〜白鷺線の怪人〜
B
有利side:3
コンラートは、黙って有利の話を聞いてくれた。
有利が村田を助けようとして不良に立ち向かい、逆にリンチを受けたこと。
そして、事情聴取の際に警官からセクハラ発言をされて酷く傷ついたこと…。
いま現在、媚薬に煽られて興奮している自分をとても汚らわしく感じていること…。
全て聞いた上で、コンラートは優しく微笑んでくれた。
「俺は…やっぱりシブヤ君は凄い子だと思うよ?」
「ウェラーさん…」
「少なくとも、俺は今日…君に声を掛けて貰ってとても嬉しかったな。この人混みの強烈さも苦痛だったんだけど、それ以上に、これだけの人数がいても誰もが他人に無関心で…誰か困っていても構わないという空気自体がとても息苦しいもののように感じていたんだ。でも…君は、俺に声を掛けてくれた。見返りなんか求めずに、ただ、俺がここで過ごすひとときが少しでも楽なものになるようにと掛けてくれた言葉が…とてもとても嬉しかったんだよ?」
琥珀色の瞳の中で、綺麗な銀色の光彩が瞬いていて…有利は言葉を無くして見入ってしまった。
「その…シブヤ君が以前助けたっていう子も一緒なんだと俺は思うな。嫌な奴らに囲まれていること以上に、誰にも助けて貰えない自分が辛かったんだと思うよ?そこで助けに入ってくれた君の存在というものは、実際の効果以上にその子の心を救ったんじゃないかな。それに、それだけ嫌な思いをしても、またこうして俺を助けようとしてくれた君は、やっぱり強い子だよ。まぁ…その分、心配なのは確かだけどね」
くすりと苦笑して、《その友達も同じような気分なんだろうなぁ…》と、コンラートは言った。
「だから、今度は俺が君を助けてあげたい。…駄目かな?」
「…ううん…」
有利は小さく…この喧噪の中では消え入ってしまいそうな程か細い声で呟いた。
《嬉しい》…
涙混じりのその言葉に、コンラートの喉が鳴るのが分かった。
どうしたんだろうか?
沢山続けざまに喋ったから唾液が溜まっていたのかも知れない。
「ありがとう…」
ガタタン…
ガタン……っ!
「うわぁ…っ!」
急にカーブの所で車両が大きく揺れたかと思うと、コンラートの背中にどっと人の波がのし掛かっていく。
コンラートは何とか壁に腕を突っ張って有利に掛かる負担を減じようとしてくれたのだが…否応なしに押し寄せる重圧は彼の膂力を上回っていたらしく…コンラートの長躯はぴたりと有利に寄り添う形で押しつけられてしまった。
『う…わぁ……っ!』
先程まで、精神的な感動によってやや沈静化されていたかに見えた有利の花茎は、コンラートの右膝が自分の下肢の間に割り込んできたことで圧迫を受け…しかも、車両の揺れに合わせて否応なしに擦りあげられることで再びその先端を潤ませ、硬く勃ち上がり始めた。
その変化はコートの裾から伸びるコンラートの右下肢には嫌というほど伝わっているに違いない。
『嫌だ…い、イっちゃう……』
有利を励まし、強い感動を与えてくれた人に欲情してしまうなんて…これでは、まるでさかりのついた雄犬のようだ。
肉体的刺激を与えてくれる物なら棒きれにでも反応して腰を使う、淫らな犬になど堕ちたくはない。
何より…この尊崇すべき青年を汚したくない。
その一心で有利は自分の花茎の付け根をズボンの上から押さえると、惨(むご)いほどの重圧で狭窄したのだった。
『こんな恥ずかしいトコ…潰れてしまえばいい…っ!』
いま、この恥ずかしい肉を断ち切ることが出来るというのなら、有利は喜んでそうしただろう。
だが…その手は上から被さってきた大きな掌によって包み込まれてしまう。
その手は有利を庇う青年…コンラート・ウェラーのものだった。
コンラートside:4
大きな揺れに見舞われ有利にのし掛かっていったコンラートは、自分の腿に感じる熱と硬さとにぎょっとして身を固くした。
