バージョンB−3 「あれ?コンラッド…それどうしたの?」 「ちょっと…ね」 浴室に入ってきたコンラートは綺麗な蒼い小瓶を手にしていたが、有利に問われるとことりと浴槽の脇に置き、精液にまみれた自分の顔や頭を手早く洗い流すと有利と一緒に浴槽に入った。 「ね…膝に載ってみませんか?」 「えー?なんか親子みてぇ」 笑いながらも、有利はすぐにちょこりとコンラートの膝に載ってきた。魔王の居室に比べるとちいさい船型の浴槽なので、ゆったりと脚を伸ばすためにもそれが良いと思ったのかも知れない。 だが…腰を深く沈めてみれば、双丘に感じられる熱い高ぶりに…ごくりと喉が鳴ってしまう。 思わず浮かせてしまいそうになった腰に、背後からがっしりと腕を回されては身動き一つ取れなくなってしまう。 「キス…したいな、ユーリ」 「ん…」 思わず振り向けば唇をそのまま捕らえられ、開きかけた口内にぬるりと這い込んだ舌が縦横に暴れ回って有利の息を乱した。 「ん…んん……」 ぴちゅ… くちゅ…… 淫らな水音があまり広くもない浴室に響いて…寝室での触れ合いよりもリアルに有利の耳朶を犯した。 こうなればもう文句を言うどころではない。 逃げることなど出来なくなった身体は、コンラートの巧みな指遣いに晒されて見る間に悦楽の華を開かせていった。 ぬるめの湯の中で花茎を掌で包まれ…上下に扱かれればぷくりと先端に滑りを帯びた液体が滲み出し、時折押しつぶすように擦りつけられる親指が、《さっき放ったばかりなのにね》と嗤っているように感じられた。 「んく…ゃ……ゃ……っ」 リズミカルに擦られる動きと、突き上げられる動きとがリンクして、まるで既に体腔内を犯されているような錯覚を覚える。 逞しい雄蕊はがっしりとした硬さを帯びて双丘の谷間に添えられると、柔らかなその膨らみの間で擦られるようにして、いよいよ硬度を増していく。 凶器のようなその雄を、有利は口腔と唇で愛することになるのだろうか? 胸の鼓動が高ぶっていき…二度目の放出に向かって下腹に熱が籠もっていく。 だが…今度はコンラートも一人で達することを赦してはくれなかった。 有利の身体を浴槽の外に引き上げると、ちょこりと洗い場のタイルの上に座らせ…丁度その口元に添えるようにして自分の雄蕊を寄せていく。 「……っ!」 何本かの蝋燭の光が揺らめき…鍛えられた軍人の肉体と、その中央で存在感を放つ雄蕊とを照らし出す。 そそり勃つ姿は天に向かっており、先端からは堪えきれない白濁が雫となって浮かんでいる。 感じているのだ…この男もまた。 「舐めてくれる?ユーリ…」 頭髪に添えられた手に力は籠もらなかったが、それでも方向を指し示すように促すのに誘われて…有利は唇を未知の肉へと触れさせた。 熱い。 灼けるような熱は、普段体温の低いこの男からすれば意外とも言える感触で、びくりと離しそうになるが…同時に、酷く愛おしくもあって…羞恥を堪えて唇を開くと、ゆっくりと口内に含み込んでいった。 「は…ぁ……」 微かに零れる吐息に艶が混じるのが嬉しくて、つるりと鈴口に舌を這わせれば、頭髪を掴む手にも微かな緊張が起こる。 「ん…む……」 次第に夢中になって吸い上げ、舌を蠢かせ、限界近くまで深く誘い込むのだが、流石に大きすぎるそれをすっぽりと含み込むことは出来ない。 もどかしさに、涙を浮かべながら無理をして喉奥まで含み込んだら、反射性の咳で噎せ返ってしまった。 「ごめんね…ユーリ。苦しかった…?」 「ごめ…俺……っ!」 悔しさに涙が滲む目で見上げれば、やさしげな双弁が気遣わしげに見下ろしている。 「こんなこと…やはりあなたにさせるべきではありませんでしたね。不敬もいいとこだ…」 自嘲するように笑うから、有利はカッとなって言い返した。 「不敬とか言うなよっ!敬語も無しっ!お…俺達、コイビトになったんだろ?」 「でも…あなたのちいさいお口では、俺のは含み切れませんよ?」 「う…」 確かに、有利のものはすっぽりとコンラートの口内に包み込まれてゆるゆると白濁を吸い上げられていたが、有利にそれと同じ事をしろというのは酷な話だろう。 口の大きさが問題では、頑張ってどうにか出来る範囲はたかが知れている。 