「今日から俺達はっ!」

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 結婚式を終えた黒うさぎは、家族や友達に見送られながら宿に向かいました。

 今朝まで暮らしていたお家では全部食べ物などは始末して(お腹の中に入れて)しまいましたし、家財道具も梱包を済ませていますし、当座必要な身の回り品は全て二羽が運べる大きさにして宿に置いてあります。

 何故ですって?
 だって、二羽は少しゆっくりしたら新婚旅行に向かうんです。

 何しろ旅の中で出会った二羽ですから、《結婚と同時に旅に出よう》ってずっと約束していたのです。その為のお金も、茶うさぎが頑張って働いて溜め込んでいるのです。

 黒うさぎが小さい頃に巡った土地を、思い出を辿りながら旅することはきっと楽しいことでしょう。

 そして一通り《行こうね》と約束していた土地を巡り終わったら、二羽は眞魔国森で暮らしていくことになります。
 

 

*  *  *




 黒うさぎと茶うさぎが泊まることになったのは、新婚さんが記念すべき日を過ごすのに適した素敵なお宿でした。
 広々ゆったりとしたお部屋は勿論清潔で、パステルカラーを基調とした調度品は乙女心を擽ることでしょう。
 お風呂には既に季節の花弁を散らし、新婚さん達の到来を待ち侘びています。

 ですが結論から言わせて貰うと…この二羽にとって最初のうち、これらの調度は《あってもなくても一緒》のものでした。
 だって、今の彼らに必要なのは周りから視覚と聴覚を遮る壁だけで十分だったからです。
 お布団ですら、当分は必要のないものでした。

 今日この日まで我慢して我慢して我慢して我慢してきた二羽ですもの。
 ハイパーバーニングにリミットブレイクでゴージャス★セクシャリティな事になってもしょうがないですよね?



「ん…んく……っ…」

 キスは以前から《いいよね?》ということにしていた二羽でしたけれども、この日の口吻はひと味違いました。

 昨日までのキスが《いちご味》なら、今日のキスは《パパイア味》です。
 どう違うのか追求されると少し困りますが、《なんとなく濃厚》という辺りでご理解頂ければ幸いです。  

「は…ふ……ん」

 吐息すらも呑み込まれそうな勢いで、実際…舌の継ぎ目から溢れてくる唾液は互いの喉を潤していきます。時折こぼれてしまった雫もねっとりと舐め上げられますから、ウェディングドレスを汚すことはありません。

 黒うさぎはぴるぴると耳を寝かせ、頬を真っ赤に染めたまま爆発寸前状態の夫から愛撫を受け続けます。
 何しろ玄関に入って後ろ手に扉を閉めた途端に唇を塞がれ、《愛しています…愛しています》と…それでなくとも綺麗な上に愛情を絡めた超弩級美声で囁かれながら口腔内の貪られるのですから、抵抗のしようがありません。

『わーわーわー〜…』

 先程から、息苦しいほどの鼓動と茶うさぎの気迫に圧倒されて、黒うさぎは頭の中がでんぐり返りそうになっています。
 母うさぎの勧めで完璧な《花嫁さん仕様》の衣装を着ておりますので、動きづらいこともあって黒うさぎはよろめきそうになる度に茶うさぎにしがみつきました。

 それがまた、茶うさぎにとっては胸をときめかせる仕草となるのだとはよく分かっておりません。

『あ…っ!』

 これまでは禁じられていた場所に、ゆっくりと茶うさぎの手が忍び込んできます。
 大きく開いたドレスの襟元をくつろげられると、沢山の詰め物をした胸にそわりと大きな手が忍び込んできした。

『ぅわ〜っ!』

 黒うさぎは男の子ですが、筋肉はまだ柔らかくて…特に胸筋は《ふにっ》とした感触を持っているのです。そこを《ふに…ふに》…っと揉みしだかれると、ぺたんと寝ていた耳が興奮の為にぴょん…っと飛び跳ねます。
 柔らかい胸を大きく掴まれてやわやわと揉み込まれたり、小さな桜粒を掌で転がされると、《つんっ》…と硬く痼ってくる尖りは痛いくらいに感じやすくなります。

