第三章 YーB
信じられなかった。
フォンヴォルテール卿グウェンダル…異境の地でその意外な愛情深さに驚き、こちらの世界に来てからコンラートも懸命に歩み寄ろうとしたとはいえ、純血の十貴族として強固な矜持を持つはずの男が今…コンラートに声援を送っている。
『お前ならば出来る…!!』
コンラートを認めてくれる言葉。
コンラートを大切な存在だと示してくれる言葉…。
その言葉を、どれほど欲しいと…飢え餓(かつ)えるほどに求めていたのか、コンラートは初めて自覚した。
『兄上……っ!』
向けた視線の先で、堂々たる武人がカッ…と眼(まなこ)を見開いて己の意志を伝えようとしている。
先程の一言からもう、その唇が動くことはなかったけれど…真一文字に引き結ばれたそこからは、決然たる意志が読み取れる。
『やるのだ…成し遂げるのだ…っ!』
そのとき、世界は変わるだろう。
虐げられてきた混血が王となる時、大きな変化がこの眞魔国に訪れるだろう。
それが幸いであるのか災いであるのかはまだ分からない。
だが…信じてくれる人がいる。
無骨で、気軽な追従など決して出来ないできないこの男が、満座の観衆の前で立ち上がり、コンラートを擁護してくれる。
あまりの感動に涙が浮かびそうになるが、泣くのはまだ早いとグウェンダルが瞳で告げてくる。
ちらりと視線を送れば、ツェツィーリエやヴォルフラムの方はまだ呆気にとられているだけだった。
だが…それでも、絡む視線の中で送られてきたのは純粋にコンラートを心配する思いであり、魔剣によって降りかかる災いを恐れてはいるようだが、コンラートが王になることを忌避する色はない。
そして最後に向けた視線の先では…簡易寝台から上体を起こし、師匠が微笑んでいた。
『おやりなさい。コンラート…!』
弟子への励ましを表情全てで語っているフォンクライスト卿ギュンターは、目が見えぬことがいくらかもどかしいようではあったが…それでも残された感覚全てを研ぎ澄まして、今この時何が起ころうとしているかを感じ取ろうとしているように思う。
『やります…っ!』
こくりとひとつ頷いて、コンラートは魔剣に向かった。
痩せ細った怨霊のような顔はコンラートを威嚇するように呻(うめ)いており、剣としては貧相ともいえる刃は、とても有利が持っていたのと同じ出自とは思われない。
有利の持つ魔剣は眞王廟で《鏡の水底》の封印に用いられているから、これは眞王によって呼び出されたこちらの世界オリジナルの魔剣モルギフであるはずだ。
あまりにも長い時を放置され続けていたモルギフは、突然の環境の変化に戸惑い…怯えているようにも見える。
それでも、コンラートは意を決してモルギフの柄へと手を伸ばしたのだが…
ガリ…っ!
「……っ!…」
漏れ掛けた声をすんでの所で止める。
剣の柄を握った瞬間…魔剣モルギフに張り付いた《顔》の口元が伸び、飢えた獣のようにコンラートの指を噛んだのだ。
だが、この反応は既に有利から聞いていた。
ちょっと頭が弱いか躾がなってない(…)可能性がある魔剣モルギフは、腹が減ったり苛つくと、主であっても噛むのだと…。
対応策も、村田が教えてくれた。
《ふ…》っとコンラートは微笑むと、教えられた台詞をとびっきり優しい口調で囁きかける。
「おいで…怖くない……」
何故か、視界の隅で村田とヨザックが《ぶふぅっ!》…っと、凄い勢いで吹き出し掛けたような気がするのだが…この台詞、間違っているわけではないのだろうか?
