〜白鷺線の怪人〜E

コンラートside:6


 便座の上でズボンと下着を剥ぎ取られ、白い腿と反り返る花茎を剥き出しにした少年に、コンラートはごくりと喉を鳴らした。

 細い下腿は膝下までが紺の靴下に覆われており、便座に踵を引っかける形で座り込んでいる。靴下の色彩が腿の白さを際だたせ…淡く上気して桃色がかっている様をも強調して見せた。

 つぶらな瞳は涙に濡れつつも淫欲を帯びてコンラートを見つめており、桜色の唇は恥ずかしげに噛みしめられつつも、唾液に濡れて艶やかに光っている。

 清廉さと淫猥さ…二つの要素が怪しく入り交じる少年の肢体に魅入られ、コンラートは取り憑かれたように性急な仕草でネクタイと襟元とをくつろげた。

「ウェラーさん…お願い……欲しい…よぉ……」

「いいよ…君が欲しいだけあげる。だから俺にも…頂戴?」

「…え?」

 きょとりと小首を傾げる少年の股間からたっぷりと白濁の詰まったコンドームを脱がせると、躊躇無く幼い花茎を含み込んだ。

《汚いからやめて》と有利は噎(むせ)び泣くが、コンラートにはそうは感じられなかった。

『可愛い…』

 今までのコンラートの価値観から言えば信じられないような感覚だが、事実…苦みを帯びた肉がびくびくと口の中で跳ねる感触はただただ愛おしく…つぷりと指を含ませてやった菊華が濡れていることにも、嫌悪を感じることはなかった。

 音を立てて指を突き込み、くぷくぷと指節間関節を揺らめかせれば面白いほどに細腰が踊り…あえやかに開いた唇から覗く紅舌はぬらぬらと光り、口角からは透明な唾液が伝い降りていく。

 そして…言葉と指で煽れば、どんなに卑猥な言葉でも愛らしい唇から止めどなく紡がれた。

「ん…んん…欲しい……欲しいよぉ……頂戴…ね…おねがい……っ。なんでも…するから……ウェラーさん…ので、ごりごりって…してぇ……挿れて…意地悪しないで…太いの挿れてぇ……っ!!」

 しゃくり上げながら隠語を口にする少年には危うい魅力があり、いたぶるようにして愛撫を施すコンラートは、ついつい我を忘れて行為に没頭してしまった。

『なんにも知らないような顔をして…なんて感じやすい身体なんだろう?』

 初めて見たときには性的な印象を全く受けない…澄んだ水面のような少年だったが、今こうして快感に惑う瞳のなんと淫らなことだろう?

 この少年の内に潜むいやらしい性質を、全て暴いてやりたい…そんな衝動に見舞われてしまう。

 コンラートが執拗に花茎の先端部分に舌を這わせ、左手の指を二本に増やして後宮の感じやすい場所を探り出していたとき…



 …突然、車の排気音が響いた。



 …ドルゥン…っ!

 ドルルン……



 びくりと震える少年の瞳に理性の色が戻る。

 おそらく、我を忘れて快楽を追っていた感覚が先程の排気音によって現実に引き戻されたのだ。

『まずいな…嫌がるだろうか?』

 今更ながらにこんな場所での性交を忌避されるのではないかという恐れは、予想外の言葉で言葉で否定された。

「ハンカチ…で、俺の口…縛って……」

「…何…だって?」

 切羽詰まったような表情で哀願する少年に意図を測りかねて問い返せば、荒い息の中…懸命に述べられた理由がコンラートの胸を突いた。

「声…も……我慢でき…ないから……見つかったら…困る……だって、ウェラーさん……迷…惑……っ」



 この子は、コンラートの身を…心配しているのだ。



 確かにこんな現場を押さえられれば、コンラートの社会的信用は容易く吹っ飛んでしまうことだろう。

 だが…この子は、強い媚薬に侵されながらどうして…そこまで人のことを思いやれるのだろうか?

