「しあわせな一日」
chapter10:どれだけ好きか教えてあげる

コンラートside
「ほんじゃま、そろそろお邪魔虫はおいとましますかね」
「ヨザ」
声に安堵が混じったのを耳聡く聞きつけたのだろう。
ヨザックは《にやぁ…》っといやらしげな笑みを浮かべてコンラートを見やった。
「あん?コンラッド…これ幸いとユーリを連れ込む気か?」
「いや…それは……」
《そんな気は毛頭無い》とは断言できないのが困るところだ。
実際問題として…その気は無いどころか、ぎゅんぎゅんと唸りをあげるくらい在りまくるのである。
「何か素敵道具貸してやろうか?ポパポパン…ってなぁ…」
ドラ○もんの道具らしき効果音つきで懐を探る。
さぞかし怪しげな道具がしまわれているのだろう…。
「結構だ!」
これは心からお断りできる。
ヨザックのちょっかいやら不測の事態で有利の身に強いることになった変態プレイの数々を、全く楽しまなかったかと問われれば…《変なときめきを感じた》と正直に答えるしかないが、それでも、敢えて新たなプレイを有利に仕掛けたいかと問われれば、それはきっぱりと拒絶することが出来る。
『ユーリが苦しむようなことは、決してしたくない…』
それが、コンラートの純粋な願いだった。
どんなに艶かしく乱れだとしても、その姿を愛でることで有利が羞恥に噎せび泣くことになるのであれば、やはりコンラートの胸は酷く痛む。
大切な…何よりも大切に思えるようになった渋谷有利という少年を、コンラートは包み込むようにして愛したいのである。
『ユーリ…君をどれだけ好きだか、全て伝えられたらいいのにね』
言葉だけでも身体だけでも足りない…。
はむはむと烏賊焼きをぱくつく愛らしい姿を見詰めながら、コンラートは蕩けそうな眼差しを送るのだった。
「あーあ、独り身にゃあ当てられちゃうねー」
《暑苦しい》と言いたげにぱたくたと手を振ると、ヨザックは苦笑しながら立ち去っていった。
「ふく…っ」
ほっと安堵したコンラートの脇で、ヨザックに向けて一緒に手を振っていたはずの有利が急に噎せた。
「ユーリ…大丈夫かい?」
「ふく…ん…くふ……っ」
烏賊の欠片が器官にでも入ったのだろうか?涙目になって盛んに噎せている。
しかも、よほど酷く引っかかっているのか…《ひゅーっ》…という音が喉から聞こえそうになるのだが、それでも上手く息が出来ないようで苦しげに喉を押さえている。
「ユーリ…っ!」
周囲の目になどそっちのけで有利を抱き込むと、鳩尾に肩を押し当てるようにしてから勢いよくバシン…バシンっと背を叩く。
すると、《かふ…っ》と苦しげな声と共に烏賊の固まりが喉から飛び出してきた。
「は…ふ……っ」
「ユーリ…大丈夫?」
何とか正常な呼吸が出来るようになったものの、まだ喉に刺激感が残るのか有利は涙ぐんだままコクコクと頷いた。
真っ赤になった顔と、潤んだ漆黒の瞳…そして、口元から鼻までを覆う両手。
凶悪なまでに超絶愛らしい有利の姿にコンラートはごくりと息を呑んだ。
有利side
『は…恥ずかしいよぅ……っ!』
スコップがあれば、今すぐ自分で穴を掘って入り込みたいところである。
自分の顔が耳まで真っ赤になっているだろう事を自覚しながら、有利は羞恥に瞼を伏せてしまった。
『調子に乗ってパクついて…こ、子どもみたいに噎せちゃうなんて…っ!』
何やら周囲の目線や、くすくすという忍び笑いが辛い。
バナナの皮に滑ってすらコマネチ級(いや、実際のコマネチがどんな技を見せたかはしらいない世代だが)の見事なバク転を決めるコンラートに比べて、有利のこの間抜けさはどうだろう。
泣き出したいような衝動に捕らわれるが、せめてコンラートを困らせないようにと唇を噛んで耐えた。
けど…ふるふると肩が小刻みに震えてしまう。
自分が酷くみっともなくてちっぽけな生き物みたいに感じられて、今すぐ消えて無くなってしまいたい…そこまで追いつめられたとき、コンラートの手が有利を引いた。
「こっちに行こう?誰かが…蛍が見えるって言ってたよ?」
今度は、別の意味で泣きたくなった。
淡い街頭の光に照らされたコンラートは、あんな失態をした有利を恥ずかしいとは思っていないようだった。
甘く蕩けそうなやさしい微笑みが一心に有利へと注がれて、惜しみない愛情を向けられていることが言葉以上に雄弁な知覚で伝えられる。
『好き…』
『…大好き』
このひとが、だいすきだ。
身体中の細胞に染み込むみたいに…そう、実感する。
けど、有利の思いはちゃんと伝わっているだろうか?
