「突撃リヒト君」−1







 ザ…
 ザザ……

 心地よい葉擦れの音に耳を傾けていると、静寂の中で穏やかな時間が流れていく。
 夏の第一月に入ったばかりの王都では、からりと乾いた陽気が続いていた。気温は高いが湿度が低いので、風通しの良い屋内にいるときっちり魔王服を着こんでいても、丁度良い体感温度になる。

『静かだなぁ…』

 レオンハルト卿コンラートは、背もたれに体重を載せながら見るとも無しに窓辺を見やった。今は、執務の合間の休憩時間である。

 彼は別段休憩を必要とする男ではないのだが、時折《休め!》《休みなさいっ!》と、フォンヴォルテール卿グウェンダルやらフォンクライスト卿ギュンターに叱られるので、半ば強制的に休み時間を設けている。実の父母よりもコンラートの体調・精神管理に厳しい面々が、常にお目付役のように執務室にいるのだ。
 コンラートもこういった時間が苦痛というわけではなく、ティーカップを傾けながらゆったりと時間を過ごすのも嫌いではない。ただ、執務室で同席している面子は大抵、自分からぺらぺらと喋るようなタイプではないから、少し手持ちぶたさにはなってしまう。

 グウェンダルは人に《休め》と言いながら自分は書類を眺めていたり、本当に休むとすれば黙々と編みぐるみを作っているし、ギュンターはやはり書類を整理しているか、持ち込んだ古文書を読み解いたりしている。コンラートはと言えば、率先してやろうとする趣味と言えば乗馬くらいなものだから、やはりこういう執務の合間となると静かに読書でもするしかない。(編みぐるみについては、自分の才能を見限っている…)

 そんなわけで、執務室には窓辺から響く葉擦れの音しか聞こえない。

『リヒトは良く喋っていたよな…』

 ふと時間が出来ると、あの子どものことを思い出す。

 異世界の《自分》と、魔王有利の息子リヒト。本来であれば、こちらの世界で生を受けるはずだった魂の持ち主なのだが、その事を思い出すたびにズシンと胸に応えていた罪悪感は、ここのところその重みを軽減しつつあった。
 
 決して時間の経過と共に、コンラートの罪が軽くなったなどと思っているのではない。ただ…そんな風に《すまなかった》と思わせないくらい、リヒトはからりと陽気に振る舞い、毎日の暮らしを楽しそうに送っているからだ。

 コンラートがじめじめと罪悪感に浸っていることの方が、余程失礼だと思うくらいに。
 
『今頃、どうしているのかな…』

 リヒトは有利と同様、自分を特別扱いしない人たちの間で16歳までは養育されることにしているから、週末と長期休業は眞魔国、学期中の平日は若い祖父・祖母と伯父のもとから地域の小学校に通っている。地球の戸籍ではコンラートが渋谷家の婿養子になっており、リヒトはそのまた養子として登録されているそうだ。
 そういえば、小学校は今年の冬で卒業だと言っていたろうか。

『あと、4年か…』

 有利はリヒトが16歳になったら、彼の出生に関わる全ての事柄を伝えた上で、どの世界で生きるかを選択させるつもりでいるようだ。
 地球と、二つの眞魔国。彼は一体、どこで何をして生きていくことになるのだろうか?
 一応、幼い時にはこちらの世界に《お嫁に行く》と言ってくれているのだが…。どこまで淡い初恋をそのまま抱いていてくれるだろう?16歳になってもまだその気で居てくれるのなら、彼が欲する感情も肉体も、コンラートが持つものは全てあげたいのだけど…。

『リヒトが望めば、魔王の座だっていつでも渡せるんだけどな…』

 プレッシャーを掛けてしまうだろうから、決して口に出しては言わないけれど、それはコンラートの密かな願いであった。
 本来彼が受けるはずであった、全てのものを譲り渡したい…。休憩も惜しんでひたすら執務に努めてしまうのは、ひょっとするとそのせいもあるのかも知れない。可能な限り平和で豊かな世界を、リヒトに渡したいのだ。

