「桜舞」
ちらり…ほわり…… 頬を掠める花弁に、有利は知らず知らずのうちに瞳を和ませてしまう。 薄墨色の木肌に映える淡紅色の花が一斉に咲き始めると、霞の掛かった空に花弁が舞い散っていき…時折、息を呑むほどうつくしい動態を見せてふわりと落ちかかってくる。 街を彩る桜は、現在では圧倒的に染井吉野が優勢なのだが…有利には、この地方特有の山桜にお気に入りの一本があった。 親戚の家の裏手に生える山桜…常緑樹に囲まれて一本ぽつりと生えるこの木は、群れて咲く染井吉野とはまた違った風情がある。 小さい頃、春をかなり過ぎてから満開になるこの桜に吃驚したものだった。 『おじちゃん、このサクラ変わってるねぇ。一本だけ、春を過ぎてるのに咲いてるよ?』 不思議に思って叔父に問えば、彼はからからと笑ってこう言った。 『確かになぁ、桜は大勢で咲いてるのが多いもんな。花見なんかで盛り上がるには、やっぱりどかーんと咲いてるのが景気が良くていいよなぁ。でも、俺はこのへそ曲がりな咲きっぷりが好きなんだよ。《周りがどうした、あたしゃいま咲きたいのさ》…なーんて、粋な年増女みたいにどっかりとした風情があるじゃないか?』 有利はまだ、《年増》とか《風情》とかいったものの醍醐味が分かるような年ではなかったが、それでも叔父の言うことには頷いた。 有利もまた、この《へそ曲がりな桜》がえらく気に入ったからだ。 「よう…今年も立派に花をつけたな?」 小さく囁きかければ、桜は風に揺れ…有利に応えるように《わささ…》と枝を鳴らした。 太い幹は傷つくことと修復とをもう幾百年も繰り返したように撓(しな)り…幾つも瘤が出来たり、樹皮が至る所で剥離している。 だが、風雪を乗り越えてなお花を咲かそうとする古木には、傷つけられようと汚されようと、決して真芯の気高さを失わない…力強いうつくしさがあった。 褐色の新芽を纏う様子は野趣に富み、きりりと開く5枚の花弁は可憐というより、雄々しいと表現した方が適切であるように思われる。 「綺麗だなぁ…」 うっとりと呟きながら思い浮かべるのは…一人の男性の姿だった。 全身に多くの傷跡を刻みながら…凛として立つその姿は、この桜のように力強く…そして、切ないほどにうつくしい。 コンラート・ウェラー…有利の《名付け親》だという男性は、有利が治める異世界…眞魔国の住人で、向こうで初めて会った折にも《剣豪》なのだとは聞いていたが、先日…魔剣なるものを手に入れるに際して、《ルッテンベルクの獅子》の通り名を持つ英雄なのだと知った。 その話自体はコンラートとヨザックの会話を盗み聞きに近い形で聞いて知ったわけだが、ヴォルフラム達にも聞いたりした事を総合してみるに、有利の名付け親なる人はまさに風雪に耐えて百年の時を閲してきた人であるらしい。 謂われ無き差別に耐え…そして、ただ耐えるだけではなく撥ね除け…国ではなく、民から《英雄》の尊称を賜った男。 感嘆しきってそんな風なことを言えば、彼は笑っていなすのだけれど…。 『そんな大層なものじゃありませんよ。俺はただ…生き延びてきただけです』 《本当の英雄は、墓の中にいる》…そう口にしたわけではないけれど、どうしてか有利には、彼がそう思っているように感じられた。 彼にとって過去の栄光は縋り付くべきものではなく、単に通過してきた経路の一つに過ぎないのだろう。 その無骨な生き方は、なんともこの桜の木に通じるものがあった。 「コンラッドにも、見せてやりたいなぁ…」 だが、それは現状では叶わぬことであった。 眞王に呼ばれて眞魔国に赴く《派遣魔王》渋谷有利は、《大好きな名付け親に桜を見せてあげたい》等という素朴ではあるが、些か個人的に過ぎる望みを叶えて貰うには立場が弱い。 《王様って、国で一番偉い人ってわけじゃないんだね…》という辺りに気付いてしまった有利は、ほぅ…っと溜息をついて、桜の下にころんと仰向けに倒れた。勿論、木を傷めないように根と根の間に頭を置く形である。 「わー…」 先日、《桜を一番綺麗に見るためにはその根方に横たわると良い》と聞いたので早速実践してみたわけだが…噂通り、薄青い空に広がる桜の天井は降りかかるように広がり、視界一面を占める桜に心までいっぱいにされる。 