その掌が鳴るとき
B












「ねぇ…コンラート、イブにはどうしても会えないの?」
「先約があるんだ。一年前からのね」

 アンナ・ヴァルクホルンは唇を尖らせて、コンラートの頬を抓った。
 彼女にしては子どもっぽい仕草だったが、コンラートが静かに微笑んでいるのを見ると小さく溜息をついて、今度は唇を寄せてくる。

 髪を洒落た形に結い上げたアンナは刺していた髪留めがコンラートの頬を掠めることに気づくと、迷いなくそれを引き抜いてウェーブを描くブルネットを背に流すと、揺れる髪と同じくらいしどけなく…コンラートに腕を絡みつかせた。

 重なり合う唇は濃厚な口吻をかわし、激しく求めてくるアンナをコンラートはさり気なく御さなくてはならない。
 カフェの隅の、植え込みの影でのキスは周りからはあまりみえないのだが、あまりに積極的なその行為は益々エスカレートしそうだったからだ。

 アンナはカフェで偶然知り合った女性で、年齢は教えてくれない。おそらく、三十路絡みとは思われるが…妖艶な仕草と踏み込みすぎない物言いは、コンラートにとって居心地の良い女性であった。

 熱烈なアプローチを受けたせいもあったが、少し思うところもあったコンラートは…請われるままにメル番を交換して、その後もこうしてカフェでの逢瀬を過ごしている。

 逢瀬を、《楽しんでいる》…とまで言ってあげられないのが申し訳ないところだ。

「アンナ…駄目だよ。こんなところで…」
「あなた相手だとがっついちゃうのよ。ねぇ…今からホテルに行かない?何でもしてあげるから…」

 厚めの唇は絶妙な均衡で淫蕩さを滲ませ、下品にならない程度の色っぽさを醸しだしている。
 だが、極めて客観的にその事実を捉えはしたものの、それによってコンラートが欲情することはなかった。

「魅力的な申し出だね。だけど…駄目」
「もう…あなたくらいの年の子は、もっと素直にお姉さんの誘惑に乗っておくものよ?」
「そうなんだよねぇ…」

 実際、コンラートはそのつもりだったのだ。

 別に彼女を愛しているとは思わないが、容貌的には好みだし、後腐れ無いタイプだと分かっている。
 結婚願望はないようだし、そこそこ場数も踏んでいる様子だからお互い楽しめるだろう…。そう思って誘いに乗ったのに、何度会っても彼女を抱きたいとは思えなかった。

『まずいなぁ…この年で不能になったのかな?』

 父に勧められるまま、やりまくったローティーンの頃が懐かしい。
 あの頃は、女性の全てが新鮮で魅力的に見えたものだ。

 16歳の少年が浮かべる慨嘆としては問題がありすぎるその言葉を、そのままアンナに聞かせることは出来ないだろう。
 
「悪いけど、どうもその気にならない」
「イブに会う子が本命って訳?だったらどうして私と会うの?寝てもくれないくせに…!」

 アンナの声が、心なしか涙ぐんでいる。
 簡単に喰えると思っていた獲物が何時までも焦らすから、空腹感に身悶えているのだろうか? 

「そうだね、こういうのは…良くないね。もう、会わないようにしようか?」
「酷い子…!」

 バンっと勢いよく頬を叩かれて、《仕方がないな》と苦笑する。
 どうやら、思っていた以上に彼女は本気だったらしい。紅色に染まった眦がぎりぎりと釣り上がり、今にも泣き出しそうに見える。

