「淫魔再び」−1
「グウェン…俺、淫魔に取り憑かれたみたい……」
弟と主君から伝えられた台詞に、フォンヴォルテール卿グウェンダルは絶句してしまった。
昨夜、悪夢のような性行為を強要されたというのに、この上またなのか…!
「も…駄目……ぇ…」
有利はこて…っと執務机に上気した頬を押し当てると、艶かしく息を吐きながら両手を股間に押し当てて上下させている。あろうことか、この神聖なる執務室で王が…臣下の目も憚らずに自慰をしているのだ。
「な…なにをしているっ!?執務中だぞ!」
グウェンダルの怒声に有利はびくりと震え、何とかして手を止めようとしたようだが…一度触れてしまった箇所が熱く爛れるような性欲を感じさせるのか、ぽろぽろと涙を流しながらも淫靡な動きを続けている。
机の影になって具体的に何をしているのかは分からないのだが、まだ濡れた音はしないところから見て、布越しに擦り上げているのだろう。
「ごめ…グウェン……。こ、こんなとこで…俺、したくないのに…恥ずかしいのにぃ……手が、とまんないよぅ…」
「グウェンっ!」
コンラートは珍しく眦を釣り上げてグウェンダルを睨め付けた。彼もまた情欲に煽られて凄絶な色香を漂わせているが、こちらは鉄の意志で押さえ込んでいるのか、何とか軍服の上からは変化を見て取ることは出来ない。
「淫魔に侵されてのことだろう!?ユーリは病気なんだ。それを…粗相をしたからと責め立てるのは酷くないか?」
「む…む」
彼もまた責め苦を受けているからこそ、怒りを押さえられないのかも知れない。
グウェンダルが気まずげに言い淀んでいるのを一瞥すると、素早く机の下にしゃがみ込んで…有利の微かな抵抗など事も無げに払うと、露出させたらしい淫部に舌を這わせる。
ぴ…ちゃ……っ
「凄い…蜜がこんなに滴ってる。辛かったね…ユーリ」
「駄目…ゃ…こ、こんなとこで……。グウェンもいるのに、執務室なのにぃ…」
ひく…ぇく…っと泣きじゃくる有利は、そうは言いつつも熟練したコンラートの舌戯に絡め取られて濡れた吐息を漏らしてしまう。
「ひ…ゃあ……っ…ん…」
「気にしないで、ユーリ…。これは治療だからね…」
「れも…おれぇ……おう、さまぁ……っ…こんな…こんな、ゃあ…っ……恥ずかしいよぅ……」
子どもみたいにあどけなくしゃくりあげる声は、受けている愛戯との差違が激しすぎて…それ故に、グウェンダルの良心と欲望とを刺激してしまう。
グウェンダルも媚薬に煽られている間の、焦りつくような…もどかしいような責め苦を既に知ってしまっている。幾ら公的な執務室の中とはいえ、一度勢いがついてしまった若い身体は止めようがないのだろう。
「ゴメンなさい…ゴメンなさいぃい……。グウェン…ケーベツ、しないで…っ…。おれ…おれぇ……っ」
何度も何度も啜り泣きながら《ゴメンなさい》と繰り返す有利は、まるで虐待を受けている子どものようだ。グウェンダルに嫌われたくなくて…でも、淫火に炙られていく身体を持て余して噎び泣く少年を、無碍に扱い続けることなど流石のグウェンダルにも不可能であった。
「軽蔑など…していない」
そう言うと、今頃になってカーテンが全開であることに気付くと、慌てて窓辺に駆け寄って閉めた。それは、この部屋で行為を続ける事を黙認するのだと知らせる動きでもあった。
「グウェン…」
なるべく弟と魔王の痴態を目にしないよう気を付けながら、出来るだけ冷静な声を心がけて発言する。
「コンラートの言うとおりだ…それは、治療なのだ。私は部屋を出るから…落ち着くまでは、そのまま治療を受け続けるがいい。それに、コンラートも堪えてはいるが限界だろう?治療も…してやれ」
「うん…うんっ!ありがと…グウェン……」
だから、《そんなに甘い啼き声をあげるな》と言いたい。
ちいさな紅い舌がぴちん…と口腔内で跳ねる様が、口淫を受けた感触を思い出させてしまう。
熱く濡れて…意想外に巧みであった舌遣いは、コンラートの仕込みが如何に丹念であるかを物語っていた。
あの少年は無邪気で愛らしく、性的なことなど何も知らないような顔をして、その実…肉体は見事に爛熟し始めているのだということを、嫌でも思い出すではないか。
『昨夜…あの可愛らしい舌が…唇が、私の精液を受け止めたのか…』
