「蒼穹の仔」−3







 バサ…
 バサバサ…

 翌日の朝になってから庭に出てみると、熊手のようなものが庭の一角にあったので、枯れ葉をかき集めていくとそれなりに集まってきた。ユーリは満足そうに笑みを浮かべると、他にもないかなと庭を見渡す。

 アナハイム家を出てからやたらと装飾華美な服ばかり着せられていたのだが、後宮で出された寝間着が良い感じに素朴な生成だったので、袖と裾を捲って掃除などしてみた。少し寒いが、ぱたくたと動いているとそれほど気にならなくなってきた。

 《れれれ〜のれ〜》などと、鼻歌の一つも口ずさもうというものだ。

『あー…でも、そろそろお腹空いてきたよな。朝飯ってどこで食べられるんだろう?』

 そんなことを考えながら掃除をしていたら、掃除婦と思しき女性が見えたので手を挙げて声を掛けてみた。

「あの、ごはん、どこ…」

 しかし、女性はユーリの姿を目にするなり《ひぃっ!》と声にならない叫びを上げて、ガタガタと震えだしてしまった。
 そういえばこの国では黒は不吉だと言うから、事情を知らない下働きの女性からしたら恐ろしい姿なのかも知れない。ユーリは今更のようにきょろきょろと辺りを見回すと、廊下に掛けられていた飾り布を手にとって、くるりとほっかむりのように髪を包んでみた。これなら目元も隠れるだろう。

「おどろく、ない。わるいこと、しない。だから、ゴハンちょうだい?」
「ご…はん……?」

 女性は40代くらいだろうか?ユーリが襲いかかったりする様子もないのに気付くと、恐る恐るといった感じで距離をとった。

「お腹が空いているの?あなた…いったいどうしてこんな所にいるの?確か、昨日後宮に入られのたよね?」
「うん。おうさま、よろこぶこと、さがし中」
「まあ…」

 一体どういう顔をして良いのか分からないという風に、女性は首を傾げてしまった。

「それで、掃除を始めたの?」
「うん」

 こっくり頷くと、女性は微かに苦笑した。

「ふふ…すぐに侍女を呼んであげますわ。後宮の女性方は宴で夜遅くまで起きておいでだから、朝食もとても遅いのですよ。侍女達もあまり早くから起こすと、癇癪を起こした姫に打擲されてしまうから、呼ばれるまでは決してお部屋に入りませんの」
「そっかー。ねえ、おば…おねえさん、どこ、ごはん食べる?」
「私は朝のお勤めが終わった後に、厨房の脇で頂きますよ」
「いっしょ、たべたい。へや、一人でたべる、さみしい」
「まあ…」

 女性の顔が少し曇ってしまう。

「そうこく…やっぱ、みんなキライ?」

 これはかなりしょっぱい事だ。国境を越えるときの検査でも、兵士達はユーリに触れることを恐れているようだった。そんなに不吉な存在だと思われているのだろうか?

『王様もそう思ってんのかなぁ…』

 だとすれば、王宮の中にユーリがいるだけで迷惑なのだろうか?腹の底から笑って貰うなんて事は夢の又夢なのか…。

 ガッカリしていたユーリだったが、その様子があんまり寂しそうだったせいか、女性は恐る恐るユーリのほっかむりを調整すると、《こちらにおいで下さい》と誘導してくれた。ちょこちょことついて行くと、そこは厨房から流れてくる湯気で割と暖かい部屋だった。既に賄(まかな)い料理を口にしている使用人達が幾人もおり、女性の姿を見かけると声を掛けてきた。

