〜白鷺線の怪人〜
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有利side:7



『ふわぁ…ここがコンラッドの家!?』

 家…というか、正確には、目の前にある高層マンションの一室がコンラートの居室な訳だが…とにかく随所に高級感が漂う造りになっており、一般庶民生活に馴染みまくっている有利からすれば、ガレージに入るだけで《お邪魔しています》と言いたくなる。

 ガレージでヨザックのジープカーから降り(その際、コンラートは笑顔でヨザックの頬を拳で殴っていたが、ヨザックの方も笑顔で腹めがけて蹴りを入れていた。不思議な交友関係である…)、お姫様抱っこのままエントランスに入ったのだが…そこは、クリーム色と琥珀色がマーブル状に混ざり合った大理石様のタイルといい…中庭部分に造園された植木群の手入れの行き届き度といい…随分とお値段の張りそうな佇まいであった。

『コンラッドって…凄ぇ良いトコに勤めてるんじゃあ……』

 恐る恐る聞いてみれば、企業名などには詳しくない有利でもCMなどでいやがおうにも名を知っている…そんな有名企業であった。

『なんか…マジで申し訳ない……』

 ジープカーの中で優しく髪を撫でつけ、落ち着かせるように柔らかい声で囁き続けてくれたコンラート…。

 彼は、本当に親切で優しい人だ。

 その上、良い仕事について高収入をあげている美形西欧人とくれば…こんな人に…本当に、付き合って貰って良いのだろうかという不安が過ぎる。

 そんなことを考えると…きゅ…っと、胸の奥が軋(きし)んだ。

 有利を《好き》といってくれた想い自体は信じられると…信じたいと思う。

 だが…その想いは、異常な緊迫感と恋のときめきを取り違えているのではないか…そんな気がしてならない。

『だって…俺、こんな恰好いい人に、普通だったら絶対好きになんてなって貰えないよ…っ!』

 コンラートはきっと…この後、彼の部屋でまた有利を抱いてくれる。

 トイレと違って声や動きを堪える必要もないから、思い切り…何度でも抱いてくれるだろう。

 そして…ゆっくり眠って朝起きて…隣に有利が眠っているのを発見して、



《夢ではなかった》



 そう実感した瞬間…コンラートがどんな顔をするのか、見るのが怖い。

 一時の盛り上がりで抱いた有利を疎む気持ちが一瞬でも瞳に顕れたら…十分にお礼を言って、二度と会わないようにしよう。

 電話番号も聞かず、このマンションの住所も聞かず…タクシーを呼んで貰って、目を瞑って家まで帰ろう。 

そして…街で見かけてもぺこりと頭を下げて、すぐに擦れ違ってしまおう。

 そうしたら大丈夫…コンラートには迷惑を掛けない。

 時間が掛かっても、きっといつか全ては思い出に変わって行く。



 ……本当に?



『なんか………』

 沢山の場面設定をして、この都度自分がとるべき態度を想定して行くうち…急に空しくなった。

 今やっていることは有意義なようで、実は物凄く後ろ向きな思考方法なのではないだろうか?

 全部《コンラートの為》と言いながら、その実…自分が傷つきたくないだけなのだ。

 そして…せめて一晩だけでも夢見ることを自分に赦し、明日の朝…何が起こっても傷つくものかと…自分は、まだコンラートを諦められるのだと言い聞かせているのだ。 

『なんか…そういう打算的なコト考えるのって…余計に失礼かも』

 考えている間にエレベーターの表示は23階を差し、日当たりの良いテラス様の通路を経て、コンラートの名が筆記体で刻まれた扉の前にやってくる。

 扉を潜り…玄関に入ったところで、有利はコンラートの腕から降りた。

 ここはコンラートの居住空間の一部だが、まだ…《家にあげて貰った》とは言えない場所。

 丁度、世間とコンラートの懐との境界に当たる位置だ。

 だからこそ…ここまでの物事を整理するには向いた場所だと思う。

「立って大丈夫?」

「はい…」

 実際には、脚を地につけた途端に痺れるような甘さが脊柱を奔ったが…せめてものプライドで必死に背筋を伸ばすと、上目づかいになるのは身長差ゆえにしょうがないが…精一杯真っ直ぐにコンラートを見つめた。