れる…
ちゅぶ……
舐め、擦り…巧みに吸い上げる唇の動き、あえやかな甘い吐息…しなる白い肢体。
上目づかいに見上げた眼差しの愛らしさと、ちいさな形良い唇に銜えた凶暴なまでの雄蕊との対比が、グウェンダルの淫部を燃え立たせていく。
あの幼さをとどめた美貌に、グウェンダルは雄の性を浴びせかけさえしたのだ…。
申し訳なさと共に、例えようもない背徳心が込みあげてグウェンダルの心を犯した。
至高の美を誇る双黒…それも、(こっそり)唯一無二の王と仰ぐ有利を己の欲で汚すことに、二律背反した悦びを確かに感じていたのである。
『い…いかんっ!』
滾っている場合ではない。
今は一刻も早く、この気まずい空間から脱出しなくては…。
しかし、グウェンダルの自制心を破壊する勢いで甘い声があがる。
今度は…弟の嬌声だ。
「あ…っ…」
《だからどうしてお前は無駄に色気があるのだっ!》
声を大にして言いたい(絶対言えないが)。
普段はにこやかな笑顔の影に巌のような理性を秘めているこの男も、相手が有利ということで、誰人も踏み込ませないやわらかな部分まで晒しているのだろう。
「ユーリ、俺は良いから…」
「だめ…グウェンにも頼まれたもん。それに、ほら…あんただって凄い…。濡れて、溢れて…《舐めて?》ってお願いしてるみたいだよ?」
「ユーリ…」
「ん…コンラッドの、おいしい……」
ちゅぶ…
淫魔に煽られているのか、それともグウェンダルの許しが出たからなのか…有利はコンラートよりも積極的な行為に出て、尻込みする恋人を小悪魔的な魅力で煽ってすらいる。
「んん…っ…」
ちら…っと、ついつい好奇心に負けて振り返ると…弟は白皙の肌を淡紅色に染めて、傷だらけの手で口元を押さえている。その様は普段の飄然とした彼からは想像もつかないほどに切迫し、そのせいか…この上なく艶やかに見えてしまう。
いつもはきっちりと着込まれた軍服の前立てが緩められ、露出させられた雄蕊を腹を空かせた仔猫のような有利が舐めしゃぶっている。
ぬぷ…
じゅ…ぷぐ……っ
しとどに濡れた蜜液と唾液が絡み、淫音を奏でながら愛撫が深められていく。有利もコンラートを思いやりつつも我慢できなくなったのか、おしゃぶりを続けながらも盛んに左手を使って花茎を慰め続けている。しかも…雄蕊を支えていた右手もいつしか双丘の谷間を辿り、もどかしげに蕾を弄ろうとしていた。
白い下肢に絡みつく漆黒のズボンと紐パンが、淫靡さをより際だたせる。
しかし、コンラートはこんな状況でも恋人への配慮は決して失わないらしい。我が弟ながら見事な過保護ぶりである。
「駄目です、ユーリ…濡らしてもいないお尻を荒っぽく弄ったりしたら、後で大変ですよ?」
「れも…ここ、ローションとか、らいし…」
くぐもった声には切迫感が漲り、お尻を開発されている有利は、今や花茎での到達だけでは十分な充足を味わえないのだと知れる。自ら蕾へと挿入した指はしかし、最奥を暴くことはもとより、感じやすい肉粒にも到達できないようで、形良い双丘をもどかしげにふりふりしている。
『ユーリは…コンラートの手で、淫部を女にされているのか…』
ごく…っと飲んだ唾液は、妙に粘ついていた。
「俺がしっかり舐めてさしあげます」
「れも…」
「ね…お尻、出して?」
「ん……っ」
コンラートは有利をふわりと抱きかかえると執務机に這い蹲らせた。そしてがっしりと双丘を掴むとぱくりと割って紅い舌を這わせる。
ぬらりと光る舌が出し入れされるたびに、あえやかな嬌声が有利の喉を震わせた。
「ゃあ…ぁんっ!も…良いから…挿れてぇ…っ!」
有利の叫びにぎくりと背筋を震わせると、グウェンダルは漸くのこと脚を動かし始めた。主従の痴態にうっかり見惚れてしまっていたのだ(気が付いたらかなりのガン見状態だった…)。
「そ…れでは、失礼する…っ!」
転びそうになりながらもたつく足取りで退室しようとしたが、そうは問屋が卸さない。
「ゃああ…っ!お…きぃい……っ!!」
喜悦に満ちた嬌声があがり、淫らな水音がぐちゅりと鳴るのを聞いた途端…ドクンと身体の中で疼くものを感じた。
先程までの、じわじわと迫り上がるような感覚とは違う。
これは…一体…?
