「蒼穹の仔」−5







 任務に忠実な衛兵ハンスは、目にした光景に少々戸惑ってしまった。
 悠々と歩くコンラートの後を、ちょこたかと双黒の少年が歩いていくのだが、これがちょろりと執務室にまで入ろうとするのだ。

『止めるべきか?いや…でも、陛下に限って、気づいていないなんて事があるだろうか?』

 コンラートは基本的に穏やかで、衛兵や使用人に対して声を荒げたりするようなことはないし、気分に任せて懲罰したことなど無い。ただ、プライベートに干渉されることは嫌うので、出過ぎた真似をすると凍てつきそうな一瞥を食らってしまうことはある。

『ど、どうしよう…』

 ハンスが葛藤しつつ眺めていると、双黒は執務室の重厚な装飾に恐れをなしたように立ち竦み、《入っても良いの?》と言いたげに、コンラートの袖をちょいちょいと摘まんでいる。

『わあ…』

 なんだろう。
 えらく可愛くないか?
 
 ハンスは田舎育ちのせいか、飾り立てた宮廷人がやや苦手だ。そのせいなのかどうなのか、素朴で可愛らしい少年の様子に、思わず双黒に対する不吉さを忘れてしまう。
 コンラートはというと、双黒の様子を見て暫くなにか考えていたようだが、短時間執務室に入っていたかと思うと、一通の封書をハンスに渡した。

「ハンス、これをすぐ広報局に持っていってくれ」
「は、はい!」

 ビシッと背筋を伸ばすと、ハンスは無礼に当たらない程度の速度で駆けていった。封書の中身は、きっと双黒に関することだろう。

『陛下は、あの子を気に入られたのではないだろうか?』

 昨日は冷然と突き放していたし、今日も決して構いたてるという感じではなかったものの、どこか眼差しの中に柔らかみのようなものを感じていた。

『そうだったら良いのだが…』

 ハンスはコンラートのことを敬愛しているので、決して他人の前で語ったことはないのだが、彼はいつもどこか寂しげに見えていた。国一番の権力を持っているのに、彼にはそもそも自分を満たしたいという欲がないようにさえ見えた。無欲というより、欲しがることを諦めているのではないかと、そう思えてならない。

 あのように素晴らしい男が、そんな生き方をするなんて勿体ないことだと思うし、ハンス個人にとっても、影で実直に働いていたことを認められ、お側仕えの護衛として登用して貰った恩義もある。何とかして、コンラートが幸せな様子を拝みたいと常々思っていた。

『あの子が傍にいることで、なにかお変わりになるのではないだろうか?』

 根拠のない憶測に過ぎないと分かってはいるが、願望も含めて、ハンスはそう願っていた。



*  *  *




 ハンスの願いがどうやら叶ったらしいことは、その日の内に分かった。広報部の作ったお触書が、王宮内にくまなく告知されたのだ。

『双黒は暫くのあいだ王の愛玩物として扱うゆえ、各人、心して扱うように』

 お触書に書かれた文章は、双黒を物や動物のように扱う傲岸さを感じさせはしたのだが、コンラートのことをよく知る者の目から見れば、吹き出したくなるような表現でもあった。彼が滅多に顕さない《独占欲》というものが、御触書のインクから滲み出てくるようだったからだ。

『こいつめ、早速陥落されたらしい』

 特にニヤニヤ笑いを隠しもしなかったのは、王の懐刀として知られるグリエ・ヨザックであった。

「なにか言いたいことでもあるのか?」
「別にぃ?」

 執務室にやってくるなり、ヨザックはユーリに掛けられた魔石に目を見張り、次いで、実に可笑しそうにニヤつき始めたのだ。

「それで、用事はなんだ?」
「別にぃ〜?」
「だったら仕事に戻れ」
「あ〜ん、つーめーたーい〜」
「気色悪い声を出すな」

 バッサリと斬られたものの、ヨザックはとんと畏まった風にない。それどころか、ユーリの肩を抱いて連れ出そうとするではないか。

「…おい!」
「怖い顔しなさんなって。ちょいと王宮内の構造を教えてやるだけさ。この子、まだ何にも知らないんだろ?」
「それは…そうだろうが…」
「な?俺が行ってやるから、あんたはゆっくり仕事してなよ。ちょっとしたお使いを頼んだ時に、こいつがとんでもない場所に迷い込んだりしたらどうする?俺が安全な避難所や隠し通路を教えてやるよ」
「…」