「マナ、そっちの子はどうしたんだい?新しい掃除の子か?」
「それにしちゃ、服が寝間着みたいだな」
「ええ、すぐに着替えさせてあげるのよ」

 女性はマナというらしい。ユーリを更に奥の部屋に導くと、綺麗に畳んだ作業着のようなものを貸してくれた。

「これなら冬でも暖かいし、周りの人から変に思われないから、差し上げます。これを着て、みんなと一緒に食事をしましょう?」
「ありがと!」

 にこ…っとユーリが笑うと、マナはまた恐る恐る手を伸ばして、ほっかむりを取った黒い髪を撫でつけた。

「まあ…サラサラね」
「きたなくない、あらった」

 こくこく頷けば、マナにもシマロンの中で忌避されてきたユーリの苦しみが幾ばくか伝わったらしい。

「そうね…ちっとも、汚くなんかないわ。サラサラして、とても気持ちいいもの」
「うん!」

 使用人達と摂った朝食は、久しぶりに素朴で暖かなものであった。
 マナはこちらの風習に慣れないユーリを細かに気遣い、調味料を掛けたり口元を拭ったりしてくれる。周りの使用人達の話によると、マナにはかつて子どもが居たのだそうだが、小さい頃に病で亡くなったのだそうだ。ひょっとすると、それもあってユーリに優しくしてくれるのかも知れない。

『この人にも、なにか恩返しが出来ると良いなぁ…』

 困ったときに手を差し伸べてくれた人には、お礼は三倍返しと決まっている。
 とはいえ…今現在、迷惑しか掛けていないユーリには、具体的にどうかえしたものかというビジョンはとんと立っていなかった。 

 もぐもぐと朝ご飯を食べながら、ユーリは昨日コンラートと交わした会話を思い出していた。

『俺が気まぐれにやってくるのを待って生涯を過ごせ』

 彼はそう言ったが、正直、そんなにのんびりとは待っていられない。
 そうこうする間にユーリが無芸大食ぶりを発揮して、シマロン王宮の経費を嵩ませるだけだ。

『やっぱあれだな。リサーチって大事だよな。後宮の他の女の人にでも聞くか〜』

 おそらく、マナに相談していたら震え上がって《お止めください!》と叫んだろうと思うのだが、この時、周囲に人が多かったせいもあって、ユーリは誰にも相談しないまま後宮の中へと戻ってしまった。

 コンラートの愛に飢えた女達が、ひしめき合っている巣窟へと…。



*  *  * 




 使用人用の衣服を畳んで箪笥にしまうと、他の部屋を訪れるのに適した、ほどほど華麗だが、ユーリの許容範囲の服を選ぶ。

 そしてぽてぽてと廊下に出てみたのだが、よく考えてみると訪ねていく知り合いに全く心当たりがない。誰か歩いていないかな…とうろつき回るものの、なかなか遭遇できない。そういえば、後宮の女性は宵っ張りな人が多いから、午前中にはあまり起き出してこないんだったか。

『お…』

 やっと見つけた。
 正しく《メイド!》という感じの衣装を着た少女がいたのだが、ユーリの姿を見ると《ひっ!》と息を呑み、ガタガタと震えだしてしまった。

 《またこの反応か》…と、がっかりするが、先程マナには親切にして貰ったこともあって、勇気を出して声を掛けてみた。

「あの…おれ、ユーリ。おうさま、しりたい。よくしってる人、しってる?」
「え…ぇ?あ…」

 声を掛けられていること自体に恐慌状態になっているのか、少女は歯の根の合わない様子だ。うっかり近寄ったりしたら、絶叫を上げるのではなかろうか?登下校の際に現れる露出狂みたいな扱いは嫌だ。

「おや…双黒の君ではなくて?」

 濡れたような声が扉の中からすると、侍女は更に怯えきったように肩を震わせた。
 豪奢な飾りの施された扉は透かし彫りになっていて、その影から妖艶な女性のシルエットが浮かび上がる。いま起きたばかりなのか、ざっくりと纏められた髪からは淫らがましげに後れ毛が零れていた。

「誰かそこにいるの?双黒の君が陛下のことをお知りになりたいとご所望だわ。お茶の用意をして頂戴?」
「は、はい…ただ今!」

 侍女はそう答えると、脱兎の勢いで駆け出した。こういう場所に勤めている侍女としては、随分と落ち着きのない様子だ。

『勝利の好きなドジっ子属性なのかな?』

 やたらとユーリに女装させたがり、萌えゲームやアニメがやたらと好きな兄だったが、今となっては楽しかった思い出ばかりが想起される。万が一あの子とお知り合いになったら、勝利に見せてやりたいくらいだ。

