「蒼穹の仔」−6









 ユーリ達が執務室に戻ってくると、コンラートはとってもおかんむりだった。しかも、ヨザックときたら《じゃあな》と言い捨てて、とっとと姿をくらましてしまったのだ。

 酷い…!

「…随分と遅かったじゃないか」
「ゴメン…」

 コンラートはユーリの分まで昼食を用意させて、食べるのを待っていたらしい。湯気が消えた食事に、待っていた時間の経過が伺える。

「ごはん、さめた。ゴメン…待った?」
「ああ…王を空腹にさせたまま、城内をほっつき回っていた愛玩物のせいでな」
「ゴメン〜…」

 きゅうきゅうと縮こまって詫びれば、コンラートは幾分表情を和らげて、ちょいちょいとユーリを招いた。

「許して欲しかったら、何をすれば良いか分かるか?」

 それは勿論謝罪だろう。ユーリはもう一度、きっちりと腰まで曲げて詫びた。しかし、コンラートはまた不機嫌そうに眉を顰めてしまった。

「主人の機嫌を治す方法は、ちゃんと教えたはずだぞ?どれだけ覚えが悪いんだ…!」
「えー?」

 教えられたと言っても…。はて、なんだったか。
 きょとんと小首を傾げたところで、彼に何をされたのかを改めて思い出す。

「あ…」

 かぁ…っと頬を染めたら、コンラートはニヤリと嗤ってみせた。

「思い出したか?では、復習して貰おうか」
「ぁう〜…ほんと、する?」
「ああ、先程からそうしろと言っているじゃないか。上手に出来なかったら補習だから、心してやるように」

 こんな時まで補習対象なのかと、自分の学習能力に涙してしまう。
 そろりそろそろと歩を進めていけば、コンラートはするりと腕を回してユーリを抱き込んだ。全く…なんだってこう、無駄に色気のある人なのだろうか?誘うように淡く開かれた唇と、軽く付せられた睫がどうにも胸の鼓動を早めさせる。

「ん…」

 ドキドキしながら唇を重ねてみるが、ご主人様はそれだけでは満足できなかったらしい。不満げに鼻を鳴らすと、舌先でつんつんと歯列を突いてきた。

『もっと深くしろってか!?』

 どぉ…っと背筋から汗が噴きだしてくるが、そうしなければコンラートは益々空きっ腹を維持することになり、自然と機嫌も悪くなってくる筈だ。ユーリは意を決すると、コンラートにされた行為をなぞるようにして懸命に舌を差し入れていく。

「ん…くぅん……」

 くちゅ…
 にゅく……

 ただキスと言っても、舌を使って絡み合う行為は限りなく性交に近かった。ぬるぬる濡れた舌が意想外に気持ちいいのも不思議だ。気が付くと含みきれなくなった唾液が顎へと滴ってしまって、慌てて袖口で拭こうとしたらコンラートの舌に舐めあげられた。

「…ぁ…っ」

 かしりと耳朶の付け根を囓られて、恥ずかしいくらいに甘い声が出てしまう。嫌々をして身を反らそうとするものの、許しては貰えずにぷつりぷつりと服の合わせ目を解かれ、鎖骨に噛みつかれてしまった。あっという間に胸の尖りも露出され、暖炉で暖められているとはいえ、外気に晒されたそこが硬く痼るのが恥ずかしい。

「もう硬くなっている…。快感を覚えるのだけは早いようだな」

 ころりと指の腹で転がされれば、乱暴に囓られた時とは違う、甘いようなビリビリが伝わって、ユーリは慌てふためいてしまう。

「あ、あ…おうさまっ!ご、ごはん…さめる…」
「もう十分冷めているさ。それより、お前の躾の方が先だ。意外と成長が早いようだから、応用編を教えてやろう」
「それ、あと!ごはん、さきっ!おうさま、おなかすく!!」