『この子…勃起しているのか?』
半分忘れかけていたが、そう言えば有利は強い媚薬を血管に直接注入されているのだ。
経口薬ならば余程の量を飲まなくては肝臓で解毒されてしまうが、血液から吸収された場合はそうはいかない。身体を一巡りする間に関係緒器官に一通り影響を与えて、迅速に性的興奮を起こさせてしまうのだ。
その状況下で逸らしようのない物理的刺激を与えているのは誰在ろう…コンラート・ウェラー自身であった。
有利の下肢の間に右膝が入り込んでしまい、後ろからのし掛かってくる人々の圧力に抗しきれず引くことも出来ない。しかも、大腿下部を有利の陰部に押し当てたまま車両の揺れを介達して伝えてしまうのだ。
『す、すまん…シブヤ君っ!!』
感動的な会話の後にこれはないだろうと自分で自分に突っ込んでしまう。
青ざめて有利の様子を伺えば…羞恥心が強い少年は頬を真っ赤に染めて泣き出さんばかりの表情を浮かべつつも、身体の芯を蝕む甘美な毒に煽られて…艶めいた浅い息をひっきりなしに吐いていた。
「…っ!」
どんどん硬度を増していく陰部は、いまやその形がズボンの上から明瞭に伝わるばかりになっており、今にも達してしまいそうな加減になってきた。
『このままイくと…下着の中がぐしょぐしょになってしまうぞ?』
それを止める手だては脳裏に思いつくのだが…有利の羞恥心と抵抗を考えると、どちらが許容可能なことなのか判別しがたいものがある。
コンラートが思案するうちにも有利の花茎は高まっていき…一際強い揺れを脚越しに与えてしまった瞬間…有利の手が惨いほどの圧搾を自分の陰部に対して与えた。
『い…たたっ!』
あれだけ張りつめた陰茎を力任せに掴んだりしたら、確かに一時的には放出を抑制できるだろうが、限界に達した瞬間止めどないほどの勢いで放ってしまうに違いない。
第一、その間の苦痛を考えれば、同じ男として陰嚢が縮こまってしまうくらいの負荷が予想される。
『…仕方ないっ!』
コンラートは革製の鞄の中から手早くあるものを取り出すと、様子を伺うようにそっと有利の手の上に自分の掌を当て…抵抗が無いのを確かめると、ベルトと前立てを素早く解き、下着をずり下げてしまう。
裾の長いコートで左右を隠し、壁沿いに密着しているとはいえ…少年の幼い性器を露出させたときにはどっと背中に汗をかいた。
「…ウェラーさんっ!」
有利が小さく叫ぶが、コンラートの方も必死だ。
こんな所を会社の誰かに見られたら、幾ら説明してもコンラートの社会的信用はがた落ちだろう。幾ら今まで信頼を置かれていたといっても、社会などそういうものだ。人気というものも、小豆相場よりも呆気なく下落してしまうものなのだから。
《電車の中で少年の陰茎を嬲っていた》…その噂一つで、コンラートの身は破滅するだろう。
だが…それでも、この少年を放っておくことは出来なかった。
片手で器用に包装を解くと、少年の花茎につるりとコンドームを被せ…根本を押さえる手を解かせた。
「…く……ぁ……っ」
「良いよ…我慢しないで、イって?」
「んぅ……っ!」
殺しきれない苦鳴が漏れそうになるのを、片手で少年の頭部を胸に押しつけ、《俺のシャツを噛むと良い》…そう耳朶に囁いてゴム越しの性器を扱いてやれば、呆気なく花茎は蜜を吐き出した。
ぴゅぐ……
びゅ……
どく……ど…っ
余程我慢していたのだろう、数回に分けて放出された蜜は見る間にゴムの先端にある液溜まりを膨らませ…恍惚とした息がシャツ越しに甘く伝わってくる。
「ん…んん……」
押し殺した嬌声にぞくぞくと胸筋が震え、誰もいないベットの上で思う様この少年を突き上げ…声を限りに甘い声を上げさせたいという欲望がコンラートに襲いかかった。
だが…突き上げると言ったところで一体何処で結びつけばいいと言うのか?
