「しあわせ卵」−2










 パン…
 パパン、パンパン…っ!

 夜が明けると同時に祝砲が打ち鳴らされるが、《うるさい!》なんて声はどこからも上がらない。何しろ城下町の人々は夜明け前には起き出して今日の準備をしていた者が殆どだったし、祝砲と同時に起きた者だって、昨夜はしゃぎすぎて眠るのが遅くなっていたものだから、寝坊せずに済んだことを感謝していたくらいだ。

 パン屋の主人ビスケスも、夜明けと同時に満足そうな声を上げていた。

「よし、焼けたぞ…!」

 それはそれは見事な焼き上がりのデニッシュは、大きな王冠の形をしていた。中にチョコレートクリームをたっぷり詰めて焼き、その上に蜜を塗った果物のコンポートと金平糖のような形をした砂糖粒を散らして、マカロンのお人形を飾れば、それは魔王陛下とウェラー卿コンラートの結婚式を模した飾り菓子になる。

「まあ…流石に見事ねぇ!」
「腕によりを掛けて作ったからな…!」

 母親が混血で苦労をしてきたビスケスは元々現魔王陛下に期待していたのだが、やはり決定的だったのは、お忍びで城下町にやってきた陛下に直接会えたことだったろう。

 民の暮らしを嬉しそうに見守り、ビスケスに対しても真摯に《この辺の人たちが暮らし向きで困っていることはありませんか?》と聞いてくれた。最初に目にしたときには変装していたせいもあって気付かなかったが、ビスケスのパンの味を気に入って幾度か来てくれる内に、類い希な美貌からそうではないかと思い始めたのだ。

 何かの式典で遠目に顔立ちを見やった時に、それは確信に変わった。

 《魔王陛下御用達のパン屋》とでも宣伝をうてばさぞかし売り上げも伸びるだろうが、ビスケスは決して陛下の正体を暴くようなことはしたくなかったし、子ども達にも教えたりはしなかった。騒ぎ立てることで、そっとお忍びをして民の暮らしを見守る陛下の邪魔をしたくなかったのである。

『陛下は俺のパンを気に入って下さる。その事実だけで俺は幸せだ』

 見事な出来映えのデニッシュを店先のウインドウに飾ると、今度は王冠型の小型デニッシュを次々に焼いていかねばならない。まだ感慨に耽っているような暇はないのだ。

「さあさ、次々焼くぞ!」
「ええ、あなた」

 にっこりと微笑んで生地に卵液を塗るミントは、やはり自分たちの店に来てくれる少年が陛下で、ぴたりと寄り添う青年がウェラー卿コンラートであることを知った上で秘密を護り続けている。何も言わなくても意図を察してくれるこの女性と結ばれたことは、ビスケスにとって大きな幸せであった。

『結婚ってのは、やっぱり良いもんだよな』

 結婚とは、他人であったものが、誰よりも近しい《家族》になるための儀式だ。男同時だから子どもが生まれたりはしないのだとしても、あの素敵な二人が家族として寄り添うことはこの上ない幸いであろう。

「おとーさん、おかーさん、おはよう!」
「さあさ、とっとと朝ご飯を食べちまいな。結婚の儀の後にはすぐに民へのお披露目があるんだ。見逃したらことだぞ?」
「うんうん!」

 こくこくと頷く子ども達は、口周りを汚しながら勢い良く朝ご飯をかきこんでいく。
 さあ…賑やかで楽しい一日の始まりだ! 