 啜り泣きながらそう主張していたら、ユーリの身体の方から《きゅるるる〜…》という愉快な音が響いてしまった。

「…腹が減っているのはお前の方だろう」
「ゴメン…」

 呆れかえったように眇目になりながらも、コンラートは《ふぅ…》っと溜息をついてユーリを開放してくれた。そして鈴を鳴らして侍女を呼ぶと、スープや肉類を暖め直すように指示をして、サラダなどは置いておいてくれた。温度があまり関係ないものだけでも、すぐに食べさせてくれるつもりなのだろう。

 しかもユーリを席に着かせたコンラートは、一口サラダを口に入れて、舌の上で確認してから残りを寄越したのだった。

「おれ、さき、どくみ」

 時代劇などではよく、お殿様の毒味役がいるものだが…コンラートには必要ないのだろうか?

「お前は毒味の訓練を受けたことがあるのか?」
「ない」
「だったら、死なせるだけ無意味だ。俺は大抵の毒には身体を慣らしているし、危険なものは致死量に至る前に気付く」
「はあ…」

 この人はやはり、とんでもなく多難な人生を送ってきたのだろう。その中で誰かを犠牲にするのではなく、あくまで自分を鍛え、律していくやり方で生き延びてきたのだ。こんな些細な食事風景の中ですらそれが感じられて、ユーリはもぐもぐとサラダを口にしながら、コンラートへと尊敬の眼差しを向けるのだった。

『この人、やっぱ凄い人なんだなぁ…』

 込みあげてくるようなこの想いは、どういう形のものなのだろうか?誇り高く自分に厳しく、こんなにも優しい人が、ユーリを買ってくれて本当に良かった。

『俺…ずっと、ここにいても良いかな?』

 コンラートを満足させたら農場に帰ると言った舌の根も乾かない内に、こんな事を考えるのは酷いだろうか?

「どうした?」
「んー、おうさま、いい人。バードナーさん、いう、そのまま」
「農場の病人か。俺の良い噂を流していてくれたのか?」
「うん、バードナーさん、おうさま、なかま。むかし、バド、よばれた」
「…っ!?」

 《バド》…その名を口にした途端、コンラートの表情はヨザックやアリアズナ達のように変わった。懐かしさを帯びた驚きの表情をみて、彼もまたバードナーのことを覚えていたのだと理解する。

『良かったねぇ…バードナーさん。あんたは、今でもこの人達の仲間なんだ』

 そう思ってニコニコしていたら、コンラートに説明を求められた。ユーリは覚束ない言葉を何とか駆使して、コンラートへとバードナーの思いを伝えていく。
 別の国に別れても尚、彼はコンラートを尊崇し続けているのだと…。



*  *  * 




 ユーリの語ったことは、コンラートにとって驚愕に満ちたものだった。

 ユーリの言うバードナーとは、仲間達から《バド》と呼ばれていた青年だった。アルノルド戦に徴兵されるまでは一介の農夫であったから、あの頃は剣の持ち方さえ覚束なかったはずだ。それがあの激戦を生き抜けたのは運もあったろうが、それ以上に、《恋人を哀しませたくない》という執念によるものが大きかったのだろう。

 しかし…彼の恋人は、それでなくとも家族から猛反対を受けていた純血魔族であったはずだ。下級とはいえ一応は貴族に連なる身分でもあったから、脚を失った男など到底婿にとるはずはないと思っていたのに…。

 理由を尋ねたら、更に驚くべき事実をユーリは口にした。

 なんと、野戦病院に残されたバードナーやルッテンベルクの負傷兵達に対して、コンラートの兄、グウェンダルが口添えをして、特別な報償が支給されるよう手配してくれたというのだ。
 結婚に際しても、図々しいと分かっていながら口添えを頼めば、快く応じてくれた。そのおかげで、バードナーは結婚を認められたのだ。

「どうして…兄さんが……」
「おうさま、シマロン行ったは、しかたない。のこる人、罪、ない。せわする、《兄だから》…って…」

 《兄》…そう、あの人が言ったのか?
 本当に?

