バージョンBー2




「ユーリ…怖い?」
「え…ひゃ…っ!」

 風呂上がりの…桜色に上気した肌が、コンラートの口吻を受けてますます赤みを増していく。

「怖くなんか…」

 それでも、精一杯の矜持をみせて強がれば…嬉しそうに唇が鎖骨を伝う。

「嬉しい…」
「……っ!……」

 甘い声が出かかるのを何とか食い止めるものの、ぴちぴちと若鮎のように弾んでしまう身体は止められない。


 晩餐の後…魔剣騒ぎ以降、悩ましいネグリジェ姿で同衾してくるヴォルフラムをぐっすりと寝かしつけると(小声で子守歌までうたってしまった)、迎えに来てくれたコンラートと共に彼の部屋に向かった。
 そこで何をするのか分かっているようないないような…とにかく、ふわふわした心地で歩いていったのまでは覚えている。
 風呂も一緒に入るべきかと迷ったが、いっぱいいっぱいな様子に気付いてくれたのだろう…コンラートは先に風呂を使わせてくれると、ベッドに腰掛けてまだふわふわしていた有利をそっと抱きしめてくれた。
 そして触れるだけのキスを恭しく唇に送り…今に至る。

 
 軽く、掠めるような口吻と羽毛のような手触りでふれていく節くれ立った指…。
 それが胸の尖りを掠めたとき、堪えきれずに甘い声が漏れてしまった。

「…ぁっ!」

『うわぁ……っっ!!』

 自分の口から、こんな甘くて恥ずかしい声が出るなんて知らなかった!
 有利の戸惑いとは裏腹に、コンラートの指は執拗に胸の突起をぷにぷにと弄り、巧みな手技でそこが性感帯であることを知らしめていく。

「ゃだ…俺……おかしいよ…そ、そんなとこで女の子みた…ゃっ!」

 舌が突起を捉えると…殊更ゆっくりとした動きで舐め上げられる。
 微かにざらつく舌背の感触が、まるで獣のようだと思う。
 男に…雄に、喰われようとしているのだ…有利は。

「おかしくなんかないよ…可愛い、とても……」

 有利と同様、バスローブに身を包んだコンラートは、見たこともない夜の顔で蠱惑的に微笑むと、するりと腿に沿わせて大ぶりな戦士の手を秘められた場所へと忍び込ませる。

「かわいい…言うな……っ」

 荒い息を吐きながらも、からかわれてはならじと精一杯男らしい声を出そうとするのに、黒い紐パン越しに花茎の先端をぷちゅりと押されては、またしても恥ずかしい嬌声をあげてしまう。

「ゃあん…っ!」
「ほら…可愛い」

 心底嬉しそうに…爛れたように熱い声が耳朶へと注がれるから、彼もまたからかうような余裕はなくて、この接触に情欲を感じているのだと知れる。

 こんな風に、切なげな色を浮かべた彼の瞳を、有利は今まで知らなかった。

 琥珀色の瞳の中にきらきらと銀色の光彩が跳ねる様に、彼がどれ程興奮しているのかを知れば…下らない意地の張り合いで喧嘩をすることもないと思えてくるのだった。
 再び有利の唇へと触れてきた彼が、一見余裕のある態度の割にまた触れるだけで戻っていこうとするから…有利は精一杯腕を伸ばしてダークブラウンの頭髪を捉えると、ぎこちないながら懸命に舌を突きだして彼のそれへと絡めていった。

 一瞬…ぱぁっと琥珀色の中で一際強く銀色が弾けたかと思うと、潤みを帯びて細められる。
 そこからは、遠慮をかなぐり捨てたような激しさで…奪われるように絡みついてくる舌に翻弄されてしまい、有利は完全に主導権を奪われてしまう。
 バスローブの裾野をたくし上げられ、大きく割られた下肢の間に灼けるような視線を感じても、身悶えしながら内腿の皮膚を上気させることしかできなかった。

「恥ずかしいよ…お、おかしいだろ?男のチンコなんかみたって…」

 凝視してくる視線が怖くて、拗ねたような声になってしまう。
 今更ながらに、コンラートと同じもの(明らかにこちらが小振りなのだろうが…)を目にすれば、少し引いてしまうのではないかと恐れたのだ。
 だが、顔に重ねた指の間だから恐る恐る覗き見れば…コンラートの瞳には失笑なんてものは欠片もなくて、獲物を狙う獣のような、純粋な欲望が湛えられていた。
 その事を証明するように寄せられた唇がちゅ…っと音を立てて、先端が濡れそぼり…紐パンが弾けてしまいそうなほどに突き上げている花茎にキスをした。