『そりゃあ…やっぱり……』
やり方だけは友人との猥談で聞いたことがあるが、まだ体験したことのない菊華への責め…。慣れれば女の蜜壷以上の悦楽を与えてくれることもあるというが…
『わざわざそんなところを使うこともないだろう?汚いし…やられる方も苦しいんじゃないのか?』
『そりゃ事前にしっかり洗うさ。そんで、前戯で十分に解しといて、水溶性のローションでぬるぬるに濡らして…楽に指が2、3本入るようになりゃ大丈夫だって!なんなら俺相手に試してみる?』
以前、両刀遣いの友人が半ば真剣な眼差しで誘ってきたときも、苦笑して固辞したものだったが…。
今、コンラートは明確に少年への劣情を抱いていた。
だが…やはり少年が《実は少女でした》というような、空しい希望を抱いてしまう。排泄器を性対象とするには、コンラートの性的嗜好はこれまで舗装された一般道を走行しすぎていたのである。
背徳的な行為は笑いのネタにはなっても、実施するには抵抗感が強すぎた。
『こうはっきりと性器を確認しておいて、女の子でしたなんて言うのは虫が良すぎるよなぁ…』
実際問題、コンラートはゴム越しの、少しくたりとした花茎の感触から手を離すことに名残惜しささえ感じているのだ。
それでも、ゴムはそのままに下着やズボンを戻してやると、漸く有利は落ち着きを取り戻し始めたようだった。
悦楽に我を失っている間は焦点が茫洋としていた瞳に理性の色が戻ると、一気に羞恥の波が襲いかかってきたらしい…。
堪えきれない涙が一筋…頬を伝った。
「ごめ…なさ……俺、俺……」
「こちらこそすまなかった…。同意も得ないうちに強引に処置してしまって…。吃驚しただろ?」
「驚いたのもあるけど…ウェラーさんに、悪くて……。男のあんなとこ…普通、触りたくないよね?ゴメン…本当に、ゴメンね?」
えらい会話である。
しかも、触りたくないどころか大変その感触を楽しんでしまって、こちらこそゴメンなさいである。
絶対周囲の人間には聞かれたくないという両者の想いに応えるように、列車は先程からトンネルを通過中で、余程近くで耳を澄ませていない限り会話の内容は掴めない。
「大丈夫だよ…。心配しないで?」
「本当?俺のこと…軽蔑してない?」
「するわけない。全部薬のせいじゃないか。シブヤ君は純然たる被害者だろ?」
労るような言葉に、何故か有利は複雑そうな表情を浮かべて…切なげな眼差しでコンラートを見つめた。
「どうかした?」
「ううん…何でもない」
力無く首を振ると、有利は壁に背を預けて目を閉じた。
一度達したことで少しは楽になったのだろう。
「ゴム…そうしておけば、降りるまでは何とかもつだろう?それに、次の駅だと色々裏事情に詳しい友人がいるんだ。ちょっとメールで呼びつけておくから…病院に行きたくないのなら、そいつに何とかしてもらおう」
「本当?」
「ああ…」
ガタン…
ガタタン……
暫くの間、二人の間に会話はなく…車両の軋む音だけが猛々しく空気の中を満たしていくのだった。
有利side:4
コンラートの手の中で、イってしまった。
その瞬間には、羞恥や抵抗感を遙かに上回る恍惚とした悦楽に溺れてしまった。
嬌声を殺す為に噛みついた青いシャツは清潔で…仄かにシトラス系のコロンが薫ってとろりと意識を蕩けさせる。そして、揺れの為に頬が押しつけられた胸壁からは、逞しい筋肉の盛り上がりが伝わってきて肉欲をそそる。
有利の花茎を扱く大きな手は少し冷たくて、熱く火照る自分との差異も手伝って酷く有利を興奮させた。
『気持ち…良い……っ』
泣きたいくらい、気持ちいい。
ずっとずっとこうして…コンラートの腕の中に包み込まれて達し続けていたい。
節くれ立った…けれど、長くて形良い指を絡ませ、こんなゴム越しではなく…直に触れてぬるつく先端を果実を潰すみたいにぐりぐりして欲しい…。
「良いよ…我慢しないで、イって?」
セクシーな声に耳朶を犯され、とうとう我慢しきれずに頂点を迎えれば…止めどなく溢れる蜜がゴムの先端を恥ずかしいほどの量で満たしてしまう。
気持ちいい。
今までしてきた数回の自慰など比べ物にならないくらい、気持ちよかった。
我を失うほどの浮遊感と、いまだにじんじんと下腹に響く甘い感覚にうっとりと息を漏らし…ぺろりと舐めずる舌が淫靡に朱花の唇に艶を与えた。
だが…淫蕩な娼婦のように快楽を堪能していた有利も、性的オーバーシュートの頂点から静止電位まで興奮が回復すると、いつもの羞恥心に満ちた少年に戻ってしまう。
すると…沸き上がってくるのは、ぞっとするような罪悪感だった。
「ごめ…なさ……俺、俺……」
ほろりと涙が溢れてしまうのを、《狡い》と思うが止めることが出来ない。
こんな風に泣いたら、有利は被害者になってしまう。
有利を思って恥ずかしい行為を手伝ってくれたコンラートに、罪悪感さえ与えてしまうかも知れない。
案の定、コンラートは詫びの言葉を口にして、病院に行きたがらない有利の特別処置さえ講じてくれた。
『ウェラーさん…そっち系の趣味とかなさそうなのに、勃ってる男のチンコなんか触って…挙げ句に自分の手の中で射精されるなんて…ショックだったろうな……』
有利が逆の立場なら、流石に不快感に耐え切れないと思う。
途中で、悪いと思いつつも放り出してしまうのではないだろうか?