 初めて、申し訳ないという気持ちになった。

「ゴメンね…」
「こんな時に…抱きしめてさえくれないのね?」
「これ以上、誤解させると拙いと思って」

 困ったように眉根を寄せて、撲たれた頬を曲げた指でなぞっていたら…また泣き出しそうな顔でアンナが叫んだ。

「もう…!あなたったら、16歳でその色気ってどうなの!?犯罪的だわっ!」
「色気…」

 時々言われるのだが、自分では良く分からない。
 きょとんとしたように見上げたら、アンナは大人の女の顔に戻って微笑んだ。

 多分…今まで見た中で一番綺麗な微笑みだ。

「分かってないのね?ふふ…じゃあ、忠告だけしてあげる。あなた…適当に遊ぼうなんて思ったら、いつか後ろから刺されるタイプよ?それか、目の前で自殺されちゃうタイプ」
「前者はともかく、後者は堪えそうだね。注意するよ」
「ええ…。気をつけて頂戴?そして、二度と私みたいな女の誘いには乗らないで?」
「ああ…」

 少々頬が痛いが、人生の先輩に鉄拳制裁で大切な教えを頂いたような気がするので、素直に頭を下げておいた。

 アンナは背筋をきりりと伸ばして、勘定を払いにレジへと向かう。
 大人の女としての矜持を、全身から迸らせながら…。



*  *  *




『拙いことをやったもんだ』

 傷つけた。
 アンナは、多分コンラートが思っていた以上に佳い女だったのに。

 自覚はあったので、流石に落ち込んでいたら勢いよく背中をどつかれた。
 幸い、ナイフを刺されたわけではないようだ。

「見たぜぇ〜?佳い女じゃねぇか。何やってんだよ、あんた…」

 からかい半分呆れ半分という顔をして、頚に腕を絡めてきたのはヨザックだった。

「若気の至りで、拙いことをしてしまった」
「馬ー鹿。ナニ年寄りみたいなこと言ってんだよ。そういうのは孕ましてからいうもんだ」
「そこまでいったら手遅れだろう…」
「んなことより…マジであんたどうしちゃったの?あんなにやる気満々で股開いてくれそうなお姉さん袖にするってことは、別に本命が居るんだろう?だったらそっちを口説きに行けよ」
「そうじゃないと思いたかったから、俺だって努力したんだ」



 学校間の交流で女生徒に会う機会には、少しでも《良いな》と思える子には積極的に声を掛けていったし、それっぽい雰囲気も醸しだして自分を鼓舞してみた。

 しかし、どれもこれも裏目に出てしまった。

 それでなくても恋に恋してしまうような年代の少女にとって、コンラートは恰好の《王子様》であったらしく、《付き合ってくれ》などと一言もいわないうちに、《我こそはコンラート様の恋人》と名乗る者同士で血で血を洗うデスマッチが展開されるところだった。

 結局、穏健派の指導者が《コンラート様はみんなの王子様》という、学生生活にありがちな協定を結んでくれたことで事なきを得たわけだが…あれから、同年代にだけは手を出すまいと心に誓っていた。

 アンナのような大人の女性相手なら、気持ちが無くてもベッド上での快楽に耽溺できると思ったのに…これも上手くいかなかった。

『やっぱり…好きなのかな』
 
 認めたくなかった。
 認めてしまえば、きっと離せなくなるから。

『ユーリ…』

 コンラートがそう名付けた少年は、確か16歳で死んだ子の魂と融合したのだと言っていた。
 それなら、今年会う彼はコンラートと同い年というわけだ。

 そして…このままコンラートが拘束し続ければ、彼は一年という…少年期から青年期にかけては劇的な成長曲線を描くこの時期に、健やかに成長していくコンラートと、何時までも育たない自分の差を見せつけられることになるのだ。

 《でっかくなったなぁ》…去年、そう口にしたユーリとの差は、この一年でまた大きく開いた。

 少年の枠を越え、青年に近づきつつあるコンラートの背丈は既に180p近くとなり、その丈ほどではないにしても、均整のとれた体つきは着実に筋肉の厚みを増してきている。

 華奢な東洋人の少年など、出会った頃から簡単に押し倒せたのだ。
 今は…抵抗する気さえ失せるほど、圧倒的な体格差になってきている。

『抵抗するような何をする気だ……』

 コンラートは頭を抱えて眉間に皺を寄せた。

 《そういう顔をすると、グウェンにそっくりね》…と、母が見ればまた言うだろうか? 
 彼女はあのカードを送ってからというもの、時間を見つけてはギムナジウムに立ち寄るようになった。
 そして、コンラートに《頑なさが無くなった》と言っては嬉しそうに微笑むのだ。

