「真冬のマーメイド」−3








 裏切られた。

 大切に大切に、ふわふわの砂糖衣で包んで舐め転がすようにして可愛がっていた子…渋谷有利に、裏切られた。

 一回目は、何とか許した。
 許そうと思った。

 5歳児に愛を誓ったコンラート・ウェラーは、10年の時を越えても相変わらず可愛らしい名付け子に《お嫁に貰いに来た》と告げたのだが、すっかり大人になった子どもから、律儀さを褒められつつも約束は反故にされた。

 その時は仕方ないかなと思ったのだ。5歳児の純情をそのまま真に受けて、本気で新婚用のマンションを買ったり、給料三ヶ月分の婚約指輪を買ったりする方が可笑しいと言われてもしょうがないと思う位には、コンラートも冷静さを残していた。

 ただ、諦めることは出来なかった。

 自分でも可笑しいと重々分かっているのだが、コンラートは渋谷有利が好きで好きで堪らず、成長の過程を写真などで送られるたび、《幾つになっても可愛い》と実感を新たにしていた位である。勤務地も居住地も渋谷家に近接した地にしたわけだし、何とかして思いを手繰り寄せたかった。

『もしかして傍で親密にしていたら、またお嫁に貰って欲しいなんて言い出すかも』

 その願いはまんざら見込み薄では無さそうだった。
 仕事で疲れて横寝をしていたコンラートは、ゆっくりと足音を忍ばせてくる名付け子に気付いたが、寝たふりを続けた。その時は単純に、何か悪戯を仕掛けようとしているのだろう彼を脅かせるつもりだったのだ。けれど、真剣な表情をした彼は、思わぬ行動に出た。

 震える唇で幼いキスをして、コンラートのそれと触れ合った途端に、弾かれたように身を引いたのだ。

 その時、彼を捕まえていたらまた別の展開が待っていたのかも知れないが、その時にはコンラートも焦っていたし、何より、有利が自分の行為を恥じるように眉根を寄せていたのが気になって、《どうしてこんなことをしたの?》と問うことは出来なかった。

 多分、有利もコンラートのことを愛し始めている。
 それは確かだ。
 そう思うだけで心が弾んだ。

 けれど今は慎重に行かなくてはならない。期待して、また《この気持ちは馬鹿な思いこみだから》などと否定されてはかなわない。だとすれば、有利自身が《後戻りできない》と実感できるところまで、彼の気持ちには一切気付いていないふりをして、こっそりと誘惑し続けよう。

 口元についた食べこぼしを《つい癖で》と笑いながら舐め取ったり、何かといっては《外国ではハグは普通の挨拶だよ?》なんて言いながら抱きしめて、有利の反応を待った。

 まだか?
 まだか?

 まだ、決断はつかないか?

 覚悟を決めて、早くこの手の中に落ちてきて欲しい。

 そう願いながら実が熟すのを待っていたというのに、何故か完全な女の子の身体となった有利は、見知らぬ男と抱き合っていた。

 二度目の裏切りは、とても許せるようなものではなかった。



*  *  * 




「あ…あ、待って…コンラッド!」
「もう待てないよ。これ以上焦らされては堪らない」

 カシリと甘噛みされた乳首から鋭い痛みが走るが、同時に切ないような甘さが染みて、どうしても内股になってしまう。

「痛くされて感じるの?結構ドM体質なのかな」
「ち、ちが…!」
「ふぅん、違うんだ。じゃあ、証明して御覧?」
「証明って…」
「脚を開いて、濡れてないって証拠を見せて?」
「…っ!」

 驚くべき要求は、とてもこの人の口から出てくるとは思えないようなものだった。いや、いままでにやられたことだってそうだ。これは、よほど怒っているに違いない。
  
『いやらしい子だって思われてんだ!』

 漸くのこと、コンラートの怒りの正体が分かってきた。
 無惨に求婚を蹴ったばかりか、勝手に女体になって他の男と遊んでいたものと思われたのだ。どうにかして誤解を解かなければ、このまま絶交なんてことになりかねない。

『そんなのヤダ!』

 追い詰められた有利が選んだのは、しゃがみこんで震えながら脚を開くことだった。

「み、見せたら…信じてくれる?乳首噛まれて感じた訳じゃないって」
「ああ、良いよ」

 とはいえ、紅潮する頬は自覚できるほどに熱くなっているし、普段人目に晒されることのない内腿を開くと、薄い皮膚にじりつくようなコンラートの視線を感じてまた逆上(のぼ)せてしまう。タイルに触れた爪先が、カタカタと小刻みに震えているのが分かった。

『あ…』

 南国の果物が熟したような香りは、もしかして自分が放っているものだろうか?ほわりと香るそれが恥ずかしくて内腿を閉じようとすると、コンラートは《駄目だよ》と囁きかけながら膝頭をしっかりと押さえる。

