〜白鷺線の怪人〜
D






有利side:5



「この子が…好きなんだ」

 

 一瞬…言われた意味が分からなかった。

 媚薬のせいで都合の良い幻聴が聞こえたのかとも思った。
 けれど…瞳を見開いた有利の頬に優しく掌を添えると、コンラートは微笑んだのだった。
 奥深い…慈愛と感謝に満ちたこんな瞳を、有利はこれまでに見たことがなかった。
 天上の神々も微笑み返すであろうと思われるようなその笑みに、誰が抵抗することが出来ようか?

 ましてや、狂おしいほどにコンラートを切望していた有利には…拒むことなど不可能であった。
 そぅ…っと頬に添えられた手が離れていこうとすると、殆ど反射的にその手を掴んで引き寄せていた。

「ウェラーさん…ウェラーさん……俺…も……」

 喉がつかえて上手く喋れない。
 舌は、まるで他人のもののように感覚がおぼつかない。
 それは…媚薬のためだけではないような気がした。
 信じられないような幸福が痛いほどに胸を引き絞り…切なくて嬉しくて…言葉として奏でることが困難なのだ。

「……好きです…っ」

 やっとの事で言えた言葉に、コンラートも幸せそうに微笑んでくれたから…有利の胸もまた幸福感で一杯になった。

 だが…だからこそ沸き上がってくる罪悪感もある。

「グリエさん…ごめ…なさ……っ」

 謝る有利にむかってにしゃりと笑ってみせると、ヨザックは軽口を叩きながらも快く有利の身体をコンラートに引き渡してくれた。

 その後の会話は、実はよく覚えていない。

 コンラートの腕に抱きかかえられ…既に覚え始めている仄かな体臭をうっとりと吸い込んでいたら、堪らなくなって…自慰を始めてしまった。

 ベルトの金具をおぼつかない手つきでかちゃかちゃと外し、下着の中に手を差し入れれば…既に2回分の白濁を受け止めたゴムがぶるりと震え、手と花茎の間で擦れ合った。

 恥ずかしくて堪らないのに…気持ちよくて、もう花茎から手を離すことが出来ない。

 じくん…と響く背徳的な快感に、有利は謝罪の言葉を口にしつつも花茎を擦りあげてしまう。

「駄目…も……無理……ゴメンナサイ……」

「うわっ!シブヤ君っ!!ま…待ちなさい、すぐ注いであげるからっ!!」 

凄いことを言われているという羞恥はあるにはあった。

 だが…この狂おしいほどの欲望を何とかして貰える…その約束だけで絶頂を迎えてしまいそうだった。

 コンラートに抱えられ、連れ込まれた場所がトイレの洋式便所であったことなど些細な事に過ぎなかった(真新しいトイレは掃除も行き届いており、ウォシュレットが完備されているうえに、照明も卵色の暖かな配色であったし)。

 実のところ…不良連中からリンチを受けた挙げ句、顔を突っ込まれるという出来事以来、公衆便所の個室にはなるべく入らないようにさえしていたのだが…コンラートといるというその事だけですっかり安心しきってしまい、彼から与えられるであろう悦楽だけを期待して、先程から肌が疼いて堪らないのだ。

 暖かい便座に座らされて見上げれば…目を見張るほど凛々しい青年が、自分を見つめていた。



 明瞭な愛欲を纏う琥珀色の瞳。 

 飢えた獣のように唇を舐める紅い舌。

 もどかしげにネクタイを解く長い指は、人差し指がシャツの襟元にも引っかかっており、しなやかな頚を逸らすようにして左右に揺らせば、くっきりとしたラインの鎖骨が胸元から垣間見える…。



