第二章 UーA






「さあ、こちらが衣装になります!」

 良い笑顔で宿の青年が広げて見せたのは、華やかな彩りの祭り衣装であった。
 
「えと…これは……」
「おー、色々揃ってんじゃん。有利、これ着ていくのか?嫌なら止めて良いんだぞー?」

 広げられたその衣装に有利は目を点にし、鋼は蒲鉾のような半弓状にしてニヤつかせた。
 
 それらの衣装はいずれも女物であり、当然鬘もカールをつけた長髪であった…。

「どーする?このまま宿で大人しくしとくかい?」
「うーむむむむむ………き…着るよ!」

 有利は暫く腕組みして悩んでいたようだったが、それでも賑やかになってくる外の様子に耐えきれなくなったらしい。
 ふんむと一番地味目のドレスと、やはり地味めの鬘を掴むと隣の部屋に飛び込んだ。

「ああ…駄目かぁ…」
「あはは…よっぽど外に出てぇんだな」

 がっくりと肩を落とす鋼とは対照的に、ギィはどこか懐かしそうに…微笑みながら真っ赤なドレスを手に取っていた。

「あんたは着ないのかい?」
「こっちの俺は着てんのか?」
「ああ、そりゃあもう…露出度の激しい派っ手ーなドレス着て、逞しい肉体美を見せつけてるぜ?」

 しなやかな細身が好みの鋼にとってはあまり萌えないところなので、うっかり思い出すと胸灼けするのだが…。

「そっか…。やっぱり好きな型番ってのは一緒なんだな。俺もこういうばっくり背中だの腹だの出るヤツが好きなんだよねー」
「着るのか?」

 実に嫌そうに鋼が呟くと、ギィはぽいっとドレスを手放した。

「いや、無理だなー…。俺ぁ、昔…任務で下手打っちまって、その傷が痂皮化してんのさ。そいつが背やら腿やらに結構広がってるから、こういうのは無理だ」
「んじゃ、頚が詰まったヤツとかはどうだよ」
「好みじゃない」

 なるほど、女装癖がある者にもそれなりに拘りがあるらしい。
 自分の美意識に合わない装いはできないと言うことか。

「まあ…良いんじゃねぇの?あんたなかなか佳い男なんだし、別に女装なんかしなくても…つか、寧ろしない方が世の中の平和のためには良いと思うぜ?」
「俺の女装は戦乱並の被害をもたらすのかよ…傾国の美女ってやつ?」
「いや、そんな良いもんじゃねーだろ…」

 鋼が《図々しいヤツだな》…と言いたげに呆れたような眼差しを向けていると、町に出ていたレオが帰ってきた。
 比較的傷の治りがよい彼は、店を回って必要な物資を買い揃えてきたようだ。
 
 空間を飛ばされたときも貨幣等の入った腰嚢は身につけたままだったので、この宿のお代なども今のところレオが払っている状況だ。

 レオは早速買った服を着込んでおり、藍色の長袖の上に淡灰色の貫頭着を合わせ、太めのベルトを腰に締めている。濃紺のズボンに細身のブーツとも相まって、実に機敏そうな出で立ちだ。

「良い物はあったか?」
「剣はなまくらだが、無いよりはマシだ。服は安くて丈夫そうなのがあったぞ?」
「あー…確かに、こりゃ包丁に毛が生えたくらいの剣だな」
 
 そんな何気ない会話を交わしながらも、ギィの目線はレオの様子を何気なく観察している。

『冷静だな。良い意味で…』

 冷静という意味では彼の基本設定と変わらないのだが、どこか以前よりも余裕があるようにさえ見える。
 敢えて表現するとすれば、《自然体》…そんな言葉が適切だろうか? 
   
