第二章 TーA







 薄暗い穴蔵は、動物の塒(ねぐら)であるらしい。
 香りの良い枯葉でふかふかと埋め尽くされたそこは暖かく、斜め上方に開いている穴から日差しが入り込んでくるのだが、外の様子を伺うことは出来ない。

 何故なら、熱っぽい精霊の身体を抱きしめているので、動くことで起こしてしまうのが可哀想だからだ。

『自分の服を、ヨザに掛けてくれたんだな…優しい子だ』

 見慣れない形状の上着は彼の瞳や髪と同様の漆黒で、やはり市井の民ではないのだと知れる。黒は貴色であり、いかな名門の家系であろうと王以外は身につけることを許されていない。聖域に住まう精霊だからこそ、人目を忍んで黒を身につけていたのだろう。


 グル…
 グルル……


 物言いたげな、巨大な獣の唸りにコンラートは目線を送る。
 
 それは、先程までコンラートが潜り込むようにして温もりを享受していた、大型の獣であった。
 銀色の毛皮を持つ獣は、コンラートの知る狼とは形状とは大きく違っているが…やはりそうとしか表現出来ない。その身の丈はコンラートのおよそ3倍はありそうだ。

 こんな生き物であることが分かっていたら、あれほど無防備に眠りを貪ることは出来なかったろう。
 何処か不機嫌そうな獣は先程から《グルル…》っと唸り声を上げ続け、時折剥きだしてみせる歯茎からは巨大な牙が覗いていた。頚元に襲いかかられれば、一撃で仕留められてしまいそうだ。

 だが、今のところ狼はコンラートを捕食対象として捉えている節はない。
 精霊を気遣うような眼差しから見て、その下僕であるのかも知れないから、主を抱き寄せるコンラートに不信感を抱いているのかも知れない。

『ほぅ…珍しい』

 喰われる心配は取りあえずなさそうだったので、横目で様子を伺っていると…コンラートは狼の風変わりな瞳に気付いた。狼は一方が青で、一方は黒い…左右異なる虹彩を持っていたのである。
 それに、これほどの巨大な身体を持っているせいだろうか?その双弁は風変わりな色をしているだけでなく、何処か深い理性の色を示してコンラートを警戒しているようだった。

[○○…○○○○?]
 
「……?」

 獣が、何か喋ったような気がしてコンラートは首を傾げる。
 獣は通じなかったことを不審に感じたのか、こちらも奇妙な顔をして首を傾げている。

「日本語が通じないのか?…やっぱりおかしいな。あんた…本当にウェラーの旦那なのかい?」
「…喋った!?」

 聞き間違いではない。
 明確な意図を浮かべた口元が巧みに動いて眞魔国語を操るのを、コンラートは確かに見て取り、耳にした。

「君も精霊なのか?」
「はぁ…?こりゃあまた…完全に別人みたいだねぇ……」

 狼は困り果てたように口元を歪め、《グル…》っと喉を鳴らせた。
 
「別人だって?俺に似た男が、やはりウェラーという名なのか?この子はコンラッドと呼んでいたようだが…」
「ああ、ウェラー卿コンラートさ。この子の婚約者だ」
「ウェラー卿コンラートで…俺と見間違えるほど似ている…だと?いや…それに、婚約者とは……」

 色々と突っ込み所が多すぎてどこから手をつけて良いのか分からない。

「ん…」

 腕の中で、精霊がもぞりと動いた。

「すまない…起こしてしまったかい?」
「んーん…よく寝たからさ、大丈夫だよ」

 目元をこしこしと擦るのを、コンラートは気遣わしそうに止めた。

「駄目だよ。手が血で汚れてる…目に入ってしまうよ?」
「あはは…相変わらず心配性だね!」

 くすくすと楽しげに笑う精霊に、コンラートは複雑な心境で微笑んだ。
 どういう事なのか分からないが…狼の言うことが真実であるのなら、この精霊は《ウェラー卿コンラート》と呼ばれる男と婚約しているらしい。
 