 全てが堪らなくセクシーで、見ているだけでぞくぞくするような劣情を催してしまう。

 下腹が…びくびくと跳ねるようにひくつくのが酷くリアルに感じられた。

『欲しい…この人が、欲しいよぉ……っ』

 せめてもの良識で堪えていた言葉も、するりとズボンと下着とを剥ぎ取られて…下肢には膝丈の紺の靴下のみ纏う姿で大きく内腿を割られれば、止めることなど出来なくなってしまう。

 コンラートの視線がちりちりと白い腿を灼き、眼差しだけで感じてしまう花茎は恥じつつも反り返ってしまう。

「ウェラーさん…お願い……欲しい…よぉ……」

「いいよ…君が欲しいだけあげる。だから俺にも…頂戴?」

「…え?」

 彼にあげられるものなど自分にあるだろうかと小首を傾げれば、踵を便座に引っかける形でのし掛かられ、たっぷりと白濁を溜めてしまったコンドームを引き抜かれて…とぅるりと形良い唇の中に花茎を含み込まれてしまった。

 その際、コンドームから滴り落ちた白濁はとろとろと花茎を伝い…ぽとん…っと有利の下で水音を立てる。それが、有利が今とっている体勢…そして、場所の事を感じさせられて、花茎は否応なしに反り返ってしまう。

『こんなとこで…こんな綺麗な人に、俺…ちんこしゃぶられてる……』

 信じられない。

 …そして、なんて気持ちいいのだろう?

 こんな事をして良い場所でも、こんな事をさせていい人ではないのだと分かっていても…もう、止めることなど出来なかった。

「…ひ……ぁっ!!」
「可哀相に…出したものが冷たくなっていたろ?今…暖めてあげる」
「そ…な……ぁ、きっ、汚…たな……っ」

 青くなったり赤くなったりしながらじたばたと藻掻けば、コンラートは花茎を銜えたまま不安げな眼差しで見上げてくる。その顔つきは傾げた首の様子とも相まって、ビクター犬を彷彿とさせる容貌となる。

「気持ち悪い?」
「悪くなんか…無いです……っ!す、凄い……気持ちいいです…ケド……っ!」
「では、問題ないね?」

 にっこりと微笑むと、コンラートは舌先でちるちると鈴口をなぞり、巧みな手技で幹を擦りあげ…ふにふにとやわらかなマシュマロを思わせる袋を揉みしだくのだった。

『…う、ウェラーさんって……生粋のストレートとか言ってなかったっけ!?』

 それが、何でこんなにも上手いのだろう…。



 これが才能というやつか?

 それともニ○ータイプなのか?

 恐るべし、コンラート・ウェラー…。



車両の中で続けざまに二度ほど吐き出したせいか…とろりとした透明な蜜は漏れ出てくるものの、なかなか到達することは出来ないのだが、甘い刺激を間断なく与え続けられる責め苦に、快楽だけは止めどなく感じ続けてしまい…有利は気も狂わんばかりに髪を振り乱した。

「ふ…くぅ……ん……っ!?」

 つぷ…とコンラートの指が爪の先だけ含み込まれた場所…そこは、初めて受け入れる他人の指を歓喜して収斂する、有利の排泄器であった。

「ぁぁっ!!……そこ、ぐしゃって…してぇ……っ!!」

 有利の抵抗を恐れて試すように触れてきた指は、了承を得てつぶぶ……と、ぬくよかな肉筒の中へと侵入していった。

「ぁ…っ……あ…っ……ぁぁ……っ!!」

 びくびくと便座に掛けた踵が震え、有利の意識はもはや彼の男性器である花茎ではなく…後背に控えた秘孔に注がれていた。

『指…入ってる………っ。こ…んな……トコに……ウェラーさんの…指、が……っ』

 強い背徳感が媚薬の作用で悦楽へと変換され、有利は淫らな夢魔さながらに舌舐めずりし、腰を浮き上がられると…無意識にゆるりと揺らして見せた。

『あ…ウェラーさん……見てる………っ』

 《こんな恥ずかしい子だなどとは思わなかった》…そんな風に軽蔑されるのではないかと不安に揺れる有利の意識はますます泌孔へと集中し、中指を一本丸々銜え込んでしまったそこから、羞恥と…全身を伝う甘い微電流に身を震わせる。