「ユーリ?」

「コンラッド…あのね、俺…あんたのコト、本当に大好きだよ。でも…だからこそ、はっきりしときたいんだ。俺が…媚薬抜けた後も…俺のこと、好きでいてくれる?」

 もしかして、コンラートは怒るのではないかとも思った。

 あれだけ劇的に告白しあったのに、想いを信じない有利を詰(なじ)るのではないかと…。



 だが…違った。



 コンラートは背を屈め、丁度有利と目線のあう高さで…穏やかな微笑みを浮かべたのだった。

「不安…なんだね?」

「はい…」

 こっくりと素直に頷けば、大きな掌が頭髪を撫でつけていく。

「当然だと思うよ。俺達は…今日、自分たちの家で目覚め…あの白鷺線に乗るまでは、男とこんな事になるなんて想像もしなかった…そうだろう?」

「はい…」

「だからね、正直…俺も君に保証することは出来ないんだ。一度この興奮状態を越えてしまった後…落ち着いて色んな事を考えたときに、君のことを好きでいるのかどうか」

 自分から言い出したことなのに…ずきん…っと有利の胸は軋んだ。

 コンラートもやはり、同じ事を考えていたのだと知って…。 

「君自身、俺のことを好きでいられるかどうか自信ないだろう?」

「それは…っ!」

 思わず抗弁しそうになって、むにゅりと口を閉ざす。コンラートの気持ちを信じられないと言いながら、自分は心変わりしないと言い切るのは狡いことだろう。

「でもね、それは…この世界のどんな恋人にしたって同じことなんじゃないかな?」

「え…?」

「俺は、《永遠》という言葉を軽々しく使う人を信じられない。そう言い放った瞬間に、その想いを維持させていくための努力を放棄しているような気がするんだ。…うーん…言っている意味…分かるかな?日本語で話すとどうも上手く表現できているか自信がないんだけど……」

「分かる…ような気がします。俺は日本語ばっかし使って暮らしてんのに、いつも表現に自信ないんだけど…」

「そう?じゃあ…正直な今の気持ちをとっても素直に言うとね…俺は、君を好きであり続けたい。そう思ってる」

 琥珀色の瞳は穏やかな色彩を湛え…有利を好きだという気持ちを、とてもとても大切なものとして感じていることを伝えるように…きらきらと銀色の光彩を瞬かせていた。

「コンラッド…」

「君を好きでいるために…君に、俺を好きでいて貰うために…俺に出来る全ての努力を惜しまない。だから、今は君のことをもっともっと沢山知りたい…。君が好きな食べ物…君のよく読む本、君の思い出…色んな事を知りたい。そして…君とこれから過ごす日々をどうやって楽しんでいこうかと思って、わくわくしている」



 ああ…この人は、大人なんだ。



 とても良い意味で、物事の限界を知り、それを受け入れ…その上で、有利を好きだと言ってくれる。

 有利が心配していたようなことは…おそらく、それ以上の事柄も念頭に入れた上で、有利を好きだと言ってくれているのだ。

「君は当分の間、俺がどんなに言葉を尽くし…態度で示しても、きっと離れている時間に不安になると思う。それは仕方のないことだ。君はまだ学生の身で、媚薬に煽られていないときに俺に対して性欲を感じてくれるかどうかも自分自身分からないだろう?」

 言われてみればそうだ。

 有利は欲情したコンラートの仕草や肉体に激しく淫欲を誘われたが、それはひょっとすると、全て媚薬のなせる技なのかも知れない。

「でも…っ!俺……っ!」

「俺に欲情するかどうかはともかくとして…俺のことは好き。…だろう?」

 自信を持ってウインクする青年に、有利は思わず頬を染めてこくこくと頷いた。

「俺だってそうだよ。君とこれからどんな関係に発展していくのか分からない。君と恋人になりたいと思うけど…少なくとも、君とこうして知り合えたことを大切にしたい。なんなら、友達として付き合っていくのだって何の問題もないとは思わないかい?君と一緒に色んな所に遊びに行くことを考えるだけで…いや、ただだらだらとして時を過ごしながら徒然なるままに色んなお喋りをすることを考えるだけで、俺は凄く楽しみになるよ?…君はどう?」

「は…はいっ!俺も…それ、凄く楽しいと思う…っ!」

 初めて電車の中で話をして…人波に引き離された時、とても寂しかったのを思い出した。

 何ということはない話をしていただけなのに、あの時既に…二人の心は互いへの興味関心で一杯だったのだ。

「だから、今は先のことは考えすぎない方が良い。好きという想いがどうなっていくのか考えようが考えまいが時間は必ず過ぎて、想いはその都度変わっていくものなんだから。俺達に出来るのは、今の想いを大切にすることじゃないかな?」