感嘆の想いを込めてキスをねだれば、はにかみながらキスは初めてだと言う。

『どんだけ可愛いんだ君は…っ!』



 熱く叫びたい。



 満腔の想いを込めて、世界中に渋谷有利の愛らしさを喧伝したいという欲望に駆られてしまう。

 そして…改めてこの状況を客観的に考えてみるに、自分と有利が出会えたタイミングの妙を思い知るのだった。

『あの時…シブヤ君が俺に声を掛けてくれなければ、どうなっていただろう?』

 たとえコンラートが異常に気付いたとしても、こんな状況には発展しなかっただろう。

 せいぜい通報して、駅員に有利の介抱を任せ…幾らか心配を寄せつつも、いつも通り出勤していたに違いない。

 《やはり電車というのはろくなものじゃない》…そう思って、きっと二度と電車を利用することなど無かったろう。

 更に恐ろしいことを考えれば…コンラートや他の乗客が異常に気付かなければ、有利は怪人の魔手に堕ちていたに違いない。

 正体の知れぬ男に肌を暴かれ…乱暴に突き上げられ、卑猥な言葉を強要され…その可愛らしい顔や秘められた肉筒一杯に精液を掛けられて、あられもない姿で強姦されていたことだろう。

『こんな子が…そんな目に遭うなんて…っ!』

 実際、既に何人もの少年が怪人の毒牙に掛かっているのだ。有利とて、そうなっていた可能性は極めて高い。  

彼がその危機を回避し得たのは、一つにはコンラートに出会えたという奇蹟によってであるが、もう一つは…彼が彼であるための必然的な幸福であった。



 困った人を見捨ててはおけない…。



 《お節介かな》…と、自分でも思いつつ…ついつい親切を施してしまうその純真な真心こそが、この少年を怪人の穢れた手から護ったのだ。

『ああ…本当に……なんて素敵な子なんだろう?』

 恥ずかしげに頬を染めている初(うぶ)な仕草に胸をときめかせつつ、コンラートは恭しい態度で跪き…唇を寄せていった。

 言葉通り、物慣れない反応が返ってきてくすりと笑ってしまう。

 何処で息をしたらいいのか分からないらしく、少年は息を詰めて窒息し掛けていたのだ。

雄蕊を菊華へと押し当て、挿入していこうとしたときなどは更にどうして良いのか分からない様子で、潜水する人のように息を止めて真っ赤になってしまうものだから、コンラートは逐一呼吸指導をしてやった。

「息…つめないで?ほら…今、吐いて……」

「は……ぁ………」

素直に息をついた少年の抵抗が、ふわ…と解けた瞬間…限界近くまで猛る雄蕊を、タイミングを見測りながら突き込んでいけば…唇で塞いだ口の中で、少年の舌が痙攣するようにびくびくと震えていた。

 痛いのかと思って落ち着けさせるように舌を絡ませれば、ぐっぐっ…と腰を馴染ませていく内にとろとろと舌の強張りは薄れ…今度は積極的に迎え撃つように淫蕩に蠢き出す。

 濃厚な口吻に酔う少年は、コンラートが腰を引いて雄蕊を引き出せば…名残惜しげに肉壁を絡みつかせ、濡れた眼差しも引き留めるようにじぃっと見上げてくるのだった。

「大丈夫?まだ…欲しい?」

「ぅん…欲しい……よぉ……」

 あどけない言い回しで奏でられる欲望の言葉は、コンラートの雄を少年の肉の中で再成長させる。

 どくん…と脈打ちながら太さと硬さを取り戻しつつある雄蕊を何とか落ち着かせると、コンラートは器用に少年の脚を操作して、白桃のような尻を突き出す形で伏臥位をとらせた。

「良い…行くよ?」

 念のためそう問えば、意外にも抵抗が返ってくる。

「どうしたの?」

「顔…見えなくて……怖い……」

 可愛い物言いに思わず覆い被されば…伝わる体温に安堵したのか、ほっとしたように少年の強張りが解れる。

 そして…更に愛らしいことを少年は言い出したのである。

 《名前を呼んで》…

 その言葉に、コンラートは白鷺線での会話を思い出した。

 怪人にサキュバスを注入され、痴漢行為に怯える有利を助けた後…二人は初めて名前の交換をした。この時、コンラートは《ユーリ》という名前の響きを気に入って、すっかりそう呼ぶつもりでいたのだった。 