 カタ…っと音を立てて、卓上に載せた写真立てを眺める。そこには、異世界から持ち込まれたカメラなるものによって、コンラートの大切な人たちが映し出されていた。
 コンラートの家族、ヨザック(これは押しつけられた女装写真だが…)、ルッテンベルク師団、友好国の人々、そして…リヒト達の家族写真。

『ユーリも元気だろうか?』

 今年の正月に交流会を開いた時には、やはり元気だった。
 異世界の《コンラッド》も、やっぱり激しく…迷惑なくらい元気だった。

 うっかり宴の席で酒を呑んだ有利がしどけない様子を人々に見せてしまうと、硬直した笑顔を浮かべて、コンラートがお姫様抱っこで別室に連行してしまった。
 翌朝の有利は相当疲れ果てていたから、《お仕置き》的な何かをされたのだろう。

 それでも有利の方も満更でも無かったようで、スッキリして反省しているコンラッドを《限度考えろよっ!》等とポカポカ叩きながら、楽しそうに笑っていた。
 あの二人にとっては、嫉妬さえもがプレイの一環なのだろう。

 周囲もすっかり諦めモードで、窘めることもなく傍観していた。

『ああいうのを、《バカップル》と言うんだっけ…』

 確か、双黒の大賢者がそんなことを言っていた気がする。
 コンラートと同じ気質を持つはずのコンラッドをして、あそこまで空気を読まずにラブラブモードに突入できるのだから、恋というのは凄まじい威力を持つのだろう。

『恋…か』

 有利への愛はコンラートの中で美しい(所々しょっぱい)思い出として輝いているから、今更傍迷惑なくらいにラブモードを炸裂させる二人を見ても嫉妬は感じない。バカップルの片割れが自分と同じ容姿をしているだけに、かなりの羞恥プレイになっているだけだ。
 
 だから《有利を忘れられないから》と言うわけではないのだけど、コンラートはずっと恋人というものを作っていない。
 考えてもみれば、有利を愛するまでは不定期に恋人と呼べる人が居はしても、何かの拍子に思いのズレを感じれば特に追うこともなく関係を消滅させていたのだから、実はあれも本当の意味で恋人だったわけではないのではないだろうか?

 かつて有利は《彼女いない歴17年》と告白してたが、それでいくとコンラートも《彼女いない歴120年くらい》なのかもしれない。ちなみにコンラッドが夫である以上、有利の《彼女いない歴》は30年目に突入しているはずだが、なんとなく指摘できない。

 いかん、ちょっとしょっぱい気分になってしまった。

「グウェン、そろそろ執務に戻…」

 ザザザザーーっ!
 バギっ…ボキっ……っ!
 ザブーン……っ!  

その時、葉擦れを通り越して枝がバキボキと折れる音が響くと、何かが執務室の横の中庭に落下していったのだと知れる。最後の音からして、おそらく噴水に落下したのだろう。

「な、何だ…!?」
「……っ!」

 ちらりと掠めた色調に、何故か迷い無くコンラートは叫んでいた。
 
「リヒト…っ!」

 漆黒の髪であれば真っ先に有利を思い浮かべそうなものだが、彼に比べると小さかったからなのかどうなのか、コンラートは《光》を意味するその名を呼んでいた。
 思わず我を忘れて窓から身を乗り出すと、やはりちいさな身体が噴水の中で気を失っている。