 これまでもそつなく振る舞っていたつもりだったのだが…流石に肉親というべきか、その対応に心がないことを見抜かれていたらしい。

 肉親と言えば、兄と弟との距離も近づいてきている…と、思う。

 何が喜ばれるのかよく分からないまま、それでも誕生日のプレゼントを贈ったら去年のお返し同様、ぶっきらぼうな言葉で書き綴られた返礼が届き、コンラートの誕生日にもやはりプレゼントとカードが届けられた。

 何となく、その行間に込められた気持ちも以前より明確に理解できる様になった気がする。



「あんたなぁ…努力の方向が相変わらずずれてんのな」

 声を掛けられて、意識をやっと現実世界に戻した。

「的はずれかな?」
「そーだよ。何がネックなわけ?毎年イブに会える相手なんだろ?なら、相手だってまんざらでもないんだろうさ」
「そうじゃないんだ…あの子は、俺に羽衣をとられているようなものだから…」

 ヨザックは意味が分からず頓狂な顔をしているが、それは的確な例えと言えた。

 《プレゼント》をいつまでもコンラートが要求しないから、ユーリは何時までも捕らわれたままでいる。
 本人が望むと望まざるとに関わらず、そうせざるを得ないのだ。

『プレゼント…俺が、一番欲しいもの』

 それは…ユーリだ。
 ユーリ自身だ。

 それ以外に、欲しいものなど思いつかない。

 彼に会うまでは大切なものなど何一つ無かったし、彼に会ってからは大切なものは増えたけれど…その中でも、彼は何をおいても大切だと思うようになった。

 あの子だけが、コンラートの胸をこんなにも揺さぶる。

 あの子だけが…コンラートをこんなにも切なさと幸福感で満たす…。

『代わりになるものなんて、見つかるはずがなかったんだ』

「…じゃあ、その子は嫌がってんの?」
「いや…会うときは、喜んでくれる」
「じゃあ、脈ありじゃねえか!なんなんだテメェ…惚気てんのか!?」

 幾分キレ気味なヨザックに、慌てて弁明する。

「そうではなくて…それは、ユーリが俺の狡さに気付いていないからで…」
「なら、上手に騙してやれよ」
「は…?」
 
 《騙す》という言葉の割に、ヨザックの声は酷くやさしい。
 
「狡かろうがなんだろうが、幸せなんて感じたもん次第さ。楽しそうにしてんだろ?なら、無理に好きでもない奴に気持ちを動かそうとしてないで、その子が笑ってくれる間は全力で騙してやれよ」
「笑わなくなったら?」
「その時は引き際だ。さっきの姐さんを見ただろ?あれが大人の引き際ってもんだよ」
「そう…だな……」

 見惚れるほどの潔さは、見習うべき価値があるだろう。

 コンラートは琥珀色の眼差しを眇めて、白っぽい冬の空を見上げた。
 光度のわりに眩しいと感じる空が、後数回昼夜を繰り返せば…また、ユーリに会えるのだと思いながら。



*  *  *


 

