「カフェで遭いましょう」−3
純粋で、考えるよりも先に行動して…思ったままに泣き、笑う…そんな有利が眩しいのと同時に、酷く妬ましかった。
それらは全て、コンラートには無いものであったからだ。
コンラートは日本に来てから、問題なく仕事と日常生活を営み…特に不安もなく、特に欲しいものもなく…その代わり、ただ淡々と日々を過ごしてきた。
いや…ドイツにいた頃からそうだったのかも知れない。
器用な達で、才能にも適応性にも恵まれていたコンラートは何処に行っても多くの人々に受け入れられ、愛されてきた。
だが、コンラートが心から誰かを《愛しい》と思うことはなかった。
そつなく相手をし、優しくするのだが…特に、《恋人》というカテゴリーに配することになった女性達は、そのうち気付いて寂しげに去っていった。
『私では、あなたを満たしてあげることは出来ないのね』
彼女たちが離れて行くに際して、馴染みの肉体を手放すことへの惜しさしか感じていない自分を如何なものかとは、こればかりはどうしようもなかった。
性的な衝動だけは人並み以上にあるのだが、それが愛情というものに結びついていかない。
彼女たちの存在自体には…追い求め、独占し、自分のものにしたいという《欲》が沸かないのだ。
それでも、家族のことは愛していると思っていた。
母にも兄にも弟にも…その複雑な血縁関係の割には屈託無く、愛情を向けていると信じていた。
だが…日本に転勤することになり、会う機会が無くなったとき…特段寂しいと感じない自分に愕然とした。
これまでは、所詮は血の繋がりのない《恋人》が掛け替えのない存在になるにはよほど強い絆がなければ無理なのだ…きっと、そこまで愛する人に巡り会っていないだけなのだと思っていたのに、急に自信がなくなった。
そんな折…たまたま河原で草野球に興じる人々を目にして、一人の少年に目が行った。
ひときわ小柄だが、やんちゃそうな少年…。
ころころと変わる表情の変化が鮮やかで…特に、彼が笑うとまわりの空気までが明るくなるような印象があった。
見ていると、突然…《可愛い》という気持ちが浮かんだ。
当然、予備知識も何もない中での初見であるので、狂おしいなどというレベルではなかったが…。
それでも、それはコンラートにとっては極めて珍しいことだった。
何故なら、これまでコンラートの中にそういった感情が浮かぶときには、心の中に不意に浮かぶのではなく…記憶と照合して《一般的に、人はこういうものを可愛いと感じるのだ》と認識し、そして《可愛い》と口にしていたのだ。
その他の快・不快の情動一般についてもそうだった。
世間で快・不快とされているという《知識》に照らし合わせてそう判断しているだけで、コンラート自身が強くそう感じるというのは《痛い》《冷たい》などの体表感覚や深部感覚に関わる領域であり、特殊感覚…ことに、視覚・聴覚からの情報が情動に絡むことはまず無かった。
そのコンラートが、初めて記憶との照合なしに、本能的に…瞬発的に、《可愛い》と感じた。
コンラートは、不意に思いついた。
この事例を取り上げて、実験をしてみようと。
『この子を、《愛して》みよう』
心と身体を手に入れて、蕩けるほど愛してみよう。
そして彼からも愛されれば、自分は欠けたところのない人間になれるかも知れない。
けれど、もしも失敗したら…
やはり、《愛おしい》と思うことが出来なければ…
…その時には、二人の間には何もなかったことにして貰おう。
愛おしいのでなければ、年端もいかない少年に手を出したなどという経歴はコンラートにとって不利になるだけなので、後腐れないようにしなくてはならない。
大丈夫。別れ際は綺麗にやる。
この少年のことも傷つけたりはしない…少年の方から別れたいと思うようにさせれば良いだけの話だ。
コンラートは思いついたその足で興信所に向かい、少年の調査を依頼した。
集められたデータからも、少年がコンラートのイメージ通りの性格をしていることが分かった。
渋谷有利、17歳。高校2年生。
野球好きで、自分で草野球チームを立ち上げて運営しており、その運営費をまかなうためにカフェでバイトをしている。