*  *  * 




「すごい…国中がお祝い騒ぎだね!?」

 朝ご飯を食べてからバルコニーに出てみたうさぎのユーリと子鬼のユーリは、鮮やかな町の様子に目をぱちくりと開いていた。どこもかしこも色取り取りのリボンと華に飾られていて、お祝いの言葉が書き綴られているのだ。

「結婚の儀が終わったら、街に出てみると良いよ。ああ…でも、髪と目は隠してね?色硝子はちいさい子の目には悪いだろうから、帽子か何かで隠してさ」
「良いの!?」

 有利の言葉に二人は瞳を輝かせて飛び上がった。
 そこへ、どたどたと騒がしい足音が響いてくる。

「ゆーちゃんたら、まだこんなところに…って…きゃぁあ…っ!なにこの子達…っ!?かーわーいーいーっ!!」
「ゆゆゆゆ…ゆーちゃん!?いつの間に子どもを産んだ!?」
「コンラッドーっ!ゆーちゃんを孕ませるなんて…一体いつのまにっ!?…てか、え…っ!?何で三人もいるんだっ!?」
「三人がかりでうちのゆーちゃんをあんあん言わせる気かーっ!!」
「落ち着けよ、親父、勝利……」

 話題が飛躍しているのは当然渋谷家の面々だ。眞王廟の協力と有利の魔力を駆使して、数日前から血盟城に招いていたのである。気の早い美子は既に華やかな着物を着こんでいて、きっちりとお化粧までしていた。兄と父は礼服を着こむだけで良いと思っているのか、まだ普段着のままである。

 一同はアニシナの魔導装置によって眞魔国語も入力済みだ。(…というか、サラリーマンコンラート達も眞魔国語を理解しているというのは、絵本のシステムによるものなのだろうか?)

「しょーちゃん!?わぁ…お兄ちゃんまで一緒なんだっ!」
「…うさっ子ゆーちゃん、今…なんて?」

 きゅるんきゅるんに可愛らしいうさぎのユーリに《お兄ちゃん》と呼んで貰った勝利は、瞬く間に怒りも忘れて鼻の下を伸ばしてしまう。

「ほんとだー、勝利だ!」
「こら、そっちの鬼っ子有利もお兄ちゃんと呼びなさいっ!」
「うわぁ…こういうところまでそっくり……」

 ドン引きな鬼っ子ユーリにも、構わず勝利は《お兄ちゃん》呼びを強要している。勝利はこのモードで万国共通なのか…。

 有利が手早く家族に状況を説明すると、普段なら《そんな非科学的な!》と頭ごなしに否定する勝利も、ちいさなユーリ達の愛らしさにメロメロな為か実に軽やかな口調で請け負った。

「よし、今日はお前の晴れの日なんだから、特別にお兄ちゃんがちっちゃいゆーちゃん達の面倒を見てあげよう」
「変なことすんなよ、勝利」
「変なことなどしない!結婚式に相応しい格好をさせてあげるだけだ!」
「それが不安なんじゃねーかっ!」
「まあまあ、ゆーちゃん。ママもついてますからね」
「それも不安なんじゃん…」

 何しろ、息子の結婚式にウェディングドレスを着せようという母だ。こんなにちいさな子相手ならどんな格好をさせるか分かったものではない。
 とはいえ、確かに衣装係と約束していた時間がもうじきなので、有利としてはいつまでもここにいるわけにはいかなかった。

「じゃあ俺たち行くから、くれぐれも無理させんなよ!?」
「分かってるわよぉ〜」

 ひらひらと掌を振る母に一抹の不安を覚えつつ、有利は衣装部屋へと向かった。



*  *  * 




「おんやぁ…?」
「ヨザ!?」

 美子達に連れられてぞろぞろと歩いてきた二組のコンラートとユーリに、グリエ・ヨザックはぎょっとしたように仰け反った。噂には聞いていたが、これほどの衝撃とは思わなかったのである。

『うっわ…マジで隊長に耳が生えてら…』

 聞くところによると、尻にはふわっふわのしっぽまで生えているらしい。見てくれは屈強な戦士であるゆえに、余計に衝撃が大きい。

 更には隣にいる妙に毒気の少ないコンラートも、よく見ると衝撃が大きくなってくる。耳こそないが、幾分こちらのコンラートに比べると華奢だし、どこか儚げな雰囲気さえ漂う。剣を所持しているだけで捕まる世界と聞くから、コンラートに恋い焦がれて返り討ちに遭ってきた連中には目の毒だろう。こんな無防備そうな姿を見せたら、集団で襲いかかりそうだ。
 本人に何と言って説明すればいいのか分からないが…。

