〜白鷺線の怪人〜
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コンラートside:5





 コンラート達が降り立った駅は昨年出来たばかりの新駅で、ショッピングモールも併設された大型の駅舎を持っている。

 その駅の、渋い銀色と黒とで構成されるホームの中にヨザックの姿を認めたとき、コンラートは心底安堵した。

 ゲイバーを経営するグリエ・ヨザックは古くからの友人で、コンラートよりも先に日本で生活しており、不法薬物の売買に手を染めている訳ではないが…商売柄、ヤクザ者とも付き合わねばならないために色々と裏事情に精通している。

 メールで状況を知らせたところ、《中和剤がある》との返信も貰っていた。



 これで、何とかなる…。



 そう思って有利の肩を押し、ヨザックに引き渡したのだが…友人は軽々と少年の華奢な体躯を抱え上げると、無造作に自分の車へと運ぼうとした。

 無造作に…とは言いつつも、人の好悪が偏っているヨザックにしては、初見から有利のことを気に入っているのは十分に伺える。

 そして噛み合わない会話を何ターンか交わした後…彼は、とんでもないことを言い出したのだった。

 この少年に、アナルセックスをすることでしか救うすべはないのだと…。

「まぁ…気に喰わなきゃ一発やって栓でもしとこうと思ったけど…気が変わったよ。お前さんになら俺のミルクを下の口にたっぷり飲ませてやるぜ?何発でも…意識がなくなるまで…な」  

 下品な台詞も何故か軽口めいて聞こえるヨザックは、《ちょっとお味見》などといいながらぺろりと有利の頬を嘗めあげた。

 有利は怯えきった小動物のようにびくりと震えたが、コンラートをちらりと見やって止めてはくれないことを悟ると…哀しげに瞳を潤ませて俯くだけで、拒むような言葉を発することはなかった。

 追いつめられた性感を敢えて煽るような悪戯は、ガレージに近い通路までくると更に濃厚になった…。

 有利はその度に息を詰め、感じてしまうことを恥じるように…眦に涙を滲ませる。

 唇が…血が出るほど噛みしめられている様子に、コンラートの手が伸びかけ…そして、硬直した。



 止めて…どうしようというのだ?



 ヨザックは両刀遣いのタチ・ネコ両方OKという間口の広い男だが、相手構わずというタイプではないから、セックスしたいが為の嘘をつくとは考えられない。

 コンラート相手にそういう悪戯をするとどんな目に遭うかも、身をもって知っている。

 だから、彼が言っていることは…真実なのだろう。 

だとすれば、下手に問答をして時間を取ることは有利を益々追いつめることになるだけだ。

 幼い身体に限界まで我慢を強いれば、おのずと抱かれた際の反応は強くなる。

 見ず知らずの男相手に自ら欲しがって腰を振い…いやらしい言葉で行為を切望したりすれば、この羞恥心の強い少年のことだ、薬が抜けた後…酷い精神的外傷を被るに違いない。

 せめて…理性があるうちに《医療》の一環として行為を受け止めることが出来れば、ショックを最小限に抑えられるだろう。

 だとすれば、手慣れたヨザックに任せておくことが一番良いはずなのだ。

 少なくとも…今は、有利を《女の子なら良かったのに》などと思っている男の出る幕ではない。

 今のコンラートには、何一つ有利に貢献できることなどないのだ。



 だが…理性ではそうと理解していることに、心がついていかない。

 

 ヨザックの逞しい腕に抱えられた華奢な少年が、どんな子なのかコンラートは知っている。

 喧嘩が弱いのに困っている者を見捨てることが出来なくて、そんな自分を恥じながらも、人を救うことを止めようとはしない…。

 人を救えて当たり前の力を持つ者が、平気で弱者の頭を足蹴にするようなこの世界にあって、希有なほどの純真さを持ったこの少年が…コンラートには愛おしくてたまらなかった。

 抱きしめて、この世の恐ろしいものや汚いもの全てから護ってやりたい

例え相手が旧友であっても…それが治療の為なのだと分かっていても…少年の秘められた性器に雄肉をめり込ませ、甘い嬌声を上げさせて白濁を体内へと注ぐのだということに、吐き気を催すほどの嫌悪と怒りが込み上げてくる。