自分を卑下して落ち込むよりも、そんなことは関係無しに自分を愛してくれるこの人に、きちんと有利は好きという想いを伝えているだろうか?
有利はコンラートに促されるまま薄暗い茂みの中へと入り込んでいくと、おずおずと袖をひっぱり…《どうしたの?》という顔をしてにっこりと微笑むコンラートの唇に、思いの為を精一杯詰め込んでキスをする。
「俺…あんたのこと、大好きだよ?」
言ってみてから、急に一人で舞い上がって突拍子もないことを言ったような心地になる。
「あ…えと……っ!い、今更変なこと言ってゴメンなさい…っ!でも…」
《言わないと…伝わらない気がして……》消え入りそうな声を吸い取るようにして、コンラートもからもキスがもたらされた。
ぎこちなく触れるだけだった有利のキスとは違い、情熱的で濃厚なディープキスに酔いしれるけれど…微かに残された意識がコンラートの眼差しを観察する。
『…濡れてる?』
微かな月明かりの中で、コンラートの目元は濡れたように光っていたような気がした。
彼もまた溢れる想いを言葉だけでは伝えられないと言いたげに、唇が…舌が、深く…熱く重なり合っていく。
「ん…む……」
「は……ふぅ……」
熱い吐息を吐きながら、有利の身体は気が付けばひんやりとした下草の上に横たわり、コンラートの手は浴衣の襟元や裾野から情熱的に有利の肌を撫でつけていた。
指先や皮膚の知覚の全てを駆使して、有利という存在を感じ取りたいみたいに…。
『俺も、知りたいよ…』
キスだけでは足りなくて…有利もコンラートの肩から浴衣をはだけ落とすと、剥き出しになった逞しい胸に指先を絡めていく。
滑らかな光沢を持つコンラートの肌は淡く汗ばんでひかり、浅く上下する様が彼が生きている人間なのだと知らせてくれるが、そうでなければこんなに綺麗な人が有利を求めて、欲しくて堪らないと言いたげに触れてくれるのだとは信じられないような気がした。
『大好き…大好きだよ?』
『どうやったら…全部伝わるのかな?』
狂おしいような渇望を覚えて、有利は貪るようにコンラートの胸筋へと舌を這わせる。 そして…導かれるまま帯の下から現れた雄蕊へと唇を寄せた。
「ん…良いよ……ユーリ。上手になったね…」
褒め言葉が嬉しくて、喉奥近くまで含み込んで締めあげたのだけど、先程の烏賊の刺激のせいか噎せそうになってしまう。
「無理はしないで?噎せるユーリはとても可愛かったけど…苦しそうなのは可哀想だからね」
「ん…」
こく…っと頷いて、舌先をちょろちょろと鈴口に伝わせると、心地よさそうにコンラートが啼いた。
凄絶なまでの色香にぞくりと背筋が震え、触れられてもいないのにはしたない花茎はとろとろと密を零していく。
そのぬめりに気付いたように、コンラートは巧みな指使いでするりと有利の下肢から下着を抜き取ってしまうと、白い腿を大きく割り開いて月光に晒した。
「綺麗だ…」
「……コンラッ…」
恥ずかしい。
なのに…嬉しい。
コンラートの声に喜悦が混じり、欲望を滲ませる様でどれだけ自分に猛ってくれるかが分かる。
求められている…。