「あなたの中にすっぽりと包み込まれてみたいけど…やはり、ダメでしょうね?」 「う〜…口でダメなら、ダメなのかなぁ…」 「もう一カ所だけ…あなたと繋がれるところがあるのですが、あなたは嫌だと言っておられましたしね…」 「敬語はダメ…つか、え…?俺がダメって言った?いつ?」 「先程、俺が舐めたら凄く嫌がったでしょう?」 「え…え?」 その場所とやらに心当たりがついた途端…カァァ…っと勢いよく有利の顔が紅潮した。 「嘘…あ、あそこ?」 「嫌でしょう?」 「だって…む、無理だろ?口でダメなんだぜ?こ…こんなとこ…」 壊れてしまう…。 そっと忍ばせた指先に、ちんまりとした襞の塊を感じて有利は震える。 「こういう行為を男同士でやっている者は、色んな道具を使うんですよ。そこを解すためには…ほら」 先程浴槽の端に置いておいた硝子瓶を揺らすと、中でとぷりと粘性の液が動いた。 「そんなので…なんとかなんの?」 「俺も実はよく知らないんですが…まあ、気持ちは良いみたいですね。何度も繰り返してやっている奴もいるみたいですから。ああ…でも、ユーリは怖いよね?無理はしなくても良いんですよ。俺は…あなたとこうしていられるだけで幸せなんですから。あなたが達するところを見るだけで、とても嬉しいですよ」 「そんなのダメじゃんっ!あんたも気持ちよくなって貰わなきゃっ!」 うきゅーっと拳を突き上げると、有利は覚悟を決めたようだった。 * * * 「こ…こういう姿勢じゃないと…ダメ?」 「そういう訳じゃないんですが…嫌?」 寝室に戻ってきた有利は獣のように四つん這いにされると、高く上げられた双丘をぱくりと割られ、感じやすい粘膜を外気に晒されたことで息を詰めてしまう。 「嫌なのは…嫌……」 だって、恥ずかしい。 直接目にすることの出来ない後背で、自分の身体が男を受け入れられる器へと開発されていくなんて…。 つぷ…つぷと指先だけが幾度か出し入れされると、オイルのせいでぬめるそこは、もっと奥へと導くように蠢いていた。 コンラートの爪…指の節…付け根の襞…指全体の形状…… そういったものが敏感な粘膜にゆっくりと伝わってきて、羞恥のためだけでない火照りを有利に与える。 くりゃり… ぬぷ…ぷ…… 狭い体腔にオイルで濡れた指が出し入れされる度に、空気を含んだ液が淫らな音を立てて寝室の大気を薄紅色に染めていく。 「ぁ…っ!」 丹念に肉壁をまさぐっていた指が…ぴたりと止まる。 有利の後宮内に、感じやすい場所を見いだしたのだ。 「ぁあ…あっ……ぁ…っ!」 指が二本…そして三本と増やされても、たっぷりとオイルを載せ…そして、感じやすい場所ばかりを執拗に攻められては抵抗することも出来ない。 有利はがくがくと膝を震わせると、反り上がって震える花茎に指を添えた。 「ユーリ…達きたい?」 「うん…ぅん……」 「じゃあ…俺も入って良い?」 「ぃいから…お願い……も、赦して…っ!」 ちょっとくらい苦しくても良いから、もう開放して欲しい。 そう願う有利は自らの手で花茎の付け根に指を掛けるが、後宮から垂れてきたオイルのせいで戒めのリボンはつるりと逃げてしまう。 『あんまり続けて達くと、俺が入るときに苦しめてしまうかも知れないから』 そう言われてしまうと、経験のない有利は《そうなのかな?》と小首を傾げるほか無く、コンラートに結ばれるまま、細い彩紐で花茎の根を縛られてしまったのである。 おかげで達きたくても達けない情欲は滾々と下腹に籠もることになってしまい、余計に指のもたらす愛撫に素直になってしまった。 それこそが、コンラートの狙いでもあったのだろうが。 「ユーリ…俺が取ってあげますよ」 「ひぁぁん…っ!」 のし掛かってくる男が、有利の手の上から大きな掌を被せてくると、《取って上げる》と言った舌の根も乾かぬうちに花茎を擦りあげる。 「嘘つきぃ…ゃん…ゃあ…っ!」 びくびくと背筋を跳ねさせて、甘い拷問に耐える有利の肩甲骨をかしりと歯を立てると、今はどんな刺激も悦楽として捉えてしまう身体がふるりと揺れる。 