「見…なぃ…で……ぇ……」

「どうして?とても素敵だよ…。とても濡れて…ほら、気持ちよさそうな音がする……」

「ゃあ…っ!」

 くぷくぷと指節関節を蠢かされれば淫らな媚肉はますます蜜液を溢れさせ、コンラートの掌を伝って、有利の滑らかな双丘に擦りつけられるようにして広げられていく。

 桃色に染まったふくらみは悦びに打ち震え、卵色の照明の中で美味しそうな果実のように濡れて光っていた。

「頑張って…シブヤ君……。息を止めないで…俺の指を楽に3本しゃぶれたら、ご褒美に…俺のをあげる。ね、欲しい…でしょ?」



 くぷ…

 ぐぷ……



 指を出し入れされるたびに淫らな水音が狭い個室に響き、花茎と泌孔とからとろとろと溢れる雫が、時折《ぽちゃん》…っと水面を叩き、どれほど有利の身体が少年らしからぬ痴態を演じているかを教えてくれる。

 だが…コンラートの指に狂わされた有利はどんな恥ずかしい言葉でも、この瞬間には平気で口に出来てしまうのだった。

「ん…んん…欲しい……欲しいよぉ……頂戴…ね…おねがい……っ。なんでも…するから……ウェラーさん…ので、ごりごりって…してぇ……挿れて…意地悪しないで…太いの挿れてぇ……っ!!」

 ひっくひっくとしゃくり上げていたその時…

 

 …ドルゥン…っ!

 ドルルン……



 車の排気音が、響いた。

   

「……っ!!」

 びく…っ!と跳ねる有利は二本に増えたコンラートの指を強く締めあげ、指の節と自分の肉壁とを擦れ合わせて悶絶してしまった。

 しかし、痛みも伴うその刺激によって、霞み掛けていた意識が幾分清明になる。

『そ…だ……ここ、ガレージの…駅の……トイレ……』

 こんなふうに肉欲を交わす場所などではなく、通りすがり利用者が排泄を行うための場所なのだ。

 いつ、誰が入ってくるか分からない。

 甘い嬌声を上げて泣き叫ぶ少年の声など聞こえた日には、すわ事件かと通報されるのではないだろうか?