「…せめて、写真とか持っていこうかな。……ん?」 有利はふと…桜の根方に落ちた小枝に気付いた。 強い春一番に煽られて細い枝が落ちたのだろう。ふっさりとした花房が、まだ瑞々しいうつくしさを留めたまま大地に横たわっていた。 「わー…綺麗だなぁ…!これ、持ってけるといいのにな!」 そっと枝を手に持つが、それは叶わぬ夢だろうか? ちら…と脇に目線を送れば、小振りながらそこそこの深さをもった池がある。 カエルが泳ぎ、藻が繁殖するその池は生命の宝庫とも言える場所で…つまりは、あまり遊泳に適した場所ではない。 初夏に近い時期とはいえ、水温もまだまだ泳ぐには低いだろう。 そもそも、有利がただ水に入ったからと言って眞王が眞魔国へと誘(いざな)ってくれるとは限らない。 入水自殺と間違えられて滾々(とうとう)と説教を喰らうのはまだしも、眞魔国ではない別の世界に旅立つのは嫌だ…。 けど… でも…… 「ええい…いちがばちかっ!」 有利は大切に桜の小枝を学生服の中に隠し込むと…鼻を摘んでぽぅん…っと池の中に飛び込んだ。 「うぶ…わ……っっ!!」 ざばっと冷たい水が服の隙間から流れ込み、焦って脚をかくが藻が絡みついて離れない。 ちょっぴり死を予感して走馬燈が見えかけたその時…ずるぅ…っと世界が歪み、次いで一気に身体が引きずり込まれていった…。 『うわ………い、いったぁ…っ!!』 狙って旅立つ初めてのスタツアではあったが、やはり乗り物酔い(?)の違和感だけは相変わらずのようだ…。世界がグルグルと回り、強烈な吐き気が込み上げてきた…。 * * * ユーリ… ユーリ……っ! 切羽詰まったような男の声が聞こえる。 有利の名を呼ぶその声は独特の響きを持っていて、それが耳孔を擽れば…なんともいえない心地よさが胸に響く。尤も、相手の方はそれどころではないような雰囲気だが…。 『なんだろ…』 『それよか…寒いなぁ……』 全身が滴るほどに濡れているようで嫌々をするように身じろげば、絡みついてくる衣服が冷たく…邪魔くさかった。 だが、冷え切った身体の中…数点だけ熱く燃えるような部分があった。 それは痛いほど掴まれた肩、そして…唇だった。 ことに、唇には何か熱くて弾力性のあるものが押し当てられ、そこから強く息を吹き込まれている。 「ん…ぐ……っ」 自分の唇に触れているそれが、誰かの唇だと気付いた瞬間…ぐ…っと込み上げてくる衝撃で有利は激しく咳き込んだ。 「げは…か……っ!」 「そのまま吐いて…っ!」 『あ…この声……』 ぱちぱちと瞼を瞬くうち、漸くまともに前を見られるようになった。 コンラート・ウェラー…有利の《名付け親》が、飄々としたいつもの様子からは想像もつかないほど表情を強張らせている。 普段は穏やかな色を湛えている琥珀色の瞳がぎりりと釣り上がり、濡れそぼるダークブラウンの髪が引き締まった頬に乱れて張り付く…。 彼は、全身ずぶぬれのようだ。そして、有利自身も…。 …ということは、どうやら有利はスタツアには成功したものの、そのまま溺れてしまい…危うく三途の川を渡る寸前であったらしい。 ただ唯一幸いであったことは、こちら側の水は澄んだ湖畔の水であり、沼に突入した有利は洗われるようにして助け出されたおかげで藻も泥も被ってはいなかったことだ。 もちろん、体温は奪われているので寒かったが。 「け…は……ひぅ……」 なんとか普通に息をつけるようになってきた。 コンラートは吐けと言ったがそれほど水は飲んでいなかったらしく、なんとかみっともなく嘔吐するという事態には至らなかったようだ。 「た…すかったぁ……」 「良かった…ユーリ……。冷たいあなたを見つけたときには、どれほど肝が冷えたことか…っ!」 掻き抱くように力強い腕が背に回され…濡れた身体がコンラートの軍服に抱き込まれる。有利の下に敷かれた革製のシートに互いの間だから水が滴り落ち、彼の寝床(?)を今宵は使い物にならない状態にしてしまったのだと知れる。 それにしても…習慣のように《陛下》と呼んでは有利を怒らせる彼も、こんな時ばかりは真っ先に名を呼んでくれるようだ。 『やっぱり…《癖》っていうのはウソだな?こいつ…』 有利が一々反応するのが楽しくてからかっているに違いない。 