お人好しで涙もろく、頭ごなしに押さえつけられると意地になって反抗するが、お願い事や素直な感謝の念には滅法弱い。
性的にはストレートだが女性よりは男性にもてるたちであり、そのことを苦々しく思っている…。
諸々の情報を加味して立てた計略は、全て上手くいったし…その過程においても驚くべき実験結果が出つつある。
コンラートの心に、《可愛い》という衝動の他にも反射的な感情が発生してきたのだ。
何の計算もなく、ただ思うままに振る舞っているのだろう有利を《妬ましい》と感じだしたのである。
その希有な素直さを何者からも護って…永遠にそのままでいさせてやりたいという衝動と、ぐちゃぐちゃに踏みにじってやりたいという獣じみた衝動とが同時に沸き上がってくる。
『ユーリ…君は素晴らしい実験体だ』
コンラートは静かに瞼を伏せると、小さく微笑んだ。
あんなにも空っぽだった領域に、極めて人間じみた感情が噴き上がり…坩堝のように化学変化を起こし続けている。このまま熟成させれば、どんな変化を起こすのだろう。
「じゃあ…一緒に入ろうか?」
にぱぁ…っ!と、満面に笑みを浮かべて有利が頷く。
自分がこれから何をされようとしているのか気付くこともなく、闊達な動作で勢いよく服を脱いでいく有利を、気付かれぬよう…そっと見やる。
思った通り、小麦色に焼けた肌とは対照的に、日を浴びることのない胸板や腿はすべやかな白い肌をしている。それに…しなやかな体つきは若木のように瑞々しく、ほっそりとした腰や首筋からは、かおりたつようなおさない色香が漂っている。
蕾のような青い頑なさと…何時の日か艶やかに咲き誇るであろう花弁の、かぐわしさを予感させる彩りが、少年の肢体に目眩を誘うような官能をまとわせている。
彼自身は微塵も気付いていないのだろう。
自分が纏う…この危なげな艶というものに、どれ程の男が魅了されているのか…。
実際、有利に出会うまでは男からのアプローチを受けることはあっても、男に対してどうこうしたいという性欲は抱いたことのないコンラートまでが、彼を見るなり肉体関係も含めて《実験課題》の中に組み込んでしまった。
いままた目の前で惜しげなく裸身を晒す有利に対しても、明らかに女体とは違う肉体構成であるにもかかわらず…コンラートは明確な欲情を抱いていた。
タオルで隠されている花茎や、白い双丘の奥に秘められた秘部を早く暴いてやりたいとさえ思う。
「お兄ちゃん…あの…やっぱり、俺と入るの嫌?」
「…え?」
微かに眉根を寄せて…有利が上目づかいにおずおずと話しかけてきた。
先程までの剣幕とはうってかわって、その眼差しは淡く濡れ…不安げな色彩を纏っている。
「あのさ…俺…すぐ頭に血が上っちゃうから、考え無しに物をいっちゃうんだけど…お兄ちゃんが本当に嫌だったら…無理にはいんなくてもいいからね?」
胸に…突如として鋭い棘のようなものを感じてコンラートは小さく呻いた。
それは、コンラートの中に最初に芽生えた想い…有利を《可愛い》と思う感情に似ていたが、また少し違うものに変化してきているような気もした。
『…なんだろう?』
強いて言えば、それは《保護欲》と表現されるものであるかも知れない。
新たに投入された感情は、坩堝の中の…特に、《無茶苦茶にしてやりたい》という獣性に挑み掛かり、組んずほぐれつの激闘を展開し始めた。
時間にすればほんの半瞬ほどであったろうが、激しい闘いに勝利したのは…僅差ではあったが、獣性の方だった。
あるいは、有利が服を着ていれば保護欲の方が勝ったかも知れないが、誰にとって残念なことなのかは不明ながら…裸体を一部タオルで隠しただけの有利は、今すぐ嘗めしゃぶりたいほど魅惑的であったのだ。
うっすらと筋肉の乗った胸板をぽちりと飾る桜色の突起は、外気に触れたせいかやや硬くなっており…舌に載せれば何処まで色づき、感じるのだろうかという夢想を誘う。
「そんなことないよ。ユーリが嫌でないなら、兄弟仁義の皮切りってやつを体験してみたいしね」
心中の穢れた欲情を微塵も浮かべることなくさらりと言ってみせる自分に、呆れたり感心したりしてしまう。
「そう?」
