V.夜の風 







 宿屋の窓を開けると、まだ往来や広場からは歓声が時折響いてくるものの、流石に夜も更けてきたせいかそこまで騒がしくはない。夜風に載せて屋台からの香りが吹き込んで来ると、祭りの余韻を鼻腔で味わうことになる。

 ただ、この部屋の卓上にも所狭しと飲食物が並べられているため、内外どちらの香りなのか判別付きがたいところだ。

「いただきまーす」
「はい、どうぞ…」

 風呂をすませた有利が串焼きにかぶりつくと、どこか脱力気味のヨザックとギィとが同時に声を掛けた。二人の頭頂部には見た感じ分からないが、丁度同じ位置にたんこぶがあるはずである。
 有利を傷つけかけた咎で、お互いの世界の《コンラート》から膂力の限り拳を打ち付けられたのだ。
 
 尚、コンラッドは宿屋の周囲を一巡してくると言って出かけている。おそらく、警備面で問題がないか確認しているのだろう。
 レオは風呂に入っており、残された鋼は天然気質の有利と、険悪な気配を漂わせているダブルヨザックの存在に戦々恐々としていた。

「ヨザックとギィも食べなよ。ほら、鋼さんも」
「……なあ…どうして俺たちが呼び捨てで、その犬コロが《さん》づけなんだよ」

 憮然としてギィが呟けば、有利は慌てて串焼き肉を咀嚼不十分なまま飲み込んでしまう。

 鋼の方は、先程顔を合わせたコンラッドにそれほどお咎めを受けなかったので、《ヨザックも来てくれたことだし、これで俺はお役ご免だ》…と、胸を撫で下ろしつつ部屋の隅で丸まっていたというのに…再び話の種にされて迷惑そうに唸った。

『おいおい…勘弁してくれよ。折角俺に対する注意が逸れてるっていうのにさ…』

 別に鋼は《さん》付けなど頼んだ覚えはない。
 ただ、有利の方が人間社会での立場を慮ってか、何となく敬称つきで呼ぶのだ。

「そーだよ、俺のことは呼び捨てで良いぜ?それこそ、ウェラーの旦那辺りに聞き咎められたら俺の首が危ういんだ。今すぐ呼び捨てにしてくれ!お願いっ!!」

 前脚を揃えて頭をぺこぺこ下げる巨大な獣というのはちょっと可愛い。
 
「そう?」

 鋼に対しては頷いたものの、有利は別の方向に気がかりなネタを見つけてしまったらしく、すっかり恐縮して肩を竦めてしまった。

「あー…ご、ごめんね!?ギィさんって呼んだ方が良かったかな?何か、レオがさん付けにしなくて良いよって言ってたから、ついそのまま勢いで…ゴメンね、ギィさん。俺…馴れ馴れしかったね?」

 しょんぼりと瞳を潤ませてしまう有利にまたヨザックは苛ついてしまったらしく…ギィを括(くび)り殺しそうな目つきで睨め付けた。

「坊ちゃん、こんな奴に敬称なんてつけなくていいですって!」
「お前…俺がユーリを坊やって呼んだらえらく腹立ててたくせに…自分も坊ちゃん扱いかよ」
「俺には溢れる愛と尽きせぬ敬意があるから良いんだよ!」
「俺にだってあるぜぇ?滾る愛と尽きせぬ下心がよ」
「自慢になるか!」

 妙にテンポが良いんだか険悪なんだか分からない言葉の応酬に、有利はおろおろと串焼きの棒を銜えてしまう。

「よ…ヨザック…なんでそんなにギィさんと仲悪いの?今日初めて会ったんだろ?コンラッドとレオは凄く爽やかに挨拶し合ってたぜ?」

『あの人達ぁ…腹に一物持ち合ってることが分かってても、大人の腹黒対応が出来る人達なんだよ……』

 横で見ている鋼は、冷や冷やしながら会話の流れを見守った。
 頼むから、自分の所にとばっちりが来ませんようにと祈りながら…。

「ユーリ、俺は別に敬称つきで呼んで欲しい訳じゃねぇよ。呼び捨てで構わねぇ…。唯、扱いが犬コロ以下なのかと思うと気に掛かっただけさ」
「ほんと?じゃあ、みんなまとめて呼び捨てで良い?」
「ああ…いいさ。俺たちの仲じゃねぇか」