 コンラートは不機嫌そうに眉根をしかめていたが、ユーリが瞳をキラキラさせているのを見て、嫌とは言えなくなった。好奇心満点のこの少年は、王宮内の探検(?)と聞いて、早くもソファから腰を上げ掛けている。それでもとっとと行ってしまわないのは、一応はコンラートを主と認めているからだろう。

 《行っても良い?》そう言いたそうな眼差しを送られたコンラートは、否とは言えなかった。

「…勝手にしろ」

 吐き捨てるように言うと、《元から別に、そこまで興味など無い!》と言わんばかりに、書類整理に没頭していく。
 そんなコンラートをどう思ったのか、有利はとてちてたと執務机に歩み寄ると、腰をひょいと屈めてコンラートに視線を合わせてから挨拶をした。

「ユーリ、はやい、かえる」
「…ああ」

 《早く帰るよ》…そう伝えられたコンラートの様子に、ヨザックは益々笑みを深めた。

『へぇ…ぽんやりしているようで、なかなか大したもんじゃないか』

 コンラートのつっけんどんな態度というのは、容姿が美麗であるだけに、馴れないと単純に《怒られている》と感じやすい。だが、今回については寂しくて拗ねているのだということを、ユーリは何とはなしに感じたに違いない。
 コンラートの方も言葉少なではあったが、《かえる》という言葉が自分を基点として語られていることに気をよくしたのか、一瞬だけではあったが淡く微笑んでいた。

 その表情に、ユーリもにこりと笑う。
 《ふむ、何とも可愛らしい光景だ》…とは思いつつも、幾らか心を掠めていく記憶もある。

『十数年前なら、隊長に知られないようにこいつを始末してたかも知れないけどな…』

 それはヨザック個人の、コンラートに対する淡い思慕から来ているというわけではない。コンラートは望んでこのように不器用な男になったわけではなく、そうしなければ生きていけなかったと知っているからだ。

 ことに、シマロン王として玉座に登ってから数年の間は、表だって大きな内乱こそ起こらなかったものの、それはヨザックら諜報部隊の情報収集によって、反逆者の計画が未然に防がれていたからだ。コンラートは常に情報と人々の雰囲気に気を張り巡らせ、王座を護り続けねばならなかった。

 そこには、権力の座にしがみつくというよりは、多分にゾイドバルドに対する恩義があったに違いない。ベラールの元で辛酸を舐めていた民の暮らしを知る男にとって、コンラートを王座につけたことで、余計に国内が千々に乱れるような事態を味合わせたくはない…そう思っていたのだろう。
 
『あの時期に、こんなふにゃふにゃした顔を見せていたら、間違いなくユーリの首を掻ききっていたろうな』

 だが、今はそうではない。少しくらいコンラートが生きることを愉しんだって、罰は当たらないはずだ。

「こっちに来な、ユーリ」
「うん。えと、なまえ…」
「ああ…俺は、グリエ・ヨザックよぉん」

 最後の方は派手にしなを作って扇情的に片目を瞑ると、ユーリはぱちくりと目を開いて一歩引いた。なるほど、コンラートが可愛がるはずだ。素直な反応には実にからがい甲斐がある。