ほ…っと安堵の吐息を漏らし…有利はコンラートに背を向けると、いそいそと浴室に向かった。
脊柱のラインもしなやかで…コンラートは指を《つぃぃ…》っと滑らしたくなるのをやっとの所で食い止めたのだった…。
* * *
「わー、ひろーいっ!二人余裕で浴槽に入れるじゃんっ!!」
浴室は天井の一部が斜めに切り出されており、そこに填め込まれた硝子から夜空に瞬く星を眺めることが出来た。きっと、日中に入ってもサンルームのようで心地よいに違いない。
また、有利が驚いたとおり一人暮らしの男性の住まいにしては規格外に浴室は大きく、やはり大型の浴槽にはジャグジーもついているらしい。
「一人暮らしだと無駄に広くて、水道代掛かっちゃうんだけどね。やっと役に立ったねぇ…」
かなりの風呂好きを自負する有利は掛け湯をすると、うきうきしながら浴槽に脚をいれ…丁度好みの温度だったので、するりと全身を漬け込むと気持ちよさそうに息を吐いた。
「はぁ…気持ちいい…」
「良かった…」
言いながらコンラートが浴室に入ってくると…有利は、思わず息を呑んでしまった。
確かに、コンラートの身体には随所に傷痕と思しきケロイドがあり、そこだけひきつれたような形状を呈していたのだけれど…有利が驚いたのは、そんなことではなかった。
均整のとれた逞しい肉体は野生の獣を思わせるしなやかさに満ちていて、見る者の目を強烈に引きつける。
がっしりとした広い肩幅と、対照的に括れた腰…そして、すらりとした下肢のライン…。 鍛えられた肉体を目指す有利としては、《いつかこうなりたい》という見本が壮麗な額縁つきで掲示されているようなものだった。
思わず見惚れるあまり声を失ってしまった有利をどう思ったのだろうか…コンラートは苦笑すると、しゃがみ込んで掛け湯を始めた。
「大丈夫だった?」
「え?温度?丁度良いよ?」
「いや…そうじゃなくて、俺の身体……」
「あー、ゴメンね見入っちゃって!すっげぇ逞しいから見とれちゃったよ!」
「いや…そうじゃなくて傷痕…」
思わず噛み合わない会話を展開してしまう。
「え?ああ、傷痕ね!つか、寧ろ恰好いいよ。それより…ねえ、普段筋トレとかしてる?」
「健康維持のためにジムには通ってるよ。ただ、仕事が忙しいときには不定期になっちゃうけど」
「ジムかぁ…」
それでなくとも草野球の運営に四苦八苦している身としては、とてものことそんな贅沢は許されそうにない。
「普通に腕立て腹筋とかでも、そんな風になるかなぁ?」
「なるよ、きっとね」
思わず…といった感じで、ありきたりの言葉で励ましてから…コンラートは浴槽の縁に置いてあった、綺麗な蒼い瓶を手に取った。
「それって入浴剤?」
「うん、泡立つタイプなんだけど…使ってみる?」
「うんうん!使いたいっ!映画とかでは見るけど、お袋は掃除が大変だからって使わせてくんないんだよー」
「確かに掃除はめんどくさいかも!俺も普段は使ってないんだよ。母がこういう物が好きで、時々送ってくれるんだけどね」
「へぇー…」
とろりとした液体は、瓶から溢れ出した途端にふわぁ…っと蠱惑的なかおりを放ち、ジャグジーを作動させると面白いほど水面にふくふくとした泡が盛り上がってきた。
「凄ーい!ふわふわだぁ…っ!」
「本当だ。へぇ…こんなに泡立つんだなぁ…」
有利はもこもこの泡を取っては腕に載せたり、水面ならぬ泡面から下肢を一本覗かせたりと、上機嫌で泡まみれになっていた。
有利の好きにさせて、その間にコンラートは洗髪等をすませていたのだが…一通りコンラートが洗い、浴槽に入ろうとするので入れ替わりに洗い場に出ようとした途端…有利の視界がくらりと揺れた。
「あ…れ?」
「ユーリ…?のぼせてしまったのかな?」
身体が熱くて…力が入らない。
感覚としては確かに、のぼせている状態に近かった。
だが、コンラートに抱き留められた場所…肩や、腰といった辺りから走ったのは…多分に甘さを含んだ感覚であった。
「んゃ…っ!」
幼い獣が啼くような…自分でも覚えのない様な声が喉を突く。
「気持ち悪い?吐きそうだったら吐いて良いよ」
「気持ち…わるくは……」
