X.狂える眞王








 眞魔国歴4011年…春の第1月。
 本来であれば雪を割って芽吹いた緑が瑞々しい色合いを大地に撒き、硬く閉ざしていた蕾が日々綻んでは春の訪れを告げる頃だ。

 しかし、眞魔国の国境沿いにあるベルトラン平野は荒涼たる有様を呈していた。
 昔はこのような季節ともなれば、丈の短い緑芝が広々と平野を覆い…霞がかったビリルビン山脈も深緑を基盤として、白や淡紅色の花をつけた木々を随所に鏤(ちりば)めていたものである。

 ところが、三つの《禁忌の箱》開放から数年で明らかになっていった要素の不安定さは、ここ近年際だって自然界の均衡を乱し、近頃は根深い雑草までが生い茂ることを諦めているようだった。

 世界の国々で飢饉が広がり、強い魔力持ちを総動員して何とか食べていけるだけの食糧自給率を維持している眞魔国は、もはや人間の国々にとっては憎しみの対象というよりは《食べ物の実る国》として、直接的かつ生理的な欲望の対象として輝いている。

 腹が減った…。
 喰いたい…
 何かを、喰いたい……。

 飢えきった凶暴な人間達は、この白茶けたベルトラン平野を過去と見比べて嘆くような余裕など持たず、貧相な武装を携え狂気めいた渇望のためだけに突撃し、仲間の屍を唯の土塊のように踏みつけながら眞魔国兵に襲いかかってくる。



「くそ…捨て身の連中ほどタチの悪いものはないですね」
「今更だぜ、カティー。慣れねぇと、こっちがおかしくなっちまう」
「僕はまだ、おかしくなりたくないんです…少尉殿」

 シュピッツヴェーグ軍麾下の一兵卒…まだ幼い顔立ちのカティー・バルモアは、古株のベルボッチ少尉に諭されながらもまだ言い返してしまうくらいに、戦場に慣れていない。
 浅いながらも塹壕を掘って人心地つくと、すぐにろくでもないお喋りをしてしまうのだ。

『無理もないか…訓練も不十分なまま戦場に駆り出されてんだ…元々は仕立て屋の息子だとか言ってたっけ…』

 そうは思いつつも、ベルボッチは容赦なく拳をカティーの脳天に叩き込む。
 戦場で上官の命令に言い返すことは許されていない。幼い彼を気遣うからこそ、ベルボッチは彼を躾なくてはならないのだ。一日でも、長く生き続けさせるために…。

『それにしても…うちの軍は押さえられまくってるな…。この辺で手を打たねぇと、中央突破されちまうぜ』

 シュピッツヴェーグ軍は伝統的に大軍勢を確保する手腕には長けており、この点では戦略的に間違っているわけではない。寡兵をもって大軍を砕くのは華々しく映るものの、実際にその様な事例が少ないから目立つだけで、最初から寡兵しか用意しないというのは余程の楽観主義者か異常者でしかない。

 だが、如何せん…この軍団はいざ戦場に出てからの消耗が大きすぎるのだ。
 伝統的に指揮官が正攻法に拘りやすく、定型的な戦術を試みて上手く機能しなくても、限度域を越えた被害が出るまではその手法に拘ってしまうのだ。また、各部隊の連絡方法に工夫が無く、協調運動に時間が掛かるのも難点だ。

 結果、このベルトラン平原で迎え撃ったポルトワーレ公国を主体とする連合軍に対しても、2倍近い大軍で向かえながら同格…いや、劣勢にすら追い込まれてしまう…。
 それでも眞魔国がこの年まで一度も本土侵略を許していないのは、持久戦に持ち込めば糧食を食い尽くした敵が渋々ながら帰っていくからであり、その持久戦を可能にしてくれる…ある《遊撃隊》の存在があるからだ。

「失礼しました…少尉殿」
「わかりゃあ良い」

 何とか暫くの間は沈黙を保っていたカティーだったが、生来お喋り好きであることに加えて、戦闘待機の行き詰まるような雰囲気に耐えきれなくなるらしい。またしても余計なことを口にし出した。