「ヨザ…ユーリに余計なことまで教えるんじゃないぞ?」
「はいはーい。俺ぁイイコトしか教えねぇよーう」

 全く信用していないのか、あるいは《イイコト》と聞いて余計に不安を覚えたのかは定かでないが、コンラートは半ば腰を浮かせ掛けていた。

「まあ、良いから座ってろよ。さーて、ユーリ行こうか」
「うん。おうさま、いくね」

 バイバイと手を振るユーリに、コンラートは小さく頷き返すしかなかった。



*  *  * 




 《王様は変な人》。それは確かだが、《嫌な人》でないのが不思議と言えば不思議だった。

『なんで俺…あんな激しいベロチューとかされて、あんま怒ってないのかな…』

 ユーリはヨザックに連れられて王宮の中を歩きながら、コンラートのことを思い返していた。朝から矢継ぎ早に色んな事があって、あれよあれよという間に執務室に連れてこられたのだが、コンラートという人はつくづく風変わりな男だと思う。そして自分自身、彼をどう思っているのかよく分からなかった。

 《罰》と称して傷口や胸元を舐められ、キスまでされたのに、それ以外の時には怖いくらいに潔癖な印象を受けた。凛と伸ばされた背中を向けられても、気が付いたら追いかけていた。

 ひとつにはユーリの中の《予備知識》のせいで、何をされてもコンラートを《良い人》と認識してしまうのかも知れない。シマロン王に売られるのだと農場の人たちに伝えたとき、コンラートについてとても好意的な意見を聞いていたからだ。

『あんな突拍子もないことをする人でも、きっとなんか良いところがあるんだ。だって、俺のこともわざわざ後宮に来て助けてくれたんだし』

 考えても見れば、謁見室でのやりとりでは当分後宮には訪ねないような口ぶりだったのに、きっと、心配して来てくれたのだろう。

 さて、彼と親しげにしていた人の意見はどうだろう。

「ヨザ、おうさま、すき?」
「おう」

 唐突に質問してしまったので、どういう返事が返ってくるかなと思ったが、思いの外あっさりとヨザックは肯定する。

「大好きだよ。愛していたこともあったくらいだ」
「あい?」
「ま、あんまり気にすんな。とにかく、俺はあいつが大事ってことさ」
「ふぅん」

 ヨザックは羨ましくなるくらい立派な外野手体型だ。鮮やかなオレンジ色の長髪はワイルドなカットで、荒っぽく掻き上げればばさりと揺れる。瞳は少し薄い水色で、酷薄にも、この上なく優しくもなれるようだ。一瞬一瞬で色味が違って見えて、この人も掴みどころがない。

「あいつのこと、興味があるかい?」
「うんうん。キョーミありあり」

 ヨザックは歩を止めると、中庭の臨める階段の踊り場で、大きな窓の横に背中を預けた。冬の始まりとはいえ今日は日当たりが良くて、電灯などなくとも柔らかい陽光が踊り場に日だまりをつくる。ヨザックはユーリの手を引くと、特に暖かそうな場所に凭れさせてくれた。おかげで、ゆっくりと話を聞ける体勢になる。

「ねぇ、おうさま、なに、スキ?」
「今はお前のことが好きだろうな」
「えー?からかう、ガブっする、スキ?」
「ガブってなんだ?」

 尋ねられて最初の内は誤魔化していたのだが、この人は人の心に入り込むのがやたらと上手いらしい。気が付いたら根掘り葉掘り、その時の感情まで微細に伝えてしまった。

「ふぅん…」

 執務室に入ってきたときと同じように、実に楽しそうなニヤニヤ笑いがヨザックの顔を彩る。

「おうさま、いつも、あんな?」
「まさか!あいつが特定の誰かに執着を示すなんて、まず見たことがないさ。ああ…まあ、この国では…ってことだが」

 語尾を濁すと、その分だけヨザックの表情にも苦い何かが混ざり込む。そういえば、コンラートは元々、眞魔国の王子だったと聞く。それも、魔族と人間の混血であったが故に、戦場では獅子奮迅の働きを見せて国を護ったというのに、傷ついて入院しているところを襲われたそうだ。

 彼がシマロン軍と帯同し始めた初期には随分と情報が錯綜していたようだが、今はどうなのだろう?そういえば…18年が経過しても敵対している国同士なのだから、誤報や誤解に基づく事実認識があるのではないだろうか?