「水着をずらして、見せて御覧」
「…っ!」
「できないのなら、もう金輪際ユーリの言葉なんか聞かず、強引に犯すよ?」

 レイプ宣言来た!
 それはそれで、実は両思いなのだから別に良いような気もするが(←良いのか!?)、やはり初めてはちゃんと思いを伝え合ってからやりたい。

「じゃあ、見せるよ?俺も見たことないから、ヘンテコでも笑わないで…」

 ぐい…っ

 硬く目を閉じると、流石にコンラートの方を向いてはいられなくて、横を向いたまま股間部分の水着をずらす。薄目の恥毛が布地からはみ出て、柔らかな粘膜がひゅうっと外気に触れたのが分かった。

 コンラートの視線が、じぃっとそこに注がれているのにも…。

『あぁああ〜…は、恥ずかしいよぉ…っ!』

 頬や淫部が火を噴きそうに熱い。特に後者に関して言えば、コンラートの視線に炙られたせいで、潤んできている自覚があるから困ってしまう。何とか骨盤底筋を緊張させ、溢れ出さないように堪えるのが精一杯だった。

 なのに、コンラートは続けて御無体な要求を突きつけてくる。

「じゃあ、そのピンクのヒダを開いて御覧?」
「ヒダ?」
「ああ、分からない?ここだよ」
「…っ!」

 あろうことか、コンラートの指は有利の陰部に触れて、人差し指でもったりとした肉の盛り上がりを左右に開くと、更に中指でぴらぴらとした薄ヒダもめくって、ぱくりと膣を開いて見たのだった。

「ちょっ!」
「ふぅん、これで濡れてないって言うんだ」

 じゅぷりと挿入される指の感触に、そこがしとどに濡れきっているのを改めて気付かされる。ぐちぐちと抜き差しされればいやらしい水音が響くほどに、そこは濡れそぼって男の指を銜え込んでいる。

 そうされれば乳首とはまた違った快感が奔り、ヒダの付け根部分に潜む肉粒をちるちると舌で刺激されると、恥ずかしいのに、また蜜を溢れさせてしまう。

 ぴゅる…っ!

 溢れないようにと骨盤底筋に力を込めたのが逆効果となり、指を銜えた淫部は激しく感じきって、コンラートの目の前で透明な潮を吹いてしまう。

『お…お尻の孔までびしょびしょだよぉ…』

 半泣きでふるふるしている有利を嬲るように、コンラートは酷薄そうな笑みを浮かべるのだった。

「はは…まるで洪水だ。清純な子なんだと思いこんで過保護にしてたけど、予想外に淫乱なんだ」
「ちが…違うよ……」
「どこが?ほら、ここなんかどう?」
「ひぁあ…っ!」

 膣の入り口近くをぐるりと弧を描くように擦られ、肉粒を苛められると、若鮎のように背が跳ねて、《もっと苛めて》とでも言いたげに淫部を晒してしまう。そこにもってきて、屈み込んだコンラートが舌をぬめぬめと蠢かせながら膣孔を犯してくるものだから、どうしたってあられもない嬌声がとめどなくあがってしまう。

『コンラッドの舌が、女の子の孔に入ってる…っ!』

 もしかしたら、この身体になればそこでコンラートと結ばれるのではないかと甘い期待は抱いていたのだが、まさか軟体動物のような舌を受け入れることになろうとは想像だにしていなかった。

 にゅるる…
 じゅ…ぶ…っ

 淫猥な水音が狭い用具室に響き、身じろいだ拍子に戸口の外から人の声らしきものが聞こえた気がして、ここがセックスをしていいような場所ではないのだと今更のように思い出した。

 だが、この展開で《ホテルに行こう》等とはお誘いできず、懸命に唇を噛んで両手で口元を覆い、甘い声を堪えようとする。

「無駄な抵抗だよ。君がどれだけいやらしい身体をしているのか、教えてあげる」

 じゅる…っ!

 勢い良く雌芯を吸い上げられれば、身も世もなく身体が跳ねてしまう。口元を覆う指はすぐにその用を為さなくなった。

「ひぁ…ふ、くぅうん…っ!そこ、や…じんじんするぅ…っ!」 

 びくんびくんと跳ねる身体を弄び、感じやすい粘膜を舐めながら、コンラートはぞくぞくするような美声で酷いことを口にした。 

「処女膜があったのだけは安堵したよ。これで初めてまで他の男に持って行かれていたら、俺としては立つ瀬がないところだ」

 あまりといえばあまりの言葉に、我を忘れかけていた有利も流石に覚醒してしまう。
確かに有利だって酷かった。コンラートが純粋に誓いを守ってくれたというのに、うっかりぽんと世間の常識なんかに流されて、《あれは無かったことに》なんて言ったのは有利自身だ。
 
 でも…でも、有利にだって言い分はある。
 決して、好きでなくなったわけではなかった。寧ろ、自分が好きで居続けることで、コンラートに迷惑を掛けると思ったから、《幼い約束》として葬ろうとしたのだ。

 少なくとも、他の男を銜え込もうとしていたなんて思われては、それこそ立つ瀬がない。
 
 バシコーン…っ!