「基本方針は決まったのか?」
「まずは情報収集からだ」
「だがよ…ここに残るのと帰るのとじゃ、大きく方針が変わるだろ?」

 ギィの言葉にぱちくりとレオは瞳を見開いた。

「…残る?」
「選択肢の一つじゃあるだろう?あんたは…ユーリに惚れてる」
「そうだな。ああ…好きだよ。多分…愛していると言っていい。だが、彼がついてきてくれるかどうかは今後の交渉次第としても、俺が帰ることは必然だ。ここがどんなに富んだ…平和な国なのだとしても、俺が帰るところはあそこなんだ」
「そうか…」
「嫌か?…お前は、帰りたくなくなったのか?」
「いや、意外だっただけだよ。もう少しは…悩むかと思った」

 《必然》という表現に頑なさを覚えて眉を跳ね上げたギィだったが、レオは予想外に肩肘張らない様子で構えていた。
 
「俺が破滅させかけている国だから?」
「そういう意味じゃ…っ!」

 珍しく必死の形相で抗弁するギィの眼帯を、くいっと引っ張ってレオは笑う。

「詫びたいという気持ちも勿論あるんだ。けど…《しなくてはならない》と、追いつめられてる訳じゃない」
「なら…いいけどよ」

 翻弄されているような気がして、ギィは無精髭の残る顎を鬱陶しげに撫でつけた。



*  *  *




『本当に…不思議だ』

 ほんの十数時間前までは、レオの世界は終わりを告げようとしていた。
 唯一つの道しか見えなくなって、そこに進むことだけが自分に出来る贖罪のような気がしていたのだ。

 それが反転するように変わってしまったのはどうしてだろう?

 事態は何一つ変わっていない。
 未だにレオの眞魔国は戦乱に満ち、調和の狂った要素は実りをもたらすことを止めている。
 眞魔国の要である眞王は発狂し、彼を支えるはずの巫女達は謎の粘液の中に取り込まれて、今でも彷徨っていることだろう。

 それでも…今のレオには進むべき道が見える。
 帰るのだ。自分の国に。

 そこで、自分に出来る精一杯のことをしよう。
 贖罪のためではなく、誰かのためではなく…自分としてもう一度生きていくために、そうしたい。

 そんな風に思うようになったのには、有利との会話が関係しているような気がした。



*  *  *





 昨夜、レオを抱きしめたまま優しく背中を撫で続けた有利は、また少し発熱してしまった。
 レオは有利を抱き込むような形で布団にはいると、熱っぽい額に濡れタオルを当てたりしながら、寝物語に有利の事を聞いたのだった。


 有利は、15歳で眞魔国に連れてこられた。
 しかも、何故か眞魔国について何一つ知らされることなく、自分が異世界で魔王になる存在だなどとは欠片も知らずに極々平凡な家庭に育ったのだと。

 そんな中で、どうして自分の立場を受け入れられたのか聞いてみた。
 
 熱と眠気とで朦朧としていた有利は、もう詳しい事情について語る事は出来なくなっていたけれど、それでも…一番大切なことだけは伝えようというのか、まわらぬ舌で喋り続けた。

『多分…コンラッドがいたからだと思う。あいつはね、俺を…最初から信じてくれてたんだよ。あいつが信じてくれてる…そう思えたから、俺は色んな事が出来たんだと思う。裏切られたと思った時もあったし…別れ別れになって、二度と会えないってんで絶望しかけたこともあるけど…俺の中には、何時だってあいつがいたんだよ。あいつにとって、恥ずかしい存在になりたくなかった……。どんなにちっぽけでも、失敗しても…俺らしく生きていこうって思えた……ん…だよ……。うん…コンラッ……』

 まだ何か喋ろうとしていたが、有利の声はそこで途切れて…続きを聞くのは後日になりそうだった。
 
 どんなにちっぽけでも、
 失敗しても…  

 見守ってくれる人がいる。

 不思議と、その対象がこの世界での自分であることに嫉妬は覚えなかった。

『俺は…どうだろう?』

 自害を決意したときには、こんな自分はもう誰にも振り返られない存在だと思っていた。
 けど…彼の周りにいる者達は、本当にそんな連中ばかりだろうか?