 それにしても、茶うさぎの手はなんて大きいのでしょう?
 黒うさぎだってここ数年でぐんっと大きくなりましたが、それでも茶うさぎには追いつけません。

 昔々…小さい頃に悪い人間達から救い出してくれたあの日から、ずぅっと黒うさぎを護ってくれた手は、大きくて少し冷たくて…堪らなく愛おしいものです。

 黒うさぎは揉みしだかれる感触がその大きな手によってもたらされるのだと思うと、込み上げてくるような愛おしさに心が震えるのを感じました。

『ああ…俺、このうさぎの事が好きで好きで堪らないんだ…』

 意図せずして、ぽろ…と涙が一滴頬を伝いました。

「あ…っ…」

 途端に、熱に浮かされたようだった茶うさぎの瞳が揺れました。



*  *  *




 この日を、茶うさぎは9年間待ち続けました。
 雨の日も風の日も、暑い日も寒い日も、茶うさぎの心には黒うさぎの事がありました。
 いえ、それまでだって実はあり続けていたのですが、その意味合いが変わったのが9年前…黒うさぎが7歳の時だったのです。

 黒うさぎが家族の住む地球森に帰ってきたとき…茶うさぎが黒うさぎと共にいる為には大きな決断をしなくてはなりませんでした。
 幾つかの選択肢の中から茶うさぎが選んだのは、うさぎ族の誇りである耳を自ら断ち切ることでした。そうすることで、他種族を拒絶する地球森での暮らしを認めて貰いたかったのです。

 結局、それは茶うさぎ一羽に苦痛を押しつけるものではなく、覚悟を見定め、黒うさぎの治癒の力を引き出す為の《儀式》であったことが分かりました。
 
 更には、それが結婚を許可する儀式でもあったのを知ったのは、全てが終わった後でした。

 当時は《結婚》と言われても正直、ちいさな黒うさぎを前にして《……犯罪なんじゃ…》という罪悪感を強く感じたものでした。

 けれども、黒うさぎは幼い頃から既にとても愛らしいうさぎでしたので、日々伸びやかに成長していく姿に、茶うさぎは毎日毎日グラグラ揺れる理性を立て直さなくてはなりませんでした。

 湯上がりのうなじが匂やかであることとか…苦手なおかずを我慢してごくんと呑み込んだ後、《これで良い?》と見上げてくる眼差しが凶悪なほど色っぽいとか、内腿の難しい場所を蚊に咬まれて《お薬塗って?》と、ズボンを下げておねだりする姿が犯罪的に可憐だとか…まあ、とにかく色んな誘惑と戦いまくって今日があるのです。

 ですから…《さあどうぞ犯ってください》と言わんばかりの新婚モード部屋に入った途端、茶うさぎが厳重に仕掛けていた錠前は《バツーンっ》と勢いよく解錠されてしまいました。

 はにかみながら見上げてきた黒うさぎに唇を重ね、キスは何度も経験があるはずなのに、相変わらずおずおずと応えてきた舌に自分のそれを絡みつかせれば、もうもう止めどなく口腔内を犯し、歯列や内頬の粘膜…舌や咽頭部に至るまで、到達していない場所は無いくらいの勢いで縦横無尽に愛撫を施しました。

 甘く感じる唾液を吸い取り、黒うさぎの白い喉もまた《こくん…》と上下するのを確認すれば、その細首に噛みつくようなキスを仕掛けてしまいます。

 これまでは禁忌であったその場所へのキスも、もう堪える必要はないのです。
 黒うさぎの身体中を茶うさぎのキスで埋め尽くし、朱花を咲かせることが出来るのですから。

 ええ…それこそ、やわらかな膨らみを持つ胸や、すんなりとした内腿…ちいさな双丘や最近は目にしていないおちんちんだって舐めても良いのです。

『大きくなったんだろうな…』

 小さい頃は一緒にお風呂に入っていたものですから、幾度か《そういう目》でちらりとおちんちんを見たこともあります。
 まだ皮を被った幼いおちんちんは、とても立派な雄である茶うさぎがどうにかして良いものには見えませんでした。

 さあ、どのくらい大きくなったのでしょう?
 綺麗なピンクだった色も変わっているのでしょうか?
  
