「しあわせな一日」
chapter04:顔が好き?性格が好き?

有利side
唇が重なって…暫くして離れて、ふぅ…っと吹き抜けていく風が濡れた粘膜を冷やしたけれど、対照的に頬はいやに熱くなる。
コンラートのマンションにいるときみたいに深いキスをしたわけではないけれど、お祭りの雑踏がすぐ近くにある場所で親密な行為をしたのだと思うと凄く恥ずかしい。
でも…人混みに出るまでの間繋いでいた手とか、先程まで触れていた唇が自分に向かって微笑んでいる様子に、《ああ、この人は俺の恋人なんだ》…と改めて感じて、それは凄く嬉しかったりする。
何だかニヤニヤしたくなるような、胸がうずうずするような…変な感じ。
『うわ〜…アホだ俺…今、絶対変な顔してるし…っ!』
視線を巡らせたらまた鏡柱が視界の隅を掠めて、案の定にやけた顔が映り込んだものだから…慌てて両の頬を《むにっ》…と掴んでみた。
「どうしたの?可愛い顔して…!」
コンラートが閃くように綺麗な笑みを浮かべる。
なんだってこの男は、こちらが困ってしまうくらい佳い男なのだろうか?
「……可愛い?俺……」
「うん。可愛い」
周囲には聞かれないよう、囁くように耳朶に吹き込まれる言葉。
少し屈んで甘い声を聞かせてくれるコンラートは、有利が尖らせた唇の先にチョン…っと指先を押しつけた。
「困るな…そんなに可愛いと、人目を気にせずキスしたくなる」
大慌てでバヒュン…っと両手で口を覆ったら、これまた楽しそうな顔で笑われてしまった。
畜生…経験値の差がありすぎる。
だから、ついつい意地悪な言い方をしてしまった。
「俺が女顔だから好きになった?」
「おや?男前なユーリらしくない発言だね」
「んじゃ……」
《性格が好き?》…そう聞こうとして、ちょっと言い淀む。
顔が好きかどうかを聞くのも結構恥ずかしいが、性格が好きかと問うのも案外恥ずかしい。
何となく、《俺は性格が良いだろ?》とアピールしているみたいに感じるのだ。
《男前》と言って貰えただけに、うじうじしたことを聞くのも躊躇われて…有利は話題を変えたくて夜店に視線を送った。
「あ…林檎飴食べたい!」
「ふぅん、林檎以外にも色々あるんだ?」
そう、カラフルな食紅で染められた大小の林檎だけではなく、今は紫やオレンジに染められた葡萄・マンゴー・苺など種々様々な飴が売られている。
でも、有利はやはり大きな林檎飴がイチオシだ。特に、飴が掛けられる前の林檎がちゃんと見えるようになっているお店が良い。下手をすると渋い林檎に当たってしまうから、注意して美味しそうな林檎を選ぶ。
「ん…ここは絶対美味しい!」
甘い物が苦手というコンラートは買わなかったけれど、一際大きな林檎飴を手に入れて上機嫌で食べる有利には興味津々の様子である。
「随分食べでがありそうだね?」
「コンラッドも食べる?」
飴が結構重層構造になっていて囓り切れなかったものだから、真剣に舐めたり齧り付いたりを繰り返していた有利は、飴に舌を這わせたまま上目づかいにコンラートを見上げた。
すると…どうしたものか、コンラートは微かに頬を上気させて口元を手で覆ったのだった。
「…どうしたの?」
「いや…」
何か言いかけて、コンラートはまた言い淀む。
有利が小首を傾げて、じぃ…っと見上げると…何故か《もう赦してくれ》と情けない声を上げた。
コンラートside
「俺…なんかした?」
「誘惑した」
「え…っ!?」
「困る…ユーリ。そういうのを無意識にやってしまうんだから……」
言われている意味が分からなくて大量のクエスチョンマークを飛ばす有利に、コンラートは内なる心で呟くのだった。
『そんなに可愛い顔で可愛いコトをする君って子に、俺は毎回撃墜されるよ…』
ルージュを引いたように紅い唇と舌はひどく扇情的で…それが飴を楽しむ無邪気な様子と相まって、背徳的なまでの情欲を覚えてしまう。
このあどけない恋人は、無意識に蠱惑的な行為をしておいて…全く自覚がないのだ。
そこがまた、そそられてしまうわけだが…。
だが、本人には全くもって自覚がないのだから言ったら負けだ。
言った途端に、コンラート一人が《変態》の烙印を押されてしまう。
言わない…絶対に言わないぞ?
大きな飴を舐める様子を見て…あの唇が、自分の高ぶりに沿わされている瞬間を想像してしまったなんて………。
* Cにして微妙にコンラッドだけ変態チックに…。 *
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