 決して、レオの過ちを認めない連中ばかりだろうか?
 
 あの時にはそうとしか思えなかった。
 今は、違う気がする。

 失望して去る者が居たとしても…必ず残る者も居るはずだ。
 少なくとも…レオは彼らが自分と同じ過ちを犯したとしても、憎むことは出来ない。
 衝撃を受けるだろうその男を、支えたいと思うだろう。

『生きていてくれて、ありがとう』

 有利の祝福の言葉が、レオを支える。

 自分を自分で赦せるようになったとき、レオは初めて仲間を信じられるようになった気がする。
 完璧でなくては赦せなかったのは、多分…彼らではなくて自分の方だったのだ。

 他の者の失敗が赦せて自分のそれが赦せなかったのは、きっと他の者の能力を軽んじていたからだ。

『こいつなら、そういう失敗をしても仕方ない』
『俺が補填をすべき事象だ』
『俺にはそれが出来る』
 
 …今までそうやって来て破綻したことがなかったから…そういう生き方しかできなくなっていたのだ。
 自分が失敗するなどという展開を予想できなかった。
 その事を傲慢だとは思わない。あの時には、そうやって生きていくしかなかったのだから。

 今でもまだ、新しい生き方に十分馴染んでいるわけではないから、きっとこれからレオは何度も躓くのだと思う。
 相変わらず人を信じられなくて、自分の能力に重きを置いてしまうかも知れない。
 自分の過ちを赦せないかも知れない。

 それでも、《死》という選択肢だけは、もう選ばない…選びたくない。
 有利に祝福された命を、自ら汚すことだけはすまい。
 
 そう思えた。 



*  *  *




「どうした?」
「何でもないよ」

 澄んだ眼差しで窓を見るレオに、ギィがちょいちょいと手出しをしていると、こそ…っと有利が入っていった部屋の扉が開いた。

「ユーリ?」
「うぅ…お、可笑しいかもしんないけど…仮装してみました……。俺って分かんなくなってたらそれで良いデス……」

 ふわりとドレスを靡かせて出てきた有利の姿は…可笑しいどころの騒ぎではなかった。

 レオは思わず持っていた剣を鞘ごと取り落とし、ギィの爪先に直撃させてしまった。 

「いっ…つ……!」
「すまん…」

 謝りつつもレオはするするっと有利の方へと歩み寄り、少しずれてしまっている肩のラインを指先で直した。

「うん…可愛い」
「喜んで良いのか哀しんで良いのか…」

 憮然とした有利だったが…不満げに突き出されたヒヨコのような唇も愛らしく、その身を包む葡萄茶色のドレスは地味な色合いにもかかわらず、デコルテを露わにして有利のほっそりとした首筋や肩口の美しさと調和しているため、実に麗しい出で立ちとなっていた。
 腰の長さまである濃灰色の巻き髪も、木の実を主体とした素朴な髪飾りが映えて愛らしい。

 祭り用の衣装なので裾丈は動きやすい膝下程度で、編み上げブーツが活動性を更に高めている。
 
 ただ、豊穣の精霊と呼ぶには貧相…いやいや、肉感的盛り上がりには欠ける。
 それに気付いたレオが、有利の頚にドレスと同系色のリボンを巻き付けてふんわりと結んでやると、胸元の寂しさが緩衝されて一層可憐な姿となった。

 だが…一歩離れて全体を見やりると、レオは軽く溜息をついてしまった。

「とても可愛いんだけど…もともとの計画が目立たないってことなら駄目かなぁ…。可愛すぎて、物凄く目立つよ?魔王陛下とバレるかどうかはともかくとして、注目を一身に集めることは間違いないね」
「ガーン!それじゃ意味無いじゃんっ!!」