その事が、今まで生きてきたどんな幸福感よりも充実して有利を満たす。
「な…舐めて…?」
「良いよ…ユーリが好きなだけ、しゃぶってあげる」
言葉通りに与えられる愛撫に有利は啼き、啜り泣くような歓喜の声を上げて達した。
「あ…」
荒い息を吐き、見上げた空に…コンラートが燐光を放つようにして覆い被さっていた。
蛍だ。
『綺麗…』
幽玄の仄かな光を纏うコンラートは、ちらりと蛍にも目線を送ったけれど、それよりももっと有利を見たいのだと言いたげに、到達の火照りを残す肢体をじっくりと愛でた。
恥ずかしい姿を余すところなく見られているという快感に、有利は自分の奥底が熱くとろけてくるのを感じて熱い息を吐く。
しなやかにうねる肉体が、恋人の目にどう映っているかを正確に認識することもなく…。
コンラートside
『綺麗だ…』
有利は自分を《平凡》と評するが、それは彼が自分というものを理解していないせいだ。
あるいは、あと少しで開花することを有利を含めた周囲が知らず、そっと蕾の中を覗き見たコンラートと、幾人かの目端が利く者だけが知っているのかもしれない。
この有利の中に潜む、淫靡なまでの艶を。
素朴で可愛らしい有利だからこそ、背徳的なまでに鮮やかな花を咲かせる淫華は匂やかに男心を高ぶらせる。
夏草の上でしゃらりと踊る漆黒の髪…しなやかに伸びるすんなりとした手足、細い腰にまとわりつく浴衣と白い肌の均衡…。
どれもこれもがコンラートの熱情を誘い、猛る雄蕊を持て余してコンラートは呻いた。
有利に堪えきれないほどの媚態を見せ付けられて高ぶっていようとも、準備が不十分な肢体を力づくで暴くのは嫌だった。
痛いほどに突き上げてくる衝撃と闘いながら、コンラートは有利の腰を突き上げさせる形で俯せにさせ、なめらかな双丘を剥き出しにして割り開く。
ぴちゅ…
ちゅぐ……
「わ…ひぃ……っ!」
以前は、《嫌》と泣いていたこの行為の時も、有利は唇を噛んで耐えるようになった。
有利の苦痛を和らげる為の行為を、羞恥の為に拒絶してコンラートを傷つけたくないからだろう。
『やさしい子だ…』
「あ……む…ぅ……」
「駄目だよ、ユーリ…唇が切れてしまう」
でも、努力は無駄にしたくないから、覆い被さって指を口腔内に2本突き入れ、くちゅくちゅと舌を摘んだり弄ったりして声を塞ぐ。とろとろの唾液を絡めるこの行為も、また有利を感じさせる愛撫になるし…。
「んん…ふ…くぅん……」
十分に舌で割り解した蕾へと一方の指を挿れていけば、慣れた肉筒の中の感じやすい粒をすぐに見つけて擦り上げる。
「きゅぅん…っ!」
幼獣めいた声を上げて跳ねる背が、深く感じていることを教えてくれた。
くち…
ぐちゅ……
とろりとした腸液と唾液の絡み合ったものが淫靡な水音を奏でる中、濡れきった両の手で双丘を鷲づかみにして限界まで開くと、ずぶり…と猛りきった硬い雄蕊を突き込んでいく。
「ふ…ぁあああ……っ!」
挿れただけで達してしまいそうになる花茎をゆるゆると宥め、浅く…深く、燻らすようにして馴染ませると、次第に動きが激しさを増していく。
ずちゅ…
ぐぷ……っ!