 身勝手だ。

 あまりにも勝手すぎる。



 それを行う者が自分であれば光輝に満ちた崇高な交わりと思うものが、自分以外の者がその役割を執行すると思うだけで悪逆非道な行いであるかのように感じ、臓腑が煮えくりかえるほどの怒りを感じるとは…。



『自分であれば…?』



 コンラートの動きが、はた…と止まる。

  

『俺は…この子を、抱きたいのか?自分自身の腕で…』



 有利が電車の中で達するとき、普段の清廉な容貌からは想像もつかないほど淫靡な仕草に煽られ、確かに彼の身体を突き上げたいと願った。

 だが…それはあくまで、彼が《女の子》であればという前提に立っていたはずだ。

 少年である彼を、抱ける筈がないではないか。

 コンラートと同じものを持ち、繋がる場所は男女共通の口腔を除けば、通常は排泄器として用いられる場所だけだ。

『抱く事なんて…』





 夢想の中で思い浮かべるのは、白くきめ細かい肌にぽちりと色づいているだろう、小さな胸の尖り。淡い桜色をしているそこに舌を這わせ、歯先でかりりと甘噛みすれば、幼獣のように愛らしい声で啼くだろう…。

 怒張していてさえコンラートの手の中にすっぽり収まってしまうピンク色の花茎を扱き、敏感な先端を舌で擽ってやれば…《止めて》と懇願しながらも腰を突き上げ、コンラートの頭髪を掴む指に力が籠もるだろう…。

 そして、《サキュバス》…雌の夢魔を意味する媚薬の作用によって、女のように蕩けているという後宮につぷりと指を挿入し、噂に聞く前立腺の辺りを優しく擦りあげてやれば、それだけで勃ち上がっていく花茎を恥じて艶やかに身を捩ることだろう。

 ゆるゆると丁寧に解したそこにコンラートの猛る雄蕊を押し当て、ずぶりと沈めていけば…狭い肉筒は引き絞るように締め付けてきて、雄の証をねだる様に淫靡な蠢きを見せるに違いない。騎乗位で突き上げてやれば、まさにサキュバスさながらの乱れようで頭髪を振り乱し、鼻に掛かった愛らしい声で更なる責め苦を要求するのではないか…。



 …て、



『何を一瞬にしてリアルに想像しているんだ俺は…っ!!』

 叫びそうになるコンラートの目の前で…現実世界の有利がガレージまで連れてこられた。

 停車しているジープカーは見覚えのあるヨザックのもので…ここで、この少年が犯されるのだと教えるように、後部座席には濃い遮光シートが張られている。実にカーセックス向きの車体だ。

「シブヤ君…」

 自分の顔が真っ青になり、唇が情けないほど震えているのが分かった。

『渡したくない…っ!』

 ヨザックに対する不条理な怒り…。

 これは、嫉妬だ。  

 有利を誰にも渡したくないのに今までの嗜好・習慣から逸脱することが怖くて、自由に性生活を謳歌するヨザックを憎いとさえ思ってしまうこの気持ちが、そう思わせているのだ。

「…っ!」

 コンラートの姿を捉えると…有利の瞳から、涙がぼろぼろと溢れてくる。

 その姿は、屠殺場に送られる仔牛のように哀れだった。

 けれど…これしか方法がないことを悟ったのか、自分を救おうとしてくれるヨザックの気持ちを考えたのか…有利は観念したように、その細い腕を連行者の首に回した。



 その瞬間、脳内でスパークする火花が全てを振り切らせた。



 順風満帆な未来設計。

 誰に話しても憧憬の念を持って迎えられる私生活。 

そんなもの、もうどうでも良かった。

 