 レオが苦笑すると、有利は涙目になって叫んだ。
 
「じゃあ…こうしたら?」

 レオは広げられた衣装の中から大判のショールを取り出すと、透ける素材だが色の濃いそれをふわりと頭から被せた。

「これを被っていれば、顔立ちなんかは誤魔化せるんじゃないかな?」
「そう?大丈夫?」

 まだ不安げにギィや鋼の方を見ると、何とか鋼も頷いてくれた。

「うーん、まあ…何とかな」
「んじゃ、お祭りに行っても良い?」 
「………まあ、ちょっとだけならな。攫われたりしないように、絶対俺の近くにいろよ?」
「分っかりまーしたーっ!」

 有利は、拳を右の額に当てて敬礼した。
 その動作にレオとギィとが目を見開く。

「ルッテンベルク式敬礼は、こちらの眞魔国の正式敬礼になってるのか?」
「え?これは眞魔国の敬礼じゃないよ?《皇国の守護者》って漫画に出てくる、帝国軍の敬礼なんだけど…恰好良いんで真似てるだけ。眞魔国のは《ケロロ軍曹》みたいに指を伸ばしておでこに揃えるやつだよ。ルッテンベルク師団って昔コンラッドやヨザックがいたとこだよね?この敬礼って流行ってたの?」

 繰り出される漫画タイトルは綺麗にスルーして、レオは最も気がかりな点を口にした。

「昔…?今は…ルッテンベルク師団は無いのか?では…こちらの俺は一体何をしているんだ?」
「え…?あ、そっか…歴史が違ってるんだ……」

 有利がはっと肩を竦めて口を閉ざそうとしたが、レオはすぐに落ち着いた眼差しを見せ、有利をソファへと誘(いざな)った。

「ユーリの体調が回復したら、この世界について色んな話を聞かせて貰おうと思っていたんだ。その事で、俺が傷つくという心配はしないでくれ。俺は知りたい…俺の住む眞魔国を救う術があるのかどうか。その為のヒントが、こちらの世界には数多くあると思うんだ」

『ああ…この人は……』

 本当に、強い人だ。
 
 有利はレオへと感嘆の眼差しを向けると、自分を恥じた。
 昨夜も彼に何かをしたくて部屋に奇襲をかけたものの、夜更けだというのに静寂を乱し…果物を食べさせて貰った上に大したことも言えなかった。
 
 この人のために、何をしてあげられるのだろう?
 何かをしてあげようという想い自体が思い上がったことなのだろうか?

 有利はまた過小感に悩まされながらも、レオが望む情報の幾ばくかでも伝えようと口を開いた。

「あのね?みんな…あの頃のことは辛いみたいで、なかなか直接は話してくれないから、俺も歴史書をとろとろ読んで知ってる位のことしか分かんないんだけど…少なくとも、ルッテンベルク師団は今はないんだ。このことについては俺がいい加減なことを言うよりも、コンラッドとヨザックが来るのを待って、直接聞いた方が良いと思う」
「来るのか?ここに…」
「うん、紅色の蝶がいたろ?あの蝶に頼んで血盟城に伝令を頼んだから、近いうちにこの村まで来てくれるはずだよ。ギィの傷もまだ治りきってないから、強い癒しの手を持つギーゼラさんを待って、もっと治してから移動しよう?多分、馬車も用意してくれてると思うから少しは楽だと思う。血盟城に行けば、ギュンターやグウェンがもっと詳しく色んな事を教えてくれるはずだよ」

 有利の言葉に、またしても二人は目を見開いた。
 そういえば、彼らの世界では未だにシュトッフェルが権限を握っているのだった。

「ユーリ…血盟城に、フォンクライスト卿やフォンヴォルテール卿が常在しているのか?」
「うん…ああ、今ならヴォルフも居るはずだよ。領主業の方に重きを置いてるからわりとビーレフェルト領にいることが多いんだけど、俺が来るって聞いて、グレタと…あ、この子も結構訳ありなんだけど…多分、吃驚するから血盟城で説明するね」

 グウェンダルやギュンターが城にいるだけで驚くのだ、ヴォルフラムが人間の女性と結婚したと聞けば腰を抜かすかも知れない。

「ヴォルフ?…君はヴォルフラムと仲が良いのか?」

 愛称で彼らを呼ぶことにもレオは驚いているらしい。

『あれ…?でも、俺がこっちに来たときにはもう、コンラッドは二人のこと愛称で呼んでたよな?』

 初めての会食に際して、確かにヴォルフラムはコンラートのことを《人間のくせに》と拒絶していたが、言われているコンラートの方にはどこか余裕があった。
 グウェンダルについていえば、更に深い信頼感があるように見えたのだが…この差違は一体何処で生じたのだろう?