コンラートは原則として有利に優しいが、色々とからかっては面白がっている節があるから。 『ここ…どこだろ?』 少し落ち着いてくると、あたりを見回す余裕も出てくる。 どうやらこちらの時刻は夜更けであるらしく、空は墨色に染め上げられており、都会では決してみられないうつくしい星々が綺羅と輝いている。 また、コンラートが起こしたのだろう焚き火の他には灯火の片鱗も見受けられず、ざわめく木々のシルエットも、有利達の周辺のみが辛うじて見て取れる程度だ。 どうやら、ここは人里離れた山中であるらしい。 「…あれ?」 その時、きょろきょろと見回していた有利の瞳に…いま、彼がいる場所が眞魔国であることを疑わせるようなものが飛び込んできた。 「え…?桜……っ!?」 焚き火のあかりに照り映えるその木はいかにも若く、枝振りや花つきも華奢な印象が強いものの…それでも、間違いなく桜だった。 まだおさない花樹は有利お気に入りの古木のような味わいには欠けるが、生き生きと伸びゆく枝は懸命に空へと向かい、これから育ちゆこうとする瑞々しさが感じられた。 「へぇ…こっちにも桜ってあるんだ!」 「眞魔国自生のものではありませんよ。これは…地球から運んだんです」 言葉の端に薫るいとおしげな雰囲気に、コンラートの桜への想いが垣間見えた。 「もしかして…運んだのって、あんた?」 「ええ…いけないこととは分かっていたのですが、無理を言ってこの峡谷に置かせて頂いたんです。万が一この世界の生態系を歪めてはいけないからと、ウルリーケに結界を張って貰っているので…ここには俺しか入れない筈なんですが…」 コンラートは不思議そうに…次いで、いくらか咎めるような色を載せて有利を見やった。 「う…えと……」 秀麗な面差しの人が怒りを滲ませると、向こう気は強いが小心者の有利としては肝を冷やすことになる。 どうにもこうにも言いにくくてもじもじとしてしまうのだが…1分もたたないうちに音を上げたのは有利ではなく、コンラートの方だった。 「…あなたを問いつめている場合ではありませんね。風邪を引いてしまう…。さ、脱いで下さい」 「え…は、う…うん!」 ノーカンティーに積んだ荷物から乾いた大判のタオルを出してきたコンラートは、自分の身体などそっちのけで有利の頭髪に被せると、濡れて脱ぎにくくなった学ランの第一ボタンを丁寧な動作で外してくれた。 「俺はいいよ…それよか、あんたこそ身体拭かないと…」 「俺は鍛え方が違います。それに…あなたに風邪をひかれる方が辛い」 「…過保護……」 「何とでも言って下さい。あなたの世話を焼くのが楽しいのは事実ですし」 くすりと笑って、結局有利の学ランを脱がせたコンラートだったが…濡れて肌に張りつくシャツに桜の小枝が絡みつく様を見ると、再び愁眉を曇らせた。 「肌に傷が…っ!」 「あ…」 言われて見れば、左下腹辺りに枝が掠めたのだろう…微かな擦過痕があった。僅かながら滲む血が濡れてシャツに広がり…散らされた花弁と相まって、薄紅色に肌を染める。 我を忘れてシャツとズボンをはだけたコンラートは、傷を検分してその浅いことを確認すると、ほぅ…っと安堵の吐息をついた。 「あの…コンラッド……た、大したことないから…」 酷く狼狽えたような声がする。 見れば、有利は顔を真っ赤に染めてズボンを押さえている。 多感な時期の少年としては当然の羞恥心であったろうが、濡れて…透けてしまったシャツと花弁とをまとわりつかせながら恥じらう様子はどこか艶を帯び…コンラートを動揺させた。 護り、慈しむべき対象としての《名付け子》…その想いには一片の変わりもない。 だが…それと重なり合うように、ふわりと舞い降りてきた感覚がある。 コンラートは突然に、気付いてしまったのだ。 この少年が柳のようにしなやかな体つきをしていること…華奢で小柄な体躯とはいえ、その肉体は既に小児のそれではなく、男としての機能をもつのだということを。 有利はズボンの前部分を必死で押さえ、コンラートの観察の目から逃れようと懸命に身を捩らせていた。 その部分に隠された肉体が…何らかの反応を示してしまったからだ。 『…この子は、俺に欲情しているのか?』 