「カフェで遭いましょう」−4











「喉かわいてない?」
「まだ暑い?」

 風呂を出てからも、コンラートはベッドに横たえた有利相手に甲斐甲斐しく世話を焼いた。

 予想以上に艶かしく、愛らしい姿で性を迸らせ…あえやかな嬌声を聞かせてくれた有利は、それを強いたコンラートを恨むどころか申し訳なさそうに身を縮めており、親切(…に、見える)コンラートの所作の一つ一つに対して律儀に礼をしてくれる。

「ありがと…でも、もう…大丈夫だから……」

 普段の様子からは考えられないくらい儚げな声音を零し、頬を紅潮させ…そもすれば朧に霞みそうになる双弁を何度も瞬かせる有利…。

 オリーブ色のシーツの上で藻掻くように泳ぐ腕が、くしゃりと布地を掴み…また離すのを繰り返しているのは、懸命に気を逸らそうとしているのか…。

「本当?無理をしちゃいけないよ?」

 さわ…と滑らかな頬を掌で撫でれば、ぞくりと沸き上がるのだろう悦楽に有利の背筋が震えるのが分かった。

 おそらく、限界に近いのだろう。

 時折…何かを訴えるように歯列を覗かせては、朱唇を噛みしめて堪えている。
 熱い息が漏れ出す様もかぐわしく…大きなサイズのパジャマから覗く胸元の肌は、すっかり淡紅色に染まっている。

 そのパジャマの下で、極端に布地の少ない下着…黒い紐パンは、高ぶりを隠すどころか締め付けて刺激しているにちがいない。黒布の一部を変色させ、隆と持ち上げているだろう花茎の姿が目に浮かぶようだ…。

 もう一押し。
 あと…もう一押しで、この子は堕ちる。 

 先程風呂に混ぜ込んだバスソープは母から送られたもので、恋多き母らしい効能…媚薬効果を含んだものだった。

 ただ、これは気分を盛り上がる程度のものであり…有利を直接的に追いつめたのは、引き上げられた後に飲んだ《水》の方だった。

 既にバスソープの効果でのぼせたようになっていた為に気付かなかったようだが、《水》と思わせたその液体の中には強い酒精と性欲増進効果のある薬が混ぜ込まれていた。

「ユーリ…じゃあ、そろそろ寝ようか?でも、気分が悪くなったらいつでも起こしてね?」「え……っ?」

 有利の傍らにするりと身を滑り込ませると、朦朧としかけていた華奢な身体が跳ねた。

「あ…ごめん。嫌だったらやめようか?」

 コンラートが慌ててソファに移動しようとすると、はっしとパジャマの裾が握られた。

「ソファに寝るなら…俺が……」
「いいよ、ユーリは体調も悪いんだし…。それに、やっぱり日本人は習慣として一次的接触は苦手なんだろう?幼い頃ならともかく、高校生じゃあ恋人以外に抱きしめられたりするのは不愉快だよね…」

 そう言って寂しそうに睫を伏せれば、有利は尚も強くパジャマの裾を引き…コンラートをベッドに誘い入れた。

『ああ…なんて良い子なんだろうね?』

 くすりと胸の内で嘲笑(わら)っていたコンラートの動きが、有利の瞳を目にした途端に…
 …ぴたりと止まった。

「大丈夫…だよ。大丈夫……。一緒に、寝よう?」
「………っ!」

 なんというやさしい目で見るのだろう…。
 包み込むような…奥深い漆黒の眼差し。
 真実心清い者だけが持つ力在る眼差しは、コンラートの計略に満ちた脳髄に衝撃を与えた。

 計算通りに物事が進んでいる筈なのに…どうしてこんなにも狼狽えてしまうのだろうか?