 しかし、どういう事なのだろうか?
 《ウェラー》という名はともかくとして、《卿》とつくからには貴族であるはずだ。
 だが、眞魔国に於いてコンラート以外に《ウェラー卿》と呼ばれる貴族はいないはずだ。

 万が一ここが人間の国なのだとしても、そうであれば黒は呪われた色とされているはずだから、貴族と婚約するなど考えられないだろう。

『もしや…この精霊は騙されているのでは?』

 聖域に住まう精霊は世間知らずであることが多い。
 ボルドー湖に住んでいた大亀にしても、最初は警戒していたがコンラートと親しくお喋りをするうちに気心が知れてきて、願い事も聞いてくれるようになった。その会話の間に聞いてみたのだが、彼女は禁忌の箱の開放のことも、世界中で進んでいる自然崩壊のことも何も知らなかった。

 ただ、いつも通りののんびりとした口調で、

『あらぁ〜…そういえば、水の要素がこの頃わさわさ言うなぁ〜とは思ってたのよねー…』

 と、のんびり感想を述べただけだった。

 この精霊も、自分の聖域に迷い込んできた男に《貴族なんだ》と騙されて、身を捧げてしまっているのではないか…と、疑いを持ち始めたコンラートは、その想像がかなりの勢いで自分に都合の良いものだとは気づかない。

 生まれて初めて、自分が恋をしているのだということにも…。

『なんて事だ…こんな純粋な子を騙して、婚約までさせた奴が俺の名を騙っているとは…』

 もしかしたら、強い魔力持ちの男が顔を似せているのかも知れない。
 女受けの良いこの顔と《英雄》としての肩書きで、純朴な精霊を騙すとは…!
 もしかしたら、身体も汚されているのかも知れないと思った途端、悔しさで腸が煮えくりかえりそうになってしまう。


 実のところ、《純朴な子》を誑し込んで色々利用していることにかけてはコンラートも良い勝負なのだが、その辺は綺麗に棚上げしておく。
 取りあえず、ボルドーの身体を汚したことはないし、これからも予定はない。

 そうだ…その男は、この華奢な身体を組み敷き嬌声を上げさせたりしているのだろうか?これは、何としてもこの精霊を救い出さねばならない…!

 コンラートは騎士道という名の嫉妬心で、そう結論づけると有利の両肩に手を添えた。

「シブヤユーリ…落ち着いて聞いてくれないか?」
「……あんた、今日は本当に変だねぇ」

 唇をぷぃっと尖らせた表情も、とてつもなく愛くるしいな…と見惚れていたら、精霊はぱちくりと目を見開いてコンラートの顔に手を伸ばしてきた。 

「あ…れれれ?あんた、眉の傷どーしちゃったの!?」
「眉…?」

 右眉の端をごしごしと擦られるが、そんな所にはもともと傷はない。

「俺が覚えている限りでは…そこには負傷はしていなかったよ?」
「えぇえ?うー…そういえば、無茶苦茶そっくりじゃああるけど…何か喋り方とかちょっと違うなあ…」
「ああ、おそらく…君が知っている《ウェラー卿コンラート》と俺は別人だ」
「そうなんだぁ…じゃあ、もしかしてヨザックも違うの?もしかして…この顔にしてるアイパッチってお洒落じゃなくて、本当に独眼竜だったりする?」

『ヨザック役までいるのか…周到な偽物もいたものだ。しかし、ドクガンリューというのは何だろう…』

 コンラートは半ば感心しながらどうしたものかと思案した。
 精霊はかなり混乱しているようだし、ここで《俺が本物のウェラー卿コンラートだよ》と名乗っても信じてはくれない気がする。
 それならば、偽物と正面切って戦うその時までは身分を伏せておいた方が良いかも知れない。