 馬鹿なことを考えていると、扉がゆっくりと開かれて白い手が伸びてくる。労働と太陽を知らぬ繊手は、抜けるように白くて…ちょっと真っ昼間から何だが、怪奇現象みたいで怖い。

『いやいやいや…でも、こうやって好意的に誘ってくれてるわけだし!』

 腕がちょっと白すぎるからといって、差別はいけないだろう。

「はいる、いい?」
「ええ…良いわ」

 三十路絡みと見られる女性は、少し自堕落な感じもするが十分に美しく、薄紫のショールを纏った下には薄地のドレスを身につけているようだ。もしかすると、昨日の夜からそのままなのかもしれない。

『うっぷ…』

 近寄ると強い香水のかおりがして、息が詰まりそうになった。上水道の発達していないシマロン王宮ではそれぞれの部屋で急にシャワーを浴びるというわけにも行かないから、匂いを上付けして隠そうとしているのだろう。

「こちらにおいで下さいな。双黒の君」
「おれ、ユーリいう」
「ほほ…」

 丁寧な言葉遣いにしようと思うのだが、言葉を知らないのでどうしても単語のみの雑な口調になってしまう。せめてお辞儀くらいは丁寧にしようとするが、下げた頭を無造作に掴まれると、乱暴に床へと押しつけられた。

「まあまあ…直接コンラート陛下のお声を賜り、後宮に入れて頂いたからそんなに不作法なのかしらね?」
「あ…ぅ…っ…」

 信じられない。顔色一つ変えないまま、上背があるとはいえ華奢な体躯の女性が強い力で有利の首を締め上げている。じたばたと暴れて何とか首から手を振り払ったものの、足首を掴まれて倒されると、側頭部を机の角にぶつけてしまう。

『しま…っ』

 強打したせいだろうか?くらくらとして立ち上がることが出来なくなってしまう。

「大人しくなったわね。良かったこと」
「ディヴァラート様…お、お茶を…」

 入室してきた侍女は先程の少女で、力無く横たわるユーリを目にすると、また《ひぃっ!》と鋭い声を上げた。多分、締め上げられた首の痕も見えたのだと思う。

「たす…けて……」

 伸ばした手をディヴァラートが掴むと、鮮紅色に染め上げられた長い爪でカリリ…と手首前面の柔らかい皮膚を引っかかれる。

「あーっっ!」

 堪えきれずに悲鳴を上げると、侍女はまたガタガタと震え出したが、動くことも出来ずにいた。涙が目元に浮かびそうになるが、女の人に爪で苛められて泣いたとあってはかなり情けない。すぐに歯を食いしばって我慢した。

「何をしているのです?お茶を置いて退室なさいな」
「で…でも…」
「誰が口答えをして良いと言ったの?妾は…侍女如きの指図を受けるところまで堕ちたのかしらね?」
「も、申し訳ありません…っ!」

 侍女の足音がどんどん遠のいていく。
 それが、恐るべき女郎蜘蛛の手の中に捕まってしまったのだということを理解させて、ユーリの背筋を慄然とさせた。

「さあ、これで邪魔だてする者はおりませんわ。ゆっくりと愉しみましょう?ほほ…そうだわ、コンラート陛下のことが知りたいのでしたわね?陛下はそれはそれは、素敵な方よ?お美しくて、凛々しくて…そして……」

 ギリ…っと爪を食い込まされた場所から、とうとう血が噴きだしてくる。  
 
「とても…残酷な方だわ」

 どんよりと濁った瞳は、まるで深い沼のようだ。腐臭すら漂わせる高貴(な、筈)の女性に捕らわれて、ユーリは悲鳴を噛み殺すだけで精一杯だった。

「どうしてあの方は何年経っても容色が衰えないの?妾は日一日と衰えていく美貌に怯え、様々な手を使って留めようとしているというのに、何をしてもあの方の瑞々しい美しさを追いかけることは出来ない。双黒の君…あなたは魔族だから、コンラートと陛下と共に在ることが出来るのかしら?」