「リヒト…っ!!」

 悲鳴に近い叫びを上げると、気が付けばコンラートは窓から飛んでいた。
 背後でグウェンダルとギュンターの悲鳴が聞こえたが、気にしている場合ではない。

「リヒト、リヒト…っ!!」

 噴水に駆け寄って、水を跳ね上げながらリヒトを抱き上げれば、呼吸や脈拍には異常はない。声を掛けていけばすぐに瞼が開いて、大粒の黒瞳が現れた。

「レオ…っ!」

 ぱぁ…っ!と輝き渡る瞳の何と愛らしいことだろう?
 《目にしたものがコンラートで嬉しい》と語る瞳に、思わず全開の笑顔を浮かべてしまう。

「ああ…無事で良かった!でも、いきなりどうしてこんな処に落ちてきたんだい?アニシナの魔導装置には乗らなかったの?ユーリが送ってくれたのかな?」

 いつもリヒト達が来訪する時には、アニシナの魔導装置による双方向性の移動装置を使用している。緊急の用事であれば有利の力で移動も可能なのだが、疲労してしまうので余程の事がなければその手は使わないはずなのだが…。

「えと…あの、眞王陛下に…」
「ああ、眞王陛下が悪戯をなさったのかな?」

 限界まで酷使されたこちら世界の眞王に比べ、あちらの眞王には少し魔力の余裕がある。ちいさな子ども一人を運ぶくらいなら、悪戯の一環としてやりそうだ。

「え?」
「大変だったね…。あちらの眞王陛下は力が余っておられるから、時々妙なタイミングで世界移動をさせられたと、ユーリも言っていたよ」

 有利の話が出ると、途端にリヒトの唇がきゅ…っと噛みしめられる。両親が二人とも男という珍妙な家庭に生まれた割に、これまでは全く気にすることなく成長していたのだが、やはりそろそろ反抗期を迎えて、忸怩たるものを感じ始めたのだろうか?

「………うん。多分、眞王陛下がおれで遊んだんだと思う」
「そうか。では、こちらの世界の眞王廟に問い合わせてみよう」
「…っ!」

 リヒトは反射的に何かを言いかけたようだが、少し考えてからおずおずと口を開いた。

「…うん。じゃあ…それまでは、レオと一緒にいても良い?」
「勿論だよ」

 ダダダダダダ…っ!
 キキ…っ!

「これは…リヒト殿下」

 怒り心頭で駆けつけたグウェンダルも、相手がリヒトとなると、そう不機嫌な顔を維持することも出来なくなる。急停止を駆けると、おかしなくらい平静な顔を取り繕う。

 世界を救った有利に対しても、表情がとろとろになってしまいそうなのを食い止めるのに難渋していたというのに、それのミニサイズ版とあっては…ある意味、グウェンダルに対しては拷問に近いかも知れない。

 今も、抱き寄せて頭を撫で撫でしたい衝動で、手がぷるぷるしている。
 いっそ、思い切ってやってしまえばいいのに…。

「グウェン、俺の部屋に寝台をもう一つ運び込んでも良いかな?折角だから、暫く一緒にいたいんだけど」
「それが良いだろう」
「ええ、それが良いですとも!リヒト殿下、どうぞこちらの世界でゆっくりしていって下さいね?」

 一足遅れてやってきたギュンターも、強く同意してくれた。決して足が遅かったわけではなく、コンラートを心配するあまり、卓上の書類をぶちまけたのもほったらかしにしてグウェンダルが駆けていった為、後始末に数分を要したらしい。

「は…はい!」

 リヒトはグウェンダルを見た時にはそうでもなかったのだが、聖人のように微笑む優しげなギュンターを見ると、目を白黒させていた。

「どうかなさいましたか?」
「あ…まじまじと見ちゃってゴメンなさい!まだ馴れなくて…」
「もしかして…あちらの世界の《私》は、あなたに対しても、そのぅ…未だに《汁》を噴くのでしょうか?」
「はい。ギーゼラさんが言うには、《多分、双黒を見ると噴くという反射経路が出来上がっているんでしょうね》ってことです」
「い…嫌な神経回路が出来あがったものですね…」

 ギュンターは目頭を押さえて蹲ってしまった。心なしか頬が紅いのは、汁を噴きまくっている自分を想像しているのだろうか?
 世界間の移動には大量の魔力がいるから、供出要員となっているギュンターやグウェンダル自身は、まだ異世界を観たことがない。そういう話まで聞いてしまうと、《一生行かなくても良いデス》と思ってしまうギュンターだった。

