第二夜 

〜王様と俺〜











 さらりとした…肌合いの良いシルクが頬に触れている。
 少しひんやりとしたその感触が、微睡んだ脳にはとても心地よく感じられたものだから…有利はふみゅ〜…っと口元を緩めて頬をすり寄せた。
 すると、シルクの間から違う質感が頬に触れてきた。

 とくん…
 とくん……

 何処か懐かしいような拍動と、鼻腔を掠める馴染みのコロン…。

『コンラッドの音…と、匂い……』

 ますます嬉しくなって腕を伸ばすと、向こうも有利を抱き込んで額に優しいキスを落としてくれる。

「コンラッド………ぇへー…。良いにおいー」

 まだ開ききらない瞼を擦りながら、心地よい恋人の懐を楽しんでいると…不意にノックの音が響いた。

「陛下、お目覚めですか?朝食をお持ちしましょうか?」
「いや、まだ良い。ユーリと湯浴みをすませてから頂くよ」
「それでは、ベルで呼んで下さいませ」

 可愛らしいメイドさんの声に応える、寝起きとは思えないような爽やかで伸びるある声…。
 それ自体はとても馴染みのあるものであったのだが…
 いま、メイドさんは…そして彼はなんと言っただろうか?

 《陛下》…そう呼んだメイドさんに対して、コンラートは…

 《いや、まだ良い》…って…………

『アンタが王様なのっ!?』

 まさに寝耳に水の政権交代劇に、ばっと身を翻せば…信じられない姿のコンラートがいた。
 信じられないと言っても、裸エプロン着用だとか、ちょっと懐かしいミニスカポリスの格好だとか、そういうイロモノ路線ではない。

『く…黒のパジャマ!?』

 すっきりとしたデザインのパジャマはコンラートの長い腕や脚をより美しく際だたせ、くつろげた胸元から覗く胸筋も大人の色気満載である。

 …けれど、問題はデザインではない。

 明らかに上質と知れるその素材は、明瞭な黒色を呈しているのだ。
 この国で最も尊い色とされる黒を身に纏えるのは、《王》と呼ばれる者だけ…の、筈である。

『コンラッドって、黒も似合うなぁ………』
『…じゃなくてっ!!コンラッドが…王様!?』
『…ってことは、俺は失業魔王!?』

 失業手当は一体幾らなのだろうか。
 再就職の道はあるのだろうか…。

『齢(よわい)17歳にしてリストラとは…労働者の悲哀を感じるには早過ぎるなぁ…』

 有利はショボンと肩を落としながら何の気なしに胸元をまさぐっていたが、ふと手に触れた硬い感触に我に返った。

『あ…っ!』

 手に触れたのはおなじみの青い魔石、と……

『コンラッドの…心の欠片!!』

 そう…どの夢に取り込まれても決してなくさないようにと、小袋に入れて魔石のネックレスにつなげておいたのだ。

『そうか…これはコンラッドの夢なんだ……』

 しかし、政権交代とは…。
 幾らへなちょこ王とはいえ、一番に信頼しているコンラートにそんなことを希望されていたのかと思うと正直ヘコんでしまう。

「どうしたの、ユーリ?」

 優しそうな…そして気遣わしそうな声。
 でも、その呼びかけは大変フレンドリーなものであり…

『陛下って言うな名付け親!』

 という…いつもの遣り取りが急に懐かしくなってしまう。

『いきなり目下扱いかよー…。俺ってば、そんなに王様として駄目だったわけ?』

 唇をとがらせて上目遣いに睨み付ければ、その意図がつかめないのか…コンラートは戸惑ったように眉根を寄せた。

「さっきまでご機嫌だったのにな。さては、我が名付け子さんはホームシックなのかな?」

 …どうも微妙に設定が違うのだろうか?