「あー…皆さんお揃いで」
「あら、グリ江ちゃんたら良いところに来たわ〜。この子達に着せられるドレスないかしら?」 
「ああ、そりゃあグレタ姫にお借りするのが一番でしょうよ。ユーリ陛下が浴びせるほど新調したドレスを買ってあげてますからね。殆ど着てない可愛いのがたくさんありますよ」

 有利は自分の服には無頓着で、宝飾品なども買い付けなくて宝物庫にあるものを見繕ってくるだけだが、やはりグレタには甘い。本人が欲しいとも言っていないのに(どこか遠慮があって、自分から欲しいとは言えないことも鑑みているのだろうが)、どんどん服だ靴だアクセサリーだと買い付けてくるのである。

 しかし、二人のちっちゃなユーリはご不満のようだ。

「えー?またドレス着るの?」
「恥ずかしいよぅ…」
「ですが、お二方のサイズの礼服となれば新調しなくてはありませんからねえ。国を挙げての結婚式に参列されるのなら、恥ずかしくない格好でなくちゃ」
「そうそうそう!ゆーちゃん、お揃いのドレスを着なさいっ!」

 鼻息も荒く勝利が賛同すると、二人のユーリはますますげんなりとした表情になるのだった。

 

*  *  * 




「みんな、準備できた?」
「わぁ…凄い、格好良いっ!」

 魔王用の衣装部屋に渋谷家の面々と二組のコンユ、そしてグレタとヨザックが入っていくと、有利は銀の刺繍も美しい漆黒の礼服に身を包んで、長いドレープが床に流れる緋のマントを羽織っていた。この季節には暑いだろうが、凛として佇む姿は涼しげだ。この辺りは流石に数年魔王業を営んでいるだけはある。

 傍らのコンラートもまた、見事な装いである。基本的には他のコンラートが着せられた白い礼装軍服に近いのだが、やはり婚礼衣装ということで豪奢な金糸の縫い取りがふんだんに用いられ、威風堂々とした様は有利とは別のベクトルで王を名乗ってもおかしくない。
 実際、こちらのコンラートはシマロン王家の正統な末裔であるらしい。

「あー…二人にやっぱドレス着せちゃったのかー…」
「うう…やっぱおかしい?」
「寧ろ、おかしくないことが俺には問題だな…」

 可憐なヘッドドレスのデザインもお揃いな二人は、水色と紺、色違いのドレスを纏っている。幾重にも重なるふわふわとした裾野の下からは刺繍の入った白いタイツに包まれた下肢が伸び、編み上げブーツが愛らしく膝下まで覆っている。

「うむ…しかしゆーちゃん、少し勿体なくないか?」
「なにが?」
「折角だから、タイツではなくニーハイの方が良くないか?腿の絶対領域が見えないのが何とも勿体なく…」
「子どもに何させる気だエロ眼鏡」

 眼鏡差別発言ともとれる言葉に、ちょうど入室してきた村田が文句を付ける。

「ちょっと渋谷…眼鏡つながりで一緒くたに批判してないで欲しいなあ…」
「村田…お前がエロ眼鏡じゃないなら問題ないんじゃない?」
「ああ、僕はエロ眼鏡なんかじゃないよ?清らか過ぎて妖精さんになろうかって勢いの僕だもの。エロのエの字にも掠っていないよ」
「どの口がそれをいうかな…」

 ヨザックと恋仲(濃い仲?)の村田が、有利よりも夜の生活に詳しいのは嫌と言うほど知っているのだが、しゃあしゃあとして村田は言を連ねた。
 
「勝利さん、ニーハイによる絶対領域は確かに良いものですが、やはりTPOってものがあるでしょう?今日は正式な式典なんですからね」
「う…まぁ、確かにそうだが」

 おお、流石は大賢者。礼節も必要なときには弁えているらしい。
 …と、思ったのだが、不意にしゃがみ込むとうさぎユーリのスカートに手を突っ込んで、白いタイツをずり下ろし始めた。