 コンラートは、自分の心の動揺をいつも通り分析しようとした。
 常に、状況を解析することで先手を打ってきたからである。 
 だが…この時は、解析の中途でその作業を停止させてしまった。

 考えることでなにか恐ろしいものに行き当たりそうな予感がして…コンラートは、生まれて初めて思考放棄という手段に出たのだ。

『余計なことは考えないことにしよう…今は、この子が手に入るかどうかの瀬戸際だ』

 がっついて怯えさせてはいけないし、引きすぎてもいけない。
 丁度良い頃合いで優しく振る舞って、《愛して》貰わなくてはならないのだから。

「じゃあ…失礼するよ?」

 そう言って同衾し、腕の中に抱き込めば…熱く熟れた少年の身体はすっぽりとコンラートの胸に納まってしまう。

『なんて小さいんだろう…』

 それは、驚くほどの感触だった。
 弾力に富んだ…成熟した女性を相手にしてきたコンラートにとっては、抱き潰してしまうのではないかという不安さえ感じさせるほどだ。

 それなのに…コンラートの身体に回された手はさすさすと背中をさすり、《ここにいていいんだよ》と言いたげに、やさしくやさしく撫でつけてくるのだった。

『この子は…俺を、安心させようとしているんだ』

 今はそれどころではない状況であるはずなのに…異境の地で孤独を感じているだろうコンラートを想い、撫でつけてくる手…。

 そのぬくもりが沁みてきて…コンラートは唇を戦慄(わなな)かせた。

 胸の奥が今まで感じたことのない暖かなものに満たされて…指先までがじんじんと震えるように脈動している。

『かわいい…』

 思うままに強く抱き込めば、声にならない叫びを上げて有利が身を震わせ…背筋を強張らせるのが分かった。

 物理的な刺激が否応なしに肉欲をそそり、熱く凝り固まった欲望の証が下着をしとどに濡らす勢いで滴っているに違いない。

『かわいそうに…』

 自分でし向けたことであるにもかかわらず、コンラートの心には灼けるような痛みが襲った。

『せめて…早く我慢しなくていいようにしてあげよう…』

 残酷な優しさでそう考え、痛みの意味を考えることから意識を逸らす。

「ユーリ…お休みの挨拶をしてもいい?」
「え…?」

 涙で潤みきった黒瞳がぱちくりと開かれている。

 微かに頷いたのを了承の合図と受け取り、すべやかな頬に口吻を送れば…有利は懸命に四肢を捩って身体を離そうとするから、気付かぬふりをして腰を強く抱き込み…唇を重ねた。

「ん…ぅー……っ」

 唇を噛みしめて抵抗していたのも束の間…。

 熱い息を吐こうとして開いた隙を突き、するりと侵入させた舌で怯える口腔内に陵辱の限りを尽くした。

 竦む舌を浚い、絡みつかせ…歯列を辿り、意外と感じやすい頬肉の狭間をちょろちょろと舌先で刺激し…ふっくりとした下唇を甘噛みしていけば、瞬く間に有利の抵抗は蕩けてしまい…理性を飛ばして口吻に応えだした。

 くちゅ…
 きゅむ……

 濡れた水音をたててかわされる交歓は、もはやキスなどという軽々しい接触ではなく…既に性交と呼べるまじわりにまで発展していた。 

「ん…んむ……ぅ……ん」

 紅をさしたような唇が唾液で艶めかしくひかり…離れていこうとするコンラートの唇を追ってくると、くすりと笑って押しとどめた。

「ごめんね…ユーリ、キスは初めてだった?これじゃ、兄弟のキスというより恋人みたいだね」 
「ぇ…え…っ!?」

 言われて…半瞬の後に我に返った有利は、真っ赤になって狼狽えた。

「ご…ごめんなさい…っ!俺…なんか…ぼうってして…っ!」

 おろおろして泣きそうになる有利の頬を撫で、宥めるように滑らせた手の先に、熱く痼る欲望の証を確かめた。

「ぅ…わ……っ!」
「…ユーリ?もしかして、まだのぼせているの?おかしいな…お風呂から上がって結構たつのに、また勃ってきてしまうなんて…」 
「俺…俺……お、おかしくなっちゃったのかな?病気とか…?」
「いや…ちょっと待ってユーリ。ひょっとして…」