「あん…ぁあん……あんっ…あん…っ!」
薄闇の中に響くあえやかな嬌声は唾液と欲望に濡れ、そこにお仕置きでもしているみたいな《ぱん…ぱん…っ》という打撃音が絡みついていく。
獣のように貫かれるこの体位が苦痛を最小限に和らげると知って、有利は羞恥に頬を染めながらもまずはこの体位で抱かせてくれる。
けれど…野外での性向ではそう長くこの体勢で犯すことは出来ない。
「深くなるけど…ゴメンね?」
「ふ…ゃあああん…っ!」
ぐりゅ…っと最奥に自重で雄蕊をめり込ませながら、コンラートは有利の腰を抱え上げて背後から胸を抱くと、濡れた指でくりゅりと桜粒と花茎を弄り始めた。
ころろ…っと指の腹で転がしたかと思うと、痛いくらいに摘み上げ…つぷんっと滑りを利用して弾けば、その度に気持ちよさそうな…同時に、苦しいくらいに感じきった嬌声が跳ねた。
「ゃん…やん…弄っちゃ…ゃあ……っ」
あどけないような物言いは、感じすぎて有利が理性を失った証拠だ。
気をやる直前の有利を抱くのは、まるでちいさな子どもを犯しているようで少し気が咎めるが…可愛いのは間違いない。
カシリと肩に歯形を立てれば、軽い痛みでふる…っと有利が意識を清明にした。
「あ…コンラッド……深…ゃん、深すぎ…っ!」
「もう少し浅いところが好き?」
「ぅん…」
恥ずかしそうにこくりと頷くから、腰を掴んでぬぷぬぷと引き上げていけば、紅く染まった蕾から雄蕊が垣間見える。
「ユーリと俺が繋がってるとこ…よく見えるよ」
「ひぁん…っ」
鋭く啼いて、有利が自ら腰を使い出した。
丁度感じやすい肉粒にカリの部分が擦れるのだろう、息を上げて腰を揺らめかせると、自分の良いようにじゅぶりと雄の肉棒を味わう。
「ぁ…あ……」
「ん…ユーリ……そろそろ、限界…っ!」
「あ…イって…俺…も……っ」
どくん…っと有利の身体の奥深くに、熱い情欲が放たれる。暫く繋がったままどくどくとした拍動を愉しんでいたが、そのままころりと横倒しに転がったままゆっくりと腰を抜いていけば、先程飲ませたばかりの精液が滴って双丘を彩った。
「まだ…しても良い?」
「今度は、正面からが……」
はにかみながらも積極的に体位を指定してくる有利に笑みが深まる。
「お望みのままに…」
「ん…」
くぷりと濡れた蕾に雄蕊を含み込ませれば、心地よさそうに有利が息を吐いた。
恋人達の夜は、まだまだ続きそうである。
ヨザックside
『あいつら…分かってんのかねえ?』
ちゃっかりデバガメを愉しんでいたヨザックは、友人達の痴態をオカズに幾度か放埒な快感を開放した後、ウエットティッシュで手や陰部を拭き拭きしながら苦笑した。
ねっとりと求め合った後…精液と草の汁で汚れ上げた浴衣がどういう状態になるのか彼らは理解しているのだろうか?
そもそも、着崩れ乱れきった浴衣姿でどうやってマンションに辿り着くつもりなのか…。
『さーて、手を貸してやるかやらないか…』
取りあえず…最後まで勢力盛んな友人達の閨を覗き見して、途方に暮れたところで華麗(?)に登場してみよう。
ヨザックはにやりと笑いながら、今宵5ラウンド目に突入した二人を見詰めるのだった。
おしまい

あとがき
コンユのラブラブイチャイチャ…は、取り合えす達成できていたでしょうか(笑)
珍しく変態道具・プレイ登場なしの白鷺線、少しでもお楽しみ頂けてましたら幸いです。
|