 不思議に思って探りを入れていくうちに、今回のコンラート的設定が大体飲み込めてきた。
 ここは政権交代後の世界…というわけではなく、最初からコンラートが魔王で、有利はその名付け子にして貴重な《双黒の君》として…異世界から輿入れしてきた《お姫様》的な扱いであるらしい。
 まだ幼いし、この世界にも馴染んでいないから花嫁(?)修行も兼ねて常にコンラートの傍にあり、眞魔国のことを勉強している…そういう立場なのだそうだ。

 …なので、二人が恋人同士であるのは勿論のこと、結婚を前提としたお付き合いをしていることは国中が認める祝祭事なわけで、誰に気兼ねするでもなくいちゃいちゃできる関係のらしい。

『つまりは…俺たちの関係を誰に咎められるでもなく堂々と周りの連中に誇示したかった…って事なのかな?』

 そう考えればちょっと落ち着いてくる。

「ご機嫌は治ってきたかい、俺のお姫様」

 きらきらと銀の光彩を惜しげもなく瞳に散らしながら言われると、サブイボの代わりに頬が染まるから不思議だ。

『美声の美形って得だなぁ…』

 有利は、自分がクラスの女子に同じ事を言ったら全力疾走で逃げられる自信があった。
 ただ…有利自身は知らないことだが、彼が素の笑顔で屈託無く

『機嫌治った?』

 と、小首を傾げながら尋ねれば…老若男女を問わず激甚な怒りも収まるのであるが。

「身体は辛くない?湯浴みをしてすっきりしてから食事にしようか?」
「ん…?ぅん……」

 返事をする隙もあればこそ…有利はふわりとお姫様抱っこでコンラートの腕に抱かれると、流れるような動作で魔王用バスルームに連れ込まれた。

『うっひゃー…』

 バスルーム内の鏡に映った自分の姿に首まで朱に染まってしまう。
 薄いシースルーのガウンのようなものを羽織っただけの有利の身体…そこには、至る所に刻まれた所有の証をそこかしこに見て取ることが出来る。

 いつもは人に見られないようにと極力少ししかつけないその痕が、今はこれ見よがしなほど有利の全身を飾って所有者の欲を伺わせる。

「綺麗だね…ユーリ……」

 するりとガウンをはだけられれば、夜の間に何度も舐(ねぶ)られたらしい胸の蕾が薄紅色に染まって…誘われるように口づけたコンラートの唇の陰で淫靡な艶を持ち始める。

「ゃっ……」

 甘い声が漏れ掛けて口元を慌てて覆えば、その指を捉えられて熱い口内に招き入れられる。

「声を隠したりしないで…ユーリの可愛くていやらしい声を全部聞かせて……俺を感じてるって、教えて…」

『いやらしいのはあんただーっっ!!』

 指先を甘噛みしつつの淫靡や囁きに、有利の腰にはじれったいような…疼くような感覚が広がっていく。

「欲しい?ユーリ…昨日も沢山飲ませてあげたのに…もうひくひくしてる……待ちきれない?」

 つぷりと濡れた指先で菊華を弄られれば…どれほど昨夜《飲まされ》たものやら…とろりと白濁した液が溢れてくる。

「はぁ……ゃ……っ……そこ…やっ…!」

 ずぶぶ…と節くれ立った指をなんなく受け止める場所はすっかり濡れそぼって…そんな行為に慣れっこになっている事を伺わせる。

「美味しい?ユーリ…」

 くすくすと意地悪そうな笑みを浮かべて…指を一本…また一本と増やしていく。

「ほぅら…もう3本も銜えてるよ?朝から食い意地が張ってるな…ユーリの口は」

 ぐちゃぐちゃと粘質な音を立てて指節間関節がバラバラに動き回り…ユーリの肉襞を思う様煽り立てる。その感触に流されそうな自分を叱咤して、有利は必死で抵抗の言葉を口にした。