 有利に抵抗の色がないことに油断しきっていたコンラートは、淫部を舐めながら思いっ切り頬をひっぱたかれた。



*  *  * 




「自分ばっか、我慢してたとか思うなよ!?」
「ユーリ…」

 先程までの無抵抗ぶりが嘘みたいに、有利は眦を釣り上げて怒りを露わにしていた。しとどに濡れて濃いサーモンピンクに光る蜜ヒダの淫らさと、えらく対照的な眼差しの鋭さであった。

「俺だって…俺だって、男は男のお嫁さんにはなれないんだって…オカマさんにしかなれないんだって大井田に教えられたときには、凄く哀しくて一日中泣いたんだぜ?俺が《約束を絶対守って!》って言ったら、きっとコンラッドは無理をしてでも受け止めてくれる…でも、それは世間的には認められないことなんだって知ったから…」

 誰だ、そんな余計なことを言う奴は。

「でも、お嫁さんにはなれなくても、あんたの傍にいたくて…でも、それも我慢できなくなって…。毎日、苦しかっ…た…っ!」

 我慢の日々を思い出すのか、有利は嗚咽を堪えた。
 それでは…気持ちが熟すのを待つ日々は、彼にとっても苦しみの時間であったのだろうか?
 迎えに行った愛し子が約束を違(たが)えたことに傷ついたコンラートと同じように、辛かったのだろうか?

「しかも、こないだ水着買いに行ったら、スタイル抜群の肉食系美人OLがあんたを《喰っちゃう》とか言ってるし!俺は男だから、あんたをそういう意味で喰うことは出来ないんだって思ったら悔しくて哀しくて…そんで、村田のアドバイス聞いちゃったんだよっ!それがそんなに悪いことかよぉっ!!」

 久しぶりのトルコ行進曲を奏でつつ、感極まったように有利はぼろぼろと涙を零す。しかし、コンラートとてそう簡単に受け入れることは出来なかった。

「じゃあ、あの子と抱き合ってたのは何だって言うんだ?」
「大井田が好きだって告白してきたんだ。すぐに断ったんだけど、《1分間だけこうしててくれ》って言うから…」
「オオイダ?もしかして、さっきの子かい?」
「うん。そもそも、俺にあんな事言ったのも、男だからってことで諦めようとしてたのに、俺が脳天気に男の嫁さんになるんだなんて言ってるから、腹が立ってあんな事言ったんだって。でも、告白されても俺はコンラッドが好きだから《駄目だよ》って言ったら。せめて抱っこさしてくれって頼まれたんだ。それって…強姦されるくらい酷いことかよ?」
「それは…」
「好きだよ…。あんたが一番好きだよっ!どうしても信じられないって言うなら、何度だって股開いてやるよっ!」

 ぎちぎちとちいさな膣孔が裂けそうなくらいに指で開大させる姿は、先程まで強要していたというのに、今は胸に迫るような切なさを漂わせている。

 《信じて…!》悲鳴のような叫びが、有利の全身から迸っていた。

「だから…ちゃんと好きだって、分かって…!」

 ぐすぐすと鼻を鳴らして、泣きじゃっくりに横隔膜をひくつかせている様は、まるっきり5歳の頃と一緒だ。

 わんわん泣いてコンラートに取り縋って、まっすぐに《ゆーちゃんはコンラッドのおよめさんになるんだもん!およめさんは、だんなさんとはなれてたらダメなんだよ?》と叫んだ子どもが、コンラートは大好きだった。

 いつもそつなく振る舞っていたけれど、どこかで他人とは線を引いて付き合っていたコンラートが、唯一懐に入れた少年。

 10年の月日によって、ある意味では体当たりの愛情を示すことに躊躇いを覚えるようにはなっていた。だがそれは純粋さを失ったわけではなく、相手の立場を思いやるようになったからなのだろうか。