 人形の姿がぼやけて、また今年もユーリがヒトの姿になる。

 その瞬間を待ち侘びていたコンラートは、子どものように素直になってその身体に飛びついた。

「会いたかった…!」
「ココココ……コンラッド!?」

 ヒト型をとるなりの突撃に目を白黒させていたユーリだったが、それでも精一杯腕を回してぽんぽんと背中を叩いてくれた。

「んも〜…あんた、またでかくなってんなぁ!俺の身体、すっぽり隠れちゃうよ!」
「太ったかな?」
「思ってもない癖に!何だよこの筋肉っ!」

 肩口の筋肉をあん摩師のように揉み込んだユーリは、そのままもみもみと腕やら胸元やらを触ってくるものだから、正直困ってしまう。

『……不能でなかったらしいことを、喜ぶべきなんだろうか?』

 アンナにはぴくりとも反応しなかった息子さんが、《やっ★》とでも言いたげに素直な反応を起こしてくるものだから、ついつい腰が引けてしまった。

「むぅ〜良い身体してんなぁ…」
「ユーリは筋肉フェチ?」
「うーん、近いかも!俺さ、ムキムキマッチョになりたかったんだよね〜」
「そう…」

 そのまま成長したとしてもそれは無理な気がするし、万が一成立していたらビジュアル的には微妙なところだ。
 この可愛らしい顔が、オレンジ髪の友人の身体に乗っかっているところを想像した途端に、息子さんがしょげかえってしまった。

 コンラートはゲイに方向転換したとしても、ハードゲイにはなれそうにもないらしい。

「ユーリの筋肉はどのくらいなの?」

 触られてばかりでは何なので、折角だからユーリのも見せて貰おうとしたのだが、襟元に手を伸ばした途端に《ばっ》…っとユーリの手が合わせを押さえた。

「……や、見せるほどのもんじゃないから!」
「そんな…狡い。俺のはあんなに触ったのに。俺を弄んだの?」
「き…聞こえの悪いことを…」
「事実だろ?ねぇ…見せて?」