 更に爪が深く食い込もうとすると、流石に身を捩ってユーリが暴れる。けれど、どっかりとマウント体勢を取られているせいか、抵抗にはあまり意味がなかった。

「おれ、ながいき、ない!17歳っ!」
「まあ…この期に及んで嘘を付くの?双黒は高い魔力を持つというもの…全く容色が衰えないまま何百年も生きるのよ?全く…化け物のようだこと」
「ばけもの、ナイ〜っ!ふつーっ!」
「ほほ、そうね…妾にのし掛かられて良いように嬲られる様は、ただの子どものようだわね」
「そうそう、タダっ子」
「では、その身体が本当に化け物でないか確かめてあげるわ」
「え…?」

 にやりと嗤ったディヴァラートの手がぞろりと服の裾から入り込んでくる。今度こそ肝が縮み上がって、ユーリはプライドも何もかもすっ飛ばして悲鳴を上げた。

「ぎゃぁあーっ!タスケテーっ!タスケテーっ!!神様仏様王様〜っ!!」

 神仏と並列に呼んだのが功を奏したのかどうかは分からない(後半は日本語だったけど)。
 だが、間違いなく次の瞬間には助けの手が伸ばされていた。

「助けて欲しいかい?」
「はいはいはい〜っ!!」

 響きの良い声に必死になって取り縋ると、ユーリを押さえ込んでいた女があっさりと押しのけられて、ユーリの身体はふわりと逞しい腕に抱きかかえられたのである。

「こ…コンラート陛下…っ!?」

 そう…ディヴァラートを無造作に放り投げ、ユーリを抱えていたのはコンラートその人だったのである。

「ディヴァラート、勝手に俺の玩具で遊ばないで欲しいな」
「ひ…っ!陛下…わ、妾は…そのようなつもりでは…っ!」 
「言い訳は必要ない。今日のうちに荷物を纏めて出て行くが良い」
「そ…な……っ…あ、ぁあ…」
「打ち首にならないだけ有り難いと思え」

 冷然とした声音にも眼差しにも、憐憫の色は微塵も含まれてはいなかった。ディヴァラートは今、激甚な王の怒りを買っているのだと漸く理解したように頽れると、顔を伏せて啜り泣きを始めた。

「お慈悲を、お慈悲を…っ!」
「俺の慈悲にも限度というものがある。何人もの侍女に疵を負わせたのはお前だろう?」
「……っ!」
「出て行け。俺にこれ以上口をきかせるな」

 コンラートは吐き捨てるように言うと、呆然としているユーリを抱えて部屋を出て行った。少し離れた場所にはあの怯えきっていた侍女が居て、感謝の想いを伝えようと笑顔で手を振ったら、何とも素っ頓狂な顔をしていた。ひょっとすると、彼女がディヴァラートに傷つけられたうちの一人であり、告げ口してくれたのは個人的な意趣返しであったのかも知れない。
 それでも、危ないところを助けてくれたのは確かだ。

「ありがとーっ!」

 ぶんぶんと尚も手を振ったら、はにかんだように会釈してくれた。コンラートはその子を呼ぶと、何かを取ってくるように命じていた。
 
「はふー。たすかった!おうさま、ありがとね」
「全く…いきなりディヴァラートなどに連れ込まれて、何をしようとしていたんだ?」

 感謝の言葉を応えても、やはりこちらも素直にはありがたがってくれない。先程から引き続き強い怒りを感じているらしい王様は、冷え冷えとした口調の下に明確な怒りを湛えてユーリを睨み付けてきた。

「えと…おれ、おうさま、しりたい。しる人、さがした」
「………俺の事を聞く為に、後宮の女達のもとを回ろうとしたのか?」
「うん」
「この…馬鹿っ!」

 叩きつけるように言われて、しゅんとしてしまう。
 そういえば、沢山居れば女子寮みたいな雰囲気になるのかと思っていたが、みんなコンラートの愛を求める《お妾さん軍団》なのだ。誰が新参者に情報など流してくれるだろうか?今更のように甘過ぎる見込であったと反省する。

「…もう、しない。ゴメン…おうさま、おこった?」
「ああ、怒っているさ。君の馬鹿さ加減にね…!」

 コンラートはユーリに宛った部屋に連れてくると、言葉や態度の割には優しい手つきでソファに座らせてくれる。

「…痛いか?」

 コンラートの指が首筋を伝う。どうやら、締め上げられた痕がまだ残っているらしい。
 どうしてだか、コンラートはえらく悲痛な眼差しで傷跡を見つめている。人の傷の方が色々と想像して痛い感じがするから、あれと同じ機序だろうか?