軽く心配になってきた…。
しかし、すぐにモルギフは噛んでしまったことを後悔したらしい。
長い舌を伸ばしてぺろぺろと傷を嘗めると(見た目はかなり気色悪かったが…)、おでこ部分を上下させ始めた。
どうやら、謝っているつもりらしい。
「良いよ…平気。優しい子だね…怯えていただけなんだよね?」
甘く囁きかければ、《ポーッ!》…っと音を立ててモルギフは蒸気を吹き上げ、唇がハート形になって本体から伸び出していく。心なしか、目もハート形だ…。
モルギフはもうのんびり突き刺さってなどいられないとでも言うように、コンラートが引き抜いてもいないのにビョンガっと弾むようにして土中から出てくると、くねくねと踊るようにして歓喜を露わにする。
かなり気持ち悪いが…少し慣れると可愛いような気もしてくる。
有利が言っていた《キモ可愛い》とはこういう状態なのだろうか?
「良い子だね、モルギフ。俺と共に戦ってくれるかい?」
むひょおおぉぉぉおう……っ!
歓喜に満ちた奇声を発する魔剣に《ちゅ》…っと軽く口吻れば…もうもう、何か一線を越えてしまったようにモルギフは悶絶し、刀身を真っ赤に染めて身悶えしている。
大丈夫か…この剣……。
* * *
「さあ…魔剣モルギフは抜かれた!いま、ここに…第27代魔王コンラート陛下の誕生を宣言する!」
魔剣に対する感想を吹き飛ばすような勢いで、眞王が力業に近い堂々たる宣言を為せば、その美麗な姿と伸びやかな声は一気に人々の心理を変転させる。
「魔王…陛下」
「混血の魔王が、誕生した…?」
当惑する声もビーレフェルト軍を中心とした集団から漏れ聞こえてくる。
だが…その声もまた忌避は含んでおらず、ただただ自分たちが見知っていたはずの世界が突然変容していくことに戸惑っている印象が強い。
驚愕が解けて、人々が少しずつ状況を理解していった時…映像のひとつから愛らしい声が響いた。
「おめでとう…!レオ…ううん、コンラート……っ!!」
まだ青ざめてはいるものの、つぶらな黒瞳に涙の粒を輝かせ…心から嬉しそうに声を上げているのは、異世界の第27代魔王陛下…有利だ。
「おめでとう…おめでとう……っ!」
降り注ぐ祝福の声は、まるで白い花弁が風に乗り…青空いっぱいに散らばっているかのように、胸をすくような感動で人々の心へと伝わってくる。
パン…パンパン……っ!
コンラートのすぐ傍からも、鮮やかな響きの拍手が聞こえてきた。
ギュンターが…グウェンダルが拍手を始めたと見るや、名を特定できない者たちが次々に思いを動作に変えて拍手を始めると、どんどんその音は大きくなり…広がっていく。
この時、強い風が吹き抜けて…すぅっと黒雲が払われていった。
サァ……っ!
サアァァアア……っっ!!
ぐんぐん吹き飛んでいく黒雲の向こうから目にも鮮やかな青空が現れたかと思うと、眩しい陽光が新たな王の誕生を祝福するかのように降り注ぎ…コンラートを照らし出す。
「獅子だ…」
誰かが、呟いた。
そう、それはまさに獅子と呼ぶに相応しい姿であった。
眩しい陽光と涼風を受ける頭髪が…豊かな艶を帯びて獅子の鬣(たてがみ)のように靡いているではないか…!
微かに紅潮した頬は青年らしい若々しさに満ち、琥珀色の瞳は驚きと喜びを湛えて輝いている。
ついでに、やっと空気を読み出した魔剣モルギフも精一杯凛々しい顔をして唇を引き結んでいる。
「獅子王…」
「獅子王コンラート…っ!」
眞魔国の歴史の中に幾度か登場し、他国の歴史の中でも勇猛を湛えられる王は好んでこの呼称を冠していた。
しかし、今この時コンラートに向けられたものが最も相応しく、凛々しいと…少なくとも眞魔国の民は固く信じていた。
「獅子王コンラート陛下の誕生だ…っ!!」
「称えよ…!祝えよ…!獅子王の御代を……っ!」
わぁぁああああ……っっ!!