『ユーリ…良い響きだ』

 だが、陶然と滑らかな声で名を呼ぶと…有利は真っ赤になって俯いてしまった。

『やめて…名前……呼ばないで………っ』

彼曰く…コンラートの声が佳すぎて困るのだと言う…。

『それでは…今は困らないという訳かな?』

 寧ろ…困らせて欲しいというところか…。

 案の定、《ユーリ》と呼べばぞくぞくと背筋が震え、繋がれた肉壁が悩ましく収斂して雄蕊を心地よく締め付けてきた。

 互いの名を呼び合い…高め合い…その後も体位を変えて、結局ヨザックの言うとおり《抜かず三発》を図らずも達成してしまったコンラートは、気絶してくたりと脱力してしまった有利に、次なる行程を施さねばならないことを思い出して眉根を寄せた。

『…………頼む、ユーリ…。これを俺の趣味だとは思ってくれるなよ?』

 コンラートには本来、男色趣味もなければ嗜虐趣味もない。こんないたいけな少年に《異物》を挿入するなど…今日まで想像してみたこともない。

 ヨザックに渡された袋の中から取りだした《異物》はケースに入ったまま包装されており、取りあえず未使用であるということだけが救いであった。

 しかし…そのグロテスクな形状を呈する物体…ディルドと呼ばれる男根を模した玩具は目に眩しいほどのショッキングピンクでコンラートの目を灼いた。

『ヨザ…こういうものをどういう店でどういう顔をしていつ買うんだ?』

 まあ、このご時世だから通販という手もあるだろうが、その場合…これ以外にも色々買っていそうな気がする。そのラインナップを知りたいような知りたくないような…。

 複雑な気分であった。

 せめて気付かれないように…とのコンラートの願望も空しく、大量に注がれた精液のおかげで皮肉にも理性をすっきりと取り戻した有利は…菊華に押し当てられたディルドに怯えの籠もった眼差しを浮かべた。

 確かに…少年の細い下肢の間に添えられたアクリル棒は異様としか言いようのない存在感を発しており、自分が逆の立場であれば必死で逃げ出しそうな気がする…。 

「ゃ…やだやだやだっ!」

 泣いて暴れる少年を押さえつけるのも可哀相で、便座から落ちないように手を添えるだけにして説得すれば、有利もこの行為の本来の目的を思い出したのだろう…泣きじゃくりながらもこくりと頷くと、せめて目に映らないようにしたいのか…両手で顔を覆って、か細い声で懇願した。

「い…痛くしないでね……」

「………っ!」



 思わず…コンラートの喉がごきゅりと音をたててしまう。



『何だ…この罪悪感と共に込み上げてくる甘酸っぱい感じは………』

 コンラートには少年をいたぶって喜ぶ趣味など無かったはずである。

 実際、今…有利がどうしても嫌だといって暴れれば止めただろう。

 だが…羞恥と恐怖に怯えながらも、おそらく…コンラートに対してだけこんな場所を開いてくれるのだろう有利の想いを感じると、その健気さと…《可哀相なことをしている》《俺がやるやら我慢していてくれる》という微妙な背徳心だか優越感だかが複雑に絡み合って、何とも言えない快感をもたらすのだった。

『ある意味…俺は変態の第一歩を踏み出してしまったのかも知れない……』

だが…その奇形の花々咲き乱れる道のりの、何と魅惑的なことだろう?

 紅色に色づいた菊華にディルドを添えれば…挿入にあわせてこぷりと滴り落ちてくるものがある。

 

 コンラートが大量に注いだ…精液だった。

 

 栓をするための道具によって押し出された白濁が双丘の谷間を伝い落ちて、便座の蓋にとろりと小さな水たまりを作る。濃い男の匂いが立ちこめて…この少年が先程までどんな行為に身を任せていたかが如実に知れてしまう。

『う…わ……入っていく……』

 自分で入れておいて何を…と言われそうだが、雄蕊を突き込んでいる間はコンラート自身快楽に煽られていたし、有利の声をキスで塞ぐのに集中していたからそこまで接合部に対する意識はなかった。

