「しあわせな一日」
chapter05:美化の自覚は0%

有利side
林檎飴を殆ど芯まで食べきってしまうと、今度は喉が渇いてきた。
名残惜しげに紅く染まった指先をぺろぺろと舐めていたら、気の利く恋人がジュースを買ってくれた。
丁度飲みたかったサイダーだ。
次々に浮き上がってくる水泡が、当てた上唇に当たってパチパチと爆ぜ、勢いよく呑み込むと喉を灼くような感触が少し痛くて気持ちいい。
暑い日だったので余計に喉が渇いていたものだから、んっく…んっくと一気に半分ほど飲み干してしまう。
冷たい液体が舌や喉を心地よく流れていくのを楽しんでいると、コンラートが実に嬉しそうな顔をしてこちらを見ていた。
「ありがと〜コンラッド!美味しいよー」
「そう?良かった」
てっきりコンラートも自分のを買ったのだと思いこんでいたが、よく見ると彼は手ぶらだったので慌ててしまう。
「あ…コンラッドは自分の買ってなかったんだ!ご…ゴメンね?半分くらい飲んじゃった…」
「良いよ。俺はフランクフルトか串焼きを買ったらビール飲むから」
「うお、大人ー」
「こんなので大人の証明になるってのもねぇ…」
「背が伸びる可能性がある限り俺は飲まないけどさ、コンラッドはもう幾ら飲んでも良いよね。良いなぁ…」
有利は羨ましそうにコンラートを見上げると、思わず手を伸ばしてコンラートとの身長差を確認する。
思わず爪先立ってしまったのだが、それでも全く敵わないから切ない…。
「ユーリは成長期なんだからこれからだよ。きっと、ぐんぐん伸びるよ」
「うーん…でも、コンラッドを追い越すのは無理かなあ…。出来れば、ヨザックさんみたいな筋肉にもなりたいんだけど…」
「筋肉…そんなにつけたい?綺麗な身体なのに」
「つけたいよぉ〜。だって俺の体格って貧弱なんだもん!鏡に映ってるトコ見ると、いつも寂しい感じがするんだよ」
「敢えて筋肉なんてつけなくて良いんじゃないかな…。ユーリは今のままで十分綺麗だよ?動きも機敏だし、俺はいつだって見惚れてしまうよ…」
どうしてそう、嫌みなく甘い声で囁けるのだろうか?
日本人が迂闊に口にすれば甘味過多なその成分に砂を吐きそうな台詞なのに、コンラートの形良い唇から流れ出すと自然に頬が染まって照れまくってしまう。
「う〜…そ、そんな嘘つかなくても良いよ!」
「心外だな…。俺が嘘なんてついたことある?」
そんな言い方をされてしまうと、具体例を挙げることが出来なくて抗弁がグっとつかえてしまう。
「むぅ……。う、嘘じゃないなら…コンラッドの目に鱗ついてんだよ」
「いーや、ユーリは綺麗だよ?これは客観的事実だね!ユーリは自覚が無さ過ぎるんだよ」
何でそう自信満々なのか…。
「あんたみたいに綺麗な人に言われると恥ずかしすぎるんだってば!なんか、ネズミがライオンに《強いねぇ》なんて言われてるような気分だよ!」
「だって、少なくとも俺にはそう見えるんだよ…。君が、世界中の生きとし生ける者の中で一番綺麗に見える。…信じられない?」
「う…」
眉根を寄せて…声を掠れさせて…寂しそうに囁くのは止めて欲しい。
まるで苛めているみたいな気分になるし、伏せ目がちな目元も色っぽい…等と余計なことを考えてしまう(大概、自分が《コンラート馬鹿一代》だという自覚はある)
「う…うぅう〜…コンラッドは…俺のこと美化しすぎだよっ!」
「いーや、俺は正当な評価を下している!!」
二人の言い合いは延々続いた。
周囲の人々side
言い合う二人の周囲で、余波を喰らった(別に聞きたくもないのに、声を潜めることも忘れて興奮している二人の声を強制的に聞かされた)人々はこう思った。
『君達…絵に描いたようなバカップルだね?』
羨ましいのと恥ずかしいのと鬱陶しいのがマズイ感じに混和された感情に、人々はむず痒いような感覚異常に悩まされるのであった。
* このお題だけ趣旨が合ってるかどうか自信がないのですが…。コンラッドが美形なのは間違いないので(本人はそう思ってない気がしますが)、コンラッドが有利を見る目が「美化の自覚なし」ってコトで良いんですよね?いや、有利は文句なく可愛くて綺麗なので、これも有利の受けとりってコトだと思いますが。 *
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