割れんばかりの大歓声と拍手、沸き上がるような衝撃が国中に広がっていく。
これまで混血を卑しいものとして退けてきた者たちは幾らか声を潜めていたものの、敢えてこの流れを堰(せ)き止めることはなかった。ここで皮肉な台詞など口に出そうものなら、吊し上げを喰らいそうな雰囲気だったからである。
混血はともかくとして、コンラート個人の英明に対しては大きな信頼を寄せていた者たちはというと、こちらは遠慮なく大きな歓声を上げている。
そして…これまで踏みにじられてきた混血の民はといえば…
全身の血が沸き立つような歓びのただ中で、意識を手放さぬようにするのが精一杯の様子だった。
「わぁあ…わぁぁ…わぁ…コンラート様…うー…わぁぁぁあ…っっ!」
「うぅ…うーー……っっっ!コンラート様ぁぁ……っ!!」
誰もが歓喜に叫び、泣き…身体中の細胞を鼓舞して仲間達と歓びを分かち合っている。
* * *
「う…ぅう〜…うー……っ!コンラート様…コンラート陛下…!」
零れてくる涙で顔がぐしゃぐしゃになるが、みんな袖口で涙を拭いては映像を食い入るように眺める。涙で目が曇っていた為に決定的な何かを見逃すようなことがあれば末代までの悔いになると思うからだ。
『何てぇ時代が来たんだろう…!』
ウェラー領に住まうハンナ・ボールドは、その原動力となった少年の身体を抱えながら、尊崇する領主…いや、新たな魔王陛下のお姿を見つめていた。
「良かった…良かったねぇ…」
「ええ…ユーリ陛下。全て…あなた方のおかげですわ…っ!」
ハンナは感極まったように声を詰まらせながら、さらさらとした黒髪を何度も何度も撫でつけた。
この華奢な少年が…彼女の主を光輝燦々たる栄冠の座に導いてくれたのだ。
自分のことのように喜ぶ有利はしかし、魔力の消耗の為だろうか?ひどく熱っぽく身体に力も入らぬようだった。
「ユーリ陛下、寝室にお戻りになられますか?」
「ううん…このまま、見ていたい…。コンラッドも、まだ戦ってるよね?」
有利はふるる…っと首を振り、空に浮かぶ映像の中にその姿が見えないことを嘆いた。
「ええ…」
ハンナは、そぅ…っと有利の心境を思いやって背を撫でつけた。
そうだ…有利にとってコンラートが王位についたことは勿論この上なく喜ばしいことではあるだろうが、彼にとって更に大切なコンラッドは未だ戦地で血みどろの戦いを繰り広げているのだ。
しかし空に映し出されているのは歓喜に沸き立つ王都の様子であり、戦地での動向を知るすべは有利にはない。王都では複数の映像を扱っているようだが、各地域では原則王都の様子しか分からないのだ。
村田が映像の切り替え指令を出してくれるまで、有利はただ待つことしかできない。
きっと…まだ、村田の計画は終わったわけではないのだろうし。
「ごめんね、もうちょっとだけ…こうしてていい?」
「いいですとも!さぁーさ…ミルナ、シェーン!大急ぎで毛布を持ってきなっ!なんなら、ベッドを一台丸ごと持っておいで!」
「あいよ、母ちゃんっ!」
くたりと熱い額を寄せてくる有利にハンナは頬を上気させ、慌てて子供達を呼びつける。わらわらと10人もいる子供達の反応は素早くて、即座に駆けだしては必要と思われるものをかき集めてきた。
弱り切った可憐な魔王様に、自分たちで何かしてあげられるというのだ。
自分に可能なことは何だってしてやりたいではないか。
かくして、有利はあっという間に《どこから見つけてきたの?》と突っ込みたくなるくらい新婚モードの白い寝台に載せられ、秘蔵のお茶や砂糖漬けの果物などがワゴンにわんさと積まれるという状況に置かれてのであった…。
* * *
「さぁーて、こちらはめでたく眞魔国第27代魔王陛下が誕生したわけだが…あっちの具合はどうだろうねぇ…」
ここまでは大枠で村田の提示した計画通りなのだが…これからはかなり流動的な対応が求められる。