「ひぁん…っ!」

 あまりのことに暴れた拍子に、コンラートの唇と紐パンのちいさな布地が擦れてしまい、ぱぃん…っと外れた下着の影から躍り出た花茎が、よりにもよってそのまま欲望を放ってしまった。

「ゃぁぁぁあああん…っっ!!」

 びくびくと背筋を跳ねさせながら幾度も放出してしまう白濁は色濃く、たっぷりと放たれ、コンラートの顔やら肩やらを汚しているのは確かだろうが、それどころではない有利に視認するような余裕はない。

『や…ゃ……っ!どうして……』

 どうして、こんなにも気持ちいいのか。
  
 出来たての恋人にいきなり顔射をかますという失態にも関わらず、有利の花茎は素直に快楽を感じて何時までもしつこく白濁を滲ませている。流石に飛びはしなくなったものの、まだ鈴口を濡らしてとろとろと零れていく液を、まるで甘い蜜でも舐めるように…愛おしげにコンラートの唇が吸い付いてきた。

「やぁ…や、止めて……っ!」

 信じがたい快楽が、更に上乗せされていく。
 尿道を犯されるように吸い上げられ…残渣を飲み下された後、ちろちろと悪戯な舌先が食い込ませるようにして押し込まれたのだ。
 まさかこんな場所で感じてしまうなんて思いも寄らなかった有利は、シーツの上であえやかに身悶えるしかなかった。

 白いシーツに漆黒の髪がのたうち、散り跳ね…しなやかな細い肢体が救いを求めるように蠢く様はあまりにも妖艶で、堪えがたい衝動にコンラートは有利の腰を更に高く上げると、支えるようにクッションを差し込んだ。
 柔軟の成果をこんなところで出すことも無かろうが…やわらかな有利の身体は綺麗に二つ折りになると、悩ましく開大された下肢の間で、清楚な蕾が蝋燭の灯火を受けて桜色に艶めいて見えた。
 
 ここが…コンラートの逞しい雄蕊を受け止めるのだ。

 有利が開放の快感に酔いしれているのを良いことに、あられもない姿勢を取らせて悦に入っていたコンラートだったが…ここではたと気が付いた。
 コンラートの雄蕊は限界に近い勢いで勃ち上がり、腹を打つまでに成長しているが…こんな行為に使われたことのない蕾は頑なに閉ざされて、恥ずかしげにちんまりとしている。

『……………入るのか?』

 変な汗が背筋を伝う。

 思いが通じた喜びのあまり失念していたが…物差しを使って計測するまでもなく、サイズがあまりにも違うのではないだろうか?
 これでは、眼鏡の蔓と本体とを結びつける螺子孔に、家屋建設用の柱留め螺子を突き込むようなものではないだろうか?

 これまで、コンラートは男の方からの引きはあったものの、男を抱いたこともなければ抱かれたこともない。
 人間だったダンヒーリーの影響もあってか、人の趣味にはとやかく言わないものの、自分自身は極めてストレートな嗜好であったのだ。
 しかも、面倒事を嫌う彼は処女自体に手をつけたことがなかった。
 未開の大地を耕す苦労をしたことのない彼は、ある意味では恵まれすぎた収奪者であったのである。

 だが、勿論頑なな有利の蕾を他の男に解させるような事など赦せるはずもなく、清廉なそこに、苦痛なく悦びを感じさせる責を担うのはコンラート唯一人である。
 試しに唇を寄せて舌先を突き込んでみるが、嫌々をするように腰が逃げをうち、少しずつ理性を取り戻してきたらしい有利が、自分の取らされている姿勢に驚いて涙目になってしまう。

「やだ…コンラッド……は、恥ずかしいよぅ……っ!」

 普段は男の前な有利がふにゃ…っと目元を歪めるものだから、流石のコンラートもこの素敵すぎる姿勢を取らせ続けるわけにはいかなかった。

「すみません…ユーリ、あんまり可愛かったものですから…」
「人のケツの孔に変な感想持つなよっ!そ…そこ、女の子のナニじゃないんだからなっ!間違って変な事すんなよ!?」
「………」