 絶縁されているものと、信じ込んでいたのに…。

 コンラートが敵国に渡ったことを、グウェンダルはきっと激怒しているだろうと思っていた。アルノルドに赴く前、彼は彼なりのやり方でルッテンベルクに武器や糧食が行き渡るように配慮を示してくれたから、余計にコンラートの行為を裏切りと受け止めて、恨み続けているのだと…。

 それが、まさか《仕方ない》ことであったのだと認識して、残されたルッテンベルク兵達の処遇にも慮っていてくれたなんて、思いも寄らなかった。

『兄さん…っ!』

 急激に喉がつかえて、目元に熱さを伴った痛みを感じる。

 口元を押さえたままあらぬ方向を向いて感情を逸らそうとするのに、ユーリはそんなコンラートをどう思ったのか、細い腕を伸ばして頭を抱き寄せた。

「お兄さん…きっと、おうさま、だいじ、思ってる」

 そんなに優しい声で、染み入るように語り掛けないで欲しい。
 何もかも晒して、泣き喚いてしまいそうではないか。

「まさか…そんな……っ…」

 コンラートは抵抗するように髪を振り乱したけれど、ユーリは重ねて語り続ける。心の底までひたすような、柔らかい声音で。

「おうさま、お兄さん、スキ?」
「俺は…っ…」

 言葉に詰まるコンラートを更に抱きしめて、泣けないコンラートの代わりに…ユーリが泣いていた。

「おれは、チキューいる、兄ちゃん…スキ。兄ちゃん…はなれる、でも…ずっと、スキ…。おうさま、お兄さん…きっと、どっちも、スキ…」

 震える声で語りかけ、ぽろぽろと涙を零しながらコンラートの背を撫でるユーリに、誘い込まれるようにして…とうとう、コンラートの涙腺が決壊する。

「……っ!…」

 コンラートの腕もまたユーリを掻き抱くように引き寄せて、泣き顔を見られぬように涙を零した。思えば…眞魔国を去ってから、初めて流す涙だ。この国に来てから全てを担わなければならなかったコンラートは、一度として泣いたことなど無かったのに、こんな子どもに泣かされてしまうとは…。

「なみだ、時々、イイ。ながす、あと…げんきなる」

 ダークブラウンの頭髪を撫でつける手は小さいのに、まるでコンラートをすっぽり丸ごと包み込むみたいに優しい。  

「ないて…ね。おうさま、たくさん、がんばった。だから…ないて?」
「…っ…」

 声を上げるなんて事は流石に出来なくて、喉奥で殺したまま泣いていたけれど、それでも久方ぶりに流した涙は、確かに長年降り積もった痼りを清め流していくかのようだった。

 棘々として苦い何かが、透き通る水の中で綺麗に浄化されていく…。

 ユーリの衣服の色を一部変えて流されていく涙は、暖め直された食事が届けられるまで止めることが出来なかった。



*  *  * 




 兎みたいに目を真っ赤にした双黒が、鼻を啜りながら扉を開けたとき、侍女のサマンサはぎょっとして一歩退いた。少年が泣いていたことはすぐに分かったから、コンラートにどんな目に遭わされたかと疑ったのだ。けれど、御礼を言ってワゴンを部屋に引き入れようとするユーリは至極穏やかな態度で、中庭の方を見るとも無しに見ているコンラートは、侍女から顔を逸らしているようにも見える。

 まさかとは思うが…コンラートも泣いていたのだろうか?

「あの…喧嘩でもなさったのですか?」

 口にした途端に出過ぎたことだと気付いて慌ててしまうが、ユーリはふるふると首を振って否定した。

「おれ、かぞく、思いだす、ないた。おうさま、なぐさめ、くれた」
「まあ…お優しいこと!」
「うん、おうさま、やさしい。おれ、スキ」

 にこ…っと双黒が微笑むと、驚くほどに柔らかい大気が満ちる。
 澄み渡る夏の空のように美しい青さは、彼が首に掛けた蒼い石からの投影なのだろうか?