 ひゅう…っと風が吹くと、木陰に入っていたリヒトはぷるりと震える。濡れた服から熱が奪われたのだろう。

「ともかく、こんなに濡れたままでは幾ら夏場と言っても拙いね。すぐに着替えよう?グウェン、今日の執務は明日に回しても良いだろうか?」
「構わん。今日と言わず、数日は緊急の報告を除いては執務に就かなくて良いぞ?」
「え?そんな訳には…」
「構わんと言っているのが分からんのか」
「はい…兄さん」

 雷親爺の中身は、弟に優しすぎる蜂蜜兄さんであった。
 照れくさそうにコンラートが礼を言うと、伸びているらしい鼻の下を右手で隠して、すぐに執務室へと向かう。もう少しリヒトを構いたそうなギュンターも、襟首を掴んで連れて行った。

「それでは、食事会の時にまたお会いしましょう」
「コンラートは息抜きの下手な男だ。リヒト殿下、しっかり遊んでやってくれ」
「はーい」

 よい子のお返事をして、リヒトはコンラートと連れだってお風呂に向かった。
 


*  *  * 




「湯加減は如何?リヒト」
「とっても良いよぅ〜」

 きゃふきゃふと魔王専用巨大風呂につかったリヒトは、お尻をぷくっと水面から浮かせて泳いでいる。ここはコンラート一人で使うには無駄が多すぎるので、就任以来使ったことがなかったのだが、忠実な掃除夫達は《何時の日か入られるかも…!》と信じて、毎日清掃を欠かさなかったらしい。ぴかぴかの獅子像からも、勢い良く澄んだ湯が溢れ出てくる。

「リヒト、頭と背中を洗ってあげようか?」
「うん!」

 ざばっと湯船から出てきたリヒトは、いそいそとコンラートの前に座った。

「シャンプーハットは無くても大丈夫?」
「もー、おれそんな子どもじゃないよ?」

 ぷくっと頬を膨らませた様子が後ろから見ても分かるから、くすくすと苦笑を漏らすけれど、そういえば三十路に突入した有利もそうだったなと思い出す。
 眞魔国では要素の祝福が大量に降り注いでいるせいか、有利は身長こそ5pほど伸びて、全体的にすらりとしてきたものの、それ以外は初めて見た時から全く年を取っていないように見える。ただ、頬を膨らませるような幼い所作をしたかと思うと、年相応に色気のある大人の仕草を混ぜたりもするので、アンバランスな魅力も湛えてもいた。

 しゃくしゃくとリヒトの滑らかな髪を泡立てながら、コンラートは異世界の恩人のことを思い出す。

「ユーリとコンラッドは元気にしてるかい?リヒトが居なくなって、大騒ぎになっているかも知れないね…。帰路の確保はともかくとして、君が無事でいることだけは急いで伝えなくてはならないね」
「…心配なんか、してないよ」
「え?」

 ぶすくれたリヒトはグイっと頭を前屈させると、コンラートの手を押しのけて自分で頭を洗い出した。

「おれ、やっぱ自分で髪洗う!」
「そう?どこか痒いところが残っていた?それとも…痛くしてしまったろうか」
「ち、違うよ!おれはもー、大きいもん。頭を洗って貰ったりするのは、子どもっぽいかなって…」
「そうか…なら、仕方ないね」

 そうは言いつつも、何故だか物凄く寂しくなって表情が沈んでしまう。リヒトに疎まれたような気がしたからだ。
 以前は数少ない共にいられる夜には、リヒトから頭を洗ってとおねだりしてきたのに。