 ヨザックに対する当てつけのためだろうか。
 ギィはことさら馴れ馴れしい仕草で有利の横に座ると、そのまま肩に腕を回して華奢な体躯を抱き込んでしまった。

「何してやがる!」
「なーに、親愛なる魔王陛下と親睦を深めようと思ったのさ。ちょいと誤解されちまったみたいだしな」
「退け!テメェの下品さが坊ちゃんに感染(うつ)る!」
「あぁ?テメェがこうしたいのに出来ねぇから嫉妬してんじゃないのか?」

 間に挟まれている有利は困り果てて、鋼の方に救いを求めてきた。

「あのー…お話が見えないんですが……ねー…鋼さ…あ、鋼…どうしたらいいのかな?」
「俺にも分かんねぇよ…何でこいつら、同一人物のくせしてこんなに仲が悪いんだ?もしかして、同族嫌悪か?」

 冷や汗を垂らしながら鋼が愚痴ると、ヨザックの動きがぴたりと止まった。

「……待て、ハガネ。今…なんつった?」
「ありゃ…全員で腰を落ち着けてから話そうと思ったんだけどな、えーとな…?極めて複雑な話なんだが、超簡単に結論だけ言うと、こいつらは有利が魔王にならなかった世界からやってきたグリエ・ヨザックとウェラー卿コンラートなんだとさ」

 大変簡潔な重大発言に、ヨザックは実に嫌そうな顔をする。

「何ぃ…?お前、そんな与太話信じてんのか?この俺がこんな下劣野郎と同一人物だなんて、そんな失礼な話があるかよ」
「俺だって迷惑だ。全く…どんな魔族生活送ったら、この俺がお前みたいにお目出度い魔王陛下万歳男に育っちまうんだよ…。ああ、やだやだ。この国は食い物も酒も旨いし良い国だと思ったが、自分の姿だけは目の当たりにしてがっかりしたぜ」
「えぇ〜?そんなこと言わないでよ。二人ともそれぞれに良い味出してるよ?俺…二人とも大好きだよ?」

 ギィに抱き込まれたまま涙目の有利があわあわとフォローするが、それは二人の仲を更に縺れさせてしまう。

「へぇ…俺のこと、大好き?」
「うん、大好きだよ?」

 こっくりと頷く有利の頬を掌にとると、ギィは見せつけるように唇を寄せていき…

 ……ゴッ!…っと、正確に頭頂部のたんこぶを狙って拳を受けた。

「……っ…痛ぅ〜…っ!」
「お前…何をやってるんだ?」

 痛みよりも何よりも…背後からぞくぞくと背筋に響いてくる殺気が恐ろしい…。
 風呂から上がったレオが、さぞかし素敵な笑顔を浮かべて佇んでいることだろう。

「あ、レオー!助けてーっ!!この二人、めちゃめちゃ仲悪いんだよ!間に挟まれると、離婚直前の夫婦に挟まれた子どもみたいな気分になるよ!」
「ゴメンね…ユーリ。こっちにおいで?」

 《うにゃー》っと半泣きの有利を受け止めると、レオはソファに座った。
 勢いで、そのまま横に有利を座らせる。

「怖かった?ゴメンね…こいつ、悪い奴なんだけど時々役にも立つから許してあげてね?」
「悪いんだ…」

 にっこりと綺麗に微笑むレオが毒を吐く姿に、有利は口を三角にして冷や汗を流した。
 《レオはこういう人だったろうか》…その顔はそう物語っていた。

「お…俺は良いんだ。でも…二人とも自分を嫌いなんて寂しいだろ?ここは一つ、お互いの良いところを確認し合って友好を深めたらどうかなって…」
「どうだろうねぇ…変に近すぎると、確かに嫌な点ばかりが気になってしまうかも知れないからねぇ…」
「レオもそう?」