「俺の名は…レオンハルト・ライバーク、こいつはギィ・ディラルドだよ。ある精霊の呪いを受けて異空間に飛ばされていたんだ。助けてくれて…本当にありがとう。この礼は必ず…命を賭けてお返しする」
「いやいやいや、命とか胸とか腕とかいらないから元気でいてね?あー…なーんかやっぱり言い回しとかコンラッドに似てるんだけどなぁ…親戚とかじゃないの?」
「いや…多分違うと思う。俺は父似のようなんだが、父は流れ者の人間なんでね…親戚というのは多分この国にはいないよ」
「へえ、そんなとこまでコンラッドと一緒なんだ!あ、ちなみに俺は逆なんだ。オヤジが魔族でお袋が人間なんだよ。よろしくねー」
「…………混血?……君、精霊ではないのかい?」

 信じがたい発言に度肝を抜かれてしまう。
 これほど類い希な美貌と希少な双黒を併せ持つ少年が、精霊ではなく混血児だったなんて…!しかも、信じがたいほどに強い魔力まで持っているのだ。

「精霊〜?あっはは!あんた夢見がちな人だねえ〜っ!」

 からからと笑う少年は、確かに神秘的というよりも親しみやすさの方が強いようだ。
 取り澄ましたような所が一片もなく、微笑む表情には屈託のない愛らしさが漂う。

「えっへへー。でもあんた良い名前だねぇ!良かったらレオさんって呼んで良い?」
「ああ…いいよ、君は…シブヤユーリでいいのかな?」
「俺は有利…ユーリだよ。シブヤは姓なんだ」
「そうか…ユーリ…良い名前だね」
「えへへ。あんたこそ!レオ・レオ・パンジャの仔〜♪…ってね。あはは、眞魔国の人じゃ分かんないよね!」
「うーん…確かに、分からないね……」

 くきゅ〜……

 唐突に、有利の腹が鳴った。
  
「あー…腹へったぁ。なあ、鋼さん。この近隣に村があるか分かる?」
「胡蝶が偵察に行ってるよ。あぁ…帰ってきたぜ」

 鮮やかな紅色をした蝶が穴蔵に入ってくると、発光しているらしいこの蝶は赤々とこの空間を照らし出し、ほの暖かな温もりで満たした。どうやら、炎の要素であるらしい。
 蝶は慕わしげに有利の指先に乗ると、何事かぽしょぽしょと伝えている。

『要素を思いのままに操って、探索まで出来るのか…!この狼も人語を解するまでに練れた精霊のようだし…。こんなに強い魔力を持った子がいるのなら、何故今まで誰にも知られなかったのだろう?』

 不思議に思うコンラートだったが、詳しいことはまた身分を明かしてからでないと追求出来ないかも知れない。この少年が知っていることは、偽物が吹き込んだ情報である可能性が高いからだ。

「この近くに村があるってさ!鋼さん、ヨザック…じゃない。ギィさんを運んでくれる?レオさんは自分で歩ける?無理そうなら肩貸そうか?」
「ああ、君のお陰でだいぶ回復しているようだ。君の方こそ大丈夫?まだ熱があるだろう」

 そう言って額に手を置くと、やはりまだ熱いようだ。

「んー…冷たくて気持ちいい。こんなとこまでそっくりなんてねぇ!」

 …随分と手の込んだ偽物である。手の温度は偶然の一致である可能性もあるが、有利の感触の隅々にまでその偽物が浸透しているのかと思うと、腹立たしさを拭えない。

 すっかり有利にベタ惚れ状態のコンラートであったが、未だにその気持ちを正確に理解するには至っていない辺り…人生に練れているようで、恋には初な男である。
   


*  *  *




 穴蔵から出たコンラートは、またしても信じられないものを目の当たりにして呆然と立ち竦んでしまった。

『なんという…豊かな実りだ!』

 秋の盛りらしいこの地域は種々様々な広葉樹が赤、黄、茶の色合いを重ね…華やかなタペストリーを描いている。
 そして木々や茂みには食用にもできる果実がみのり、紫色に熟した山葡萄を口に含めば、殆ど忘れかけていた懐かしい味わいが口一杯に広がっていく…。
 