「ゴメン…ユーリ」
「コンラッド…」

 詫びるように、ちゅ…っと額にキスを送ると、有利は驚きに目を見開いて腕を伸ばしてきた。

「信じて…くれたの!?」
「信じるよ。君が言うことなら、俺はやっぱり最後まで信じてみよう。だからユーリも俺を信じてくれないか?」
「あ…」

 そもそも、幼い日の約束を有利が勝手に反故にしてしまったのが今回の要因だという自覚はあるのか、有利は申し訳なさそうに眉根を寄せると、こくんと頷いた。

「うん…信じる。誰がなんて言っても、今度はあんたの言葉だけをちゃんと信じるよ?」

 そして、はにかむようにふわりと微笑むと、頬を上気させて、潤んだ瞳で上目遣いに聞いてきた。

「男でも、お嫁さんに…してくれる?」
「是非、お嫁に来て?ユーリ」
「うんっ!」

 仲直りのキスは飛びっきり甘い…筈なのだが、有利の涙と愛液が綯い交ぜになって、ちょっぴりしょっぱかった。



*  *  * 




「こんなところで無茶をさせてゴメンね?すぐホテルに行こう」
「そっちで俺を抱いてくれる?」
「君さえ良ければ」
「やった!」

 嫉妬に狂ってた時のことが嘘みたいに、コンラートはまた親切で優しいお兄さんに戻っていた。それが嬉しくて有利は飛びついていくが、いかんせん…下半身の方はそう簡単に気分転換とはいかないようであった。パーカーに隠れて分からなかったが、実のところ、臨戦態勢に入っていたコンラートの雄蕊は、水着の中で腹を打たんばかりの角度と大きさに成長しきっていたのである。

「コンラッド…ちんこ、苦しい?」
「大丈夫だよ。今までの我慢を思えば、こんなの平気だ」

 ふわりと微笑まれて、きゅうぅんと胸の高まらない男などいようか(今は女だが)。

「あ…あ、でも、俺…夜になったら男に戻っちゃうかも!薬の効果って一日くらいしかもたないし、身体に負担が掛かるから、続けて何回も使うことは出来ないって言ってた」
「コラ。まだ信じてないの?」
「あ…」

 そうだ。そもそも、コンラートは男の子の有利をお嫁にしようと、大真面目に新居を用意してくれていたくらいなのだ。今更身体が元に戻ったからと言ってどうということもあるまい。

 それでも、今この状態のコンラートをそのままにしておくのは気の毒だ。

「そういえば、コンラッドって水着美人コンテストの審査員じゃなかったけ?」
「あ!」

 珍しいことだ。よほど有利のことで逆上していたのか、コンラートは業務のことをすっかり失念していたらしい。連れ込まれたときの時間を考えれば、そろそろ席に着いていなければならない頃だろう。

「あ…あのさ、良かったら…。女の子の身体も摘み食いしとかない?」
「…!」

 もじもじしながら上目遣いに誘いかけると、目に見えてコンラートの喉が上下するのが分かった。それが有利に欲情してくれているのだと感じられて、思わずにまにましてしまう。

「しかし、こんな場所でこれ以上は…」
「元の身体に戻ったら、大事に抱いてよ。今は仮の身体だから…」

 有利はしゃがみ込むと、思い切ってコンラートの水着を引き下ろし、ぽろんと飛び出してきた雄蕊におずおずと唇を寄せていく。

「さっきみたいに、乱暴にして?」
「あ…ユーリっ!」

 見上げた先でコンラートがあえやかに白い喉を反らし、パーカーの影から淡鳶色をした乳首が硬く痼っているのが見えた。ああ、あそこも後でゆっくりと可愛がってあげたい。そう願いながらぬるりと咥内に含み込んだ雄蕊は、ちいさな有利の口では収まりきらないくらいの質量であった。

「ん…コンラッドのおっきくて、硬い…」
「ユーリ…んっ…良いよ。そのまま、横から竿を舐めあげて?」
「こう?」
「そう…。あぁ…指を輪っかにして、擦ってみて?」
「うん」

 ちゅぶちゅぶと舌戯を施せば、拙いながらもちゃんと感じてくれるのか、コンラートは甘やかな声音を漏らしてますます雄蕊を高ぶらせていく。それにしても、こんなものがユーリの膣孔に、本当に入るのだろうか?

『でも、男に戻ったらコンラッドとひとつになることは出来ないんだよな?』

 お互いに性器を擦ったり、こんな風に舐め合ったりは出来ても、合体する為の連結孔がないのだ。

『だったら…今、繋がっときたい!』

 ぬるんと咥内から雄蕊を引き出すと、マット上にもたれ掛かった有利は、既に濡れそぼっていた蜜壺を晒してコンラートを誘った。勿論、強要されているときにそうされたように、ピンク色のヒダを思い切り左右に開いて。

 とろ…っと溢れ出る愛液が恥ずかしいが、コンラートの瞳にはもう蔑みの色がないから、素直に感じることが出来る。

「俺の処女も、貰って?」
「ユーリ…!」

 くらりと目眩うように目元を掌で覆うと、前髪を掻き上げたコンラートは、再び淫蕩な色を眼差しに込めて有利に覆い被さっていった。




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