ヨザックがくれたオイルにはやはり幾らか媚薬作用や筋の強張りを緩める効果があったらしく、舌先でつぃ…っと背筋を舐め上げても、くちゅ…ぐちゅ…っといやらしい音を立てて蕾を嬲っても、同様に有利の身体は甘い電流に打ち震えるのだった。 コンラート自身、雄蕊に塗り込めたオイルの影響か、何時になく身体が火照っている。 ぬぽ…っと音を立てて指を引き抜けば、最初に目にしたときとは比べものにならないくらい艶やかに色づいたそこが、雄を求めて淫靡にひくついていた。 『ここは…欲しくて堪らないように見えるよ、ユーリ』 既に羞恥心が灼き切れそうになっているだろう彼に、殊更その様な言葉を囁いたりはしないが、彼の目に留まらぬ位置にいることもあって…コンラートの唇には淫獣の笑みが宿るのだった。 ぐ…ぷ……っ 「ぁ…っ……はぁ……んっ!」 しっかりと全体にオイルを絡めた雄蕊を蕾に沿わせると、くぷりと亀頭を飲み込んだそこは襞を精一杯伸ばして健気に男を受け入れていく。 ゆっくりと…ゆっくりと……その形状を知らしめるようにして、残酷なほどの丁寧さで雄蕊が華奢な体躯の中へと埋め込まれていく。 「ぁあ…ユーリ……気持ちいいよ…」 「……っ……!…はぁ……っ」 囁きかければ何とか返事をしようとしているらしいのだが、悦楽と苦痛が綯い交ぜになった挿入のために、とてもそんな余裕はないらしい。 ぐぷ…ず……っ 最後の数pだけは、コンラートもまた余裕を無くして一気に突き込むと、みっちりと填り込んだ肉同士が擦り合わされて、二人は期せずして深い吐息を漏らしていた。 「ユーリの中…暖かくてぬるついてて…気持ちいいよ」 「ん…ぅ……」 相変わらず返事が出来ない有利の中でゆるゆると雄蕊を燻らせれば、オイルの滑りも借りて少しずつ慣れていく摩擦が、次第にピッチの早いものへと変わっていく。 ぐ… ぐ…っ! 「あ…ぁあ……ゃん……っ!」 声と背筋を跳ねさせて有利が弾めば、その度に収斂する肉壁がコンラートを追いつめていく。 『凄い…ユーリ……』 初めて味わう男の肉壁は予想以上の締め付けを呈し、甘い刺激に放出を堪えるのが精一杯だ。 『ユーリと一緒に達きたいからね』 ちゅ…っと背中の中央にキスを一つ落とすと、コンラートは花茎の付け根を締めあげていた彩紐の端をしっかりと掴み、一気にピッチを早めて有利の弱い場所を集中的に擦り上げた。 その姿勢はまるで、悍馬を駆る騎乗姿にも似ていてくすりと苦笑が漏れてしまう。 「さぁ…ユーリ…。待たせてゴメンね?達って…」 「ひぁぁああん……っっ!!」 彩紐を勢いよく引き抜いた瞬間に尿道を貫く肉粒を抉れば、有利は堪えていた熱情を腹とシーツとにぶちまけて逐情した。 同時に…これまでにないほどの収斂を見せた肉壁がぎゅるりと雄蕊を締めあげたことで、コンラートもまた堪えてきた熱情を遠慮なく有利の体腔内へと迸らせた。 「ゃぁぁああああ……っ!!」 「ぁ…く……っ!」 どく…どぷ……っ! 思考の全てを熱い熱情に晒されたように、目の奥で金色の光彩が跳ね飛んでいく。 互いにこれまで知ることの無かった快感の渦に巻き込まれて、目眩を起こすような感覚の中でがくりと脱力した。 特に有利などは、指の先までがじんじんと甘く気怠い痺れに犯されており、身じろぎ一つ取れずに浅く速い息を繰り返していた。 「ユーリ…」 「コンラッド……俺…なんか、身体変だよ…。一人エッチとかする時と全然違う…。なんか、身体がじんじんして…あんたと繋がってるトコが熱ぃ…も、抜いて……」 鼻に掛かった涙声に促されて渋々腰を引いていくが… 「ひぁん…っ!」 ぬっとりと絡みついてくる肉壁は主の希望に反して、きゅうきゅうと雄蕊を引き留めようと締め付けてきた。 その刺激が呼び水になったのだろうか?若い肢体はぴくんと反応して、再び花茎を擡げてしまう。 「若いねぇ…ユーリ、まだまだ満足してないみたいだね?」 「ゃ…そんなことな…ぃ…ゃあ…っダメったらダメぇ…っ!」 繋がったまま身体を捻られて仰向けにされると、大きく下肢を開かれた状態で二つ折りにされてしまう。 少し前にさせられたときにも恥ずかしくてしょうがなかった体位は、今は先程以上に困った状況を呈していた。 ずっぷりと雄を銜え込んだ蕾とか…有利の顔目がけて発射準備をしている花茎などが、丸見えなのだ…っ! 