 コンラートは枕元に置いた携帯電話を手に取ると、母の番号をコールした。
 そしてドイツ語で当たり障りのない会話を何ターンか交わして切った後…神妙な面持ちで告げたのだった。

「すまないユーリ…。どうも、母の悪戯で、あのバスソープに興奮剤のようなものを入れていたようなんだ…」
「興奮剤?俺…ドーピングしちゃってるの?」
「うん…折角のお泊まりなのに申し訳ない。責任をとらせて貰えるかな?」
「責任って…」
「さっきみたいに、俺にやらせて?」
「…え、遠慮しときますっ!!」

 総毛立ってベッドから飛び降りようとする有利を易々と捕らえ、如何にも心配げな顔で囁きかける。

「駄目だよユーリ…お兄ちゃんの言うことは聞かないと」
「だだだだ…だってっ!あんなの…もうヤダ…っ!!」

 羞恥というよりも明確な恐怖の色を見せて有利が叫ぶ様子に、ぢくりとコンラートの胸が痛む。

 おかしい…気持ちよくさせたはずだったのに。

 実際、この上なく艶かしい嬌声をあげて射精していたというのに…有利は二度とあんなのはゴメンだとばかりに必死の抵抗を見せる。

『…本気で、嫌なのか?』

 不安感が胸を締め付ける。
 だが…ここまで進んだ計画を途中で断念することは出来ない。

 完遂してこそ計画。
 家に帰るまでが遠足だ。

「大丈夫だから…ね?力を抜いて?」

 内心の動揺を隠し、コンラートは上掛けを剥ぐと…有利のパジャマのズボンを絶妙なタイミングでするりと脱がせてしまった…。



*  *  *




 今、なれるものなら生まれ変わりたいもの。

 第一希望、貝。
 第二希望、蚕。

 有利は今すぐにでも海岸の浜の中か、木の葉の陰に隠れ込んでしまいたくなった。

 あろうことか、初めてお泊まりした(この際、初めてかそうでないかは大した問題でもない気はするが…)お家で、あんな羞恥プレイをやらかしてしまうなんて…。

『う…うぅ〜…あんな美形男性の口でイっちゃった上に、顔一面にぶちかましちゃうなんて…っ!』

 うっかり思い出すと、ベッドの上でごろごろと横転したくなる。
 端正な面差しを汚した濃い白濁…。
 あまりにも気持ちよかった射精の代償として、あんな罪を背負ってしまうなんて…。

『でも…コンラッドって本当にいい人だよな…』

 あんなことをしてしまった有利に怒るでなし、不機嫌になるでなし…それこそ優しい兄のように(正直、実の兄より兄らしい…)、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるのだ。

『なのに…俺…まだ身体がヤバイ気がする…』

 あんなに勢いよく放ったというのに、恥ずかしい下着に緊縛されるくらいの勢いで花茎がそそり立ち、胸のちいさな突起までが硬く痼ってきているのだ。

 そんな変化を続けているなんて知られたくない…。
 しかし、先程あんな事があっただけに今更帰ることも出来なかった。
 何故なら、これで気まずいまま帰ってしまったら二度とコンラートに会えないような気がするからだ。

 大人の男性らしい落ち着きや包容力を持っているかと思うと、一方では子どもみたいに無邪気に喜びを示したり、寂しそうな表情を見せる青年、コンラート・ウェラー…。

 彼と色んな事を喋ったり、キャッチボールするのはとても楽しかったから…もうこれっきりなんて事がないようにしたいのだ。

『また約束して、キャッチボールしたり…そうだ、野球の試合にも出て貰いたいし!』

 野球馬鹿らしくそんなことを考えるのだが、ふと…《それだけなのかな?》と考えてみる。

 たとえば、いま現在同じチームで野球をしているメンバーと同じようなことがあったとして、顔射などやらかした相手にまた会いたいなどと思うだろうか?