「おうさま、しんまこく、まおうさま、おにいさん、おとうと、だいじ?」

 眞魔国の中には二つの噂があって、大勢を占めているのは、《無能な眞魔国政権に愛想を尽かしたコンラートが、親兄弟も見限ってシマロンに渡った》というものだった。
 でも、ユーリはもう一つの少数意見を信じたいと思っていた。
 それを裏付けるように、ヨザックは力強く請け負った。

「ああ…大事に決まってる」
「そう…」

 では、やはり農場のバードナーが言っていたのが真実に近いのだろうか。

『あの方の元に行くなら、眞魔国で下手な貴族に買われるよりはずっといい』

 ユーリの身を自分の為に売ることに、最後まで反対していたバードナーだったが、相手がシマロン王と知った途端、安堵したようにそう請け負った。《敵国の王様なのに?》と、あの時は不思議に思ったものだが、尋ねると、コンラートの過去についてバードナーは教えてくれた。
 彼が如何に誠実で、心優しい人なのかも…。

『俺に悪戯するあの感じからは想像もつかないけど、根っこの所はきっとそうなんだろうな』

 だったら、眞魔国とコンラートを結びつけることは出来ないだろうか?小さな紛争が今でも続くこの二つの国に引き裂かれて、口に出すことのない悲鳴を彼は上げているのかも知れない。

『ペット扱いされてる俺が言うのも何だけどさ…』

 あからさまなものではないとはいえ、首輪までつけられたユーリが国家規模の恩返しをするとなると、《長靴を履いた猫》並の度量が求められるだろう。

『首輪、綺麗なネックレスみたいなので良かったよな』

 蒼い石が特に綺麗で、日だまりの中で透かしてみると、心なしか貰ったときよりも色が濃くなっているように感じる。初めて見たときからそうだったのだが、この色を見ているととても心が落ち着く。《懐かしい》…そんな感慨まで生まれるのはどうしたわけだろう?
 ユーリが大好きな、夏の初めの空に似ているからだろうか?

「なあ…それ、どういう来歴の首飾りか知っているか?」
「これ、くびわ」
「首飾りだよ。コンラートが十数年間肌身離さずつけていたんだぜ?首輪って事があるかい。俺の主君を変態にすんじゃねーよ」
「え?」
「そいつは、死んだあいつの親友がお守りにってくれたのさ。大事にしろよ?多分、この王宮の中でお前が危ない目に遭わないようにってくれたんだからな」
「えーっ!?」

 本当に、そんな大事なものをくれたのだとしたら、ちょっと意地悪そうだったり、エッチだったりするように見えて、実はツンデレな良い人なのだろうか?

「おうさま、やさしい。バードナーさん、いう、そのまんま」
「バードナー?ああ…お前さんを拾ってくれた農場主か。なんだ、そいつは隊長のことを知ってる奴だったのか?」
「ええと…むかし、るってん…べ、るく?」

 《ルッテンベルク》…確か、バードナーはそんな名前の軍隊に居たはずだ。アルノルドという絶望的な戦地で奇跡的に勝利を収めたものの、バードナー自身は脚への治療が遅れて、切断を余儀なくされたのだった。ゾイドバルドに帯同して去っていくコンラートについて行きたいのは山々だったのだが、馬に乗ることもできない身では足手まといになるだけと、泣く泣く残留したのだという。

「なに…?」

 何故かヨザックの表情が変わった。
 しかし、ヨザック自身はバードナーについて上手く思い出せないらしい。

「おい、ちょっとこっちに来い」
「んん?」

 手を引かれて向かった先は、どうやら軍隊の練兵場であるらしい。多くの馬が障害物を飛び越えていたり、軍人達が熱心に剣や組み手の練習をしている。彼らはユーリの姿を目にすると驚きはしたが、初対面の時のマナやレイチェルのように怯えるようなことはなかった。寧ろ、感嘆の念を込めて礼をしてくれる。