「まあ…」

 それ以上は何も言えなくて、サマンサは丁寧にお辞儀をすると、不思議なほど満たされた心地で退室した。敬愛する王の傍に呪わしい双黒が立つことを疎む気持ちなど、気が付けば何処かに消え去っていた。

『あの子は…不思議な子だわね』

 コンラートが王になったとき、やはり侍女になったばかりのサマンサは心底恐怖したものだけど、酷い目に遭うどころか、彼は王宮内に充ち満ちていた悪弊を吹き払ってくれた。あの時と同じような驚きが、サマンサの胸には満ちていた。

『陛下の御為にも、あの子を護って差し上げなくては…』

 御触書によって数時間前に、《そうするべき》であることは知っていたけれど、個人的な感情として、改めて《そうしたい》と願っている自分が居た。

 日中は執務室に控えているとはいえ、ユーリの居室はいまだ後宮の一角にある。幾らコンラートが気に入っているとはいえ、正妃ではない者を王宮内には住まわせられないからだ。
 サマンサの娘レイチェルの話でも、あそこには鬱屈とした不満を抱える女達がひしめいているという。ユーリがコンラートから寵愛を受ければ受けるほど、風当たりは強くなるに違いない。
 特に、ここ数日の間は注意が必要だ。何故なら、コンラートから追放を命じられたディヴァラートが、居を去るまでに数日を要するからだ。高貴な身分の女性を即日退去させることは困難であるためだが、強い憎しみを抱いている彼女がユーリの傍にいることは、何とも恐ろしく思えた。

 ふと、サマンサは廊下に立つ衛兵に目を遣った。こういう稼業にしては随分と気質の良い、ハンスという青年だ。

「ハンス、あなたは昼番だったわね」
「ええ」
「では、お役目が終わった後で良いから、レイチェルとヘイスナーに伝えてくれないかしら?双黒の君は陛下にとって大事な方のようだから、重々、大切にお守りなさいと…」

 ヘイスナーというのはレイチェルと恋仲の衛兵だ。厳しいお姑に対して良いところを見せようという気持ちが強いようだから、言いつけておけば多少は当てになるだろう。

「はい、必ず伝えておきますよ」

 ハンスは嬉しそうににっこりと笑っている。どうやら、サマンサよりも先に、この青年は双黒に対して好意を抱いていたようだ。

『やはり、不思議な子だわ…』

 もしかしたら、サマンサ達は彼の持つ魔力に誑かされているのではないか…。
 あまりにも短い時間で価値観を塗り替えられてしまったことに、慎重な性格のサマンサは疑念を覚えずには居られなかったが、それでもなお、嫌悪を抱くにはユーリは清らかすぎた。

『まあ…良いわ。心をしっかりと持って、おかしな行動をしないかどうか見張っておく為にも、気を付けておくことはいいことだもの』

 見張った結果、ユーリが《悪い子》だなんて事がありませんようにと、サマンサは祈っていた。
 直感力に優れていると自負するサマンサが感じたとおりに、優しい子であればいいと…。 



*  *  * 




「おいしい〜っ!」
「…そうか……」

 健啖ぶりを見せてもぐもぐと昼食を採るユーリに対して、コンラートは小食だった。元々代謝効率が良いのか、それほど多く食べなくとも身体が動くようにはなっているのだが、あまりにも久しぶりに大きく感情を動揺させたことで、すっかり食欲を無くしてしまったらしい。

 単に、こんな子どもの前で泣いたことが恥ずかしかったせいもあるが…。
 そう言えば、ディヴァラートと揉み合っている際にも、《17歳》なのだと言っていなかったろうか?魔族であれば勿論のこと、人間として見てもまだまだ子どもの部類に入ってしまう。

