★ラブ甘なキス5題

02:うなじに







「わひゃ…っ!」

 素っ頓狂な声を上げてしまった。
 でも、しょうがない。だって、普通油断しきっているところに背後からキスをされたら、誰だって驚くだろう。しかも、よりによって敏感な首筋を狙われたのだ。
 やってくれやがったのは、そぅ…っと気配もなく背後に立っていた護衛だ。

「コンラッド〜…なにしてくれてんだよ!」

 珍しく真面目に書類仕事をしていたのに…と、恨みがましい目つきで睨み付けるのだが、そんな眼差しなど微風のようにさらりと受け流してウェラー卿コンラートは微笑む。

「首筋があんまり綺麗でしたので、つい…」
「あのさぁ…前から思ってたんだけど、あんたの美的感覚は絶対におかしい!野球小僧の首筋狙うなんてマニアも良いトコだよ。普通、首の後ろ…ほら、あれだ…うなじってトコは、髪の毛を綺麗に結ってる女の人とかが綺麗なとこだろ?」
「いえ、現段階では女性のうなじに興味・関心が持てませんので」
「男子高校生のうなじには爆裂興味展開中なのかよ!」
「あなた限定でね」

 さらりと囁かれて、《この野郎…》と思うのに頬が染まるのを止められない。

「ちょっと宰相閣下、あんたんちの弟どうにかしてよ!」
「アニシナの実験体にしても構わないのなら、一時的には何とか出来ると思うが…どうだ?」
「………」

 フォンヴォルテール卿は淡々と仕事をこなしながら、結構酷いことを言う。
 いや…普段は彼自らが被検者となってその《酷いこと》を体感しているわけだが。

 それに、口は悪いがグウェンダルはコンラートと有利の関係を(生)暖かく見守ってくれている。
 未だに有利との婚約破棄をしてくれないヴォルフラムに対しても、兄として懸念を感じてはいるのだろうから、国政以外のことでまで頭を悩ませてしまって申し訳ないな…とも思う。

「………アニシナさんの薬とか装置で、どうなるの?」
「興味の対象を陛下以外に向けさせる」
「……っ!」

 宰相閣下はにやりと嗤った。
 この弟にしてこの兄と言うべきか…時折、彼はこういう意地悪を言う。
 
「……う〜……っ…」

 そんな選択肢を有利が選ぶはずがないと分かっているから、兄のにやにや笑いは弟にも伝播していくのだ。

「くそーっ!コンラッド、ここ座ってっ!」
「おや、この豪奢な魔王専用執務椅子に?」
「俺専用でもシャア専用でも構わないよっ!とにかく座ってっ!」

 やや強引に椅子へとコンラートを座らせると、背後に回り込んで噛み付くみたいなキスをした。
 当然、項に向かってだ。

 ちゅぅう…っと音がするくらいに強く吸い上げたから、色素が薄くてなめらかなコンラートの首筋には、見る間に鮮やかな朱花が浮かぶ。

「どうだ…っ!」

 《自分がやられて嫌なことは人にもやってはいけません》…幼児・児童向け基本的教育事項みたいなものを叩き込もうとした行為だったのだが…手鏡と壁鏡を使って自分の首筋を確認したコンラートは、何故だか溶け崩れそうな笑みを浮かべていた。

「………何で笑ってんの?」
「いえ…あなたのつけて下さった印が、こんなに目立つ位置にあるのが嬉しくて…」
「………っ!!」

 真っ赤になって絶句する有利に、流石に呆れ顔で護衛の兄が再提案してくる。

「おい、やはりアニシナに委ねた方が良いのではないか?」



 返答までに、ちょっと時間が掛かってしまった…。




* ラブ甘と言うより、甘えん坊次男とツンデレ有利の攻防戦みたいになってきました。 *


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