい…」

 甘えるように有利が擦り寄っていくが、コンラートは静かに微笑んで恋人の肩を撫でた。

「いいえ、あなたには明日も政務があります。ね…湯を使って、早くお休みなさい?」
「うん…」

 説得できないと悟ったのか、有利はこく…っと頷いた。
 身体の奥で燻るものがあるのだろうが、懸命に堪えているようだ。

『ユーリ…』

 これほど睦まじい仲でありながら、何故彼らは恋人であることを隠すのか。
 ふと思い当たって、頬が羞恥に染まった。

 決まってる。
 ヴォルフラムのためだ。

 ヴォルフラムの方から絶縁を言い渡すのでなければ、誇りを傷つける…そう思っているのだろう。
 なんだかんだ言って、コンラートも有利も、ヴォルフラムを甘やかせ続けてくれているのだ…。

『何をしているんだ、僕は…』

 情けなさを自覚したまま、頽れていることなどヴォルフラムの矜持が許さなかった。
 意を決すると、ある種の清々しさを目元に漂わせて…ヴォルフラムは母に問うた。

「母上…ここから、どうやって室内に入るのですか?」
「このレバーを引けば、入れるけど…入るの?」

 ツェツィーリエはやさしげな声で囁きかけた。ヴォルフラムの決意を確かめるように…。

「はい」

 頷いたとき、ヴォルフラムの心は決まっていた。



*  *  *




 ゴ、ガー……っ!

 壁が割れてスライドして…そこに佇む二人の人物に有利達はあんぐりと口を開けた。
 勿論、異変を察知したコンラートは素早く有利を背後に隠すと速やかに抜刀していたのだが、斬りつける事など出来なかった。
 そこにいたのは…仏頂面をした弟と、流石に気まずそうな顔で微笑んでいる母だったからだ。

「ヴォルフ、母上…一体…?」
「うふふー、ご免なさいね?この通路…私の代に作らせた秘密通路なの」
「なんですって!?」

 そんな物騒なものを魔王居室に繋いだ上に、次代の魔王に情報を引き継がないとは一体何を考えているのか…。流石に暢気すぎる母にコンラートの眉根が寄る。
 事が事だけに、冷静ではいられないのだ。

「やぁん…怖い顔しないで?」
「他に…もうこんな道はないのでしょうね?ここもすぐに封鎖します」
「やだわぁ…勿体ない」
「不特定多数の者が忍び込める要素を、魔王居室に残しておくわけには行かないでしょう?」
「はぁい…」

 しゅん…っと萎んでしまうツェツィーリエを横目で見ながら、ヴォルフラムは…有利の前に跪いた。

「ど…どーしたんだよヴォルフ!?」
「魔王陛下…折り入ってお願いがあります」
「へぁ…っ!?」

 滅多に聞くことのない畏(かしこ)まった物言いに有利の声が跳ねる。

「誠に勝手ながら、婚約を解消して頂きたい。正式な書状については、後日我がビーレフェルト家の誓紙に認めて送付致しますので、本日は口頭での承諾のみ頂けますでしょうか?」
「ヴォルフ…」

 貴公子然とした物言いに、有利は胸を揺さぶられたように両手を組み…ぱっと頬を染めた。文字通り、胸がぱふぱふと揺れてしまいそうなほどはしたない格好であることに気付いたのだ。

「失礼しました。まずは、不躾にもお部屋に押しかけた無礼をお詫びすべきでした…」

 素早く有利の肩に上着を掛けるコンラートを見やりながら、ヴォルフラムは遠くに輝く情景を眺める人のように…眩しそうに目を眇(すが)めた。
 決して得ることのできないものへの、憧憬を滲ませて。

 けれど、その表情にはどこか明るさもある。
 得られぬものを無理押しに駄々を捏ねて欲求し続けるのではなく、自らの手で未練を断ち切ったからだろうか。

 それは、有利にも伝わったようだった。

「ヴォルフ!」
「なんでしょう?ユーリ陛下」
「馬鹿、いつまで畏まってんだよ!呼び捨てじゃなきゃ調子でないよ」
「…それはまた、日を改めて…」

 くすりと苦笑して一礼すると、ヴォルフラムは毅然とした態度で踵を返した。
 背筋を伸ばして、騎士として歩く。母の手を引きながら、その姿は堂々と通路の奥に消えていった。
 


*  *  *




「吃驚した…どういう心境の変化なんだろ?」

 唖然として二人の後ろ姿を見守った後、暫くしてから再び壁は元の状態に戻った。
 もうコンラートも気配を感じることはなく、二人はその場を完全に後にしたことが分かる。

 勿論このままにしておくことは考えられないが、今夜の内に大急ぎでどうにかするほどでもないだろう。

「言い訳しようのない濡れ場を見せたら、流石に感じるものがあったんですかね?しまったなぁ…こんなことなら、早く見せておけば良かった」
「んなこと言って…ヴォルフの奴を傷つけるのが怖くて黙ってくせに」
「それはあなただって同じでしょ?」

 ぷ…っと二人して噴き出す。
 あの我が侭ぷー(どうやら、その名は過去のものになりそうだけど)は、結局の所二人が愛してやまない男なのだ。

「…認めてくれたのかな」
「だったら、嬉しいですね」

 きっと、そうなのだと思う。
 流石にこの場で祝福を授けるところまではできないのだとしても、ヴォルフラムが想いを断ち切ったということが、コンラートを有利の恋人として認めたと考えることに無理は無かろう。

「……ちょっと、コンラッド…この手はナニ?」

 親離れした子どもを見守るような心地で微笑み合っていたのだが…不埒な手は安心した途端に有利の乳房をまさぐり始める。先程慌てて布地をたくし上げたのだが、また剥き出しにされたそこは大きくて節くれ立った武士の指で思うさま揉みしだかれてしまう。

 しかも…壁掛けの大鏡の前で揉まれているものだから、その様子は有利の目から多方向性に確認できてしまうのである。

「安心したら、触れたくなってしまいました」
「ゃん…。ぁ…っ…先っちょ…そんな、強く摘まないでっ!」
「先じゃありませんよ?ほら…あなたの好きな根方を摘んで、きゅ…って……」
「ぁ…あっ…ゃあん…っ!」

 くにに…くに…っと捻るような、摘むような…引っ張るような動きを複合して桜粒と乳鈴を扱(しご)かれると、見る間に薄い下着は濡れそぼり、すかさず脚の合間に忍び込んできた軍服で擦られてしまう。

「だ…だめぇ……っ」
「厚手の服の上からでも分かるくらい、濡れているのに?」
「だからだよーっ!も〜…俺、変なとこつゆだくなんだもんっ!は、恥ずかしいんだからなー…?」

 羞恥に語尾を震わせながら、紅に染まった眦を釣り上げるさまの何と可憐なことか!
 コンラートは悦に入ってごりごりと軍服に包まれた脚を陰部へと擦りつけると、容赦なく有利を追いつめていった。

「俺の愛撫に濡れて艶めくあなたはとても綺麗ですよ…。ほら、折角だから…見てみましょう?」
「ひぁ…っ!」

 ふわりと背後から抱きかかえられた有利は、中腰になったコンラートに腰掛けるようにして下肢を開かれる。


 正面に掛けられた鏡の中に…淫靡な姿を晒しながら。




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