 《はい》と、頷くことは出来なかった。
 何故もナニもなく、ココに色々ナニしたりソレしたいからだ。
 
『どうする俺!?』

 ウェラー卿コンラートは追いつめられていた。
 アルノルドの方がまだましだと思うくらい追いつめられていた。
 普段なら冷静に考えて、有利にとにかく心地よくなって貰って次回の約束を取り付け、次回までに情報や道具を集めればいい話なのだが、この時はどうしたものか…いま勝負をつけなければ二度と機会がないような気がしていたのだ。

『……どうするっ!?』

 切羽詰まったコンラートに、思いがけない場所から救いの手が差し伸べられた。

 コト…

 あまりに小さな物音であったから有利は気付いた様子はないが…コンラートが《はっ》と目線を送った先…なんと、ベッド下から太い男の腕がにょろりと覗くと、蒼い硝子瓶をひとつサイドボードに置いたのである。
 
『……………………』
   
それは、どうやらこのような行為の際に用いるオイルのようなものであるらしい。
 ひょっとすると多少媚薬効果があって、挿入の衝撃を和らげたりする作用があるのかも知れない。

 だが…幾らなんでもそれを今、利用する気にはなれなかった。

 コンラートは一気に冷静さを取り戻すと、有利の服を正して抱き上げ、風呂場に抱えていった。

「今宵はここまでと致しましょう?」
「え…でも、俺ばっかりイっちゃって…あんた、なんにも気持ちイイことしてないじゃん!」
「ええ…ですが、がっついてあなたを壊したくないんです。あなたは…掛け替えのない、大切な人だと言ったでしょう?」

 切ない響きを持つ甘やかな声音を注がれて、すっかり感じやすくなっている身体はびくびくと跳ねる。

「でも…」
「じゃあ…ユーリも俺と同じようにしてくれる?」
「あ…く、口でってコト?」
「ええ…そうしてくれると、嬉しいな」

 有利は少し迷う風だったが、自分ばかり開放を迎えてしまった後ろめたさもあり…また、恋人のそれを愛撫することで、この男がどんな反応を返してくれるのかにも興味を覚えたものだから、ちいさく…こくりと頷いた。
 そんな有利の額にキスを送ると、コンラートは有利を浴室の椅子に仕掛けさせて、自分は寝室の方に戻っていく。
「コンラッドは?」
「すぐに行きます…待ってて?」

 艶めいた流し目を送れば、ぼんっと顔を真っ赤に染めて愛おしい少年は俯いてしまう。
 実に可愛い反応だ。
 にっこりと微笑んで扉を閉めるコンラートだったが…寝室に視線を戻すとぎろりとベッドを睥睨する。

 ルッテンベルクの獅子と謳われた男が…勘が鈍ったものである。
 まさか、ベッドの下に《くせ者》を忍ばせて、気づかずに性交に励んでしまうとは…。
 幾ら思いがけず恋が実ったからといって、油断しすぎも良いとこである。
 
「ヨザ…出ておいで?」

 謳うようなやわらかい声音に、ベッドの下で男の身体が緊張感に張りつめるのが分かった。
 どうやら、隠しきれない殺気が声の端々に滲んでしまったらしい。

「ヨーザ〜…お礼を言いたいんだよ。さあ、出てきて顔を見せておくれ?」
「………」

 言い回しが《本当は怖い童話》とか、恐怖映画の言い回しじみているのだろうか?
 友人はいっかなベッドの下から這い出てくる気配が無く、貝にでも生まれ変わりたいみたいに沈黙を守っている。

「グリエ・ヨザック…出てこい」

 結局、ドスの利いた命令口調が一番効果があったようだ。  
こそ…っと大柄な身体を精一杯縮こめて這い出てきた男は、見ようによっては可愛いと言えなくもない。
 ばつが悪そうにへの字口に枉げられた口には癖がありすぎたが…。

「やあ、ヨザ。何時から俺達を見守ってたのかな?」
「隊長…謝るからその笑顔やめて…。マジで怖ぇーよ…」
「失礼だな、お前」
「…………ああぁ…剣に手を掛けるのやめて?坊ちゃんが知ったら哀しむよ?」
「大丈夫。ばれないようにやるから」

 やっぱり怖すぎる笑顔を蘇らせたコンラートは、友人が恐れていた手管で《お礼》をした。

 ああ…哀れヨザック、老婆心にて自分の首を絞めるとは…。
 …合掌。

    

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