『だ…駄目ぇ……っ!!』

 有利のことは仕方ない。

 恥ずかしいのは当然あるとしても、媚薬を使われていた事は確かなのだから純然たる被害者として扱われるだろう。

 だが…コンラートはそうはいかない。

『助ける為だったんです』

 と、どれほど有利も一緒になって説明したところで、聞いてなど貰えないだろう。



『他に方法が幾らでもあっただろう』

『病院にでも何でも担ぎ込めば良かったんだ』

『実は、君が年端もいかぬ少年に性的陵辱を加えたいばかりに媚薬を盛ったんじゃないのかね?』



 等々…会社から家族親戚から週刊誌から…その行為を面白おかしく書き綴られ、悪罵雑言され、その社会的信用は失墜するに違いない。

『そんなこと…俺のために……させられないっ!』

 だが、事ここに及んでコンラートの行為を止めさせる事など出来ないだろう、実際…有利自身も限界に近い。

 だが…まだ、有利にもやれることがあるはずだ。

 有利は震える腕を精一杯伸ばして、コンラートの背に回すと…引き寄せた耳元に囁いたのだった。



「ハンカチ…で、俺の口…縛って……」



「…何…だって?」

「声…も……我慢でき…ないから……見つかったら…困る……だって、ウェラーさん……迷…惑……っ」

 荒い息の中から懸命に絞り出すような声で為される申し出をどう思ったのか、コンラートは瞳を揺らすと…労るような眼差しでこう問うたのだった。

「それでは…キス、していいだろうか?」

「キ…ス……?」

「駄目…かな?キスで、君の声を塞いでしまいたい…。ハンカチで塞ぐなんて、まるで強姦みたいだろ?俺は…そういうのは嫌なんだ。君を、傷つけたくないから…」

 考えても見れば、好きと告白する前に手でイかせて貰い…告白しあったとはいえ、まだキスもしない内から濃厚な交わりを始めていた自分たちは実に性急な恋人達であろう。

 それに、《傷つけたくない》と、はにかむように告げたコンラートの言葉が素直に嬉しくて、有利の胸は乙女のようにきゅん…っと甘酸っぱい痛みを感じるのだった。

「うん…あの……俺……キス、は…はじめてだから…下手っぴだけど……それでも良い?」



 妙な沈黙が生まれた。



 呆れられたのかと思って不安げに上目づかいの視線で伺えば…コンラートは真っ赤になって口元を覆っていた。

「す…すまない……キスも初めての子に…こんな事をして……っ!」

 性交が始まってからの有利の淫蕩な物言いに、うっかりエロモードを全開にさせていたせいだろうか?コンラートは先程までちらつかせていた《夜の帝王》から一転して子犬のような表情を浮かべると、真摯な眼差しで唇を寄せてきた。

 それは…今、彼の前にいるのが淫魔などではなく…清らかな少年であることを再確認するような、厳かな口吻だった。

だが…熱く甘く絡んでいくさらりとした質感の舌はすぐに有利を酔わせてしまい、すぐに淫蕩なサキュバスの性質を覗かせてしまう。

 それほどに、媚薬の効果は強いのだ。

「ん…くぅ……ん……っ」

 強請るように腰を振り…長い指をもっと飲み込もうと淫肉を押しつければ、コンラートは焦らすことなく3本目の指を添えて弄り回してくれた。

 その指がぐちぐちと粘い水音をたてて、掌がどろどろになるまで愛撫を加えれば…十分に解された肉筒はしとどに濡れきっていた。

『お…きぃ……』

 便座にお座り状態の有利が見上げる位置で、コンラートはスーツに隠れていたフロント部分を開き…素晴らしく存在感に溢れた雄蕊を引き出してきた。

 隆々と聳える大きさは平均的な日本人男性の遙かに上を行くもので、当然…有利のささやかな花茎とは比べものにならない。反り返った角度といい如何にも硬そうな質感といい…完璧に成熟した白人男性の逸物と言える。

 こんなものが今から有利の体腔内に入り込み、肉壁を擦りあげていくのだ。普段の有利なら恐怖に戦き、《頼むから許してくれ》と哀願したくなることだろう。

 …だが、執拗なまでに愛撫を尽くされ蕩かされた肉体と精神は、甘い責め苦を欲して淫らに上気するのだった。

 ごくりと喉を鳴らし、待ち侘びるように下肢を大きく開いた有利に、コンラートは呆れるようなことはなく…労るような笑みを浮かべて、そぅ…と雄蕊を秘孔に添わせた。

 ぴたりと密着する粘膜同士が、互いの情欲を示すように…燃えるような熱さを共有する。

『ぅわ……入…って、くる……っ』

 ぐぷ…とほんの先端部分が入り込んだだけで息を詰めてしまうが、コンラートは巧みに舌先で口腔をこじ開けると、口吻と囁きとで有利を誘導した。

「息…つめないで?ほら…今、吐いて……」

「は……ぁ………」

 意識して息を吐いた途端…ぐぷぷ……っとぬめるような音を立てて、巨大な蛇が鼠坑を襲うような勢いで雄蕊が少年の肉筒を抉った。

「……っ!!」

 その瞬間、有利を襲ったのは息苦しいほどの圧迫感と…それを遙かに上回る悦楽であった。

 ひらめくような閃光が眼底を奔り、凶暴なまでの快感が腰髄から脊柱管を上行して中枢神経系を蕩かしていく。

『き…もち……良いよぉ……っっ!』

 唇で声を封じられていなければ、淫らな嬌声を迸らせてガレージの通行人の注意を引いてしまったに違いない。それほどに有利の肉は男の猛りを歓喜して受け入れ、摩擦や拡張による苦痛さえも快楽にすり替えてしまった。