 きっと、彼らはコンラートと共にシマロンに渡った混血魔族達なのだろう。ヨザックに尋ねてみると、やはりバードナーが所属していたルッテンベルクの面々なのだという。

「双黒の君…!このようなむさ苦しい場所においで頂けるとは、光栄至極です」

 歩み寄ってきたのは若々しい青年だった。短く刈り詰めた髪と立派な体躯は実に軍人らしいのだが、目元が小犬のように純朴そうなのが好感を持てた。でも、魔族なのだとしたら、ユーリのひいお爺ちゃん以上の結構な年齢なのだろう。

「よお、ケイル・ポー。お前さんじゃなくて、アリアズナの奴はいないか。他の奴でも良いが…とにかく、アルノルドでのことを知ってる奴が良い」

 そうすると、ケイル・ポーは後から眞魔国から亡命した人なのかも知れない。コンラートが去った後、眞魔国に残された混血魔族は更に複雑な立場に置かれたから、特に軍人階級にあった者は多くが亡命しているのだ。

「ああ、あちらで斧の手入れをしておいでですよ」

 アリアズナというのは真紅の髪と瞳を持つ男性のようだ。やはり若々しいが、ケイル・ポーに比べると斜(はす)に構えた雰囲気で、どこかヨザックに似ているような気もする。アリアズナもユーリ達の視線に気付くと、軽やかな足取りで歩み寄ってきた。

「ヨザ、良いのか?陛下のお気に入りを連れ出してよ」
「可愛い双黒ちゃんが迷子にならないように道案内をしてやってるのさ」
「はは。お前さんが案内じゃあ、返って危ないところに連れ込まれそうだぜ」
「馬鹿。俺だって前後の見境くらいあるさ。こんなもん譲られてる子に悪戯したとあっちゃ、あいつに八つ裂きにされらぁ」
「…!」

 アリアズナやケイル・ポー、その他、興味津々という顔をして集まった人たちも一様に驚きを露わにしていた。

「こいつを双黒にやったのか!?陛下が?」
「ウィンコットの紋章…これは、スザナ・ジュリアから贈られたものではないですか?確か…陛下は、ずっとこれを身につけておいででしたよね?」
「一体全体、どういう風の吹き回しだ?」

 がやがやと言い交わしていた男達は、最初は単に好奇心だけで見守っていたものが、暖かみを帯びた口調と態度に変わっていく。それだけこの石は、コンラートにとって大事なものであったらしい。

「大事にしてください。魔石も、陛下も…」

 ケイル・ポーと呼ばれた青年がしんみり囁くと、アリアズナも少々下品な言い回しながら、にこにこと上機嫌で言った。

「おお。子種の仕込める女じゃなかったのは残念だが、まあ、男でも良いさ。陛下が魔石をあげたくなるくらい大事に思ってんならな」
「ええ…本当に!陛下にとって大切な方が見つかるなんて…!ああ、今日はお祝いの宴会でもしましょうか?」

 何だか物凄くご大層なことを言われてはいないか?コンラートとしても、そこまでの思い入れを込めてくれたわけではないような気がするのだが…。

「あの…それ、かんちがい。おうさま、おれ、からかう。あそぶ」
「からかう?あの陛下が?」
「どんなことをなさるので?」
「ええと…」

 説明するのは恥ずかしくてもじもじしていたら、ヨザックが先程問いつめて知り得た秘密をぺらぺらと喋り出した。

「あ〜っ!ヨザ、やめ〜っ!はずかしいっ!」

 腕を伸ばして口元を覆おうとしたのだが、頭を押さえられては顔自体に到達できない。
 リーチの長さが違いすぎるのだ。
 その間にも首筋を舐められたり、乳首を囓られたことをバラされてしまう。
  
「へぇええ……」
「ふぅううん……」

 滾るような好奇心を示して根掘り葉掘り聞こうとする兵士達の前で、ユーリは半泣きになって《ふきゅう〜》と顔を伏せていた。

 耳や首筋まで真っ赤にしたユーリに、兵士達が《これだけ可愛ければ、そりゃあ陛下も愛でられるだろう…》と、囁き交わしていたことは言うまでもない。

 そんなこんなで、バードナーについて聞けたのは随分と時間が経過してからだった。






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