 何気ないレオの言葉に、有利は不安げに首を傾げた。

「レオは…コンラッドのこと嫌い?」
「そんなことないよ。ただ…まだ彼については分からないことだらけだからね。判断材料が足りないかな?」
「好きになってくれたらいいなぁ…。だって俺、コンラッドはコンラッド、レオはレオで大好きなんだよ。二人がさっきのヨザックとギィみたく仲悪くなったら…寂しいな」

『うっわ…凄ぇデカイ釘挿したな……レオ、硬直してるぜ』

 コンラッドを嫌いな態度を見せれば、有利が心を痛めてしまう…それを知っていてあからさまな態度が出来るような男ではあるまい。

「どうかしましたか?」

 部屋に戻ってきたコンラッドが、微妙な空気を察して有利に視線を向ける。
 有利の隣にレオが座っているのにぴくりと右眉が跳ねたが、それも一瞬のことで…完璧に表情筋を操作してみせると、実に友好的な表情を浮かべた。

「レオ…良い宿を選んだね。ここは万が一敵襲を受けても、防御・逃走共に一番対応しやすい場所だ。君は随分と優秀な軍人のようだね」
「いやいや、そんな事はないよ…偶然だ。それより、座っては?」
「では、失礼して」

 コンラッドは有利と対面する形でソファに腰を下ろした。
 有利の隣を巡って大人げない戦いを展開するつもりはないらしい。

 その代わり…有利と目があった途端、無駄に艶っぽい眼差しを送って銀色の光彩をキラキラさせていたのだけれど……。

『ぉわー…有利、反応良いなぁ…。何でそう、いい加減付き合いが長い男ににっこり微笑まれたくらいでほっぺが赤くなるかね…』

 姫林檎のように頬を染めた有利は、ころころと転がしたいような愛らしさだ。
 
「では…本題に入ろうか?君たちは、一体どういう人達なのかな?」

 有利に気をとられてはいても、コンラッドは事の重大さを忘れることはない。
 ヨザックとギィもきちんと席に着けると、言葉の調子を変えて問題提起をした。

 ここからは、茶々入れは許さない…。

 そんな決然とした態度に、全員が知らずごくりと唾を飲み込んだのだった。



*  *  *

 


「まず、俺から説明させて貰って良いかな?」
「ああ、頼むレオ」

 挙手をすると、レオは整然とここまでの経緯を説明していった。

 現在、レオの居る眞魔国が置かれている状況…有利に拾われた経緯、そして今後の展望といった流れである。



「なるほど、こちらの世界で得られるだろう情報が、君が最も欲する物なんだね?」
「そうだ。報酬については裸一貫で訪れた身ゆえ、約束することは出来ないが…可能な限り協力をお願いしたい」
「了解した。極力、君の意に添うように力を貸そう」

 頷きながら、コンラッドはレオから視線をはずさない。

『なるほど…平行世界の俺、か…』

 確かに、似ていて当然だ。

『俺もこんなだったろうか…』

 容貌について言えば、多少傷の位置や髪の長さが違う程度でそう大きな差はない。
 彼が存在した時間軸と、コンラッドが所属している時間軸はそれほど大きな違いがないからだ。

 ただ、彼が纏う…どこか生真面目で頑なな性質というのは、コンラッドにとっては懐かしさを感じさせるものだった。

 かつては、彼もまたそうだった。

 全てを背負い、混血が差別されない国を作るためには自分が何もかもしなくてはならないと気負い込んでいた。
 だが…おそらくは地球に行ったことがコンラッドを変えた。

 異なる価値観と…何より有利の存在が、その後の行動様式を大きく変えてしまったのである。

 そう、有利…その存在は、あまりにも大きな影響力を持っている。

「ところで…君が望むのは情報だけかい?」
「どういう意味かな?」

 ぴくりとレオの眉が跳ねる。
 言っている意味が分からない訳はないだろう。
 
 だが…自分と同じ性質を持つコンラッドであれば、今それを口にすることはないと思っていたのか?