驚くべき事に、その発見は驚愕こそ引き起こしたものの…微塵の嫌悪も畏怖も起こさせることはなく…コンラートに沸き立つような喜びを与えたのだった。 『嬉しい…のかな?俺は……』 相手は生まれる前から知っている…おむつをつけた幼児期も知っている少年だ。眞魔国における成人の儀も終えてはいない。 だが…コンラートの心と肉体は有利の想いに歓喜し、熱烈に彼を求めているのだった。 『うおあたたたたたたた………っ!アホか俺っ!!いくら佳い男だからって名付け親に勃ってんじゃねーよっ!!』 いくら女の子相手の免疫もないモテない人生邁進中の有利とはいえど、男相手に反応を示しては立つ瀬がない。 きっと、救命活動とはいえ百戦錬磨の色男にキスなんかされたから、身体の方が本能的に反応してしまったに違いない…などと自分を慰めようとして、有利ははた…と気付いてしまったのだった。 『うっわ…俺のファーストキスって…コンラッドになるわけ!?』 ちらりと目線を送れば、半眼に開かれた琥珀色の瞳が焚き火の紅に映え…何故か悩ましげな色彩を呈して有利を凝視している。 微かに開かれた薄い唇は、その視覚的印象よりも弾力に富み…重なり合った熱さはえらく心地よいものだった。 《人工呼吸で男とキスしちゃいました》…よくあるモテない男の笑い話として登場しそうなネタ…。大抵、《おえぇ〜っ!》と大仰な態度で気持ち悪がる表現に結びつくはずのその事実が、どうしてか有利にとっては切ないくらい胸を締め付けてくる。 『うわ…ヤバイ…俺……』 コンラートの形良い唇から、目が離せない。 『俺…コンラッドとキスできて…嬉しい、なんて…思ってる……』 漠然と、憧れている事には自覚があった。 だが…まさか、性的な意味で欲望を抱いているなどと知ったら…コンラートはどんな顔をするだろうか? 経験豊富な名付け親として、手ほどき…などという事態に展開するには、彼は過保護すぎるだろう。 内心呆れていても顔には出さないでいてくれるだろうが、彼に心の中でとはいえ呆れられるのは嫌だった。 なんとしても発覚する前に誤魔化してしまわなくてはなるまい。 「コンラッド…なぁ…マジで、俺…自分で脱げるから…。あんたも脱ぎなよ、風邪…ひいちゃうよ…」 コンラートの腕から逃れるように身を捻り、横寝になる姿勢で興奮した性器を隠そうとすれば…思いのほか素直に身体を離して貰えた。 ほっとする反面…触れあう熱が離れてしまった寂しさに刺すような痛みを感じつつシャツを脱ぐが、ズボンを脱ごうとして、はた…と手が止まってしまう。 火の粉の爆ぜる焚火の光が、闇の中…神が彫り上げたような肉体を厳かに照らし出す。 素早い脱衣は軍人の性なのか…コンラートは身を包む軍服を全て脱ぎ去り、濡れた髪をゆったりと掻き上げていた。 節くれだった長い指が、ダークブラウンの頭髪を梳きながら頭頂部に上がっていくと、ぱらりと落ちかかる髪房が秀でた額に艶かしくいろどり、掌の影から向けられた双弁が有利を捉え、どこか熱を感じさせる色彩で凝視してくる。 そして、なによりも有利の胸を打ったのは…やはり、彼の全身に刻まれた凄まじい傷だった。 歪み…ひきつれた傷口が白い肌に刻まれているというのに、その体躯が極めて逞しく、当人が毅然として佇んでいるためだろうか…その肉体は有利の愛するあの山桜のように威風堂々として、圧倒的なうつくしさを呈していた。 ごう…っと風が吹くと、紅焔がめらりと揺らめき…桜の若木も揺らされて、舞い上がる火の粉と花弁とが闇の中でコンラートの肉体を艶やかに引き立てた。 『うわ……っ』 その様は、経験不足の有利には刺激の強すぎる代物であった。 大人の男の…野生味溢れる色気にあてられ、またしても反応を示してしまう下肢が恥ずかしくて堪らない。 元来、性欲はさほど強い方ではないと思っていたのだが…ヨザックから《夜の帝王》と呼ばれていた名付け親の艶は、魔性の技で有利を煽っているのだろうか? 『うー…そりゃ、やりたいさかりのお年頃じゃああるけど、反応すんのはフツー可愛い女の子の身体にだろ!?なんで立派な体つきの軍人さんに欲情してんだよっ!!』 これがまた…《抱きたい》なんて欲望であればまだ男として健全な気がするのだが、あの厚い胸にもう一度抱きしめて貰いたい…等と感じてしまう時点で、男として終了している気がしてならない。 