 そういえば、胸のちっちゃな乳首だって様変わりしているかも知れません。

 ふと…茶うさぎは薄目を開けて黒うさぎの胸元を覗き見ました。沢山の詰め物をして女の子みたいに膨らましていますが、真上から覗き込むと淡い影の落ちる白い肌と…微かにちっちゃな乳首が見えました。

『…っ!』

 何と言うことでしょう…!
 そこは、確かに以前よりは筋肉らしいしなやかさを持っていましたけど、矯正下着で寄せて上げたせいもあってか《微乳》とも呼べる可憐な膨らみを呈していましたし、ちっちゃな乳首は美味しそうな薄紅色を湛えて、茶うさぎに《舐めて?》と呼びかけているようでした。

 ええ、幻聴ですけどね。

 茶うさぎは心の声に従ってそろりと大きな手を胸元に忍び込ませると、すべらかな肌と、転がしていくたびに痼ってくる素直な感触にほくそ笑みました。
 
 ああ…なんて可愛いおっぱいなのでしょう?

 元々、それほど溢れそうなおっぱいにはさほどの関心を持っていなかった茶うさぎですが(多分、大抵のおっぱいが茶うさぎの母よりは劣るものだったからでしょう)、今日、黒うさぎのおっぱいを見て心に歓声を上げました。


『微乳万歳…!』


 かそけきおっぱいがこんなに可憐に思えたのは初めてです。
 華奢な黒うさぎのおっぱいとして、こんなにも相応しいものがあるでしょうか?《いや無い》と、反語形で一人ノリ突っ込みしてしまいます。

 しかも、少し揉み込んだだけで黒うさぎの声は甘く切なく響くのです。

「ん…ぁ……っ」

 鼻に掛かったような…少し困ったようなのに甘えた声音は、黒うさぎの感度が鋭敏であることを物語っています。

 ですが…どうしたことでしょう?
 こりこりに痼ってきた乳首をドレスから露出させていざ舐めようと思った時、黒うさぎの頬を一筋の涙が零れていきました。

 途端に、茶うさぎは《はっ》…と我に返ります。

『俺は…なんて事を…っ!』

 本来なら、初夜を迎えるに際して緊張しているだろう黒うさぎをソフトに誘導し、結婚式の緊張が解けるのをゆっくり待って、居間でお茶のひとつも呑ませてあげるべきだったのです。それが大兎の振る舞いというものです。

 それがどうでしょう…!茶うさぎときたら解禁の喜びに浸るあまり、黒うさぎを頭からぼりぼりと食べちゃう怪物みたいに貪っていました。
 呑ませてあげた物と言えばお茶ではなく唾液ばかりで、このまま放っておけば白濁を呑ませてしまおうかという勢いです(←初夜からそれは飛ばしすぎというものでしょう)

「すみません…ユーリ、こんなところでがっついてしまって…。怖くなった…?」
「ううん…違うよ。ゴメンね…泣いたりして。なんか…あんたのおっきな手に触られてたら…この手がずうっと俺を護っててくれた手なんだって…これからも、ずっと一緒にいてくれる手なんだって思ったら…胸がきゅーってなるくらい嬉しくて、涙出ちゃった…」

 恥ずかしそうに目元を擦ろうとしますから、丹念に施したマスカラが目を痛めないように茶うさぎは黒うさぎを止めました。その代わり、ちゅ…ちゅっと触れるだけのキスを目元に寄せて、宝石よりも貴重な涙を吸い取っていきます。

「ああ…ユーリ。なんて可愛いお嫁さんなんだろう!」

 茶うさぎは猛省すると、すぐに黒うさぎをお姫様抱っこにしてお布団に運ぼうとしました。
 しかし…

「ゃん…っ!」

 至近距離で耳朶に吹き込まれた嬌声に、茶うさぎは固まってしまいます。
 抱き上げたとき、茶うさぎの口は感じやすいうさぎ耳に息を吹きかけてしまったのです。

 説明しましょう…うさぎ族の耳は4つあり、このうち二つは人間と同様に聴覚を司っています。そして頭の上からぴこっと伸びるうさぎ耳は、五感では感じ取れない第六の感覚…気配などを司るのです。
 その分、酷く感じやすいうさぎ耳は少し《ふぅ…》っと息を吹きかけられたり、ましてや甘噛みなどされた日にはぞくぞくするほどの悦楽に包まれてしまうのです。