「はい…っ!」

 じぃん…と胸を熱くしながら、尊敬の眼差しでコンラートを見つめる。

『やっぱこの人…凄ぇいい人だよ……っ!』

 言われる一言一言が深く胸に沁みて…とても心が軽くなる。

『嬉しい……』

 好きになった人がこの人で良かった。

 この人に会えて良かった…。



 その時、幸福感に満たされる有利の身体が……… 

 …突然、跳ねた。



「ひぁぁ………っっ!!」

「ユーリ!?…どうしたんだ!?」     

 コンラートに縋り付くようにして何とか崩れ落ちないようにしていた有利だったが、喉は反り返り…びくびくと震える背筋はすぐに支持力を失って、玄関先でへたりこんでしまった。

『ぅ……そ……っ!』 

 信じられなかった。

 まさか…そんなまさか……

『ケツの中で…あの変な棒がぐねぐねしてる…っ!!』

 弱いところを機械的に…そして、無慈悲に貪るディルドに…有利の理性は再び瓦解していった。







コンラートside:8 



「ぅあ…いや…やぁぁん……っ!!」

 身も世もなく泣き崩れ、びくびくと腰を振るわす有利にコンラートは表情を変えた。

「またアレが動き出したのか!?しかし…スイッチは………」

 コンラートはコートのポケットに入れておいたコントローラーを確認し、有利に向かって色々なボタンを押してみるが効果はない。

 どうやら…ヨザックに一杯食わされたらしいと気付いたコンラートは、勢いよく床にコントローラーを叩きつけた。

「くそ…っ!!」

 友人のほくそ笑む顔が見えるようだ…。

 渋々渡すような振りをして、車に搭載されたオーディオか何かのコントローラーを寄越したに違いない。それが本当のコントローラーであるかどうかを確認するために、コンラートが操作してみる可能性がないことを知っていて…。

 今頃…慌てふためくコンラートの顔を想像しながら大笑いしているのだ。

『何であいつと友達なんかやっているんだろう…』

 白目を剥いて遠い空を見つめたくなっているその間にも…有利は身悶えして転げ回り、コンラートの眼前に痴態を披露しつつあった。

『……うっ!!』

有利はもどかしげにズボンと下着を腿の真ん中当たりまで引き下げると、仰向けの状態で双丘に指をやり…懸命にフックを掴もうとするのだが、漏れ出てきた白濁でぬめるせいか…はたまた感じすぎて指の巧緻性が失われているのか…銜え込まされたディルドは相変わらず有利を責め立て続けていた。

「…や……ゃ……も、やぁぁ……っ!!」

「落ち着いて!今、抜いてあげるから…」

 コンラートがフックに手を掛け、力を入れれば…ぐっと肉筒が収斂して有利の悦楽を増強してしまう。

「んっあ…や……はぁぁんっっ!」

 有利の腰は反り返り…まるで、暖め続けたアクリル塊が抜けていくことを拒むかのように、ぎゅ…ぎゅ…っと締め付けてきて、コンラートの牽引力に逆らった。

「ユーリ…力を抜いて?フックが外れたりしたら大変だ」

「だ…って……無理……ゃん……また、動き…変わ……っ!」

 有利の体内で、うねうねと律動していたディルドは、今度は旋回するような動きでぐるぐると蠢き、コンドームに包まれた有利の花茎を成長させていくのだった。

 コンラートはゴムを抜き取ると、露わになった花茎に迷わず舌を絡めていった。

 こちらの方に意識が集中すれば、後宮から意識が逸れるかも知れないと期待してのことだったのだが…それはますます有利を煽ることになる。

「ぅわ…ぁ……駄目ぇ……コン…やっ!…お、かしく……なっちゃ…ぁあんっ!!」

 大粒の瞳から幾筋も涙を零しながら、その声には隠しようのない愉悦が混じってしまう…。  

「力…抜いて……」

 少年の淫靡な艶姿に欲望をそそられながら…それでもコンラートはなけなしの理性を総動員して優しく声を掛けた。だが…有利にはその真心に答えるだけの余裕がなかった。

「無理…む…やぁ…っ!………ゃんっ…!」

 有利は何時しか引き破るようにして胸元をはだけ、白いシャツの下から手を差し込むと…左右それぞれの胸の尖りを母指と示指とでこね始めた。

「ユーリ…」

 自分の痴態に激しい羞恥を覚えながら…それでも、欲望に抗しきれずに乱れていく少年の姿はえも言えぬ色香でコンラートを誘い、場所が先程までとは違う…誰憚る事なきコンラートの居室であるせいもあり、沸き上がる欲望を堪える事は極めて困難であった。

 コンラートは灯に誘われる蛾のようにふらりと桜色の膨らみへと吸い寄せられ…布越しに、れる…と舌を這わせた。舌背に感じるころりとした硬さが愛おしくて、夢中になって嘗めあげていけば…有利の口元からは甘い溜息が漏れ出すのだった。