 有利を寝かしつけてから、そこから話が始まると…。

『俺も、以前ならそうしていた』

 自分自身の反応だからこそ、分かる。
 レオは、《有利に馴染む前の自分》そのものなのだから。

「君は…ユーリを君の世界に連れて行きたいんじゃないのか?」
「……!」

 あまりにも直截な問いに、一瞬レオは息を詰めてしまう。
 流石の彼も、どう返答すべきか迷ってしまったようだ。

 そこにいる全員が、緊張に身体を強ばらせた。
 修羅場が始まると予感したのだろう。

「正直に答えて欲しい。こちらの事情等はまた別の問題だ。ただ、純粋に君が考える展望を述べて貰いたい。今ここで君の本心を聞くことは、ユーリの望みでもあるはずだ」

 周囲の予想に反して、コンラッドは冷静そのものだった。
 誰よりも先に…有利がそのことに気づいて目線を送ってきた。

『俺を交えて…話してくれるの?』

 有利の瞳はそう語っている。

「ユーリは我が王だ。護るべき相手ではあっても、同時に最終的な判断を下す孤高の存在でもある。その彼を置いて秘密裏に事を運ぶことは望ましくない。俺は…もう、同じ失敗はしたくないんだ」
「既に君は、失敗しているということか?」
「そうだ。俺は…かつて、ユーリを深く傷つけ…剣まで向けた大罪者なのだから…決して、二の轍は踏まない」

 コンラッドの言葉にレオは目を剥き、有利は腰を浮かせる。

「コンラッド…でも、それは…!」
「ええ、この話は後でゆっくりしましょう。俺とレオと、二人で話してもいいですか?全て、もうあなたに話していることばかりです」
「う…うん……」
「君も、それで良いかな?」
「ああ…」

 今の本筋には関わらない話なので先送りにしたが、それでも…腹蔵を明かしたコンラッドの意志に、レオも反応したようだった。

「では、正直に述べさせて貰おう…俺は、ユーリに来て欲しい」
「レオ…」

 緊張の度を高め、無意識のうちに剣の柄へと手を伸ばしているヨザックやギィとは対照的に、コンラッドはあくまで自然体であった。

「どういう展望のために?」
「ユーリのもつ強大な魔力によって、眞魔国の土壌を蘇らせて欲しい」
「なるほど。では、ユーリはその申し出をどう思います?」
「俺は…」
「正直に言って良いです。魔王陛下としての立場は一旦置いて、ユーリ個人としての希望をまずは教えて下さい」

 落ち着いた琥珀色の瞳に促されて、有利は戸惑いながらも想いを口にした。

「俺…行きたい……」
「坊ちゃ…っ!」
「口を挟むな、ヨザ」

 腰を浮かせたヨザックをコンラッドが鋭く制すると…縮こまってしまった有利に再び瞳で促す。

「では、その理由は?」
「俺がいない世界なんだとしても…それでも、そこは眞魔国だろう?それに俺…こんなに苦しんで、頑張ってるレオやギィのためにも、俺に出来ることがあるなら手伝ってあげたいんだ!」
「分かりました」
「じゃあ…っ!」

 予想外の返答に有利が跳ね上がり、ヨザックと鋼が怒りに顔色を変えるが…コンラッドは苦笑して彼らを制した。

「ああ、待ってくださいユーリ。今の《分かった》は、あなた個人の希望を俺が認識したという意味です。今度は、俺に臣下として発言させていただけますか?」
「え…あ、うん……」