 だが…今こうして客観的な立場から後宮に異物を挿入していくと…少年の肢体のなまめかしさや、くぐもる声音のか細さがずくずくと胸を刺激してくるのだった。

『ここも…酷く擦れて真っ赤になってる……』

 最初に指で弄ったときには薄いピンク色を呈していた蕾も、大ぶりな雄蕊にこじ開けられ、限界まで押し広げられ…擦りあげられたせいで可哀相なくらい真っ赤に染まっている。

 こぷりとディルドを全て飲み込ませれば、ちいさな蕾からちょこりとピンク色の取っ手が覗いていて、悪戯心でつい揺らすと…いやいやをするように腿が揺れた。

『………いかんいかん…っ!』

 我に返って、コンラートは鞄の中からウェットティッシュを取り出すと、丁寧に有利の肌を清拭してやり下着とズボンを着せて地面に立たせた。

 立ち上がった途端…有利が真っ赤になって息を呑んだものだから、どうしたのかと思えば… 

「あ…歩けない…デス……」

 えぐえぐと涙目で訴えてくる。

 当然と言えば当然だろう…ディルドにはコブも付いていたし、そもそも…あんなものを銜え込んでまともに歩ける男などそうはおるまい(ヨザックならひょいひょい歩けそうだが…友人として、そこは想像したくなかった)。

 ふわりと抱え上げればもう抵抗はなく…有利はへたりと力を抜くと、コンラートの胸にちんまりと顔を埋めた。

『子猫に懐かれたみたいな気分だな…』

 思わず脂下がりそうな口元を必死で引き止める。何しろ、今から癖のある友人の車に乗せて貰うのだ…。にやけた顔をしていたらどんなからかいを受けるか知れたものではない…。

 グリエ・ヨザックという男は良くも悪くも人生を楽しみ切る享楽的な男であり、からかいの種を見つければ、必ず芽が出るまで水をやらねば気が済まない男なのだ…。



*  *  *




「ほぉーう?」

 案の定…ジープカーの扉をノックしてうたた寝していた友人を起こすと、彼は独特の笑みを唇の端に乗せて楽しそうに二人を見やった。

「坊や…良い感じに艶っぽくなってきたねぇ…一目見たときから、この子は化けると思ったんだよ。普段は清楚で、ベットでは乱れるタイプは男がほっとかないよねぇ…。やっぱ、《撃墜王》の渾名を襲名する日は近いかな?」

「いい加減そのネタを引っ張るんじゃない!」

「へいへい…んじゃ、後ろ乗んなよ」

 促されて乗り込めば後部座席はゆったりとした広さを呈しており、ごつい外観に見合わぬパッチホークのクッションや縫いぐるみが置いてある辺りが、この男の嗜好バランスを物語っていた。 

 後ろを向けばやはり広い荷台があり、こちらにもキルト地のパッチワークがふかふかのクッションと共に置かれており…軽く目眩がする。

『…………こいつ、ここでユーリとセックスするつもりだったのか?』

 なんというか…和むんだか気味悪いんだかよく分からない空間だ。

「お世話になります…」

 コンラートに抱えられるようにして助手席に座った有利だったが、座席に腰を下ろした途端…ぐっと息を詰めて涙目になってしまう。

 その様子を意地の悪そうな笑顔を浮かべて、にやにやしながらヨザックが見守った。

「ふふぅん…結局、この子にアレを突っ込んだんだ、コンラッド…」

「……そうしないと送らないと言ったのは誰だ!?」

「はぁーい、俺です。だってさ…想像すると凄ぇ楽しいんだもーん。こんな可愛くてまっさらな子に、あんたがどんな顔してアレを挿れたのかと思うとさ……」

「ヨザ…あまり調子に乗るなよ?」

 後背から縄目模様の瘴気を放ちながらコンラートが言えば、ヨザックは肩を竦めてエンジンをスタートさせた。

「ん…く……っっ!」

 その振動にも感じてしまうのか、有利はコンラートに縋るようにして横倒しになると、懸命に泌部からの刺激を逸らそうとした。

「へぇ…いい顔するねぇ…予想以上だ」

「ヨザ…運転に集中しろ!」

「へぇい」

 ミラー越しに有利を確認してくる友人に、コンラートは眦をあげた。

 こんな艶めいた顔をした有利を人に見られたくないというのもあるが…それ以上に、こんな状況で事故に遭われては堪らない…。陰部からディルドを発見されたりすれば、有利の人生の今後にも響くだろう(勿論…コンラートにとってもそうだが)。