「ん…?何だよコンラッド……」

 力任せに肩を掴めば、ヨザックが怪訝そうな声を上げるが…思い詰めたようなコンラートの眼差しを確認すると、《ふぅん…》と、何か言いたげな笑みを浮かべる。

 聡い彼のことだ。

 コンラートが止める意味を、本人以上に理解しているに違いない。

「駄目だ…」

 漸く発した声は掠れ、自分のものとは思えないような有様だった。

「はぁ?だから、俺だって別にこの子を苛めたくて言ってる訳じゃないんだぜ?気の毒だと思うからこそさぁ…」

「駄目だ…っ!」

 押し殺した声が、周囲の喧噪を越えない範囲で…しかし、関係する3人の耳にだけは伝わる大きさで、告げられた。



「この子は…俺が抱くっ!」



 言った途端…どっと背中に汗が噴き出てきた。

 この瞬間までコンラートの心にあったものは、独りよがりな自分の欲求が主体となっていた。



 有利を渡したくない。

 彼を抱きたい…。



 単純だが…先程までは認めることさえ困難であった感情。

 漸くそれを受け入れたとき、今度は思いの対象である有利の気持ちが強く気になった。



 有利…。

 有利にとっては、どうなのだろう? 



 有利にとっては…相手がヨザックだろうがコンラートだろうが、ガタイの大きな得体の知れない外国人男性であることに変わりはないのではないだろうか?先にコンラートと出会っているとはいえ、誤差はたかだか1時間の範囲だ。

『市民を護るべき警官にセクハラを受けたときと同様に、助けてくれると思った男に《抱く》などと宣言されたら、ただ欲情の為だけにこんな事を言っているのだと思われるだろうか?』

 確かに、きっかけは電車内での有利の痴態であったかもしれない。

 あれがなければ、コンラートは一生こんな欲望を抱くことはなかったろう。

 だが…それだけではないのだ。

 欲情だけではないのだ。コンラートが、彼に抱いている気持ちは…。

「ウェラーさん…」

 吃驚したように、きょとんと見開かれたつぶらな瞳はちいさな子どものようにあどけなく…コンラートの意図を何とか読み取ろうとするように凝視してくる。

「はぁ?抱くぅ?あんた、生粋のストレートだろ?親切心だけでそーゆーことを言うと、後悔するぜ?この子可愛いからなぁ…なんとか傷つけないように気をつけながら楽にしてやりたいんだろうけど、この子にしてみりゃ余計に酷な話なんじゃないか?」

「……そう…だろうか…」

「この子はさ、とんでもない強さの媚薬を盛られてるんだぜ?媚薬慣れてるゲイだって、これが一番効いてるときの自分には羞恥を覚えるって程だ。俺なんかは薬で高められるの嫌いだからそもそも使ったりはしねぇけどさ…。こんな純朴そうな子が、やっぱり真っ当な暮らしをしてる男に《親切》で抱かれたりしたら、死にたくなるんじゃねぇの?それくらいなら男を抱くのが好きな俺が、医療行為と慈善と趣味の一環として抱いてやる方がまだ気が楽なはずだぜ?なー?そうだろ坊や?」

 発達した犬歯で《かしり》と耳朶を噛まれ、有利はヨザックの腕の中でびくりと飛び跳ねた。涙に潤む瞳は次第に茫洋としつつあり、《サキュバス》の効果が一層彼を蝕みだしていることが伺える。

 だが…霞んでいく眼差しの中に未だ残る意志の色が、懸命に何かを掴もうと藻掻いていた。

 ヨザックの言うことを《了解》しながらも、《了承》できない何かを感じている。

 その何かに一縷の望みをかけ、コンラートは言葉を紡いだ。

「ヨザ…俺は、親切心だけで言っているんじゃない。あるいは…今俺が抱いている気持ちの方がこの子には重く、迷惑なだけかも知れない。だが…俺は……」

 コンラートの指が掌が…気が付けば有利の頬を包み込み、息が掛かるほどの近くに踏み込んでいた。



「この子が…好きなんだ」



 振り絞るように恋を告げたのは…きっと初めてのことだと思う。

 こんなに胸をときめかせながら告げたことも…。

「ウェラー…さん……」

 まんまるに見開かれた有利の瞳の中に驚愕はあっても嫌悪の色はなかった。

 もう…それだけでたまらなく嬉しかった。

「親切心で、男を抱けるほど俺は器用じゃない。勿論、身体だけが欲しいわけでもない。俺は…この子が、好きだから…この子を、丸ごと欲しいんだ」



 言い終えれば…すとん…と、胸の中に綺麗に収まった想い。



 そうだ…。

 何も難しいことはない。

 自分は、この子が《好き》だから、誰にも渡したくないのだ。

 自分だけのものにして、持てる限りの力で護り、愛したいのだ。

 その想いが有利に受け入れられるかどうかは次の問題で、まずは自分自身がこの想いを受け止めるべきなのだ。

 

