★ラブ甘なキス5題

03:離れてから照れるふたり








 出会い頭に噛み付くみたいなキスをして、互いに縺れ合うようにして茂みに突入した。
 自分でも可笑しくなるくらいの余裕のなさは、1週間も離れていた相手への渇望によるものだった。

「は…」

 やっと唇が離れた時、すっかり舌が痺れきっていたから相当強い力で絡みつかせていたのだろう。顎も怠くて、力無く開かれた口角からは透明な雫がしたたっている。
 髪や衣服に枯葉や土を纏わせた姿は、とても一国の王と、その信頼を受ける忠臣の姿ではなかった。

「久しぶり…」
「すみません…《ただいま》も言わずに唇を奪ってしまった」
「俺も《お帰り》って言ってない。お互い様だよ」

 名残惜しそうに唇を重ねられれば、また舌を絡めそうになる自分に照れてしまう。
 ああ…自分は、この男が欲しくて堪らないのだ。

 二人とも、キスをするだけしてから苦笑を交わす。
 性急すぎた自分達が少々恥ずかしかったのだ。

 ウェラー卿コンラートは重要な使命を帯びて任務に就いていた。
 眞魔国の北方領土沿いにあるタクラマン高原には、有力な騎馬民族ラーナーヤが遊牧生活を送っている。彼らは眞魔国に対して積極的な攻撃性は持たないものの、油断していればやはり農村部に略奪を仕掛けられる。

 彼らは馬を愛し、馬を良く駆る者しか戦士として…男として認めない。
 だから彼らと平和的に交渉を進めるためには、彼らにまず認められなくてはならないのだ。

 かつて、眞魔国は大きな軍を動かしてラーナーヤを根絶やしにしようとしたこともある。今の国力であれば、それも実は可能であるのかも知れない。

 けれど、有利はそれを望まない。
 あくまで平和的に互いの領土を認め合い、譲歩できる限界値を探りながら共生したいと願うのだ。
 その為、どうしてもラーナーヤへの交渉には高い実力を持つ者を派遣せねばならない。

 コンラートは、その信頼に足る男であった。

 ラーナーヤの誰よりも巧みに騎馬を操るコンラートは、今では彼らの言葉で《迅雷の獅子》と讃えられているそうだ。
 特に若きラーナーヤの長はコンラートを信奉しており、彼がいるといないのとでは話し合いの条件が全く変わってくるのだという。

「ペグニィの奴に言い寄られたりしなかった?」
「かわしたよ」

 くすくすと耳元で笑われるから、悔しくて首筋に噛み付いてやった。
 それでなくとも明朝に着くと言っていたくせに、不意打ちみたいに現れて驚かしてくれやがったのだから。
 勿論、嬉しい驚きだったのだけど…。

 ちなみにペグニィとはラーナーヤの族長で、愛馬に似た褐色の肌と精悍な肉体を誇る男だ。
 馬駆け勝負…駆けに向かって馬を疾走させ、どちらが限界値まで駆けられるかという度胸試しの戦いで敗北してからは、コンラートを神のように崇めると共に…神には普通やらないようなアプローチを掛けてくる不届き者である。

 《俺の下半身は馬並みだぞ。必ずお前を満足させる》と豪語され、実際にラーナーヤ族の前で露出された時には流石のコンラートも辟易したという。
 コンラートも自分の逸物には自信があったが、まさか公衆の面前で《俺の方がでかい》と露出するわけにも行かなかったし、二人きりで見せ合うなんて危険なことも出来なかった(←当たり前だ!)。

「…俺も、馬駆け練習しようかな…」
「崖っぷちに向かうチキンレースはさせないよ。俺の心臓が凍る」
「俺には内緒でやったくせに」
「勝算があったからだよ」

 自信満々にそういうコンラートは憎らしいくらいに男ぶりが佳くて、腹立たしいけれど見惚れてしまう。

「畜生…あいつ、絶対コンラッドに会いたくて定期的にごねるんだぜ?」

 その度にコンラートを派遣せざるを得ないことが悔しくてならないが、これが彼らとの関係を最も潤滑に動かす要素なのだからしょうがない。

「分かってます。だから、今回は少々脅しておきました」
「なんて?」
「俺を…愛しいあなたから無意味に引き離すような真似を繰り返せば、そのお粗末な竿を根本から切り落としてやると…」
「物騒だな。平和大使が聞いて呆れる」
「俺の寝込みを襲いましたからね。そりゃ真剣に、真剣でもってお返ししなくては」
「………本当に切り落としとけば良かったな」
「平和を尊ぶ王のお言葉とは思えませんね」
「お互い様だよ」
  
くすりと笑み交わしてキスをしたら、熱く猛っていた部分を押さえきれなくなってきた。

「ねぇ…ここから一番近い部屋ってどこかな?」
「……兵舎が近いですが、声…殺せます?」
「う〜…やっぱ、部屋に帰るかぁ…」

 久しぶりにコンラートを感じて…それも、鬱陶しい恋敵(一方的な崇拝者だが)への敵愾心と、優越感を覚えながらのセックスは多分燃え上がりすぎて自分を押さえることが出来ないと思う。

 今日は思いっきり乱れて、コンラートを感じたいし。

「では、お手をどうぞ…陛下」
「陛下っていうな」

 以前は、《名付け親のくせに》と続けていたのを、少し口籠もってから小声で訂正する。


 《恋人のくせに》…と。



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* 久しぶりの「甘いキス」シリーズです。ちょっと野性的な有利を目指しているのですが…どうでしょう? *