不意に訪れた沈黙のせいもあり、有利は考えなくても良いことを考え始めた。
例えば…コンラートと有利が逆の立場であったとしたらどうだったろうか?
コンラートが媚薬を盛られ、到達しそうな辱めに耐えているとき…有利は放置することが出来るだろうか?
『………………あれ?出来ないな……』
自分でも驚くほど躊躇無く、何とかしてあげたいと思いそうだ。
では、相手が村田や、他の親しい友人だったとしたらどうだろう?
気の毒には思うが…自分で扱こうとするのを隠してやったり、ハンカチを渡してやったり位はしそうだが、有利の手で到達させてやろうとは思えない。
だが…コンラートのものなら素手で包み込んででも、気持ちよくいかせてやりたい。
先程…有利がそうされたように…。
『……あれれ?』
もやもやと妄想の渦が有利の頭蓋内を満たし、収まりかけていた情欲が花茎に火をつける。
『俺…この人を、イかせてあげたいとか…思ってる……』
それは、救いなどではなく…個人的な欲望ではないか。
『俺…は……』
こんな状況の中で、有利は…コンラートを、肉欲を含めた意味で《欲しい》と思っている。
それは媚薬のせいと言い切るには、変質者に煽られていたときとの感覚の性質が違いすぎた。
どれだけ不快でも生理現象として興奮していた時と違い、コンラートに包み込まれた花茎は幸福感さえ感じて勃ち上がり…悦びの雫をこぼしていた。
『俺…好きなんだ……この人のこと……』
『そんな意味で、好きになっちゃったんだ……っ!』
胸に切なく込み上げる甘い感情は、許されざるものであった。
先程までのような、単に媚薬に肉体を支配されていたことによる性感の暴走など比較にならないくらい罪深い感情だ。
コンラートは、告白しても酷い言葉など投げかけないだろう。
だが…きっと大人の態度で諭すに違いない。
『あの異常な状況の中で俺相手に、肉体的な快感を感じてしまったから、きっとそれを恋と間違えているんだよ?シブヤ君はまだ若い…きっと、俺なんかよりもっと素敵な子が見つかるから、俺の事は忘れた方が良い…』
そして…街で偶然見かけるようなことがあっても、優しげに手を振り…でも、歩測は緩めずにその場を去るに違いない。
有利の縋るような眼差しに、
『ああ…この子はまだ俺のこと好きなんだなぁ…』
そう困惑しながら。
それに、コンラートはドイツにある本社から期限付きで日本の支社に出向していると聞いた。あと半年もすればまた本社に戻るのだと…。
そして、有利とのことは日本でのちょっと恥ずかしい思い出として胸にしまい、経歴と美貌に優れた申し分のない女性と結婚して順風満帆な人生行路を突き進むに違いない。
こんな島国の片隅で、少年相手に道を踏み外すような人ではないのだ。
『絶対…気づかれちゃ駄目だ…っ!』
気づかれさえしなければ、もしかしたらドイツに戻る前に一度くらい会えるかも知れない。
別れ際に《お礼がしたいから》とでも言えば、連絡先くらいは教えてくれるだろう。
そして、酒を交えない席で夕食やなんかを食べながら、《あの時は大変だったね》と、秘密を共有し合う者独特の笑いを浮かべ、楽しいひとときを過ごせるに違いない。
そして…いつか彼がドイツに戻る日、有利は一人泣けばいい。
この想いが、会えない日々によって風化していくことを願いながら…。
『それが一番良いんだ…』
俯いた有利の頬を、涙が再び流れていった。
* * *
次の駅で降りたとき、有利は足下がふらついていた。
学生鞄で懸命に隠しているが、その花茎は乗車中にもう一度達しており、今は吐き出す物のない状態ながら、腹を打ちそうな勢いで反り返っている。
耐え難い羞恥と、叶うはずのない恋への痛みに耐え…有利はふらつく脚を懸命に駅のホームに下ろした。