『何をやってるんだ、俺は…』

 がっくりと項垂れていたら、ユーリが心配そうに見上げてきた。

「おうさま、おなか、いたい?」
「いいや。少し食欲がないだけだ。食べたかったら、全部食べろ」
「んーん、でも、すくない。やわらかいの、たべる。あと、おなかすく。これ、おいしい」 

 よく煮込んだポトフを差し出すユーリに、ふと悪戯心が沸く。

「食べさせてくれないか?」
「ん?」
 
 ユーリは少し小首を傾げて考えたようだが、口吻などに比べればマシだと思ったのか、一口分のジャガイモをスプーンに取ると、口元に寄せてきた。

「あーん」

 自分も一緒になって口を開けている様子が可愛くて、少し食欲が湧いてきた。またしても、《この子を味わいたいな》…という気分も膨らんだわけだが。

 ぱく。

 口に含むと、確かに滋味があって美味しい。咀嚼して胃の中に収めれば、栄養素が身体の隅々まで広がっていくようだ。
 
「もう少し食べたい」
「ハイ、あーん」

 そんな感じで次々に口へと運ばれると、結局ポトフを全て食べきり、添えられていた白パンもぺろりと食べてしまった。

「果物も欲しい」
「うん」

 ユーリは弁えたように葡萄の皮を剥いて、そのままコンラートの口へと運ぶ。紫色に濡れた指ごと咥内に含み込めば、ぬくもりが伝わったのか、軽くユーリの肩が揺れる。眦に掠めた色は、幾度か味合わされた行為を思い返すように艶を帯びていた。

「ん…美味しい」
「よ、よかった…」

 頬を赤らめて指を抜こうとするけれど、許さずに手首を捕らえて、ぱくりと指を銜えると、付け根までねっとりと舐めていく。

「お、おうさま…っ!」 
「次は、お前が欲しい…」

 熱い息を吐いて、改めて言い直す。
 食品などと並列に欲しているわけではないのだと知らせるように。
 
「ユーリ…お前が、欲しい…」
「…っ!」

 初めて名前を呼んでみたら、ユーリは大粒の瞳をこれ以上ないほどに見開いて…そして、はにかむように微笑んだ。初めて人として扱われたように感じたのだろうか?

「食べても良いか?」
「うん。おうさま、おれ、かった」
「買った相手なら、誰にでも許したのか?」

 指の節を強めに囓れば、痛みに表情を歪めながらも、ユーリは中空を見つめて何かを考えているようだった。

「おうさま、ちがうひと…おれ、かう。おれ、おかね、いる。でも…こころ、あげる、ナイ…」

 どれほどおぞましい相手であったとしても、身を委ねなければならなかったかも知れないと理解はしていたのだろうか。その上で、ユーリは今まで見たこともないような大人の顔で決意を語った。
 
「…俺に、心もくれないか」

 震える唇が紡いだ声は大気を震わすことは叶わず、代わりに与えられたのは下唇への甘噛みだった。指を開放してやる代わりに、今度はその唇を味わった。
 息を奪うような激しさの合間にも、微かに短い言葉が交わされる。

「ユーリ…」
「おうさま、スキ…」
「そうか…」
「こころ…おうさま、あげる。こころのは、おかね、いらない…」

 ユーリの心を欲してはしても、コンラートから与えることはないのを《狡い》と詰(なじ)ることもなく、羞恥を押し殺して愛の言葉を囁いてくれるから、狂おしいような声音でコンラートは強請った。

「ユーリ…俺の名を呼べ。俺の名は…コンラートだ」

 それは命令のようで、お願いのようでもあった。
 この国では殆どの者が《陛下》と呼ぶこの身を、どうか父と母から貰った名前で呼んで欲しい。

「えと…こんらぁと…こん、らっと……こんらっ、ど」
「コンラートだ」
「コンラッド…」
「ん…まあ、それでも良いさ」
「コンラッド!」

 にこ…っと笑う顔が可愛くて、もっと名を呼ぶ声を聞いていたのに、ついつい唇を塞がずには居られなかった。





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