なにせ、ルッテンベルク軍(…と、おそらくは呼応しているだろうウィンコット軍)が人間達の軍と交戦中なのである。
この状況次第では色々と対応に変化が出てくる。
しかし、幸いなことに予想以上の早さで状況は収束に向かっているらしい。
歓喜の波動醒めやらぬ人々が頭上を見上げると、そこには既に《勇者》たるアルフォードを拘束したコンラッドの姿があり、戦場は掃討作戦に入っている。
これも殆ど戦意を失って潰走している人間達が自滅しないよう、秩序を取り戻させているような状況に近い。
もはやルッテンベルク軍の騎馬兵達は馬を労(ねぎら)い、生えたばかりの草を喰わせ、自分たちはコンラートの栄達を祝福することに集中できるだけの余裕を見せており、戦場でばたばたと動き回っているのはウィンコット軍の衛生兵が主であった。
「あちらのウェラー卿はうまいこと勇者君を生け捕りに出来たらしいね」
「そうですね…」
《うまいこと》とは言いつつも、村田の口ぶりがどこか不本意そうなのがコンラートの気にかかった。
アルフォードの扱いについて、村田は《人間世界との架け橋にする》と言っていたのだが…そのためには、彼が人間達にとっての《英雄》でなくてはならないはずだ。
しかし…村田も映像の中のコンラッドも、些か困り果てたような顔をしている。
思った以上に、アルフォードの《格》が下がってしまったらしいのだ。
人間軍の生き残りは全て何かが燃え尽きてしまったように意気消沈しているし、彼らを率いるべきアルフォードもまた、手足を縛られているわけでもないのに…いや、聖剣を没収されてすらいないというのに深い絶望の中で瞳から色を失っていた。
おそらく…ルッテンベルク軍の攻撃があまりにも鮮やかであったこと…そして、それ以上に自分たちが《悪》であるかのような立ち位置で開戦したことが、彼を打ちのめしているに違いない。
彼は、《勇者》であるべき男なのだ。
きっと彼も、周囲の人間達もそれを信じて今日までやってきただろうに、よりにもよって彼らの仲間が発した言葉…有利にぶつけられた下卑たる言葉が、彼らから《正義》の二字を奪ってしまった。
あの瞬間から、彼らは《正義》ではなく単に《魔族の敵対者》になり、今では《惨めな敗残者》にまで身を持ち崩しているのだ。
せめて敵が憎むべき醜歪さでも見せてくれれば怒りによって自分を鼓舞することも出来るのに…あろうことか、騎士道と仁慈に満ちた敵は敗残者である人間達に治癒の手を差し伸べてさえいるのだ。
《憎むことが出来ない》…《恨めない》…それは、大きくアルフォードの意気を削いでいることだろう。
これまでに抗戦してきたどんな人間よりも、絶対的な敵であるはずの魔族が気高く心優しいなんて、何という皮肉だろう?
はなはだ不本意な境遇の中で、アルフォードは何も考えられなくなっているようだった。
「困ったねぇ〜…。ウェラー卿、君…やりすぎだよ。ちょっとは敵に華を持たせてやろうとか言う気遣いはなかったの?」
「自分、不器用ですから」
「なんだい君、渋系キャラで攻めるつもりかい?でも、そのネタ渋谷に通じるかなぁ?」
横で聞いているコンラートには、やりとりの意味がよく分からない…。
ともかく分かったのは、村田にとってもこの状況がかなり《困った》ものであるということだけだ。
「おーい、ちょっと君。アルフォード君…もーちょっとやる気出して貰えないかな?」
《ぐ…》っと喉がつかえるような音が聞こえる。
村田はますます勇者を追いつめたらしい。
「腰に差してる聖剣は伊達かい?君は人間世界の最後の希望なわけだろう?君がへばってたんじゃ、人間世界ももう終わりじゃないか。顔が濡れて…いや、お腹が空いて力が出なかったのかい?アンコでも煮ようか?」
「猊下、アルフォード・マキナーは随分落ち込んでますので…言葉の虐待はその位にしてあげてください」
グサグサグサ……っ!