「朝から……サカッてるアンタに言われたくない…っ!」   
「おや?俺の名付け子は今朝は躾がなってないようだ。これはお仕置きが必要かな?」

 コンラートは眉根を顰めると、情欲の色をさらりとその瞳から払拭させてその身を離した。

「……はぁ……」

 意地でも《欲しい》なんて言いたくない…けれど、腕を組んでじぃ…っと有利の様子を視姦する名付け親の方は、意地でも有利に《欲しい》と言わせたいようだ。

「おいで…水の要素よ……」

 黒衣を纏った長い腕がすい…っと宙を舞い、その指先が微かな動きで曲げられたかと思うと…暖かな水面が、揺れた。

 とぅる……

「…っ!」

 湯が…コンラートの要請を受けてしなやかな鞭のようにひゅるりと水面から立ち上がってくる。
 そして…コンラートの指と眼差しとが有利を示した途端に、目にも留まらぬ早さで有利の身体を拘束した。

「な…に、すんだよっ!コンラッドっ!!」

 手首を頭上でまとめられた段階で既に焦っていたのだが、そこから繋がるお湯の触手は左右にしゅるっと伸びると、更に膝下にくるくると巻きつき…脚を限界まで開脚させた状態で拘束してきた。

「素敵な格好だね…ああ…ほら、昨日飲み込んだ俺のミルクがとろとろと溢れているよ?」
「へ…変態!」

 その呼称こそがこの男には相応しいと思われる。
 触手は痛みも与えずにやわやわと触れてくるのだが、コンラートの指示通りに菊華を乱すと、3本の細い触手が巧みに肉襞を押し広げて…有利の最奥をコンラートに見せつけようとしているのだ。

「おや…そんな酷いことを言うのはこちらのお口の方かな?」

 しゅるりと…今度はかなり太めの触手がうねりながら有利の頬にすり寄ったかと思うと、戸惑うその唇を割り込んで口腔を嬲り始める。

「ん…うっっ……!」
「こないだ教えただろう?ユーリ…舌先を使って…優しくしゃぶってご覧……」

 陶然とした声から、コンラート自身とこの触手とが魔力によって感覚の上でも繋がっているのだと知れる。

「ふ……くぅ……んんっ」

 慣れない舌遣いながらも暖かな湯の塊に舌を這わせれば、菊華を乱していた方の触手がするすると奥まった場所に這い込み…他の触手が脇腹を…胸の蕾をぬたぬたと小刻みな動きで煽り立てる。

「んぅっっ!」

 最奥のイイところに触手がこりこりと刺激をくれるものの、絶対的な圧迫感を伴わない刺激は残酷に悦楽を刺激するだけで頂点を迎えさせてくれない。しかも、とろりと先走りの滴を零し始めた場所にもぬったりとした湯の塊が…人の口内のような蠢きでもって包み込み…吸い上げてくる。