見たこともないくらい艶めいた顔で、情欲を剥き出しにした恋人の顔も閲覧し放題である。 「綺麗だ…ユーリ。淡紅色に染まった蕾が限界まで広がって、俺を銜え込んでるよ…」 「言わないでぇぇ…っ!」 扱き上げられた花茎が、有利の胸や顔へと白濁を散布させるのは、この少し後のことである…。 * * * 「………あれほど言ったろうが……」 「………はぁい……」 グウェンダルの居室へと舞い戻ってきたヨザックは、ねずみ色の頭巾を被っていた。 別に彼の趣味ではないが、適当な布がそれしかなかったのだ。 「どれ、見せてみろ」 「嫌ですよ」 あのまま飲み続けていたらしいグウェンダルは、心配事のせいかよほど酒量を過ごしてしまったらしく絡み酒の様相を呈している。 嫌がるヨザックの頭から布地を剥ぎ取ると、出てきたものに《ぶふ…っ!》と彼らしくもない吹き出し方をした。 「よく似合うではないか…。人間の世界のどこかの宗派に、そういう形状の頭をした僧侶が居たぞ?」 「嬉しくありません……」 ヨザックの頭は現在…頭頂部だけつるりと髪が無くなっているのである。 言うまでもなく、コンラートに刈り取られたのだ。 「それで?あいつらは首尾良くやっていたか?」 「男相手では経験不足ってことを弟君は露呈してましたけどね…」 への字口で応えるヨザックは、布地を奪い取るとまた頭に被った。 もう見られているのだから今更という気もするが、よほどこの髪型が気にくわないらしい。 そしてグウェンダルに向き合う形でどすりと椅子に腰掛けると、上司が口にしていたワインをそのまま飲み始めた。 グウェンダルの方も特に文句を言う気はないのか、ただ単に飲み過ぎたのか…口の端で一瞬笑ったきり、何も言わなかった。 「まぁ…すぐに慣れるだろう」 「そーでしょーよ。全く…人の気も知らないでさー。あのオイル、返してはくれなかったから絶対そのまま使ってますよ?」 「案外ちゃっかりしたところがあるからな…あいつは」 酔色の濃い眼差しを虚空に漂わせながら、酒臭い息を吐くとグウェンダルはうつうつと船をこぎ出した。 とにもかくにも弟が無事思いを遂げつつあるらしいと聞いて安堵したのかも知れない。 「あーあ、閣下ってば…そのまま寝ちゃあ風邪引きますよー」 「そこまで軟弱ではない」 予想通りの返事を寄越したグウェンダルは、そのまま酔っぱらい独特の呼気を呈しつつ眠りに就いてしまった。 「全く…兄弟揃って手が掛かるんだからぁ…。このまま襲っちゃいますよ?閣下」 ぶすくれながらも基本的に面倒見の良い男は、甲斐甲斐しく軍服を脱がせると、勝手知ったる人の部屋でてきぱきとパジャマを探し出して着付け、ご丁寧にナイトキャップまで被せて寝床に運び入れた。 ただ、お駄賃とばかりに特上の酒を棚から出すのは忘れない。 二、三本くすねても、上司は結構太っ腹な男なので許してくれるだろう。 「やれやれ…」 大きな硝子板を填め込んだ窓から、明るい月の光が降り注いでくる。 この光は、等しく出来たての恋人をも照らしているに違いない。 余計なことをしなければ、あのままベッド下で二人の情事を見守れたのになぁ…と、舌打ちする。 珍しく余裕を無くしたコンラートが、あの経験不足もいいとこの少年をどう扱っているのか、さぞかし見物だったろうに…。 「まあいいか…あんたが幸せならさ」 二十年前…壊れかけたあの男を目にしたときの衝撃を、ヨザックは生涯忘れることはないと思う。 けれど…同時にこう思いもするのだ。 癒やせぬ疵は、ないのだと。 『生きてて良かったよなぁ…お互い』 あの日《死んでいれば良かった》と絶望の中で友を憎んだ自分は、いまではこうして珍妙な髪型にはされたものの、純血貴族のお部屋で上等な酒を口にしながら友人の幸福を祈っている。 そんな幸せをくれたのは、きっとあの子なのだ。 『お幸せに…』 宙に向けて祝杯を手向けながら、ヨザックはにしゃりと彼独特の笑顔を浮かべるのだった。 おしまい あとがき バージョンA、Cの追随を許さないほど伸びに伸びたバージョンB…。 「このエロ好きめ…!」と苦笑しておられるあなた…。あ、あなたも結構なエロスキーでしょう!?(←目くそ鼻くそ) |