「ん…ぁ…つい……っ!」

 有利が殆ど無意識に弄っていたのだろう胸の尖りはシャツ越しにもはっきりと見て取れる位の痼りを示していたが、ぬっとりと唾液を絡めていけば…濃いピンクに色づいた様までもが明瞭に見て取れるようになる。

「ぁ…か、噛んで…」

 言われるままにかしりと甘噛みすれば有利の嬌声は色づいて高く跳ね、鼻に掛かった高調音がコンラートの雄を育て上げる。

「ユーリ…力を抜いてくれないと、これ…抜けないよ?それとも…ずっとこれで嬲られている方が、俺ので貫かれるより気持ちいいの?」

 わざと拗ねたように聞けば、有利はひくりと喉を鳴らして詫びる。

「ち…がうよ……っ!あ、あんたの方が……」

「俺の…何の方が?」

「あぁぁん…っ!!」

 何とか2pくらい引き出していたディルドを再びくぷりと肉筒に銜え込ませれば、有利は花茎を反り上げ、半透明な蜜をとろとろと漏らしていく。

 暫く時間が経ったことで、精巣からの精液補充が追いついてきたのかも知れない…そろそろ、この追いつめられた花茎も放出の時を狙っているのだ。

「ゃ…意地悪…しないで……」

「ね…教えて?俺の…何が好き?」

「コンラッド…の……ちんこ……」

「良い子だね、ユーリ…」

 ちゅ…っと花茎の先端に強い吸引のキスを送れば、どくり…っと溢れ出す白濁に集中して、さしもの後宮も縋り付いていたディルドへの拘束を緩めた。

 その瞬間…筋の弛緩を見計らって一気にディルドを引き抜けば、急激な擦過刺激と放出の快感に有利の背筋は弓なりに反り返り、どく…どく…っと滲むようにして溢れる白濁と恍惚とした少年の表情とが、持続的な…そして、常軌を越えた悦楽を訴えていた。

「行くよ…?」

 はふ…と有利が息をつき、心地よい放出感に酔う頃…コンラートの猛る雄蕊が、自分自身が注いだ白濁に濡れる菊華へと侵入した。

「ぁあああ………っっ!!」

 悲鳴を上げて雄蕊を受け入れた有利はがくがくと力の籠もらない腰を振るわせ、二人の交接部から漏れる液が双丘を伝い…板目の綺麗なフローリングに白い水溜まりを作っていることに気付く余裕もなかった。

 ただ、ぐちゅぐちゅと互いの間でぬめる感触と突き込まれる熱くして硬い雄蕊だけが有利の感覚を支配し、もっと…と強請るように脚を絡めていく。

「ぁん…突いて…突いてぇぇ……っ!!」

「ああ…良いよ、ユーリ……君が…欲しいだけ……っ!」

 仰向けになった有利を二つ折りにするようにして脚を抱え上げ…天上から突き下ろすようにして雄蕊を挿入していけば、慣れない姿勢に少年は苦悶の声を上げる。

「苦…し………」

「すまない…っ!では…」

 繋がったまま持ち上げられ、有利は負荷の掛かる場所が変わったことに甘い悲鳴を上げた。中腰になったコンラートに向かい合う形で抱き上げられたことで、彼にしがみついていなければ酷く不安定な体勢に置かれてしまう。しかも…そのことが接合部へと意識を集中させるのか、コンラートが腰を突き上げる度に幼獣じみた嬌声が上がるのだった。

「ゃ…怖い…よぉ……俺…おかしく………なっちゃう…の?」

「大丈夫…気持ちいいだけだよ?おかしくなんてならない……」

「でも…こんなトコで…気持ちいい…なんて、変…っく…ゃ………変?」

 しゃくり上げながら…感じすぎてしまうことに怯えたように瞳を惑わせる有利に、コンラートは急に不安げな表情を浮かべると、伺うようにそぅっと顔を近寄せた。

「変じゃないよ?俺の言うこと…信じられない?」

「コン…ラッド……呆れ……ない?」

「呆れたりするもんか…君はとても素敵で、可愛いよ……。ほら…俺のでこんなに悦んでくれる…」

「ひぁ……っ!」

 左右に燻らせてからドン…っと突き上げれば、深すぎる挿入に有利の嬌声が更に艶を帯びる。

「可愛い…ユーリ……」

「……」

 頚まで真っ赤にしながら…有利は小さく呟いた。

『嬉しい…』

 その一言に、コンラートの雄蕊が一層硬度と容積を増し…有利の悲鳴混じりの嬌声は更に音域を上げていくのだった…。


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