「ユーリを責める水が綺麗に透明だから…隅々まで見えるのがとても良いね」
「お願い…も……止めて……お、おかしくなっ……」

 含みきれない湯の塊に噎せ、ぽろぽろと涙をこぼすと…コンラートはゆっくりと近づいてくるものの、綺麗な琥珀色の瞳を楽しそうに綻ばせて有利の様子を楽しむばかりだ。

「このまま…お湯にユーリの恥ずかしいところを全部ぐちゃぐちゃにされてみる?」

 口内を蹂躙していた陰茎様の触手がうねり、つい…と菊華の入り口に押し当てられる。

「嫌っ!」       
「じゃあ…言うべき事があるんじゃないかな?」

 にっこりと…残酷なことをとても爽やかな笑顔で告げるのは…

 《魔王》、だった。

 正しく、人の世で悪魔の頂点に立つ者として呼ばれる、《魔王》だ。

「…て、下…さい」
「なに?聞こえないな…やっぱりこっちが欲しいの?肉を満足させてくれれば何でも良いのかな…俺の花嫁は……」

 ぐじゅ…

 押し当てらる先端が…熱い湯の熱と圧迫感を肉の内壁に伝えようとする。
 恐怖に突き上げられるようにして有利は叫んだ。

「コンラッドのを、入れて!こんな触手は嫌だよっっ!コンラッドのを入れて下さいっ!」
「やっとお願いが出来たね、じゃあ…離してあげるから、上手に俺を誘ってご覧?」

 触手の戒めを解かれてタイルの上に投げ出されると、コンラートの足下に這い蹲る形で放置された。

 有利自ら動かなければ、また《お仕置き》が待っている。
 コンラートの背後で蠢くおぞましい湯の群れが、その事を如実に物語っていた。

「…っ!」

 有利は涙をこぼしながら…ガウンの裾を自分でたくし上げると、獣の姿勢でコンラートに尻を向けた。

「い…れて、下さい……魔王、陛下……」
「良くできたね、それでこそ俺の花嫁だ…」

 お湯とは全く異なる質感の…濡れた肉の先端が、菊華にぴちゃりと押しつけられる。
 そのまま…ずぶりと勢いよく突き立てられても痛みを訴えない身体は、貪欲に襞を収縮させて《花婿》をたぐり寄せる。

「いいね…柔軟なのに、よく締まる…まさに名器だな…」

 じゅぶ…ずっ……!
 ぱん…っ

 ぐち…ちゅ……っ
 ぱん……っ!
 
 淫らな水音を盛んに立てながら…尻に下腹と恥骨部とを打ち付ける音が、お仕置きに尻をぶたれる子どものような様子でバスルームの中に響いていく。

「おや…俺に肉を抉られるだけで…ユーリの雄の部分は涎を垂らすんだね」    
「やぁっ!」

 背筋を熱い舌がねっとりと伝い、かりっと肩甲骨下角に歯を立てられる中…意地悪な触手が高まりの付け根を締め付ける。
 有利は思いがけない裏切りに苦鳴を上げた。

「さ…誘ったら……してくれるって……っ!」
「俺を挿れるところまではね。でも、ユーリが先に行ってしまうと寂しいだろう?ね、一緒にイきたいな……」

 甘えたような囁きが脳髄を犯す。
 全てを許してしまいたくなる魅惑的な声は、もうそれだけで十分な魔力を持っていた。
 高まりの付け根を締め付けられながらも…敏感な鈴口から尿道にまで達する触手にあり得ないほどの快感をもたらされ、胸の蕾を指先で痛いほど捏ね上げられて…過ぎた快感が痛みさえもたらすというのに…
 それでも、コンラートに対する愛しさを失うことが出来ない。

「く…ふぅ……っ!」

 体内に弾けた迸りが熱く腸壁を濡らし…どくどくと放たれるそれを飲み込まされる。

「ぁぁあっっ!!」

 同時に、やっと触手の縛めをとかれた高まりからは恥ずかしいほどの白濁が数回にわたって吐き出され…上等なタイルに飛沫を散らせた。

「…ふ……」

 抜かれる…

 そう思ったコンラートの肉棒は再び、ぐ…と押し入ると、繋がったまま…有利の身体はくるりとコンラートに抱えられて向かい合う形に収まってしまう。
 そこでコンラートの腕が動くと、すぃーっと伸びていった触手が浴室を抜け…扉の向こうで…

 リーン……

 …と、鈴の音を響かせた。

『わー、便利。横になってから電気消すのが面倒くさくなったときとか、爪切ってるときに電話かかってきたときとかいいなぁ…』

 そんな風に感心している場合ではなかった。
 鈴の音が響くやいなや、《魔王陛下》に忠実なメイドさん達がしずしずと朝食を運んできたのである。

「ぎゃーっっ!!ぬ、抜いてコンラッド!!」
「嫌だよ」
「なんで!?こんなトコ嫁入り前にムスメさんに見せたりしたら駄目だって!ふ、ふしだらだから!公然猥褻罪で捕まるから!!」
「この国では俺が魔王ですから、俺が法律なんですよ?俺は何をしても許される身なんです」
「光源氏かアンタは!!タチ悪りぃーっっ!!」
「まぁ…陛下とユーリ様は今朝も仲がおよろしいこと!」

 若いメイドさんに微笑みかけられて、

『ひぃーっっ!!』

 と、声にならない叫びが迸る。
 笑顔を浮かべながらてきぱきと朝食を運び入れ、ベットシーツを新しいものに換えていくメイドさん達…彼女たちは不躾にじろじろとこちらを見るようなこと無かったが、作業の端々でふと視線の端を走らせると…主と少年の《繋ぎ目》にどうしても意識が行くようだった。