 

有利side:6



 時間帯が通勤ラッシュからずれたせいか、ジープカーは快調にコンラートのマンションへの道のりを進んでいる。出発時にエンジンを吹かしたときに強い振動が生じたものの、その後は信号で止まったり再発進してもそれほど車体が揺れることはなく、有利も体内に注がれた白濁を吸収してきているのか、随分と身体の具合も楽になってきた。

 少しずつ体勢を戻してコンラートから離れて、ちょこんと座席に一人で座った。

『はー…何とか人心地ついたぁ……』

 ほっと安堵する有利とは対照的に、身を離されたコンラートはちょっぴり不満そうだった。

 一方、更に残念そうな顔をしているのはヨザックだった。

「………坊や、もう酷く感じたりしないのかい?」

「は…はいっ!おかげさまでっ!!」

 頚まで真っ赤になって律儀に答える有利に、くすくすと楽しげな笑い声を上げる。

「可ー愛いーっっ!でも、やっぱ残念だなぁ…」

「何がデス?」

「本当だったらさ、俺が坊やのお相手が出来た筈なんだろ?それが良い子にして一人車内お留守番したうえに、こうしてアッシーまでやっちゃうって…ああ…俺ってば良い奴……」

「す…すみません……」

 恐縮しきって肩を縮込ませる有利に、ヨザックはにしゃりと彼独特の笑いで答えた。

「うふふぅん…悪いとは思ってくれるんだ」

「は…はいっ!それはもう……っ!!」

「じゃあ…ちょっとだけ、俺にもお裾分けをくれるかな?」

「え…?お裾分けって…」

「ちょっこと…可愛い声、聞かせてくれる?」

「はぁ……」

 ヨザックの手元で、何かがかちりと音を立てたと思った瞬間… 



「にぁああ……っっ!?」



 有利の体内で、何かが蠢き始めた。

 それは…コンラートの手によって肉筒に挿入された、異形のアクリル塊…ディルドだった。

 半透明のディルドの内部にはバイブレーター機能を搭載した装置が内蔵されていたらしく、おそらくは、遠隔操作用のスイッチをヨザックが押したのだ。

「ユーリ…ユーリ!?」

「いや…いやぃや…いやぁぁっっ!!」

 コンラートに縋って腰を跳ねさせる有利は、幾らかやり過ごしかけていた悦楽を強制的に呼び起こされ、感じやすい場所でぐりぐりとうねる機械仕掛けの玩具に翻弄される。

『やだ…こ、こんなトコで…こんなモノに感じるなんて……っ!!』

 先程までコンラートによって蕩けさせられ、大量の雄液を含む肉筒はぬるぬると玩具の動きを受け止め、信じがたいような動きで有利の性感を煽り立てると、休まりかけていた花茎までもが再び蜜を漏らし始める。

 そして…先程トイレでは指一本触れられなかった胸の尖りまでもがシャツと擦れ合う感覚に悦楽を感じ、痛いほどに痼(しこ)ってくる。

『胸…硬くなったトコ…指でぎゅーっと押さえつけたい…ちんこ…扱きたいよぉ…っ!……取っ手を掴んで、中に入ってるヤツもガンガン出し入れしたい……っ!!』

 けれど…そうするには中途半端に意識が清明に保たれており、ヨザックの前で痴態を晒す羞恥を思えば、全身を強張らせてのたうつしかなかった。

「ゃあ……っ…止、めて……いや…いやぁぁ……っっ!!」

「ヨザっ!いい加減にしないかっ!スイッチを渡せっ!」

「へぇーい。あー…でも本当、佳い声で啼くねぇ…。やっぱ惜しい事したなぁ…」

 ヨザックは渋々とコンラートにスイッチを渡すと、如何にも名残惜しそうに投げキッスを寄越すのだった。

『うう…この人って、この人って……』

 敵に回したらどんな酷い責め苦を喰らうか分からない男だが…味方だからといって素直に安心することも出来ない。流石にお人好しな有利も、今後この男と付き合う際には重々気をつけようと心に誓うのだった…。