「もう大丈夫…。ほら、あそこに俺の友人が来ている」
コンラートに肩を支えられながらホーム内を見渡すと、癖のある笑顔を浮かべて、体つきの逞しい男性が佇んでいた。
長身のコンラートより更に何pが大きいだろう背丈…そして、この寒い時期にもかかわらず腕を出した衣服からは逞しい上腕二頭筋や、腕橈骨筋が鮮やかな筋溝を為している。こんな状況でなければ、即、草野球チームにスカウトしたいところだ。
やや上がり気味の鼻筋のために、容貌は美麗と称するには難があるが、その分、眦が垂れ気味の蒼い瞳や、口元から覗く長めの犬歯が男らしい野性味を漂わせている。
鮮やかなオレンジ色の髪を靡かせながら律動的に駆け寄ると、その友人…グリエ・ヨザックという男は意外と優しげな眼差しで有利を見た。
「話は大体メールで見たよ。災難だったな…坊や」
「すみません…ご迷惑おかけします、グリエさん…」
「ん、礼儀正しい子だな」
「えと…言葉遣いとかはあんまり良くないって言われるんですが…」
「あはは…そういう事じゃないさ。人として、押さえとかなくちゃなんないところが出来てる子は好きなんだよ。俺にも好みってものがあるしな。お前さんは結構可愛いし…こりゃちょっとした役得かも」
そう言ってヨザックが有利の身体を抱き上げると、突然のお姫様抱っこに有利は激しく抵抗した。
「…何を!?」
「すぐに車の中で抱いてやるよ。なに…俺は上手いぜ?」
「おい…何をするつもりなんだ?」
コンラートも顔色を変えてヨザックの肩を掴むが、彼は《心外だ》とでも言いたげに眉根を下げた。
「だってコンラッド…あんた、何とかしてくれって泣きついたじゃないか。だから何とかしてやろうって言ってんじゃないか」
「だから…何をするというんだ?中和剤があると言っていただろう?ここで出来ないのか?」
「あんたねぇ…俺だって流石に公開セックスまでは出来ねぇよ?捕まっちゃうじゃん」
「な…っ」
《公開セックス》…その信じがたい言葉に、有利もコンラートも絶句してしまった。
「あのな?多分、この坊やが盛られた薬は《サキュバス》っていう、男用の強烈な催淫剤だよ。こいつは精液を大量に吸収しないと、数時間で気が狂いそうになる。実際、この子はもう限界に近い。薬を盛られて30分…そろそろ、ただイくだけじゃ満足感が得られなくなってるだろう?」
図星だった。
コンラートに最初にイかされた直後はある程度落ち着いていたのだが、次第に身体中が敏感になり、シャツと乳首が擦れ合う感覚にさえ耐えきれなくなって、2度目の絶頂を迎えてしまったくらいだ。
しかも…吐き出す精液の補充が間に合わないのか、イくこともできずに悶絶している間に、有利の身体は信じられないような場所をひくつかせていた。
後ろの…窄まった場所を、弄りたくてたまらなくなっている。
それこそが《サキュバス》の特性なのだとヨザックは言う。
「普通、男は濡れないもんだ。だからこそやるときにはとろとろになるくらいローションを塗るもんなんだが…《サキュバス》を注入されると、腸壁の杯細胞が粘液を活発に出すもんだから、そのうち濡れやすい女のアソコより盛大に濡れ濡れになる筈だぜ?もうそうなったらとてもこんなトコに立ってなんかいられないさ…。擦りあげられたくて気が狂いそうになる…。だからこそ、その怪人とやらはやすやすと被害者をレイプし、心神耗弱状態になったところをカメラで撮影して口封じが出来たんだろうさ。まぁ…写真がなかったにせよ、年頃の男の子があられもなくヨガって男のモノをぶち込まれたなんて、とても相談なんか出来やしねぇだろうしな…」
ヨザックは色々と性的な経験は豊富そうだが、怪人とやらの犯罪に対しては流石に強い嫌悪感を覚えるのか、吐き捨てるように言った。
