「しあわせな一日」
chapter08:彼の自己評価













有利side



 お化け屋敷から出たコンラートと有利は、ヨザックを伴って夜店の居並ぶ通りに戻っていった。
 夜も更けてきたので小さい子ども達は随分と姿を消し、見られたとしても、口周りをソースや飴でべとべとと汚したままお父さんの背中で寝入っているのが殆どだ。

 お祭りは次第に、大人だけの楽しみに移行しつつあるようだ。
 もう少しすると夜店も店じまいを始め、帰りがたさを感じる恋人達は24時間営業のカフェやカラオケに流れていくか…あるいは、もっと艶めいた施設に向かうのだろうか?

 後れ毛を指先で掻き上げながら流し目を送る女性達は徒(あだ)めいた美しさを漂わせており、浴衣から覗く襟足の白さが夜光に映える。雑踏に揉まれて少し着崩れているのもより一層艶かしい印象をもたらしていた。

 けれど…どうしたものか、有利の目にはスッキリと刈り上げた襟足と、端然とした居住まいの恋人の方に心ときめいてしまうのだった。

「……コンラッドってさ、昔からそんなに美形だったの?学校とかご近所様にもキャーキャーいわれてただろ?」

 うん。要はコンラートがずば抜けた美形だから女の子よりも目を惹かれるのだ。
 有利が男好きだからではない…と、思いたい。

「………………は?……」

 余程思いがけない言葉だったのか、コンラートは目をぱちくりと見開いて絶句している。
 そんな様子もまた可愛いな…とか思うわけだが。

「今も昔も、俺は至って平凡だよ?」
「またまたぁ…謙遜してぇ〜」
「いやいや、本当だって!特に、うちの家族と一緒だと背景に溶け込んじゃうくらい地味だったよ?」
「嘘ーっ!」

 とても信じられなくて傍らのヨザックに目線を送ると、肩を竦めて苦笑している。

「ま…こいつは家族が派手すぎるんだよ。多分、そのせいで《自分は地味》って認識が性根に染み込んでんだな」

 確かに、コンラートはビカビカに派手な美形というわけではない。
 けれど凄く味わいのある顔立ちと、奥底から滲み出てくるような魅力があるのだから、やはり美形なんだと思う。

「家族の人達がどんな顔してるのかは知らないけど…コンラッドはやっぱり美形だよ?それも、三日見たら飽きるタイプの美形じゃなくて、三日経つと味わいが更に増して、一年二年と熟成するうちにコクが増してまろやかになるタイプの美形だよね!」
「ワイン並みの醸造具合だねぇ…」

 コンラートはくすくすと笑いながら、眦に甘さを滲ませて有利を見詰めた。

「ユーリは、日々熟成を増していく俺を…ずっと傍で見続けてくれると信じて良いのかな?」



 意味を理解した途端、ボン…っと頬が紅く染まった。





  
 

* 有利も美形の自覚なしでしょうが、コンラッドも相当自分が美形だという自覚がなさそうです。 *




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