 しかも、コンラートは初めて試みる男の肉体への侵入にも戸惑うことなく、的確に有利の反応が強い箇所を探し出しては惨(むご)いほど徹底的に責め立て、有利の身体を…男の肉棒に喜悦を感じるものへと変貌させていく。

 いまや…肉筒への刺激は花茎の高揚感を上回り、じくじくと沁みるような持続性の淫欲で有利の全身を狂わせていった。

「んっ…んん…んっっ!!」

 舞うように巧みな…力強い腰が激しい律動で責め立てても、十分に前戯を施された交接器は血を滴らすかわりに蜜を零してぬめやかな交わりを助ける。今の有利には全ての接触が性感を高めるための愛撫となり、音を立ててぶつけられる下腹と花茎間との衝撃までが堪らなく心地よかった。

「んー…んんーーーーっっ!!」

 淫らな言葉で行為を強請ろうとする有利の唇が優しく塞がれ…熱く絡み合う舌体はほとんど痺れたような感覚を伝えてくる。

「んく……っ!!」

「は…ぁ……」

 有利の一番良いところを一際強く擦りあげた瞬間…コンラートの雄蕊は大量の迸りを少年の肉の中へと弾けさせた。

 有利は暫くの間…あえやかに濡れた唇を開き、声を失って忘我の表情を浮かべた。



 気持ちよかった。



 今でもじんじんと甘い…微弱な電流が、コンラートと繋がっている部分から身体のそこかしこへと放散していくようだ。

 じゅる…とぬるつく雄蕊を引き出されて行くのを惜しむように眉根を寄せれば、くすりとコンラートが微笑んで見せた。

「大丈夫?まだ…欲しい?」

「ぅん…欲しい……よぉ……」

 舌の縺れるあどけない言い回しに苦笑しながら、コンラートは力の抜けきった有利の身体を反転させ、捻れる接合部の摩擦に甘い嬌声を上げさせながら…腰を高く上げた姿勢を取らせた。

 便座の蓋は閉じて、その上にちょこりんと跪かせた姿は如何にも無防備で、淡く上気した白桃の双丘の間で物欲しげに収斂する蕾を護るものは何一つ無かった。

 実際…ひめやかであるべきそこはずっぷりと巨大な雄蕊を飲み込んでおり、限界まで広げられた襞が哀れなほど紅色に紅潮している。 

「良い…行くよ?」

 しかし、先程まで積極的にコンラートを受け入れていた有利は嫌々をするように尻を振ると、その刺激でもって余計に自身を追いつめてしまう。

「どうしたの?」

「顔…見えなくて……怖い……」

 甘えるようなその物言いに、コンラートは堪らなくなって覆い被さっていった。

「ほら…これならどう?俺の体温を感じられる?」

「うん…横から顔も見えるね……」

 言いかけて…有利は、はにかむように小さな声で呟いた。

「あの…ウェラーさん…あのね……」

「何?」

「耳のトコで…俺の名前、呼んでくれない?」

「シブヤ君って?」

 くすくすと意地悪そうに囁けば、有利は拗ねたようにぴこりと唇を突き出して見せた。

「……有利って、呼んでくれない?俺…電車の中で呼んで貰ったときに凄いぞくぞくして…それだけでイっちゃいそうになって困ったもん…」

「…可愛いことを言うねっ!」

 弾むような声を上げ、コンラートの雄蕊が引きずり戻されたかと思うと…十分に馴染まされた後宮めがけて勢いよく突き立てられる。

「ぁぁあん…っ!」

 口角から涎を零して泣き叫ぶ有利の口元へとコンラートの指が挿入されれば、肌づたいに溢れてくる液はぽとぽとと便座の蓋を濡らした。 

「ユーリ…俺の指を噛んで?」

 《ユーリ》…

 ああ、この人の口から奏でられる声は、どうしてこんなにセクシーなんだろう?