 受け止めたのは…コンラート・ウェラーのこれまで生きてきた人生の中で最も清らかで、暖かな想いであった。



『こんな素敵な想いを貰えただけでも、俺は幸せだ』



 感謝の想いを胸に…琥珀色の澄んだ瞳に銀色の光彩を瞬かせ、蕩けるように美しい表情を浮かべたコンラートは、にっこりと微笑んだ。

 有利は暫くの間どう受け止めて良いか戸惑うような表情で呆然としていたが、コンラートの手がそっと離れていこうとすると、殆ど反射的にその手を握りしめ…そのまま、自分の頬に引き寄せた。

 そして、ぼろぼろと…頬から伝う雫が明瞭にコンクリートの床面へと跡を残すほどに涙を零したのだった。

「ウェラーさん…ウェラーさん……俺…も……」

 媚薬と…それだけではない精神動揺により舌は縺れてしまったけれど、有利は…懸命に息を整え、熱い息と共に思いの丈を吐露した。

「……好きです…っ」

「シブヤ…君………」

 コンラートの目が見開かれ、その胸は…天上の楽師達の奏でるファンファーレの中にいるような心地で高揚した。

「め…迷惑かと思って…言えなかったけど……でも、俺……ウェラーさんに…抱かれたい………。グリエさん…ごめ…なさ……っ」

 言葉の最後は、ヨザックに対する詫びになってしまった。

 それはそうだろう…これでは、彼はていの良い噛ませ犬ではないか。

 それは本当に…コンラートとて申し訳なく思っているのだ。

 だが…ヨザックは吹き出すように楽しげな笑い声を上げると、にやにやしながらコンラートに有利を渡した。

「後で奢れよ?それに…色々と聞かせて貰うからな?」

 その様子から見ると…彼にはすっかりお見通しだったのかも知れない。

 だからこそ煮え切らないコンラートを煽ろうとして有利に悪戯を仕掛け、わざわざ厭らしい言葉を選んでは囁きかけていたのではないだろうか?

 まことに…察しの良い友人というものは得がたいものだ。

「ヨザ…すまん……」

「いいさ、おかげで面白いものが見れた。いつも飄々として捉え所のないあんたが、あんなに狼狽えて自分の想いに右往左往している所なんて結構な見物だったからな」

 そして、まだしゃくり上げている有利の鼻頭らをきゅっと摘んで《うにゃ!》っといわせると、楽しげに笑いかけるのだった。

「おい、坊や。お前さんなかなかやるじゃないか。女相手にゃ《夜の帝王》、男相手にゃ《難攻不落のクールビューティー》の通り名を持つ男を墜としたんだ。お前さん…そのうち、《双黒の撃墜王》なんて呼ばれるようなやり手に成長するかも知れねぇな」

「誰がさせるか!」

「ああ?《相手は生涯俺だけ》ってか?早速独占欲たっぷりだねぇ…旦那」

 コンラートに呆れたような視線を送ると、ヨザックはまたにやにやしながら有利のほっぺたをつついた。ふにりとしたその感触をちょっと名残惜しそうに楽しめば、案の定…嫉妬深い出来たての恋人は、眉間に皺を寄せて有利の身体を友人から引き離した。

 その様子に、ぴゅっとヨザックの口笛が響く。

「……なぁ坊や、そのうち、《後腐れなくグリエさんにやって貰えば良かった》…なんて思うようになるかも知れないぜ?こういうタイプは引く手あまたで恋に不自由してないもんだから、案外自分から好きになった相手には酷く執着するもんだ。そーとー……に、嫉妬深いと思っといた方が良いぜ?」