 そんなに敏感な部分なら、もうちょっと毛やパンツの中にしまっとけという話ですが、このように進化してしまったのでしょうがありません。
 
 天鵞絨のように滑らかな短毛に包まれた耳は、淡く毛細血管を充血させながら震えます。

「ぁ…あ…コンラッ……そ、そこ…駄目ぇ…」

 ぴくん…びくんっと震えながら黒うさぎが耳を震わせますと、茶うさぎもぴくんっと耳を立てました。
 ついつい…そのままカシリと歯を立てたい誘惑に駆られてしまい、今日に限ってはそれを止めることが出来ませんでした。

 かし……

「ゃあ…っ」

 腕の中で震える身体が愛おしくてなりません。

 茶うさぎはお布団までの短距離を踏破することもできなくて、結局クッションを敷き詰めた絨毯の上に黒うさぎを横たえると、敏感なうさぎ耳の付け根に舌を這わせながらスカートをたくし上げ、魅惑的なガーターベルトに包まれた腿を撫で上げると…下着を圧迫して突隆する花茎に沿わされました。

『熱い…』

 小さな布地に包まれた花茎は窮屈そうで、救出しようと腸骨棘に引っかかる紐へと手を掛けますが、真っ赤になった黒うさぎが脚をばたつかせて抵抗します。

「こここ…コンラッド…っ!ふ、服脱ごうよっ!」
「すみません…もう、待てない…」
「でも…っ!」

 あえやかな声で黒うさぎは叫びます。



「この服…汚すとクリーニング代が掛かるよ…!?」

 

 それは物凄く現実的な発言でしたが、それだけに説得力がありました。上等なドレスとスーツは、後で綺麗にクリーニングして売るつもりなのです。だって、旅にはお金が沢山必要ですからね。

 茶うさぎはぴたりと動きを止めると、引き裂かんばかりだった黒うさぎのドレスを丁寧に脱がせ始めました。

「………脱いだら、ベッドに行きましょうね」
「うん…」
「すみません…俺としたことが、がっついてしまって…」
「うぅん…いいよう…」

 ふるるっと首を振ると、黒うさぎはパパっとドレスを脱ぎましたが、ガーターベルトと下着はつけたままで、とったかたとベッドに走りました。

「ユーリ?」

 ぴょんっとベッドに乗っかった黒うさぎが振り返ると、そのお顔は真っ赤に染まってました。
 そして茶うさぎの様子を振り返ってから…ぷりんとお尻を突き出したのでした。


「す…好きにして?」


 おそらく、ずっと《どうやってコンラッドを誘うか》考えていたに違いありません。
 ぷるぷると震えるお尻の上でちいさな黒い尻尾が揺れて、何とも可愛らしい様子です。

 思わず満面に込み上げてくる笑みを掌で覆いながら、茶うさぎは少し余裕を取り戻してベッドに歩み寄ると、震えている黒うさぎを大切な宝物のように抱きしめました。

「ユーリ…俺のお嫁さんになってくれて、本当にありがとうございます…」
「コンラッド…」

 お布団に顔を埋めていた黒うさぎはきょとんとして顔を上げましたが、先程までどうしたのかと思うくらい猛っていた茶うさぎがいつも通り穏やかな表情を浮かべているのを目にすると、心から安堵したように微笑みました。
    
 野性的に迫ってくる茶うさぎもセクシーで素敵でしたが、あまりにもドキドキし過ぎて胸が破裂しそうだったので…色んな事が初めてづくしの今夜位はもう少し落ち着いた方が良いかな?と思うのです。

「俺も…凄ーく、しあわせだよ?」

 二羽は、互いが大切な大切な番(つがい)になれたことを天に感謝しながら唇を寄せていきました。



 それは貪るようなものではなく…互いを確認し合うような、甘くてやさしいものでした。











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