「タイツなんかで脚を覆うのは野暮ってもんだよ。折角だから生足に踝までのレース付きソックスを穿いて、かぽっとしたエナメル靴穿こうよ。それに、グレタ姫のドレスとしてはもう小さくなってるんだから、お尻部分に孔を開けて尻尾を出した方が完成度が高い」
「んん…弟のお友達グッジョブ…!それなら俺も激同だ…っ!」(←《激しく同意》の略らしい)
「やーん…っ!!」

 タイツを引き下ろされて腿を露わにされたうさぎのユーリは、顔を真っ赤にして、お尻をふりふりして嫌がっているものだから、うさぎのコンラートが冷や汗を垂らしながらしゃがみ込んだ。

「げ…猊下…お気持ちは分かりますが、こんな大勢いるまえでタイツを脱がすなんて…」
「……」

 じぃ…っと村田の視線がうさぎのコンラートに集中する。正確には…耳の部分に、だ。

 ぶふぅ…っ!

 盛大に吹き出した村田は、そのまま涙目になって床の上でぴくぴくしている。どうやら、コンラートの姿がよほどツボに填ったらしい。

「うさたん…うさたんのウェラー卿…っ!!さ、最高…っ!」
「猊下〜…」

 口元を押さえている意味がないくらいにダダ流しの感想に、うさぎのコンラートはぺたんと耳を寝かせてしまう。 

「あんた…式の間、被り物でもしておくかい?」
「いや、控え室で待たせて貰うよ…。身内の式の時だけ参列させて貰うから…」

 《そっとしておいてくれ…》と、背中で語るうさぎのコンラートに、こちらのコンラートは脂汗を流した。当分、異世界の自分の姿について村田にからかわれるような気がしたのだ。



*  *  *   




 眞王と大賢者の前で婚姻の誓いを立てたコンラートと有利は、それからバルコニーに出て民に婚礼衣装をお披露目した。血盟城前の大広場に集まった人々は一斉に紙吹雪や花吹雪を散らし、盛んに歓声を上げては魔王陛下の挙式を祝った。

「おお…なんてお美しい…!」
「ウェラー卿も、なんて凛々しいこと…っ!!」

 ほう…っと溜息をついたり、きゃあきゃあと子どもと一緒になって大騒ぎしながら、誰もが夢中で手を振っていた。

「こっちを向いて下さいな…!」
「ああ、陛下がこちらを向いて笑顔を浮かべられた…!」

 きゃー!と大騒ぎして、手に手を取って跳躍する姿が随所で見られる。

「凄いねえ…ヒトのユーリ、大人気だ!」
「うん。みんながお祝いをしてくれてるね」

 こんな賑やかな日に控え室で待っておくなんて出来なくて、結局変装をしたコンラートとユーリは4人で街に繰り出していた。血盟城前の人垣は大変な騒ぎになっていたが、二人がお色直し(ヒトのユーリはこれからが大変らしい…)と身内の式のためにバルコニーの奥へと引っ込むと、人々の波はそれぞれに狙いの店へと流れていく。

 目元と耳の隠れる長い巻き毛のカツラを被ったユーリ達は、くん…っと鼻を鳴らして芳ばしいかおりに誘われていった。

「わ…あのパン、すごく美味しそうっ!」

 大きな王冠を模したデニッシュにはたっぷりと煮た果物が乗り、砂糖人形のコンラートとユーリも飾られている。それとよく似た形状だが、こちらは掌サイズの手頃なデニッシュも実に美味しそうだ。店先では子ども達が焼き菓子の小袋と彩色卵を無量で配っていることもあり、店には大行列が出来ていた。