『み…見られてるのに……』

 コンラートは先程から流石に突き上げたりはしないものの…何とか腰を浮かして離れようとする有利の腰をがっしりと捉えて離さず、逃げようとした分だけ接合の深さを取り戻してしまう。

 しかも、実に平静な顔のままで悪戯まで仕掛けてくるのだ。
 有利の胸の蕾を指先で弄ったり…かり…っと鎖骨を甘噛みしたり…。

 その度に有利が泣きそうな顔で嫌々すると、くすりと意地悪げな笑みを浮かべて…繋がった場所の硬さと大きさを成長させてしまうのだ。

『も…いっそガンガン動いてくれた方がナンボかましだ……っ』

 じっと動かないまま大きさを増していく体内の肉を意識させられて、有利は身も世もなく焦れてしまった。

「お申し付けの通り、今朝はチーズマフィンとシーザーズサラダ、ハムエッグにコンソメスープ、果物の盛り合わせです」
「ああ、どうもありがとう。そのままここに置いておいてくれるかな?」
「はい、後で取りに伺いますので、どうぞそのままお楽しみ下さい」

 華のような微笑みを残してメイドさん達がひらひらと立ち去っていく。

『メイドさん…っ!そんなにさらっとスルーしないでっ!!』    

 突っ込まれても困るが…。
 いや、まさにいま突っ込まれ中の自分が言うのもナニですが。

「ユーリ、はいあーん」

『あーんじゃねぇよっ!』

 笑顔で苺をユーリの口元に押しつけてくる《魔王陛下》を、有利はぶん殴ってやりたい気持ちで一杯だった…。

「食べる前に…抜いてよ……っ」
「抜いても良いの?」
「ゃぁぁあああん……っ!」
 ぐん…っと荒々しく突き上げられれば、欲望に素直な身体は魔王の思うままに撓り…喉奥からは心地よさそうな嬌声が上がってしまう。
「下の口の方が素直に出来ているみたいだね」
「ぁ……や……っっ!」

 再び触手に四肢を拘束された身体が宙に浮き、丁度コンラートの腰の高さで捧げ物のように固定されてしまう。
 そのまま…思う様責め上げられ…突き上げられ…
 散々啼かされた有利は、随分と遅い朝食を食べる羽目になった。



*  *  *




 房事では無体の限りを尽くしていたエロキング様だったが、意外とちゃんと王様をやっていた。
 平等で平和的な施策により国内情勢は安定し、混血への差別も厳格に法律によって禁じられている。人間の国との交流も盛んだ。
 コンラート自身も有利のように執務中に逃亡するようなことはなく、大変真面目かつ効率よく、さくさくと書類仕事や連続する小会議をこなしていく。

『ヤバイ…コンラッドってば夢の中とはいえ俺よりよっぽど見事に王様業やってんだもんな』

 実際問題、コンラートは平素武の人とは言いながらもよく国際情勢に通じていたし、グウェンダルなども決断を迫られるような事態では特に意見を求めたりしていた。

『コンラッドが王様やってる方が…眞魔国の人達も幸せなのかもしんない…』

 有利がやりたいと思っていた、差別と戦争のない眞魔国の中で、誰に咎められるでもなく結婚を前提とした恋人生活を楽しむ…。

 《おうさまになって好きなひとといっしょにくらす》

 子どものような単純な夢…だからこそ、破綻がない。
 度を超したエロさを除けばごく立派に過ごしているコンラートを、この夢の中からどうやって助け出せばいいのだろう?
 居心地の良い天国から誰が逃げたいと思うものか。
 一方…有利はと言うと、花嫁修業とは言いつつ別にお花やお茶を習うわけでもなく、コンラートの傍で他の侍女と一緒におやつを食べたりゲームをしたりと至って暇な日常を過ごしていた。

 居心地が良いと言えば、良い。

 ただ、着せられる服はエロかった…
 他のメイドさん達は普通の焦げ茶や緑色のお仕着せで、裾丈も膝下30pはある清楚なものである。これに対して…有利の身を包む服は特注品だった。