『……ちょっと…厭かも……』

 誰の顔を思い浮かべても、その人がいる限りとても練習になど行けないと思う。
 その人が絶対に内緒にしてくれるとしても、顔を見るたびに思い出すのは嫌だ。

『顔を…見るたびに……』

 ちら…とコンラートの様子を見やると、何事もなかったかのように平静な顔つきで、明日の朝食の準備などをしている。

 あの涼やかな面差しの…意外と長い睫に掛かりそうな勢いで、欲望の証をぶちまけてしまった…。

 思い出した途端にまたしても、ど…っと血液が花茎へと集中し、脳内には形良い唇が自分の幼い欲望を含む姿が結像してしまう。

『駄目…駄目だって……っ!』

 じんじんと火照る身体をもてあまし、有利は懸命に唇を噛みしめ…シーツを掴んで気を逸らそうとした。

 折角仲良くして貰ったのに…。
 こんなに親切にしてくれる人に、穢れた欲望など抱いてはいけない…。

 そうだ、この人は村田が懸念していたような変態さんではなく、有利の身体になど興味ない人物なのだ。

『そうだよ、こんな…女の子どころか、美少年ですらない俺なんか……』

 ぢくりと胸に突き刺さる棘に、有利は苦鳴をあげた。
 いっそ、コンラートが変態だったら良かったのに…とさえ思ってしまう。

『そーだよ。変態さんだったら俺のをしゃぶったって寧ろ喜ぶくらいなもんで、あんなに困ったような顔させないですんだのに…』

 目尻を濡らす涙が、知らず頬を伝い落ちてシーツに染みを作りそうになるから…慌てて袖口で拭った。

『コンラッド…なんで、変態じゃないんだよぉ…。今すぐ、ホモになってよぉ……』

 込み上げる涙の衝動で鼻の奥が熱く、痛く…喉が迫り上がるような感触がある。

『コンラッドにとっては…俺は弟の代わりなんだもんな…。これ以上エッチなコトしたりしたら、弟って思えなくなっちゃうもんな…』

  苦しい、寂しい、辛い…。

 胸が掻きむしられるような痛みは、生まれて初めて感じる焦燥感…。
 そして、切ないような慕情だった。

『俺…コンラッドのこと……好き、なのかも……』

 こういうのが好きというのかどうか、まだよく分からないが…少なくとも、同級生の少女に抱く淡い思いなどとは様相を異にする、強くて直裁的な欲望なのは確かだ。

 コンラートと、親しく付き合っていたい。
 二人きりでお喋りがしたい。
 コンラートに自分の欲望を高めて貰い、コンラートの欲望を高めてやりたい。

 風呂場で自分がされたみたいに、コンラートのものを含んだり擦ったりしたら、どんな顔をするのだろう?彼もまた自分と同じように喘ぎ、白濁を放つのだろうか? 

『うわ…』 

 あの美麗な表情が悦楽に上気し、うつくしい琥珀色の瞳が蕩けそうな色彩を呈する様を想像すると、それだけでイってしまいそうになる。

『駄目、駄目……なのに……っ』

 苦悶に歪む表情を枕に隠し、手の甲に跡がつくくらい爪を立てていたら…有利の上に影が落ちた。
 コンラートが、ベッドに上がろうとしているのだ。

『うひょぇええ!?』

 時刻は11時を廻ったところ。
 お風呂にも入って他にすることもなく、明日は野球をする約束をしている…。
 と、なれば当然のことながら眠る時刻であろう。

 そして、豪華なこのマンションにも流石にゲストルームまでは設けておらず、眠るとなれば当然このベッドに横たわるしかない。

 よりにもよって…先程あのようなことがあった者同士で…。

『ぅわ…っ!』

 びくりと身体が跳ねるのをどう思ったのだろうか…コンラートは詫びると、ソファに寝ようとした。
 それを引き留めたのが真心だったのか、抑えの効かない欲望のせいだったのかは分からない。