 コンラッドは居住まいを正すと、今度は臣下としての眼差しと口調で発言した。


「俺は…今行われたレオの申し出を、陛下が受諾することには反対します」


 明確な立ち位置を示す《臣下》に、有利は泣きそうな顔をするがコンラッドが表情を変えることはなかった。

「コンラッド…っ!」
「理由は、幾つかありますが…その最大のものは、レオの示す展望がその場凌ぎであるのみならず、後味の悪いものになる可能性が高いことです」

 口調は淡々としているが、明確な拒否にレオが眉を寄せる。

「確かに…こちらの都合だけを押しつける提案だとは自覚しているが…」
「そういう面もあるが、それだけではないんだよ…レオ。君がやろうとしていることは、根本的な解決には結びつかないんだ」
「…君には、その問題点が提示できるというのか?」
「おそらくは…ね。まず、陛下は御伽噺に出てくる魔法使いではないから、《大地は蘇りました。おしまい》とはいかない。大きな魔力を使って一年くらいは作物も実るかも知れないが、根本的な問題…禁忌の箱をどうにかしないことには、大地はまた枯れるだろう。そうなったとき、陛下はこちらの世界に帰ってこれるのかい?」
「それは…」

 有利の性格からいって、気心の知れた人々が一度は飢えを凌ぐことが出来て、深い感謝を捧げられた翌年にまた作物が実らないとなれば…また魔力を使ってしまうことだろう。

「禁忌の箱の影響力は年と共に大きくなっていると言っていたね?それは、禁忌の箱の力が増大しているか、あるいはそれを緩衝する要素の力が弱まっているかのどちらか…または両方だろう。…と、なれば…陛下が使わなくてはならない魔力は年々増大していくのでは?君は、陛下が力尽きるまで魔力を絞り上げたいかい?」
「う……」

 絶句して、レオは片手で顔を覆ってしまった。
 護りたい国と、護りたい人との間で磨り潰されるような心境にあるのだろう。

「……出来ない…!」
「君は望まないだろうね。だが、陛下は望んでしまう。その身に持つものを全て捧げ尽くしてしまう…良くも悪くも、陛下はそういう方だ。君にも…分かるだろう?」

 分かっているのだろう。
 レオは…力無く項垂れて顔を伏せてしまった。

「それを辛いと思い、君がユーリをこちらに返してくれたとしても…人々は、一度は救ってくれたことを忘れない。…悪い意味でね。最初、彼らは君に懇願するだろう。《奇蹟をもたらす双黒を、再び召還してくれ》。それでも君が応じなければ、人々の追いつめられた心は怒りの形で君に向くだろう。《双黒を独り占めする裏切り者を殺せ…!双黒を奪え…!》……凄惨な悲劇が起こるだろうね」

 言葉が…凶器のようにレオを切り刻んでいくのが分かる。

 コンラッドもまた胸苦しさを感じるが、今は自覚して貰わなくてはならないのだ。
 これは…強大な魔力を持っているだけではどうにもならない事態なのだということを。

「コンラッド…コンラッド…!駄目…なのかな?俺…レオに、ギィに…あっちの眞魔国の人達に…何にもしてあげられないかな!?」

 有利はぽろぽろと涙を零しながら、悔しげに歯列を食いしめる。
 コンラッドの提示した問題があまりにも正鵠を射すぎていて、反論は出来ないのだろう。

 それでも…感情の部分が納得できないに違いない。


「それを、調べるべきだとは思いませんか?」
「……え?」


 きょとんと見上げたのは、有利だけではなく…レオも、ギィも同様だった。

「いま申し上げたように、事は単純ではないのです。ただ、一度行って《作物が実った。良かったね》では終わらないことは分かりましたね?」

 コンラッドの瞳は、先程までの冷徹な色を払拭し…悪戯っ子のような光を湛えて煌めいている。

「う…うんうん!分かった…嫌ってほど分かったよ!」

 何かを予感するように、頬を上気させた有利が勢いよく頷く…。 

「では、それを踏まえて行くと解決策も見えてきませんか?禁忌の箱を再び封じるか、完全に破壊することで乱れていた要素の自然治癒を促す。その方法が見つかれば…陛下だけではなく、他の魔力持ちの力も借りて大地の再生は出来ます。あなたが、力尽きるまであちらに留まる必要はない」



 窓から吹き込む風と共に、部屋の中を覆い尽くしていた重い空気が…一変した。






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