 この辺りは直接話し合って貰わないと、有利では分からない。

「フォンシュピッツヴェーグ卿はどうしているんだ?」 
「あ、失脚したよ」
「失脚!?あの男が?君が罷免したのか?」
「避妊?」

 それなら大問題だ。

「違う!辞めさせたのかと言うことだよ」
「ううん、自宅謹慎させられたのは俺を誘拐して傀儡にしようとして失敗したせいだけど…そもそも、俺が眞魔国に来たときにはもうシュトッフェルの権限は凄く小さくなってて、グウェンが事実上国を治めてるような状態だったよ?」
「何だって…?」
「うーん…この辺の経緯はそれこそ、血盟城で聞かないと無理だよね。とにかく、今のシュトッフェルは自分とこの領地で隠居生活送ってるよ。んで、グウェンが宰相をやってくれて、ギュンターが王佐をやってくれてんだ。ヴォルフは…そういえば特に王室の役職には就いてないけど、でもビーレフェルト家を継いで領主業を頑張ってるよ。そんで…コンラッドは、俺の護衛をしてくれてんの」
「護衛…軍務はどうしているんだ?」
「依頼を受けて練兵とかには駆り出されたりするけど…ウェラー領の軍を直接指揮してるトコって見たこと無いな。俺が眞魔国に来たときにはもう、俺の護衛隊長ってことになってたよ」
「そうなのか…では、十一貴族に昇格…という話も出たことはないのかい?」
「うん。そういえば俺と結婚すんのに肩書きがどうこうって話はあったんだけど、コンラッド自身が《魔王陛下の夫が変に地位が高いと国が乱れる》って言い張ってさ、頑として《フォン》はつけないっていうんだ。俺は《フォンウェラー卿》って響きが恰好悪いせいかとも思ったんだけど…語呂が悪すぎだし…」
「いや、そういう問題じゃないだろ…」

 レオもギィも、新たな事実に戸惑っているようだ。
 
『そっか…そうだよなぁ……』

 有利が眞魔国に来たとき、《ルッテンベルクの獅子》の名は過去のものになっていた。 非常に恰好良い響きに心ときめかせた有利は、当時のことを聞きたがったりしたけど…コンラート自身は当時のことをあまり語りたくないようだった。

 アルノルドでは大勢の仲間が死んでいったというから、思い出したくないのかな…と受け取り、それ以上は追求したことがないのだが…。もしかすると、他にも理由があったのかも知れない。

 レオは《ルッテンベルクの獅子》の名を誇らかに背負い、その維持と強化のために力を尽くしたようだが、コンラートはそうしなかった。
 ルッテンベルク師団自体が戦後すぐに解体されてしまい、その枠組みを失っているのである。

 それに…《ルッテンベルクの獅子》という名で呼ばれることを、コンラートは何処か厭うように見えた。

『どうしてだろう…?』

 原則としてあの男は秘密主義者なのだ。
 その事が有利を傷つけると知ってからは、意識して秘密を設けないように配慮してはいるのだが…それでも、昔の事…自分自身に関わることについては今なお秘密にしている部分が多い。

 それは基本的に有利を傷つけないための秘密であることが多いのだが、知ってしまったときにはカウンターパンチで痛打を喰らうことがある。

『知りたい…けど、ちょっと怖い』



 有利は、凄まじい速度でこの村へと突き進んでくれているであろう恋人のことを思った。
 

   


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