『まさか…っ…』
ばくばくと弾む鼓動は、胸の中だけでしているものではなかった。あろうことか、もうひとつの心臓を得たかのように、下肢の中心にもそのリズムを感じるのである。
『私も…淫魔に取り憑かれているというのか!?』
愕然としたグウェンダルは一瞬動きを止めてしまったが、そうであれば余計にこの場から立ち去らなくてはならない。このまま理性を手放したりしたら、王や弟がどうなってしまうか分からないではないか。
『取り返しのつかないことになる前に、早く…っ!』
しかし、開けようとした扉の向こうから控えめなノックの音が響いたかと思うと、覚えのある部下の声が聞こえた。
「定時報告です。入室してもよろしいでしょうか?」
「…っ!」
そうだ。血盟城内警備上の問題と、万が一のクーデターなどを考慮して、平時には一定時間ごとに報告の兵がやってくる。このままコンラート達に執務室で性行為を続けさせたりしたら、不審に思った兵が無理にでも入って来ようとするのではないだろうか?
『…いかんっ!』
コンラートと有利が恋人同士であるという事実は、兵達の間では殆ど知られていない。グウェンダルとて昨日初めて知ったくらいだし、例の陛下トトとやらの情勢から考えても殆どの者が知らないのだろう。
そうであれば、嬌声を悲鳴と捉えて踏み込もうとする無駄に真面目な兵がいるかもしれない。あるいは、美しい二人の性交に魅入られて、駄目元で参画を試みる不届き者がいないとも限らない。
グウェンダルは高ぶり始めた股間を殴打すると、苦鳴を隠していつもの声音を作り上げると、どうにかこうにか兵士を説得し、今日一日分の報告については明日確認することにさせた。
ある意味《非常事態》ゆえ、致し方ないことであろう。
* * *
『どうしよう…気持ちいいのに……』
《止まらない》…。
有利はコンラートに突き上げられながら、あまりにも貪欲な悦楽に困惑しきっていた。
貪っても貪っても飢餓感が募り、さかりのついた雌猫の如く淫欲に耽ってしまう。
いつもならコンラートの雄蕊を受け止めるだけでいっぱいいっぱいになってしまうのに、自ら濡れているような肉筒はぬるぬると雄を受け止め…窄めて、吐き出された蜜を一滴も零すまいというように収斂していく。
ぷるんと弾む花茎は先程果てたばかりだというのに、また頭を擡げて腹を打ち、かっちりと服に包まれた上体の影では、桜粒が刺激を求めて硬く痼っている。
だらしなく口角から溢れた唾液は頬を塗らし、執務机に押しつけた頬がぬるりと滑った。
はふ…
ぁふ……
荒い息を吐きながら、唾液だけではなく涙が流れているのが分かる。気持ちよすぎて…それなのに、充足仕切ることのない自分に恐れを抱いているのだ。
『どうしよう、どうしよう…まだまだ足りないよぅ…っ!』
昨夜の出来事がぐるぐると頭の中を駆けめぐる。
ああ…村田は言っていなかったろうか?
《淫魔を満足させられるくらい、みだらな姿を見せてよ》…普段しているようなセックスでは、足りないということではないのだろうか?
『でも…昨日以上にみだらとか、どうしたら良いんだよぅ〜っ!』
コンラートの肌も次第に熱を持ち、昨日の村田と同様に極めて高熱を発しているようだ。有利も同様で、執務机の冷たさが愛おしくなるほど身体が火照っている。
その時、突然ノックの音と兵士の声が響いた。
「……っ!」
ビク…っと震えたのは有利だけではなく、コンラートもまた動きを制止させて様子を見守った。彼もまた淫魔の毒に犯されて忘れかけていたのだろう。一体、自分たちがどのような状況でセックスに耽っているのかを…。
しかし、脂汗を流す有利達を庇うように、グウェンダルが応対してくれた。失礼ながら、存在を半分忘れかけていたのだが…まだ部屋から出ていなかったらしい。
彼は何とか兵士に言い含めて今日中の報告が執務室にやってこないよう取りはからってくれたが、なにやら様子がおかしい。
頬が上気して、苦み走った美貌が妖しく艶を帯びている。
零れる息も熱を含んではいないか?