「勝手な評論をするな!」

「ははは…まぁいいや。ところで…あんたら、どこでセックスする気だ?」

 和やかな空気がぴしりと凍る。

「…………………車を、貸してくれないか?」

 脂汗を流しながら半眼のコンラートが頼むと…

「えぇぇ〜?グリ江がクルマ大事にしてるの知ってるでしょお〜?」

 突然、ヨザックはくねりとしなを作って拗ねたような声を出す。

 つい先程まで野性的な男性であったヨザックの豹変ぶりに、有利は思わず《ひっ!》と叫んでコンラートの首にしがみついてしまった。

 何しろ…筋肉量が半端でない男のオカマ仕草は見ていて恐怖すら感じさせる迫力なのだ…。

「……………知ってる。だが…シブヤ君はもう切羽詰まっているんだろう!?とても俺のマンションまでもたないだろうし…学生服を着た男の子を駅周りのホテルに連れ込んだりしたら、俺は一発で捕まるじゃないか!」

「やーん、さっきの情熱は何処にいっちゃったの!?この子のためならどんな犯罪でも犯しそうな勢いだったのにっ!」

「その結果捕まったら、シブヤ君に会えなくなるじゃないか!」

 コンラート・ウェラー、意外と冷静。

「でもぉ、グリ江にはそんな都合関係ないもーん」

 グリエ・ヨザック、尤もな発言。

「グリ江、この坊やを犯れないのは構わないけどぉー、他人のセックスで愛車汚されるのは嫌なの!《サキュバス》ってそーとー濡れ濡れになっちゃうから、絶対汚れるもーん」

「ヨザ…っ!頼むから…意地悪を言わないでくれ…っ!」

 哀願するようにコンラートが頼み込めば、ヨザックは蒼い瞳に愛欲に似た悦びの色を浮かべ、ぞくぞくと震えるようにして笑みを浮かべた。

「くひー…良いきぶーん!あんたに哀願される日がこようとはねぇ…。よし、じゃあ…百歩譲って運転はしてやるよ。あんたのマンションまでな」

「だから…ここから俺のマンションまでは1時間は掛かるだろう!?」

 なし崩しに後部座席で始める…という手もあるが、それではヨザックに有利とのセックスを見られることになってしまう。コンラートはともかく(良いのか?)、有利にとっては…淫らな痴態を冷静な傍観者に観察されるというのは酷過ぎるというものだろう。

「んじゃ、道具貸してやるからあそこでやんなよ」



 ヨザックが指し示した先にあるのは…



「……トイレ!?」

「んー、さっき俺も用足ししてみたけど、結構綺麗なトイレだぜ?そりゃまー狭いけどさ。洋式の個室ならちょっと合体するくらい訳ないって!汚れても拭けるしね!」

「な……」

 コンラートはあまりといえばあまりの提案に絶句するが、腕の中で朦朧とし始めた有利の様子に、何とか覚悟を決めた。

「何度も出し入れされると身体がきついだろうから、なるべく繋がったまんま出し続けてやれよ?《抜かず三発》はあんたの得意技だろ?」

「勝手に得意技に登録するな!」

「でも出来るんだろ?」

「まぁ…な……」

 否定はしない。

「そーやっていっぱい注いでやって坊やが落ち着いたら、俺の用意した《道具》を使いなよ。そーすりゃ俺の車は汚れないから、快く送ってやるぜ?」

「道具?」

 きょとんとするコンラートに、ヨザックはひそひそと耳打ちした。

 あまりといえばあまりな内容にコンラートはぎょっとしたものの…もう、選択している時間はなさそうだった。

 我慢の限界に達したらしい有利が、泣きながらズボンのチャックを下ろし…差し入れた手でぬちくちと花茎を弄りだしたのだ。

「駄目…も……無理……ゴメンナサイ……」

「うわっ!シブヤ君っ!!ま…待ちなさい、すぐ注いであげるからっ!!」

 咄嗟に口にした言葉に目眩がしそうだ。

 月曜日のこんな時間帯に、男子高校生に向かって言う台詞ではない。

 何はともあれ…コンラートはヨザックから《道具》の入った鞄を受け取ると、一目散にトイレに駆け込んだのだった…。

 その様子は《出来たての恋人》と言うよりも《新米パパとお漏らししそうな息子》のように見えてしまい…ヨザックは、遠慮容赦なくコンクリートの床に膝をついて大爆笑したのだった。





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