 見渡せば栗の木、山林檎…名前は忘れてしまったが、よく山歩きをしながら口にした真っ赤な木の実が熟れて、旨そうに鳥達が啄んでいる。
 この鳥達がまたぷりぷりと良く肥えており、人間達に山の実りを根刮ぎ奪われて餓死していた鳥とは比べものにならないほど、幸せそうに鳴いている。

 今すぐ捻って焼き鳥にしてやりたい…と唾液が沸いてくるが、残念ながらコンラートは剣を奪われており、弓やナイフの持ち合わせもなかった。

 見上げた空も、わさわさと揺れる木の葉の間に蒼く…高く広がっており、《禁忌の箱》開放以降次第にくすんでいった空とは全く異なり、澄んだ色を湛えていた。

 胸に沁みるような青が眩しくて…コンラートは言葉を失う。

『やはり…聖域なのだ、ここは…っ!』

 コンラートは、眩いものを見るように瞼を眇め…この麗しい光景を、何としてもウェラー領の仲間に…民に見せてやろうと心に誓った。
 精霊ではないとしても、きっと有利がその強い魔力でこのような実りをもたらしているに違いない。

 きっとウェラー領の枯れ果てた大地にも、色鮮やかな実りを再び蘇らせてくれることだろう…!

 おそらく、有利の存在がウェラー領の外部…それこそ、シュトッフェル辺りに知られれば恐るべき執念を見せて奪おうとするだろうが、決して手放したりはしない…。

 この命を賭けて、護ってみせる…!

 コンラートは穴蔵の中から出てきた有利を振り返って、また瞳を蜂蜜色に蕩けさせた。
 彼がこのように甘やかな表情をするのは、意識して誰かを誑し込もうとしている時を除けば、若い頃に幼い弟を慈しんでいたとき以来かも知れない。

 錦織の背景の中で、血に汚れながらも明るい日差しを受けた有利はやはり綺麗だった。
 白いシャツと黒いズボンにべったりと血糊をつけているが、風呂に入らせて清潔な衣服を身につけさせたら更に美しいに違いない。

『髪や目と同じ漆黒の布地も良いが、ユーリの印象から行くと蒼い服も良いな…。華奢だから、少し女の子みたいな服でも似合うんじゃないかな?』

 ドレスと見まごうような薄地の絹を幾重にも重ねて、ふわふわとドレープにしても可愛いのではないか…。いや、活発な少年のようだし、思い切って膝丈の服なんていうのも良いのではないだろうか?
 ズボン越しにもほっそりとした脚は、剥き出しにしてもきっと綺麗だろう。
 
 うっとり……。

 コンラートは生まれて初めて誰かの晴れ姿を想像して、妄想に耽るという行為に溺れていた。

「どうかしたの?」
「いや…何でもないよ?」

 不思議そうな顔をした有利に問いかけられて、ちょっと慌てながらコンラートは笑顔を引きつらせる。妄想を見抜かれそうな気がして気恥ずかしかったのだ。

「い…てぇ……」
「ヨ…っ!」

 《…ザ》と言いかけて、コンラートは我に返ってヨザックに近寄った。
 コンラートが抱えて穴蔵から連れ出し、木陰に取りあえず横たえた時にはまだ意識が無かったのだが、外気の薄寒さに触れて意識を取り戻したのかも知れない。

「…おい、大丈夫か?」
「あぁ…なん、とか……」

 ほんやりと瞼を開けたヨザックはまだ覚醒しきっていないようだったが、少しずつ明るさに慣れてきた瞳が開大し…コンラート同様、彼が信じがたい光景に魂を奪われたように見入っているのだと知れる。

「こ…こは……」
「おそらく、聖域だ。あの子の作り出した…」

 コンラートの声に促されて有利を見たヨザックが、やはり面白いくらいに顎を下垂させて驚愕を露わにしている。ポーカーフェイスが得意なこの男としては、異例の表情変遷といえる。