 あんまりしょんぼりしていたせいだろうか?リヒトはあわあわと動揺すると、少し迷ってから…ちろりと上目遣いにコンラートを見上げた。

「あ…あ、やっぱ…まだちゃんと洗えてないかも…。あの、耳の後ろ…ちゃんと綺麗になってる?」
「うん、見てあげよう」

 現金にも、にこにこ顔を取り戻したコンラートが耳の後ろを確認すると、少しだけ汚れが残っていた。ついでに、耳朶の内側も丁寧に洗ってあげよう。

「少しだけ手伝わせてね?」
「ぅん…」

 耳朶に触れると、ぴくんとリヒトの肩が震えて頬が紅く染まる。

「のぼせてしまった?大丈夫?」
「へ…平気…っ」

 そうは言いつつも、貝殻のような耳朶の溝に泡を擦りつけると、コンラートの指が動くたびにリヒトはぴくんぴくんと肌を震わせる。

「も、耳は…良いよ」
「そう?」

 本当に綺麗になったかどうか確認しようと、手桶の湯で流してから至近距離にかがみ込むと、一言呟いた息が触れたのか、リヒトは真っ赤になってひっくり返ってしまった。

「は、はひぃ…っ…」
「リヒト、どうした?やっぱりのぼせたんだね?」

 コンラートは大慌てでリヒトを抱え上げると、脱衣所にひた走った。



*  *  * 




 魔王居室の寝台に吸湿性の良い寝間着をきせて横たえると、リヒトはやっと人心地ついたようだ。背中に幾つも枕とクッションを固めて上体を傾けさせ、硝子の杯から果実汁を飲ませると、ほぅ…っと息を吐いて力を抜く。

「美味しい…」
「絞りたてのラーナの果汁、好きだったよね」
「覚えててくれたの?」
「君のことなら、何一つ忘れずに覚えていたいからね」
「……」

 コンラートの言葉にはにかむと、リヒトは紅く染まった頬に両手を添えた。

「やだなー…ほっぺた熱くなっても、添えた手が熱いんじゃあ意味無いよね!」
「じゃあ、俺の手を添えようか?」

 元々体温が低いのに加え、冷やしたラーナの実を搾ったせいかコンラートの掌は心地よく冷えていた。

「熱いね…やっぱり、まだのぼせてる?」
「ううん…違う。もう、お風呂の熱は引いてるよ?」

 リヒトはふるる…っと首を振ると、困ったように唇を尖らせた。

「あのさぁ…レオ、おれがちいさいときに結婚の約束したの、覚えてる?」
「ああ、覚えているよ?」

 幼かったリヒトは、コンラートのところに《お嫁に行く》と言ってくれたのだった。
 妙に思い詰めたような表情で見つめるリヒトに、コンラートは激しい不安に駆られてしまった。
 何時かこんな日が来るとは思っていたけれど、それでも真っ向から突きつけられるとなるとギリリと心臓が軋む。

『そろそろ、好きな子が出来てもおかしくない年頃だものな…』

 きっと…今回は、約束を破棄する為に来たのだろう。
 純粋な子だから、幼い頃の約束ではあってもきちんとけじめを付けてからでないと、次の恋には移れないと思っているに違いない。

 ふわふわとした幸せな《約束》の中で、漠然と抱いていた願いは、半分くらい断ち切られてしまいそうだ。コンラートの妻にはならないのだとしても、こちらの世界で次代の魔王を継ぐかどうかは別問題だと思うが、好きな相手がどの世界の者かで今後の生き方も変わってくるだろう。
 地球で好きな人を見つけたのだとしたら、コンラートとの距離は確実に遠くなってしまう。

「あのね…」

 思い詰めたようなリヒトの表情に向けて、コンラートはいま微笑んでいるだろうか?
 硬直して…まさか、泣いたりしていないだろうか?

 ふと不安になって両手を自分の頬に寄せてみるが、取りあえず大丈夫なようだ。

『大丈夫…ちゃんと、受け止められる』

 そう心に再確認したコンラートが悠然と(少なくとも、見てくれ上は)構えていると…リヒトは予想外の爆弾を投げつけた。

 勢い良く身につけていた寝間着を脱ぐと、貴族御用達の紐パンまで脱いですっくと仁王だちになったのである。

「いますぐ、おれを抱いて!」
「……………は?……」


 コンラートの返答が素っ頓狂になってしまったのは、致し方ないことだと思う。  
  




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