 ただ…この男の恐ろしいところは、警戒していてすらも彼の望む行動を選択せざるを得ない事態に追い込むのが大変得意であるということなのだが…それについてはまた別の話である。

    



コンラートside:7



 悲鳴を上げて悶絶する有利に、コンラートは最初何が起こったのか分からなかった。

 だが、ズボン越しに股間部分を押さえて嬌声を上げる有利の姿に、先程コンラートが挿入したディルドに仕掛けがあったのだと気付く。

 あまりといえばあまりの悪戯に…涙を零して身を捩る有利を抱きしめながら、コンラートは凄まじい殺気を友人に向けて放った。

『ヨザ…俺を本気で怒らせるなよ…?』

 有利の方はそれどころではなかったようだが、勘の良い友人はコンラートの本気具合を首筋の産毛を逆立てることで察知したらしい。さすさすと後頚部を撫でつけるとばつが悪そうな顔つきでスイッチを渡してきた。

 おそらく…コンラートが怒らなければ、このまま有利を煽って絶頂まで導くつもりでいたに違いない。こちらが下手に出れば、《そのままフェラチオしてやんなよ》位は言ったであろう友人に、コンラートは一層どす黒い瘴気を纏わりつかせるのだった。

「んもー…ちょっとした冗談なのにぃ……」

「お前の冗談は冗談ですまないんだっ!!」

 実は、以前コンラートはヨザックの店で酒を飲んでいたところ、彼に媚薬を盛られたことがある。

 その時には性欲を上回る怒りによって店を半壊に追い込み、ヨザックに全治3ヶ月の傷を負わせて事なきを得た(事なき…?)。

 正直、その時にはこんな奴とこのまま付き合っていけるのかと不安に思ったものだったが、向こうの方はあっけらかんとしたもので、完治すると菓子折下げてコンラートのマンションを訪ねてきたのである。

『悪い悪い。これで許してよぉー』

 悪びれもせずにへろっとした笑顔で言うヨザックに、コンラートの方は怒りを削がれて脱力しきったものだった。

 コンラートは人に好かれやすく付き合いも良いが、広く浅くの典型例であり深い付き合いをする友人は少ない。大抵、男にしても女にしても向こうの方が遠慮する向きがあるし、コンラートの方も意外と嗜好のエリアが狭いのか、それほど思い入れのない者が積極的に踏み込んでくると絶対零度の態度で拒絶してしまう。

 その辺りの舵取りが妙に上手いヨザックは、結構な悪戯を何度も仕掛けてくる割には、こうして付き合い続けてしまう数少ない友人なのであった。

 今日のことも…結局時間が経てば許してしまいそうな自分が多少情けない…。

「すまないユーリ…苦しいかい?」

 有利はくたりとコンラートの膝に倒れ込んだまま、小刻みに震えている。頬には涙の痕が色濃く残っており…トイレでも泣かせていたせいで、見上げてくる瞳はうさぎさんのように赤みを帯びていた。

『……………可愛い……』

 そんなことを考えている場合ではないのだが…ついつい素直な感想を抱いてしまい、罪滅ぼしのように精一杯優しい手つきでまろやかな頬を撫でつければ、子猫のようにすりり…とすり寄ってくるものだから……コンラートは再び立ち上がってきた雄蕊の始末に困るのだった。

 何しろ、今…コンラートは不可抗力とは言え、有利に膝枕をしているのである。

 顔が運転席を方を向いているからまだ良いが、うっかり寝返りなどされた日にはコンラートの立場というものがない。



『この友にしてこの男ありと思われるのだけは絶対に御免だ…っ!』



 ヨザックのことは多分、この先も嫌いにはなれない。  

 だが…一緒にだけはされたくないと心から思うコンラートであった…。





→次へ