 …一応、メイド服を基礎としたデザインのようなのだが…全体的に、何とも露出度が高い。 
 広い襟ぐりは有利のくっきりとした鎖骨を露出させ、胸元は白い布地にたっぷりとギャザーを寄せてあるので、ふくっと自然な膨らみを帯び、肩周りもやはりふっくりと膨らんでしなやかな腕がそこから伸びる。
 対照的に絞られたウエストには黒い大きなリボンが掛けられて、腰のところでふわりと結ばれている(王が特別に許すという形で、有利は黒い衣服の着用を認められていた)。 ひらひらとしたフレアースカートはやはり黒で、丈は膝上20p…すらりと伸びる下肢は不二子ちゃん風のガーターベルトでとめられた黒いストッキングに包まれ、靴には艶のある黒いローファーをかぽっと穿いている。 

 露出度の高い服なので、当然あちこちに残された所有の証が見え隠れして…日夜《魔王陛下》の寵愛を受けまくっていることを周囲に知らしめている。
 だが、臣下の人々はグウェンダルやギュンター、ヴォルフラムを含め、王の行状には一切口を挟まなかった。
 コンラートの夢の中なので仕方ないと言えば仕方ないのだが…

 時々、妙な違和感を覚えることがある。



*  *  *




「ちょ…コンラッド…」

 目の前にグウェンダルが居るというのに、執務机の前に招き寄せられた有利は指先でくいっと襟ぐりを広げられ、露わになった蕾をぺろりと舐め上げられた。

「いいから…グウェンがあの書類を読むまでの間、俺と遊んでよ」
「そんな…ぁっ……っ!」

 スカートの裾から忍び込んだ指に紐パンの上から高まり始めたものを撫でつけられ、きつい空間の中で容積を増したそれが小さな布地を圧迫する。

「だ…駄目ぇ……っ」
「こっちはそうは言っていないよ?俺が欲しいって…蠢いてる…」

 布地の端から忍び込んできた指が無遠慮に菊華を乱すと、とろとろと濡れたそこは慕わしげに複数の指を受け止めて…悦びに蠢いた。

「これはもぅ…無くてもいいよね?」

 紐パンの紐をしゅるりとほどかれ、ただの布きれと化したそれがぽいっと床下に放られてしまう。
 グウェンダルは足下に落ちたそれにちらりと視線を向けはしたものの、ふぃ…っと無視して書類に集中し直した。
 その様子がずきん…と胸を刺した。

『コンラッド…あんた、こんなのが望んでる夢なのか?』
『違うんじゃ…ないのかな……』

 なにか…違和感がある。
 数日前から少しづつ気になっていたのだが…夢のどこからどこまでがコンラートの本当の夢で、どこが夢魔の修飾なのか気付くことがこの夢を解く鍵なのではないだろうか? 

『グウェンダルってさ…俺にとってもあんたにとっても、特別な人だろ?』

 雷オヤジみたいな存在で、怒られるとめっぽう怖いけれど…彼が怒ってくれなくなったらとても寂しいのではないかと思う。

『怒ってくれるってことはさ…ちゃんとこっちを見てて、心配してくれてるって事だもん…』

「ユーリ…随分と余裕だね」
「ゃっ!」

 ぐち…と音を立てて強く鈴口を抉られて、痛みと快感とが脊髄を貫いた。

「スカートを自分で捲って、俺に見えるようにしてご覧」
「で…出来ないよっ!グウェンが見て…」
「じゃあ、グウェンに手伝って貰おうか?」

『何を…?』

 言いかけた唇が強張ってしまう。

「ねぇ、グウェン…ユーリのスカートを捲って、俺に見えるようにしてくれるかな?あと、脚を抱えて俺のを挿れやすいようにしてくれる?ああ…ついでに指で後ろをほぐしておいてあげてよ」

 何処か投げやりな命令に、グウェンは生気のない…無表情な面差しで頷くと、立ち上がって有利に近寄ってきた。
 覇気のない…木偶の棒のような男…。
 かぁ…っと腹の底から込み上げるような怒りを覚えて、有利は脚を踏ん張ると思いっきりコンラートの頬に拳を叩きつけた。   
    