 そしてその魅惑的な声が自分の名前を呼ぶと、どうしてこんなにも胸が高鳴るのだろうか?

「ん…んく……っ」

「ああ…可哀相に……ユーリの可愛い雄に寂しい思いをさせたね?」

「にぅう…っ!」

 後背からするりと手が差し込まれ、再びじくりと蜜を零し始めた花茎や袋を嬲れば、コンラートと繋がる後宮は目に見えて悦び、きゅうぅ…っと収斂しては銜え込んだ雄蕊を高ぶらせるのだった。

「は…ぁ……最高だよ…ユーリ……なんて素敵な身体をしてるんだろう?柔らかくて暖かいのに…きゅうきゅうと締めあげてきて、堪らなく気持ちいい」

「俺も…気持ちいい…ウェラーさんの……凄い…おっきぃ……っ」

「《ウェラーさん》なんて呼ばないで?ね…俺のことも、コンラートと呼んでくれないか?」

「コン…ラー…ッ」

 要請に応じて名を呼びたいのは山々なのだが…もともと少し舌足らずで鼻に掛かった声をしている有利は、唾液で口角を汚し…男の太い指を銜えているせいもあって上手く発音することが出来なかった。

「コンラッドで良いよ。そういう呼び方をする奴もいるし」

「コン…ラッド…っ!」

「そう…呼んで……ユーリ……」

「コンラッド……っ!!」

 ぱんっ…ぱんっ…

 引き締まった下腹と、柔らかな茂みが…有利の滑らかな双丘に打ち当てられる音が声よりも大きく個室内に響いたが、有利はもう音を消す配慮など忘れてしまったかのように甘い嬌声を上げ、体腔内に溢れた白濁を搾り取るかのような勢いで収斂すると、うっとりと力を抜くのだった。

 いまだ繋がっている場所からは甘い痺れがじんじんと響き、もう吐き出す物がない花茎からは、透明な蜜がとろとろとにじみ出していく。それが…勢いよく放出したときとはまた異なる持続的な悦楽をもたらして、有利の身体を今までとは違う構造に変えていく。

 男の雄蕊を恥ずかしい場所で受け止めて、女の如く耽溺する…。サキュバスの魔力はそこまで有利を蝕み、変えてしまっていた。

 だが…有利の幸福は、そんな恐ろしい媚薬を注入されるという劇的な日に、コンラート・ウェラーに出会ったことだろう。

 彼に責め立てられ…感じさせられて…有利は自分の性感の向上が、真っ当な男のそれとは異なることに気付いてはいたが、それを辛いとは感じなかった。

 今はただただ純粋な悦びがコンラートととの接合部から溢れ…彼を感じ取り、結びつくことの出来る場所に歓喜していたのだった。

『コンラッド…俺の…コンラッド……』

 有利が欲しくて欲しくて堪らない男が、有利を欲しいと言ってくれた。

 そして今…こんなにも求められている。

 その幸福感に酔う有利の右下肢がひょいっとコンラートの肩に担ぎ上げられると、有利は側方を向く…悪い言い方をすれば、電柱に立ちションをする犬のような体勢でコンラートに貫かれた。

「え…ぁ……?ま、まだやるの!?」

「ああ、抜かず三発がサキュバス退治の基本らしいからね」 

 2回立て続けに放たれたことですっかり油断しきっていた有利は、インキュバス(男の淫魔)さながらの精力を誇るコンラートに、畏れめいたものまで感じてしまう。

 この出来たての恋人は、別に媚薬を盛られていたわけではなかったはずだが…一体どのくらいのセックス耐久力を持っているのだろうか?