しかも、肉体が素直に反応しているのとは裏腹に、有利はその欲をどう処理していいのか分からないのだった。 『こーゆー場合…こっそり《トイレです★》なんて抜け出して、マスかくべきなんだろうか…』 その場合、やはりずりネタは名付け親になるのだろうか? どうも、可愛いアイドルのグラビアなどを思い浮かべても、抜くことは難しそうだ。 「と…トイレ……」 ころりんと転がって立ち上がろうとするのだが、茂みに向かおうとするその身体を素早く引き留められてしまう。 「では、その前に服を脱いでしまわなくては…。山の夜は冷えますからね、焚火から離れたらあっという間に凍えてしまいますよ?」 「や…ぃ、いいから…っ!」 背後から抱き留められる形でズボンに手を掛けられれば、筋肉の乗った逞しい胸板が背中にぺたりと押し当てられる。 ずくりと込み上げる欲情は情けないほど有利の熱を強め、コンラートが気付かないはずがないところまで硬度を上げてしまう。 「おや…出そうなのはおしっこではないようですね?」 くすりと耳元で笑えば、びくん…っと震えるのが面白かったのか、ふぅ…っと掠めるような息が耳元に吹き付けられる。 「ゃめ…っ!」 「駄目ですよ…」 容赦ない手が、有利の抵抗など無いも同然とばかりの強引さでズボンを剥ぎ取っていくと、少年らしい素朴な下着が露わになる。 「可愛いですね…こんなにして」 「ゃう…ん……っ」 下着越しに、くちりと先端を指でなぞられれば水ではないもので濡れた感触がぬめり、ぴちゃ…と音を立てて耳朶が舐め上げられる。 『うそ…っ!?』 下着の隙間から…するりと忍び込んできた長い指が有利の制止を事も無げに振り切ると、直接おさない性器を握り込んできた。 息を呑む有利を翻弄するように強弱をつけて指は上下し、鈴口のぬめりを楽しむようにくりゅりと指先が蠢く…。 両手でそれを止めようとすれば、もう一方の手までがそろりと下着の中へと侵入を果たし、やわやわと絶妙な動きでマシュマロのような袋を弄るのだった。 「ゃ…や……っ!で、出ちゃ……っ」 「良いですよ…出して?」 「やだ…ゃだぁ……やめ、やめてぇ……っ」 こんな…嬲るようにからかわれては堪らない。 有利は達してしまいそうな肉体をもてあましてしゃくり上げた。 「…か、からかうの…いい加減にしろよ…っ!け、ケーベツするからな…っ!」 語調こそ強いものの、怯えたように身体を竦め…泣きじゃくる有利をどう思ったのだろう。コンラートの指がその動きを止めた。 「からかってなんかいません」 「嘘つけっ!俺がケーケンないと思って…こ、こんなの…根性悪すぎだぜ!?」 怒りのあまり本気で声を荒げれば…思いの外真剣な声が背後から囁かれる。 「からかっているわけではないんです。すみません…」 くい…っと上体を抱き上げられ、向かい合うような形にされると…真摯な眼差しが有利に注がれていた。 「ユーリが、俺に興奮してくれてると思ったら嬉しくて…調子に乗ってしまいました」 「……え?」 《嬉しくて》…信じがたい言葉に有利の瞳がぱちくりと見開かれる。 「嬉…しい?」 「ええ…俺は、名付け親や親友という以上の感情であなたに想われていたのだと受けとったのですが…それは俺の自惚れでしょうか?」 困った大型犬のような瞳で見ないで欲しい。 とても《自意識過剰だよ》などとは冗談にでも言えなくなってしまう。 「そりゃあ…想ってましたよ。ええ、そりゃもう……どーせ俺は、女の子にモテなくて名付け親に走った変態ですよっ!」 やけくそで叫べば、如何にも嬉しそうに相好を崩すから…有利は眉根を寄せつつも胸をときめかせてしまう。 「俺に走ってくれるのが変態なら、俺は変態好きになってしまいそうです」 くすくすと笑いながら腰に腕を回され…きゅうっと抱き寄せられれば、濡れた下着越しに…コンラートの剛直な熱が触れたきた。 「…っ!」 「変態はお互い様ですね…名付け子に、欲情してしまいました」 ぺろ…と舌を出して悪戯っぽく微笑めば、眦に掃かれた紅が…えも言えぬ色香で有利を誘った。
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