「コンラッド…ねぇ、グウェンが…」
「…そうですね」
じわ…っと雄蕊を燻らされて嬌声が上がりそうになるのをなんとか堪え、有利はコンラートを促して抜いて貰った。正直、まだまだ足りないのだが…どうやら身を挺して有利達を庇おうとしているくせに、自分は一人で責め苦に立ち向かおうとしている人物を救わなくてはならない。
彼の性格から考えて、特定の相手がいない今、性欲処理のためだけに女性の都合を付けることなど考えられないからだ。
『こんだけしんどいの…一人でなんか、凌げないよ?』
そうだ。これは治療なのだ。
注射を我慢するようなものなのだ。
ただ…その注射が痛いのではなく、気持ちよすぎるのが問題ではあるのだが…。
そっと忍び寄って跪き、グウェンダルの軍服の裾を広げると…既に限界近くまで勃起した雄蕊が苦しげに前立てを圧迫している。ジ…とファスナーを開けていけば、弾かれたようにグウェンダルが背筋を反らす。
「な…何をしている、ユーリ…っ!?」
「あんたこそ何してんだよ…こんなにしてるのに、一人で何とかする気だったの?」
「放っておけ!私は…」
「だめ…良い子にしてて?」
窘めるように甘く囁き、紐パンをずらすと堂々たる質量を誇る雄蕊を露出させる。むわ…っと湯気が立ちそうなほどの熱を感じさせるそこは、やはりぬらりと濡れて蜜を滴らせていた。
躊躇いなくぱくりと口に含めば、後はどうして良いのかは分かる。目を閉じれば、少し恋人より大振りな亀頭をちろちろと舌先で嬲ったり、強く吸い上げて頂点へと導いてやる。
「止めろ…っ!ユーリ…こ、コンラートの前ではないか…っ!」
「《これは治療》…でしょ?グウェン」
多少複雑そうな響きながら、コンラートは嫉妬心からグウェンダルを遠ざけることはなかった。同じ状況であることと、兵を追い払ってくれた心遣いに感じるところがあったのだろう。
ただ、やはり兄への愛撫には躊躇するのか、床に膝を突くと有利の上着をするするとはだけていき、露出させた胸の桜粒にぬらりと舌を這わせたり、指で弄ったりしている。
すると、鋭敏なそこから甘い電流が伝わってきて、まだまだ不満を呈する蕾の奥が白濁を混ぜるようにぐじゅりと収斂した。
「んんっ…むね…ゃ、感じすぎ…っ!」
「ユーリの胸のいちごは相変わらず綺麗な色…美味しくて、たくさん食べたくなる」
「ゃああ…っ…んっ……噛んじゃ…ぁあっ!」
グウェンダルを愛撫する口も、そんな風にされると不規則な刺激になってしまう。ただ、彼としてはそれすらも予想の付かぬ刺激になるのか、気が付くと漆黒の髪を鷲づかみにされて、やや強引に律動させられてしまう。
「ん…んん…っ…」
《グウェンの…おっきすぎ…っ!》…喉奥に突き込まれる刺激に、耐えきれずに涙が溢れてしまう。コンラートのものも有利の口には大きすぎるのだが、兄のものはというとまた一回りサイズが大きい。受け手の女性が壊れてしまうのでは…と心配になるような逸物を銜えて、有利はえずきそうになっていた。
「も…ゆるひ……っ…」
とうとう赦しを請おうとして悲鳴を上げかけたとき…どくんと弾けた雄蕊からしとどに白濁が放出された。
「ふ…ぁあ…っ!!」
やはりコンラートのものではないのだと思うと苦さが先に立ち、口から出してしまったことで目一杯顔に浴びせられてしまう。雄独特の臭気を持つ白濁が、漆黒の髪や辛うじて腕に引っかかっていた魔王服を汚して、背徳的な美を醸しだしていた。
《はぁ…》と艶やかな息を吐いて余韻に浸るグウェンダルは、見惚れるほどに艶かしい。…が、一度到達したことで理性が戻ってきたのか、涙に頬を濡らして軽く咳き込んでいる有利を見て取ると、こちらが気の毒に思うくらい狼狽えていた。
「…す、すまない…っ!」
声は、聞いたことがないくらい震えていた。
* * *
『何と言うことだ…っ!』
今になって思い出す。
つい先程…有利は確かに言ったのだ。
《もう許して》…と。
なのに、自分の欲情に負けて強引にフェラチオを強要し続けたばかりか、またしても可憐な顔を精液で汚してしまった。
しかもその姿に興奮しきっている自分が情けない…。
正直すぎる雄蕊は、むくむくと頭を擡げて勢いを取り戻しつつあるのだ。
『いかん…いかん…っ!これ以上は…もう、駄目だ…っ!』
口淫を施されただけでこんなに理性を手放していたのでは、色めき華咲く王と弟を前にしてとてもまともな判断などできよう筈もない。
『まだしも理性が残っている間に、ここから出て…鍵の掛かる部屋で淫魔が去るまで耐えるのだ…っ!』
悲壮感漂う覚悟を決めたグウェンダルの耳に、この時…おそるべき声が響いた。
「しーぶーやーくーん。あーそーぼー…」
この瞬間、執務室に同席していた三名の心の声は一致していた。
ひぃいいいいいいいいいいいいいい……っっ!!
何故なのかは言うまでもない。その声の主こそは…この淫靡な情景を作り出した諸悪…いや、諸エロの根元、双黒の大賢者様だったのである。
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