寧ろ、変に気持ちが良い。
ふわふわして…自分の身体が自分のものではないような…奇妙な感覚。
それでいて、コンラートが触れている場所からは恐ろしいほど明瞭な悦楽が、直接的な刺激として感じられるのだった。
コンラートは一度洗い場に有利を横たえ、泡をシャワーで流し…素早く浴室から出るとバスタオルを巻いて頭の下に置いてくれた。そして浴室の換気をすると共に、冷たい飲料水を含ませてくれる。
ごく…ごく……
喉を鳴らして冷たい飲料水を飲み込むと、喉越しだけは一瞬すがすがしさを感じるのだが…胃の中はかぁ…っと熱くなって、余計に身体の火照りが強くなってしまった。
「ごめん…なさい……」
一向に良くならない具合に、有利は泣きそうになってしまう。
子どもではあるまいに…泡風呂にはしゃぎすぎて湯当たりするなど、高校生男子としては考えられない失態だ。
瞳を潤ませて俯く有利に、コンラートは優しく頬を撫でてくれる。
けれど…そんな感覚にさえぞくぞくするような快楽を感じてしまい…動けない身体の中、有利の下肢の間で…そぅ…っと花茎の先端に蜜が盛り上がるのを感じた。
『…嘘!?』
自覚した途端…心配そうに覗き込むコンラートの眼差しや精悍な面差し、鍛えられた胸筋と、明瞭なラインを描く鎖骨のうつくしさに目を奪われ…有利は己の屹立がますます明瞭な角度と硬度を示し始めるのに身悶えした。
『駄目…駄目ぇ……っ!』
呆れられる…。
男色のケなど無かったコンラートが、有利がこんな反応を示してしまったことになど気づかれたら…絶対に呆れられてしまう。
怯えたように瞳を震わせる有利をどう思ったのか、コンラートは益々気遣わしげに頬を撫でた。
「このままでは冷えてしまうね。頭は洗えていないけど…身体は泡風呂で綺麗になっているはずだから、今日はもう出ようね?」
ちいさな子どもに言って聞かせるように優しい声で彼が言うと…なめらかな低音が耳朶へと官能的な伝達を施し、有利の細い首筋を切なげに反らせてしまう。
「自分、で…するから……。お兄ちゃん…浴槽、入って?」
「なに言ってるんだ。遠慮しなくて良いよ。身体を拭いて、ソファに横になったらすぐ良くなるから…」
大判のバスタオルで丁寧に身体を拭う動作に…皮膚を擦過する布地の感触に、有利は水揚げされた若魚のようにびくびくと肢体を跳ねさせた。ほんの少し布地が掠めていく感覚にさえ劣情が強まり、大腿をきつく引き寄せて隠しているのも限界に近かった。
『いますぐ…扱きたい……っ!』
コンラートの前だろうが何だろうが、大股を開いて花茎を扱きあげ…最近していなかったせいで溜まっているだろう白濁を一気に放出してしまいたい…。そんなあり得ないような衝動が止めどなく突き上げてくる。
その時、眦に涙を浮かべて真っ赤になっている有利の異常に…コンラートが気付いてしまった。
「…っ!」
驚いたように有利の下肢の谷間を見つめ、次いで…戸惑うように有利の顔に視線を遣った。
その表情は呆れてはいないようだったが、どうしたものかと思案顔で…困っているように見えた。
「ごめ…なさ…。俺…へ、変……っ」
しゃくり上げかけた有利を制して、コンラートはにっこり微笑むと…予想外の発言をしてくれたのであった。
「大丈夫だよ。多分、生理的な反応だよ。一度出してしまえば落ち着くと思うから…今、出してしまおうか?」
「…………えっ!?」
言うなり、コンラートは辿々しい様子で戸惑うように有利の花茎を手にすると、頬を染めながら…扱きだしたのである。
「ゃ…め……っ!」
辿々しかったのは花茎を手に取るときだけで…手中に収めた途端、この上なく巧みな手技が襲いかかって有利の性感を翻弄して見せた。
男の人の掌中でなど絶対に出したくないと踏ん張る有利の抵抗は、返って激しい性欲に火をつけ…燃えさかるような花茎は今まで拙い自慰ではとても感じたことのない悦楽に酔っていた。
くに…くちゅ…
ぷちゅ…にち…にちゅ……
濡れた音と感触とが浴室に響き、瞼を閉じていても否応なしに何が起こっているのか有利に知らしめる。
いま、有利の性器を弄っているのは先日であったばかりの外国人男性コンラート・ウェラー……彼の、大きな掌なのだ。