 アンナに《犯罪的》と言われた色気を無意識のうちに放出しながら、コンラートはユーリの身体を上手に追いつめてベッドの上に転がしてしまう。

「ややや…だ、駄目…っ!俺…貧弱だからっ!」
「判断するのは俺だよ?」

 ふ…っと耳元に息を吹きかけたら、面白いくらい真っ赤になって背筋を震わせる。

「ね…見せて…」
「駄目…ゃ……っ!」

 必死で身悶える声が艶やかで…ユーリのこの色気こそ犯罪ではないかと思うのだが、するりと胸元に手を滑り込ませようとした瞬間、思いがけないほどの抵抗を受けた。


「嫌…っ!」


 力では敵わないことは明確だが、声に混じった明確な拒絶の色にびくりとコンラートの手が止まる。
 巫山戯た素振りの影に潜む、下心を見透かされたのかと思ったのだ。

 けれど、ユーリの反応はどうやらそういう意味合いではないらしい。

「見ないで…お願い……っ!」 
「ユーリ…?」

 ベッドの上で可哀想なくらい丸まったユーリは、小亀のように身を縮ませてふるふると震えていた。

 紅い服を巻き込むようにして引っ張る小さな手が、真っ白になって強張っていた。

「俺…身体は、人形なんだ…っ!」

 泣き出す寸前の声が、切羽詰まった色合いを載せて空気を引き裂く。

「え…?」
「硬い、陶器なんだよ…!プレゼントを渡すたびに人間らしくなったから、顔とか手とかは一見ちゃんと見えるけど、胴体のところは…陶器なの…!」

 《ひぅー》っと、悲痛な吸気が胸を抉る。


「だから…見ないで……っ!」


 《恥ずかしい》…《情けない》…負の感情が溢れかえる、哀しい告白。
 触れることを拒絶するその背中に、コンラートはそれでも身を寄せていった。

「人間に…なりたい?」
「うん…」

 細い首がこくん…っと布団に沈み、布地へと涙声が沁みていく。
 心臓が毟られるような痛みを覚えてコンラートは苦鳴した。

「ちゃんと成長して…大きくなりたい。人間に…なりたいよぉ……」

 無理な願いだと分かっているから、声は絶望に揺れている。

『ゴメンね…』

 こんなにも傷つけてしまったのは、コンラートなのだ。
 大切な大切なユーリを、傷つけてしまった…。

「じゃあ…俺に、プレゼントを頂戴?」
「え…?」

 勢いよく起こした上体を前から抱き込むと、コンラートは願いを告げた。

 ヨザックは《騙し通せ》と言ったけれど、きっと…引き際は今なのだと思う。


「ユーリ…君を、人間にして?」


 《ひぅ》…っと、ユーリの喉が鳴った。

「それが…願い?駄目だよ…それ、俺の願いだもん」
「俺の願いだよ。本当だ…。叶えてくれたら、君は人形師のもとに戻るのかな?それとも…人間として、ここにいてくれるんだろうか?君をこんなにも傷つけてしまった俺の所に、人間としていてくれればいいんだけど…」
「どうして?」

 ユーリの声が頼りなく震えるのに対して、コンラートは力強く告げた。

 誇らしげに…歓びを込めて。

「好きだから」

 ああ…君が、大好きなんだ。
 君の笑顔が見られるのなら、何だってしてあげたいと思うんだ。

 これはそういう気持ちだったんだ。

 真っ直ぐに見ないようにして通り道をしてきたけど、見つけてしまったら…もう、嘘はつけない。

「君が…好きだから。君が望むことを叶えたい。ね…掌を叩いてご覧?」
「駄目だよ…願い事、言ったら…駄目。俺…きっと人形師さんのところに戻るよ?」 
「じゃあ、会いに行くよ。必ず探し出して、君に会いに行く…」

 欠片のように断片的な記憶しか持たないユーリの言葉を寄り合わせても、彼の故郷が何処なのか、人形師が誰なのかは分からなかったけれど…地球のどこかで暮らしていてくれるのなら、何としても見つけ出して会う。

「俺…あんたの事だって忘れちゃうかも知れないぜ?だって俺…死んだ子の魂と融合した、幽霊のなり損ないなんだもん…!怖いよ…あんたのこと忘れるの…会えなくなるの…怖い…!」

 ぼろぼろと涙を零しながら叫ぶユーリに、彼もまたコンラートを想っていてくれたのだと気付いて、コンラートは泣き笑いの表情で微笑んだ。

 それだけで十分だ。

「忘れていたら、教えてあげる。君に…どんなに俺が幸せを貰ったか…」
「コンラッド…!駄目…嫌…っ!俺が人間の身体になりたいのは、あんたが好きだからだもん…!あんたと一緒に年を取っていきたかったから…。でも、あんたと会えなくなるかも知れないんだとしたら、願い事なんて叶えたくない…っ!」
「大丈夫。必ず会えるよ…」

 想いが繋がっていれば、きっと会える。

「だから、掌を叩いて…」

 ユーリの手を取って、両の掌で包み込んで勢いよく打ち合わせる…。

 ぱんっといい音が鳴って、ユーリの身体がまろみを帯び…そして、まだ夜明けまではあるというのに、そのシルエットが滲み始めた。

 人間の身体を手に入れたものの、やはり人形であることに違いしないのか…。
 人形師の元に、戻ってしまうのか…。

「コンラッド…コンラッド…ぉ!」

 わんわん泣きながら無茶苦茶に手を伸ばすユーリを掴もうとするが、やはり朧な存在となった彼に触れることは出来ない。

「会いに行くから…待っていて…!ユーリ…っ!」
「うん…うん……っ!」

 こくこくと頷く彼に、キスを贈る。
 物理的には合わさることのない唇が、映像だけ触れあったと思った瞬間…


 ユーリの姿は中空に消えた。


 淡い蒸気が風で吹き飛ばされるように…儚く、夢の出来事のように消え失せてしまった。

「ユーリ…」

 いつものように、ベッドの上にサンタ人形が横たわるということもなかった。
 文字通り、消えてしまったのだ。

「会いに行くよ…必ず、会いに行く…っ!」

 静かな部屋の中に、コンラートの声だけが木霊した。




 

→次へ