『俺…薬が抜けてから次にやるとき…体力が持つのかな?』

 かなりの不安を感じつつも、接合部が互いの目に丸見えになる体勢で的確な責めを受け、花茎をゆるゆると扱かれればもうそんなことを考えていられるような余裕もなく、有利は不自然な体勢で重なってくるコンラートの唇の中に、悦楽と苦鳴の混じった悲鳴を上げるのだった…。



*  *  *




 コンラートの3度目の絶頂の後…有利は僅かな間だが、意識を失っていたらしい。

 だから、くたりと脱力した下肢をおむつ替えの赤ちゃんよろしく便座の上で開かれ…何か異物が秘められた場所に食い込みだしてから漸く異変に気付いた。

「な…に……?」

「すまないユーリ…少し辛いかも知れないけれど、俺のマンションに帰るまでの我慢だから…」 

「な…んで?そんなトコに…何入れて……」

 コンラートが手に持っていたものは小振りなディルド…男根を模した、けばけばしいピンク色のアクリル棒だった。小さな取っ手が根方についており、すっぽりと男根部分を含み込ませた後、その取っ手を使って引き抜くのだと知れる。

「ゃ…やだやだやだっ!」

 男とのセックスも初めての身体に、そんな異物を入れられるなんて…。

 怯える有利に戸惑うように、コンラートが眉根を寄せた。

「確かに異物感があると思うんだが…これで栓をしておかないと、俺が注いだものがどろどろと出てしまうだろ?そうすると、大量に注いだ意味が無くなってしまう」

 そうだ、これは愛の交歓というよりは医療行為を兼ねた行為だったのだ。今更ながらに思い出すと、有利は真っ赤になって…掌で顔を覆ったが、もう抵抗することはなく、震える下肢をコンラートの前に開いて見せた。

「い…痛くしないでね……」

 消え入りそうなちいさな声に、コンラートはごくりと唾を飲み込むと…ゆっくりとディルドを挿入していった。



 くぷ…

 ぐぷぷ……



 動くたびに濡れた粘膜と注がれた体液の擦れる音…そして、漏れだした精液が双丘の谷間を伝う感覚が、有利を羞恥の縁に沈めたしまう。なにより恥ずかしいのは…もう白濁も吐き出せないのに、透明な蜜を纏わせて立ち上がってくる花茎の存在だった。

 コンラートの精液によって、先程までのような切羽詰まった性欲はないが、いまだサキュバスの魔力は衰えず有利を蝕み続けているらしい。

 確かに…ゆっくりとコンラートの白濁を体内にとどめ、その成分を吸収する必要があるのだろう。

『でも…恥ずかしいよぉ……』 

涙を浮かべる眦に優しくキスを受けていなければ、とても耐えられないような羞恥であった。

 ずっぷりとディルドを銜え込まされ、その小さな取っ手を双丘の間に感じながら…有利はコンラートに汚れた肌をウェットティッシュで清拭され、真新しいコンドームを花茎に被せられた。そして、荷物置きの台に乗せられていた下着とズボンを着付けられれば、それなりに普通の恰好に戻る。

 しかし…立ち上がって靴を履き、脚を踏ん張った有利の最奥を…えも言えぬ感覚が突き上げてくるのだった。

『や…奥に…当たってる……っ』

 ディルドはコンラートの雄蕊に比べれば小さいとはいえそれなりに大きさがあり、しかも…丁度前立腺に当たる位置にイボがあるのだ。

「ユーリ?」

「あ…歩けない…デス……」

 情けないガニ股でえぐえぐと泣きを入れれば、優しい恋人はふわりと身体を抱き上げてくれるから…有利はもう恥ずかしいのも何もとっちらかして、この腕に縋ることに決めた。  
 

 

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