言葉のナイフがぷすぷすとアルフォードに刺さる様子が見えるようで(最後のコンラッドの慰めが一番効いている気もするが)、コンラートはうっかり同情してしまいそうだった。
武人として…同じ立場には絶対置かれたくない…。
…というか、大賢者を敵に回したくない。
そんないたたまれない空気を和らげようというのか、映像の一つから提案がなされた。
「村田…もー、アルを苛めんのはそのくらいにしてあげてさ…条件を出して、交渉に入ったら?」
「そーだねー…でもねぇ、このへなちょこ君だよ?交渉なんて出来るのかな?」
「だって…。このままじゃ気の毒だよ。おめおめと国にだって帰れないよ?」
慰めているようで、こちらも結構な勢いで言葉のナイフを刺してくるのは有利だ。
「そうは言ってもねぇ…聖剣も使いこなせないような勇者だよ?そこまでいくともう、勇者って言えないんじゃない?ヘナチョコ者とか小型車とか?」
「立体駐車場にも停められます…じゃなくて!もーっ、アルもアルだよっ!こんな風に言われて何で黙ってんだよっ!もう一度頑張ってみようよ!あんた、みんなの希望を背負ってここまで来たんだろ?あんたが馬鹿にされるってことは、あんたに賭けた人達のことも馬鹿にされてんのと同じなんだぜ?」
《何で俺…魔王に励まされてんだろう…》そう言いたげなアルフォードだったが、それでも見上げた先で有利が一心に自分を見つめている様を目にすると、微かに頬が紅潮する。
「元気出せよっ!あんた…生きてるだろ?生きてる限りはどんなに無茶だとか思っても、立ち止まっちゃダメだっ!《もういいや》って思った瞬間に全部が終わっちゃうんだぜ?それでもいいのかよっ!」
「……良くはない…」
小さく、アルフォードは呟いた。
「アル、あんたは何の為に眞魔国に来たんだ?この国に住む民を皆殺しにしたかったから?そうじゃないだろ?あんたは…敵だからって、意味もなく惨殺して回るような奴じゃない。少なくとも…俺と同じ世界で勇者張ってるアルは、そんな奴じゃなかったよ…っ!」
「当たり前だ…っ!俺は、ただ…飢えている者たちに、食料を持ち帰りたかっただけなんだ…っ!」
「だったら僕が交渉を申し出たときに、素直に従えば良かったのにさ」
村田の言うことは尤もではあるが、これにはアルフォードも物申したいらしい。
「乞食のように…恵んで貰うことなど出来るものか…っ!」
《殺して奪うことなら出来るのか》…と村田は突っ込みたくてしょうがないようだが、話が深いところに行ってしまいそうなので彼なりに自重しているらしい。
「じゃあ、勝負しろよっ!」
「勝負だと?」
「そうだよ。お恵みがヤダってんなら戦おうぜ?軍対軍の戦いじゃなくて、正々堂々と真っ向勝負。一騎打ちで勝負だ…っ!」
《正々堂々》…《真っ向勝負》…《一騎打ち》……
有利の放つ《正義》っぽいフレーズに奮い立たされたのだろうか?
アルフォードの瞳が光を帯び始めた。
「……誰との勝負だ?」
流石に、《俺が負けた時はどうなる》と尋ねることはなかった。
アルフォードは打ち崩された自負を立て直すべく、聖剣を手に立ち上がった。
「お…」
《俺が》と、勢いで言いかけた有利を制してコンラートが身を乗り出すと、アルフォードに向けて呼ばわった。
「俺と戦え、アルフォード」
「あんたは…二人目のウェラー卿コンラート?」
「ああ、こちらの世界のコンラートだ」
既にアルフォードは異世界のコンラートに敗北している様子だが、それでも…最後の希望を託すように、聖剣の柄を握りしめた。
「…分かった。受けて立つ…っ!」
ここに、王座を受け継いだばかりの獅子王と勇者の戦いが決定したのである。
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