「しあわせな一日」
chapter03:鏡に映った自分と彼

コンラートside
夜店の立ち並ぶ祭り通りのすぐ脇に、えらく輝きを放つ柱が散在している。
何かの記念行事で最近建てられたものらしく、共通のロゴと寄贈者の名前などが刻まれたプレートがついている。
それ自体には特に興味はなかったのだが、少し歩くとまた同じものがあることと、その度に自分と有利が映り込むのものだからつい目線がそちらを向く。
日本人の群れの中では異質とも言えるコンラートの長身は、大抵の場合頭一つ分周囲よりも高い。
対して、有利は常に埋没してちっちゃくて…大変可愛い。
鏡に二人で映った様子を見たいのだが、有利の方が埋まっていて見えないので、その度に直接有利を見下ろして確認している。
「ユーリ、肩車してあげようか?」
「いや、勘弁して下さい」
半分本気で言ったのだが素早く却下された。
肩車をすれば完璧に二人で居るところが映ると思ったのだが…確かに、小学生ならともかく高校生を肩車している姿は異様かもしれない。
『全くなぁ…高校生の男の子をこんなに可愛いと思うなんて、去年の今頃は思いもしなかったよな…』
日本の支社に出向することが決まり、休日を使って車で観光名所を巡る計画などは立てたりしたが、高校生の口説き方など研究はしなかった(当たり前だ!)
そもそも、年齢が離れていること以前に同性というだけでコンラートの嗜好範疇外なのだ。
それが…どこでどう転んだものやら、鏡柱に映り込む自分たちの姿を見たいなんて、人がやっていれば《何処のバカップルだ》と嘲笑したくなるようなことをやっている。
有利の方はどう感じているのかと思ってふと傍らを見やると、有利も鏡柱に気付いたようで目線をそちらにやっていた。
けれど、どうしてだかプイ…っと顔を背けて、拗ねたように唇を尖らせている。
『…?…どうしたんだろう?』
暫く行くと、また鏡柱があった。
今度は上手いこと二人して映り込んでいたのだが…身長差のある男二人の浴衣姿は微笑ましくはあるが、あまり恋人同士という甘やかなものは感じなかった。
『ひょっとして…綺麗な浴衣姿の女の子と一緒の方が良かったのかな?』
ストレートな嗜好を持つ年頃の高校生としては極一般的な感想かも知れないのだが、どうしてもむかむかしてしまうのは否(いな)めない。
普通の恋に憧れるのは良いが、今はコンラートの恋人なのだから自分といることを楽しんで欲しい…。そう思うのは、贅沢なことだろうか?
急に黙り込んでしまったコンラートの気配に、有利は気遣わしげに声を掛けてきた。
「どうかしたの?」
「いや、浴衣姿の女の子達って可愛いな…と思ってね」
途端に…くしゃっと、有利の顔が泣きそうな形に歪んだ。
「………ユーリ?」
「やっぱ…俺達、釣り合わない?女の子の方が良い?」
眦を紅に染めて唇を噛む有利の、何と可愛らしいことだろう…!
思わず、息を呑んで見詰めてしまった。
どうしよう…このまま茂みの中に連れ込んであんあん言わせたい等と思ってしまう…っ!
「釣り合わないなんて…どうして思うの?」
「だってさ…さっき、鏡に映ってる俺達見たら…全然恋人同士になんか見えなくて……。連れてきて貰ってる子どもみたいで…なんかヤだったんだ!」
ふるふると揺れる睫に、少しだけ悔し涙が滲む。
出かける前は二人の関係に気付かれることを恐れていたのに、一緒にいたらやっぱり《恋人らしくありたい》と思ってくれたらしい。
嬉しくて…つい、手を取って茂みに連れ込んだ。
夜店の照明が眩い分、少し茂みの中に入れば薄暗がりの中はすぐに物の陰影を曖昧にしてしまう。
「…コンラッド?」
軽く鼻を啜る有利の手を引いて…細い腰に手を回して抱き寄せた。
少しだけ、味見をしても良いだろうか?
「子どもにこんな事…しないよ?」
唇を重ねて、横目で祭りの様子を確認していたら…例の鏡柱の背面に自分たちの姿がうっすらと映り込んでいた。
コンラートが屈んで有利が背伸びをすると、二人の身長差も少しは目立たなくなる。
そのせいなのかどうか…二人の姿は、さっきよりは随分と恋人みたいに見えた。
* 珍しく、明確に拗ねちゃう有利です。お題が残っていなかったら、そのまま茂みで始めちゃうトコでした(笑) *
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