なお、この《サキュバス》はこれまで日本には入ってない薬だったのだが、アメリカではこれを使った性犯罪がかなり起こっており、ある程度警察にも情報が入っているそうだが日本ではそこまでの理解はない。
相談したところで実効的な対応など出来ないばかりか、変質者に触られてイくということは、被害者もそれなりの好き者なのだとさえ判断されてしまう。
「男相手の性犯罪ってのは、日本でも案外数は多いらしいけどな…殆どが誰にも相談できずに苦しむことが多いらしい。坊や…お前さんは運が良いぜ?」
「でも…グリエさん…い、いいです…。俺、自分で何とかします……。精液を吸収しなくちゃなんないって事は、俺のだって良いんでしょ?俺…ウェラーさんにコンドーム被せて貰ってたおかげで結構精液溜まってるから…の、飲んでみます……」
かなり気持ち悪そうだが、薬だと思えば何とかなるだろう。
だが…ヨザックは呆れたように嘆息した。
「無茶言うな。飲んだりしたら、蛋白質なんだから普通に消化されちまって、とても《サキュバス》の解毒なんて出来ねぇよ!直腸の奥の方に注いでやんなきゃ無理だって!」
通常、消化管から吸収された栄養素は門脈に集められて肝臓に行き、そこで代謝される。だが、直腸から吸収されたものは肝臓に行かず、腸骨静脈系から直接下大静脈に注ぐため、身体を一回りしないと肝臓に行かないのだ(この為、幼児などに少量の薬で効果を上げたい場合には座薬を用いる)。
だからこそ、《サキュバス》の解毒には直腸への精液注入が必要なのだとヨザックは言う。
「自分でぬちぬち入り口なんか弄ってたら、それこそ発狂しちまうぞ?」
「でも……っ!」
有利は精一杯腕を突っ張ってヨザックの腕から逃れようとした。
彼が欲望からではなく、親切心から言ってくれていることは確かだった。
だが…いくら叶わぬ恋とはいえ、好きな人の目の前で他の男に連れて行かれ…抱かれることは耐えられなかった。
けれど…有利のかそけき抵抗など猫ぱんち程度にしか効いていない様子で、ヨザックは有利を抱えたままガレージへと向かう道をサクサク進んでいく。
その間にもヨザックは悪戯に有利の性感を煽り、擦れ違う人々の好奇の目が逸れた瞬間を狙っては、往来でもたらすには際ど過ぎる愛撫を仕掛けてくるのだった。
「シブヤ君…」
呆然として佇むコンラートの面は蒼白で、薄く形良い唇も色を失って戦いていた。
親切で優しくて…大好きな人。
コンラートの姿を目にした途端…有利の瞳からぼろぼろと涙がこぼれ落ちた。
好き…大好き……。
出会ってまだ1時間しか経っていないけれど…今まで出会ったどんな人よりも、彼を好きだと思う。
でも…だからこそ、縋ってはいけない人だ。
そう思うのに…弱くて切ない心がきゅうきゅうと締め上げられ、愛しい人の姿を視界に納めようとしてしまう。
《あなたが欲しい》
《他の誰でもない、あなたに抱いてほしい…》
その言葉は決して口にはしないから、せめて許して欲しい。
ヨザックに抱かれている間…コンラートに抱かれていると錯覚することを。
観念したように有利が抵抗を止め、ヨザックの首に細い腕を回した瞬間…。
コンラートの手がヨザックの肩を掴んだ。
「ん…?何だよコンラッド……」
「駄目だ…」
「はぁ?だから、俺だって別にこの子を苛めたくて言ってる訳じゃないんだぜ?気の毒だと思うからこそさぁ…」
「駄目だ…っ!」
コンラートは胸一杯…大きく息を吸い込むと、意を決したように告げたのだった。
「この子は…俺が抱くっ!」
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