「ん?へいき。そんな、ひどい、ナイ」

 寧ろ、爪で引っかかれた前腕の方が痛んだ。佳い男はエッチの後に背中を掻かれて《悪戯な仔猫にやられたのさ》と嘯(うそぶ)くが、この場合は明確な傷害行為である。血が滲んでいるのを舐めようとすると、先にコンラートの舌が疵を辿った。

「いたた…っ」
「痛ければ、女の部屋になど入るな」
「うう…これ、バツ?」
「そうだ。躾の悪い玩具には罰が必要だろう?」

 そう言うと、コンラートは首筋の圧痕にまで舌を這わせる。そこは血など滲んでいないはずなのだが…罰だから仕方ないのだろうか?

「うひゃ…ご、ゴメン!もうしないっ!ゆるしてっ!」

 恩義があるから抵抗する事も出来なくて、ふにゃふにゃと胸板を押し返していたら、そこが変な具合に揺れているのに気付いた。
 恐る恐る見上げてみれば…コンラートは何故だが、楽しそうに笑っていた。今の振動は、笑いを堪える為に起こったものらしい。

 からかわれていたのだと知って、かぁあ…っ!と頬が染まってしまう。

「あ、あそんだ?」
「玩具で遊ぶのは、主の権利だ」
「う〜…」

 玩具のチャチャチャな立場であるのは、自分から望んだのだから仕方のないこととはいえ、やはり人として面白いものではない。お笑い芸人が人を笑わせるのは良いが、人に笑われるのは嫌がるのと同じ心理だ。

『うーん…でも、この人ってば意外と笑い上戸なのかも』

 思えば、使者の男との掛け合いを聞いてユーリを買う気になったという経緯もある。これは、何としても能動的に笑わせるしかない。

「こちょこちょ〜」
「えらく積極的だな。男の身体も試してみたくなるじゃないか」
「へ?」

 もっと笑わせようと思って脇を擽ってみたのだが、なんだか別方向に取られた気がする。
 コンラートは意地悪な笑みを浮かべると、ユーリの服をはだけてねろりと舌を這わせた。そして、無理矢理腕を掴んで頭上で一纏めにすると、ちろちろと感じやすい腋窩に舌をちらつかせるのである。

「ひぁ〜っ!!ゆるしてーっ!!」
「ダメだ。お前から誘ったんだぞ?」

 くすくすと楽しそうに笑って、コンラートはかぷりと腋窩前壁の大胸筋を囓り、一層ソファの上で跳ね回って、声をひっくり返すユーリに《ぷぷぷ》…っと吹き出している。このまま《腹を抱える》レベルまでやられた場合、ユーリの身体はどうなってしまうのだろうか!?

 その時、扉の影で先程の侍女が困り果てた顔をしていた。手に持っているのは医療品だろうか?

「あぁあ〜っ!タスケテーっ!」
「こら、主に遊ばれて助けを呼ぶ奴がいるか!」
「あう」

 反論できないものの、半泣きになって唇を尖らせると、その顔がまた可笑しかったのかくすくすとコンラートは笑う。

「レイチェル、そこに置いて仕事に戻りなさい。俺はもう少し、この子と遊ぶよ」
「いっしょ、あそぶ、イイ。おれ、あそぶ、イヤ」

 《俺で遊ばないで!》と必死でゼスチャーするのだが、コンラートが聞いてくれるはずもない。

「反論は許さない」

 かぷ。

 とうとう胸の尖りを囓られたユーリは、《ふなーっ!》と声にならない叫びを上げてしまったのだった。 


 
 
 


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