「ユ…」

 呆然としてこちらを見やるコンラートに、有利は胸腔内の空気を全て叩きつけんばかりの勢いで叫んだ。

「お仕置きしたきゃしたら良い!でも俺は、もう間違えないぞ!これはあんたの夢じゃないっ!!あんたが俺を好きにしたいってだけならそーゆー事もあるかなって思うケド、このグウェンは違うだろ!?こんなのが、あんたが望んでる夢じゃないだろ!?」
 
 はぁ…
 はぁ……

 言葉を叩きつけて…そして、有利はコンラートの様子に確信した。
 コンラートは…本当の願いとこの夢とのギャップに、気づき始めている。

「なぁ…違うんだろ?だから…そんなに苦しそうな顔をするんだろ?」

 一転して泣きそうな…切なげな声音で囁く少年に、コンラートは初めてはっきりとその姿を見たとでも言うように…目を見開いた。

「苦しそう…?俺が?…」
「そーだよ。あんたがこんな事を願うはずがないんだ。間違ったことをしたら怒ってくれる…グウェンをそういう奴だと思ってるから…だから、こんなことをグウェンの前でしたんだろ?そんで…怒ったり窘めてくれないグウェンに、がっかりしちゃったんだろ?」
「俺は…」
「あんたってさ…王様でも何でもやればちゃんと出来ちゃう人だと思うケド…王様って職業自体も、本当にやりたかったのかな?なんか…そつなくやってる割に楽しそうじゃなかったぜ?」

 なんというか…昔テレビで見た、犬の適応障害のようだった。

 躾が出来ていない犬は自分の好き放題に動くが、それが逆にストレスになって胃潰瘍や下痢といったストレス障害を引き起こすという番組内容だった。
 同じ事が、コンラートの中でも起きているのではないか。
出来ることと、したいこととは違うのだ。

 夢魔はおそらく、コンラートの望む『全てが自分の思い通り』という世界を演出しようとしてこのような世界を構築したのだろうが、それはコンラートにとっては必ずしも望み通りの世界ではなかったのだ。
 彼の生き方のスタンスは、人を支えていくこと…ことに、渋谷有利を支えて生きていくことなのだ。

「この夢から出てこいよ…コンラッド!ここはあんたの本当の夢なんかじゃない…本当の夢の世界は、俺と作ろうよっ!」

 有利がコンラートに向かい、腕を伸ばす。
 自分から動き…俺に向かって来いというように。

「本当の気持ちで怒ったり笑ったり…泣いたり喜んだり出来る世界に、一緒に帰ろう?」

 ゆったりと微笑むその姿は…
 王の風格をもってコンラートを惹きつけた。

「王よ…我が、王よ……っ」

 有利に向かって、コンラートの腕が伸ばされる。
 その姿がほわりと透き通って…かろん…っと床の上に琥珀色の石が残された。

「二つ目の…石だ」

 有利は大切な石を摘み上げると、一個目の石と共に小袋に大切にしまった。

「会いたいよ…コンラッド……本当のあんたに…………」

 夢魔に歪められていない本当のコンラート・ウェラーに会える日まで、有利の旅は続くのだった。




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あとがき


 途中まで書きかけたところで、また残暑がぶり返してきました。
 暑いところが嫌いなエロ神様に見捨てられて、はっちゃけ切れなかった感がありますが如何でしたでしょうか?

 王様なコンラッドをもつと格好良く演出出来れば良かったのでしょうが、どうも《政権交代》になってしまう時点で脳のどこかが必死でその理由を追い求めてしまって、上手く整理出来なかったようです。
 
 『ユメイロ水無月』のみずな様の作品で衝撃を受けた触手に取り組んでみましたが…やー…これも駄目ですね。エロさで完敗しています。
 抜き切れなかった皆さんはリンクページからみずな様のサイトでエロさ爆発の漫画と小説をお楽しみ下さい。