「おい…俺はやっぱり死んじまったのか?…んで、俺と一緒にいるって事はあんたも死んだのか?やべぇなぁ…あいつら怒ってるかな?あーあー…。あ…でもさ、死んでこんな良いトコに来れるんだったらあいつらも死んだ方が良いんじゃねぇの?旨そうな実は一杯成ってるし、可愛い天使はいるし…」
「お前…良く喋るなぁ……。物凄い元気なんじゃないのか?」

 はしゃぎ気味に捲し立てる友人に、コンラートは呆れたように溜息をついた。
 この分ではそう心配することもないかも知れない。

「多分…死んではいない。死んでいるなら傷も完全に治っているだろうさ」
「お…そうだなぁ。覚えがあるトコに傷があるわ。しっかし…あれだけ深かった傷が普通、一晩寝る間に治るか?」
「それもあの子が治してくれたんだ。素晴らしい双黒だ…あの子は」
「治してくれた?あの子がかい?」

 山葡萄をもぐもぐ食べていた有利は、ヨザックの意識が戻ったのに気付くと急いで駆け寄ってきた。

「良かったぁ…意識戻ったんだね、ギィさん!」
「爺さん?」

 ぽかんとして開けられた口元に、旨そうに熟れた山葡萄が押しつけられる。
 鼻腔を燻らす芳香に耐えきれなくなったように…ヨザックは一口囓ったかと思うと…夢中になってがつがつと掌一杯の山葡萄を平らげてから、ほぅ…っと深い溜息をついた。

「美味ぇ…」

 沁み入る旨味が、細胞の一つ一つにまで広がっていくような気がする。
 
「本当?じゃあ、もっと取ってくるね!ギィさんもお腹空いてたんだね?」

 有利はぱたくたと駆けていくと、山葡萄の他に赤い実や黄色く熟れた房状の果実をどんどん摘み出した。

「ええと…やっぱあれは天使?…いや、精霊か?」
「驚くなよ…なんと、俺達と同じ混血らしいぞ?」
「はぁ……?」

 驚くなという言葉はあまりにも無茶な要求であった。
 ヨザックはまたしても顎を外さんばかりに開ききると、まじまじと有利を見直すのだった。

「だって…あの見事な美貌に双黒…。しかも、魔力持ちなんだろ?」
「ああ、俺達が投げ出された異空間の中から、眞王の力に逆らってここまで連れてきてくれたんだ。そして…あの酷い傷を治してくれた。言葉を喋る狼を僕(しもべ)とし、炎の要素らしき蝶を使って探索を命じることも出来るんだ」
「それで、この実り豊かな聖域を作り出してるって…?そいつぁ…今までどうして誰にも目をつけられなかったんだ?」
「いや…目をつける者はいたんだよ。ユーリは…婚約している。よりにもよって…この俺を騙(かた)る男と…っ!」

 純粋な憎しみを浮かべて歯列を噛みしめるコンラートに、ヨザックは険しい眼差しを送った。

「なんだと…?」
「ウェラー卿コンラートと名乗り、どうやら顔も随分と似せているらしい。お前にそっくりな《グリエ・ヨザック》という偽物までいるらしいぞ?」
「そいつは…手の込んだことで……」

 あの純朴そうな少年を騙し、利用している者がいるなど…ヨザックにとっても怒りを禁じ得ない。
 
「だが、そいつはかなりあの子を手懐けているらしい。いま俺達が本物だと名乗ったところで信じては貰えないくらいにな…。だから、お前はギィ・ディラルド、俺はレオンハルト・ライバーク…レオと名乗り、偽物との直接対決までは身分を偽わるんだ。いいか…?その時までに、あの子の心を奪い取るんだ。気持ちがまだ向こうにあるようなら…辛い思いをさせることになるからな」
「了解…隊長」

 あの希少な少年をコンラートが手に入れれば、ウェラー領は救われる…。ヨザックもその様に感じたのだろう。にやりと微笑むと拳を右こめかみに当て、新たな自分の状況を受け入れた。





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