 だが…少なくとも、コンラートに寂しそうな顔をさせるのだけは嫌だった。
 それだけは…どうしても嫌だった。

 だから…まっすぐに向けた眼差しで、彼を拒絶などしていないことだけを懸命に伝えようとした。

『ここにいて』
『傍にいて…』

 好きになってなんて言わないから。 
 せめて…あなたを厭うてなどいないことを信じてほしい。

 その眼差しに、一瞬…コンラートが不思議な表情を浮かべた。

 けれど、その意味を捉える間もなくコンラートは有利を抱きしめ…そして、限界間近の有利には酷とも言える《挨拶》を仕掛けてきたのだった。

『…無理………っ!』

 頭のどこかで、警鐘を鳴らすような音がした。

 けれど…それは何一つ具体的な行動に結びつくことなく、有利はコンラートにされるがまま激しい口吻を受け入れ、翻弄され…とうとう欲望にまで気付かれてしまったのだった。

 そして、あろうことか…コンラートは高まってしまった有利の欲望を、風呂場でしたのと同じように処理してくれると言う…。

「駄目だよユーリ…お兄ちゃんの言うことは聞かないと」
「だだだだ…だってっ!あんなの…もうヤダ…っ!!」

 親切にも程があるというものだ。

『そーゆーの…余計に残酷だよコンラッド…っ!』

 有利のことを好きなわけではないのに…弟のようにしか思っていないのに、セックスめいたお世話までしてしまうのは流石に行きすぎである。

 本気で嫌がってベッドから転がるようにして拒絶したのだが…
 恐るべし、ドイツ人の親切心。

 …拘束され、とうとうパジャマのズボンを剥ぎ取られてしまった。
 先程までぬくぬくと肌掛けに包まれていたせいもあり、身に纏うものを剥がれた肌は酷く外気に敏感になっている。

 いや…それだけではない。

 灼けるような注視に晒されることで、硬く張りつめた花茎は…黒い布地からふとした弾みで逸脱しそうな勢いを呈して、ふるふると雫をこぼし続けていた。

「ああ…これは、辛かっただろう?早く言ってくれたら良かったのに…」
「言…えないよ……」
「お兄ちゃんには言えないの?」

 拗ねたような口ぶりに、目の奥が熱くなる。

「言えるわけないだろ、こんなのっ!恥ずかしいじゃんか…っ!好きでもない人に見せるようなもんじゃないよっ!!」

 正確には、《俺のことを好きじゃない人》になるのだろうが、今の有利にそんな用語的な正確さを求めることなど不可能であったろう。

「…そう?」

 コンラートの声は笑みを含んでいるのに…酷く冷たく感じた。

 何が琴線に触れたのかは分からない。
 だが…コンラートがえらく怒っているらしい事は明瞭だった。

 何か黒々とした気配が彼の後背から漂い…有利の手首を拘束する指が、痛いほどに食い込んだ。

「いけない子だね、ユーリ。お兄ちゃんの言うことは聞くものだよ?」

 つぃ…と微笑むその顔は、まるでいま初めて見る人のようだった。

「コン…ラッド?」
「楽にしてあげるよ…」

 冷たい唇が熱く火照った胸元の皮膚に触れると、もうそれだけで甘い電流が奔り…ぷくりと痼る胸の突起を人差し指の腹でころりと弄られれば、明瞭な硬度にくすくすと笑われてしまう。

「こんなにしておいて…どうやって我慢するつもりだったの?」
「……寝ちゃえば…大丈夫かと……」
「3秒目を瞑れば眠れる…なんて特技でもない限り、それは無理だと思うな」

 こりり…と痛いくらいに突起を捏ねられて悲鳴を上げたら、詫びるように濡れた舌が含み込んできた。
 だが、やっていることは指以上にたちが悪い…。

 ちろちろと舌先で先端を擽り、やわやわと甘噛みされれば…えもいえぬ快感に花茎は限界を迎えそうになる。

「そろそろかな…?ほら、イってごらん?」
「ゃ…いや…っ!」

 頭髪を振り乱しながら必死で下肢を閉じようとするのに、対して力んでもいないようなコンラートにやすやすと大腿を割られてしまう。

『や……見てる……っ!』

 すっかり色を変えてしまった下着越しに、はっきりそうと分かる勃起した性器を見られている…。
 恥ずかしくて死んでしまいそうなのに、コンラートの視線を想像すると…花茎はますます反り上がって、誘うように雫を零すのだった。