がっしりとした骨格と、厚みのある掌の筋肉とがリアルに有利の肉筋を伝い…濡れた鈴口のぬめりを竿の部分に擦りつけたり、グミのような感触の感じやすい亀頭部分を押しつぶすように嬲るのだった。
その迷い無く巧みな手技に何度も解放しかけるが、有利はすんでの所で踏みとどまると、懸命に静止の声を掛けた。
「駄目…駄目…お兄ちゃ……コン…ラッ……っ…やめてぇ……っ!で、出ちゃ……っ!」
「出して良いよ。お風呂だから、すぐに流せるからね」
哀願に近い叫びも宥めるような優しい声に看過されてしまい、一層激しい愛撫を受けることとなる。母指と示指とで輪を作り、リズミカルに擦り上げる感触に有利が限界を感じ始めたとき…唐突に愛撫の手が止まった。
「…いゃ……っ…」
いつの間にか、《嫌》の意味が、変わってしまっている。
こんな中途半端なところで止められてしまうことが、焦れったくてたまらない…。そんに自分に、有利は愕然とした。
「困ったな…俺が下手なせいかな?なかなか出ない…」
眉根を寄せて困り顔をしていたコンラートだったが、いつの間にか大きく開かれていた有利の下肢へと回り込むと…
躊躇いがちにではあったが…ぱくりと花茎を含み込んでしまった。
「ぃやぁぁ…っ!」
生まれて初めて感じる生々しい粘膜の感触と熱さに、限界の近かった有利は身も世もなく性を迸らせてしまった。
ぷしゃ…
びしゅ…っ!
…と、勢いよく幾度かに分けて放たれる精は、コンラートにとっても驚きであったらしく…勢いと苦さに驚く彼の端正な面差しに降りかかってしまった。
「ぁ…ぁ……っ……あ……」
びくびくと背を逸らしながら幾度も放出される熱に、有利は甘い嬌声を上げて没頭した。
気持ちいい…
信じられないくらい、気持ちよかった。
放出しきった後にも気怠いような甘やかさが全身を痺れさせ、言葉を紡ぐことも出来ない。
はぁ…はぁ…と荒い息をつきながら、有利は自分の頬が幾筋もの涙で濡れているのに漸く気が付いた。
そして下肢の間に目を遣れば…吃驚したように顔を拭うコンラートの姿があった。
きょとんと目を見開き、困ったように擦っているのは…ぬるりとした白い液体。
有利の放った、精液だった。
「………っ!!」
かぁあ…っと顔が真っ赤に染まり、有利はまだ覚束ない身体を捩ると…コンラートの前に土下座して見せた。
「ごめんなさぃいい………っ!!」
耳も首筋も…背部まで朱に染めて縮こまる有利に、暖かなシャワーが掛けられた。
「気にいない気にしない…生理現象だもの。それに、俺のことはお兄ちゃん扱いしてくれるんだろ?弟のお漏らしの面倒をみるのは兄の特権なんだから、こちらの方がお礼を言わなきゃ」
「コンラッド…お、怒ってない…?俺…あんたの顔に、ざ、ザーメン……」
改めて言えば、目の前が真っ赤に染まりそうな羞恥に身悶えしてしまう。
「洗えば取れるから大丈夫。平気だよ。まぁ…確かに苦かったけどね」
にっこりと微笑むコンラートは、手早く有利の身体をタオルで拭くと、お姫様抱っこで脱衣所に向かった。
「ごめんね…ごめんね、コンラッド…」
「良いって、ユーリ…。それより、お兄ちゃんって呼んでくれるんじゃなかったの?」
「うん…………お兄ちゃん……」
こくりと頷くと、《よくできました》と言いたげに、コンラートが閃くように笑う。
あくまでも爽やかなその顔面に自分の精液を放ってしまったことは、生涯忘れられないだろうなぁ…と、有利は落ち込むのだった。
《弟のお漏らし》などというものが微笑ましい表現で語られるのはせいぜい幼稚園までで、高校生がのぼせて勃起して…兄に処理して貰うなどどう考えても異常な事態である。
だが、コンラートの顔に放ってしまったことがあまりにもショックだったせいか、有利は彼の処理方法自体には何の苦言を吐くことも出来なかった。
それ自体が、コンラートの計略だとは夢にも思わないのである。
そして自分を襲う未曾有の体験は、これからが本番なのだということに気付くよしもなかった…。
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