「確かに美味しそうですが、並んでしまうと身内の式に間に合わないかも知れませんよ?」
「そっかぁ…残念!」
「式が終わって、夕方にまた来ましょうか?」
「うん!」

 約束をして、四人はいったん血盟城へと戻っていった。



*  *  * 




「うわぁ…」
「きれーい…っ!」
「はは…アリガト…」

 二人のユーリが感嘆の声を上げると、複雑そうに有利が礼を言う。
 それも無理からぬ事で、優美なウェディングドレスに身を包んだ有利は、先程までの威風が嘘のように華奢で、新妻のはにかみを全身で体現していたのである。衣装と化粧って、本当に凄い力をもっていることだ。

 さらりと流れていた漆黒の髪には出来の良いエクステンションで細かな編み込みが為され、斜め頭頂部に編まれたお団子の上にちょこんと銀の王冠が載っている。純白のふわふわとしたレースは貧相な胸(当たり前だ!)を巧みに覆い隠して自然な膨らみを作り出し、まるでぺろんと捲ればそこにあえやかな胸の膨らみがあるのではないかとさえ夢想させる(そんな夢想しないで…!)。
 高い位置で切り替えられたウエストからはゆったりと長いドレープが続き、細かなレース編みのベールとも相まって、美しいグラデージョンを描き出している。

 コンラートの衣装は白い礼装軍服から一転して濃紺の燕尾服に替わり、シックな装いが花嫁の初々しさを際だたせていた。髪も後ろへと緩やかに撫でつけて、怜悧な美貌との印象が強くなっているのだが、琥珀色の眼差しが花嫁を見て嬉しそうに輝くと、途端にふわりと柔らかくなる。

「とても素敵ですよ、ユーリ。このまま食べちゃいたいくらい」
「あらやだコンラッドさんたらせっかちねぇ。まだまだお色直しはあるんですからね?」

 美子に茶々を入れられながらも、有利の手を取るコンラートは実に幸せそうだ。
 既に最初の儀式で婚礼が正式に認められているせいもあってか、その動作には《この人は俺のもの》との自信が充ち満ちている。

「ミコさんと母上のお達しがなければ、このまま抱きかかえて新居に雪崩れ込んでいますよ」

 血盟城の一角には離宮が建てられ、そこが二人の新居となることが決まっていた。魔王居室をそのまま使うという意見もあったのだが、それだとコンラートが気兼ねだろうと、有利にしては自分たちの為にお金を使うことを厭わなかったのだ。ただ、離宮を建てるために使った金は税金ではなく、正しく魔王業で稼いだ給料と、コンラートの貯蓄である。特に後者は結構な額であった。自分のことに全く無頓着なコンラートは、特に使う当てもなく、給料を貰ったらそのままを貯め込んでいたのである。

「さあさ、こっちのゆーちゃん達も可愛くしましょうね?」
「もう可愛くして貰ってるよ〜」
「ダメダメ!髪も結って、お花とリボンで飾りましょう?」

 ミコとツェツィーリエに捕まって逃げられるはずもない。結局、新たに白いドレスを身につけられた二人はちいさな花嫁さんのように髪も整えられ、どこから探してきたのかベールまで被せられたのである。

「やあ…とても可愛いよ、ユーリ」
「そ…そう?」

 ちいさなブーケも持たされて、それぞれのコンラートからお褒めの言葉を貰えば、もう嫌とは言えない。もじもじしながらも、互いのコンラートに擦り寄っていった。

「んまぁあ…可愛いわぁ…。ユーリ陛下とご結婚される以上は子どものことは諦めていたのに、こんなに素敵な光景が見られるなんて!」
「そうですわね〜ツェリ様!」

 母親二人は手に手を取って、きゃっきゃと声を上げている。
 
「ホントに可愛いなぁ!」

 有利まで感嘆の声を上げてしゃがみ込むと、天使のように愛くるしい子ども達との光景は見惚れるほどに麗しいものになる。当然のように勝利はぱしゃぱしゃと写真を撮りまくっていた。

「そうだわ!ゆーちゃん、二人にベールを持って貰ったら?」
「それは良いですね」

 美子の提案は実によいものであった。楚々とした花嫁のベールを両端から支える鬼っ子とうさぎさんの姿は、写真と絵画の形で眞魔国王家に伝わることになったのであった。




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