「苦しいんだろ?我慢しなくて良いんだよ…」

 悪戯な指にぷにぷにと布地越しに花茎の先端を押されれば、じゅ…っと溢れる蜜が指の腹を濡らすのが分かった。

「ふふ…美味しそうに熟れているね。また…舐めてあげようか?」
「駄目…っ」
「意地っ張りだね。ほら…ここはもうこんなになってるのに…」

 一際強く鈴口を擦られた瞬間…有利はとうとう我慢しきれずに欲望を解放してしまった。

「ひ……ぅく……っ!!」

 ぷしゃあ…っ!
 びじゅ…!

 下着の中で放たれた白濁は解放口を失い、惑うように跳ね返って有利の股間や下腹を濡らした。

「ぁ………っ……あ……っっ!!」

 びくびくと震えながら吐精する有利は、溢れ出す涙で頬を濡らした。

『こんなの…やだよぅ……っ!』 

 だが、コンラートはそれだけでは赦してくれなかった。

 下着の隙間からするりと大きな手を挿入させると…たっぷりと吐き出された白濁を拭い取るり、あろうことかそのままくちくちと泌孔の入り口を弄り始めたのである。

「コンラッ…っ!?そ、そこ…汚いよ……っ」
「お兄ちゃんって呼んでくれるんじゃなかったの?」
「ひぁ…っ!」

 ぐじゅ…と濡れた示指を二節分ほど突き込まれれば、自分ですら知らない粘膜のぬめりに吃驚してしまう。
 どう考えても吐きたくなるくらい気持ちが悪い行為の筈なのに…肉壁はまるで指を歓迎するように蠢き、うねうねと淫らに脈動して擦られる悦びに踊るのだった。

 しかも、差し入れられていない他の四指や掌もじゅるじゅると白濁を纏い、マシュマロのような袋や感じやすい会陰部を擦り上げてくる。

「これだけじゃ足りないかな?もっとぬるぬるにしておこうね…」
「なに…を……」

 コンラートは片手でベッドサイドのスタンド台から化粧品のような瓶を取り出すと、器用にキャップを開けて…下腹から泌孔の入り口に向かってたっぷりとローションのようなものを流し込んだ。

「冷たい…?でも、ほら…これで2本入れても苦しくなくなったね…」
「ゃ……っ!」

 コンラートの言うとおりだった。

 熟した女芯のように蕩ける泌孔は幾度が抜き差しされると、ずっぷりと根本まで指を受け入れても最早苦痛など感じさせず、寧ろ…濡れた肉欲を明瞭に感じさせるのだった。 

 にちゅ…
 ぐち……じゅ……

「いやらしい音がするね…。ほら…分かる?ユーリのここは、俺の指を美味しそうに銜え込んでいるよ…」
「ぅ……うぅ……っ」

 気持ちいい。
 でも…気持ち悪い。

  いいように翻弄されながらも…有利の中にはふつふつと沸き上がってくる不満がある。

『こんなの…まるでセックスじゃんか…っ!』

 自分を好きではない人に、まるでからかうみたいに性欲を弄ばれるのは我慢ならない。

『こんちくしょーっ!!』

 有利は最後の賭に出た。

「ならぁっ!!」

 渾身の力を込め…コンラートの肩を蹴り飛ばす。

 だが、その結果…
 ……ごろごろごろっとベッドから転げ落ちてしまった。

「ユーリ!?」

 心配げなコンラートの叫びを受けても、有利の怒りは止まらなかった。

「いい加減に…」

 地の底から這い出すような低音で唸ると、肩を怒らせて絶叫した。

「…しろーっっ!!」

 きしゃあーっ!子猫のように毛を逆立てんばかりにして叫ぶと…コンラートがぱちくりと目を見開いて、呆然とした顔でこちらを見つめてきた。

  

 そして…突然何かに気付いたように、蒼白な表情になったのだった。





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