「ところで、少尉殿はコンラート閣下に戦場で会われたことはあるのですか?」
「お前なぁ…。うちの将官の前でそーゆー事を口にするなよ?」



 3年前…ルッテンベルク師団を率いてウェラー卿コンラートが反逆したとの報が眞魔国中に広がったとき、誰もが絶望してこの国の行く末を嘆いたものだった。
 眞魔国軍最強と謳われ、十一貴族に昇格して独立軍を率いることがほぼ内定していたというのに、一体何故反逆などと…と、怒りに拳を振るわせながら呪った者もいた。

 だが…月日というのは良くも悪くも、あらゆる秘密を小さな隙間から流れ出て行かせるものなのである。  

 この月日の間に、どれほどシュトッフェルが規制を掛けてもコンラート出奔の真実の経緯が市井の民の間にも流出していき、《不条理な言いがかりによって名誉を傷つけられた彼に、復権の機会を!》と叫ぶ声は日々強くなってきている。
 
 しかも…この離脱したルッテンベルク師団は、正式には《賊軍》とされているのだが、今や眞魔国国民の中でその様な呼称を使う者は貴族以外には誰一人もおらず、《ルッテンベルク軍》《ウェラー軍》《独立遊撃軍》などと呼ばれて、以前とはまた違った形で英雄視されているのである。

 この状況をフォンシュピッツヴェーグ家やフォンビーレフェルト家の面々が喜ぶはずもなく、コンラート達を英雄視するような言動をすれば首が飛びかねないのだ。

 

「分かってますよぅ…少尉殿相手だから言ってるんです!」
「それでも、目敏い奴は告げ口をするもんだ。お前…基本的に反抗的な態度が多くて目をつけられやすいんだからな」
「はい…ゴメンなさい…」

 しょぼんと肩を落として反省の色を示されると、それ以上は怒れなくなってしまうから困ったものだ。故郷に残して、なかなか会うことの出来ない息子に少し似ているせいもあるのだろうか。

「ルッテンベルク式の敬礼も、絶対に上級士官の前でやるなよ?《反逆を企てた》とか何とか言われて、その場で処刑されても文句は言えねぇんだ」
「…恰好良いんですけどねえ……」
「馬鹿!」

 そう、今やルッテンベルク式の拳を右こめかみに押し当てるこの敬礼は、下士官や一般兵…市井の民の間では爆発的な人気を持っているのだが、同時に反逆の象徴とされているため、貴族の上級士官からは厳罰を持って処せられることがあるのだ。

「良いから言うことを聞いとけ。格好良かろうが悪かろうが、死んじまったらどうにもならねぇよ」
「はい…っ!」

 おおおおおぉぉおおおおお……

 獣じみた怒号と、土を蹴って突撃してくる兵達の地響きにも似た振動が伝わってくる。
 一度引いた敵兵が、陣形を組み直して再度突撃を仕掛けてきたに違いない。
 おそらく、敵の残り兵力から見てこれが最期の突撃となるだろうが…同時に、これを持ちこたえる事が出来なければシュッピッツヴェーグ軍主力は指揮系統が崩壊してしまう。 

 昔は要素の声を聞いて戦場でも高速伝令を可能にする魔力持ちがいたものだが、《禁忌の箱》開放以来、要素が乱れきっている為に、眞魔国の周辺であってもその力が使える者は極めて少数に減じており、一度陣形を崩されて中隊や小隊程度にまで分断されてしまうと、持続的に戦場全体を見渡して指揮を執ることが不可能になってしまうのだ。

「行くぞ…カティー。何に祈っても良いから、生きていろ」 
「はい…っ!少尉殿も、ご無事でっ!」

 カティーに一言囁くと、ベルボッチ少尉は大隊長の送る旗印の暗号を受け取り、腹に力を込めて自分が指揮する第11小隊に命令を発しようとした。

 だが…その声は大気を震わせる前に制止した。


 ドドドドドドドドド………
 ドドドドドドドトドドドドド…………っっ!!


「全軍…突撃……っ!!」


 遠雷を思わせる、怒濤のような蹄の音…。
 高らかに響くこの声音は……っ!

「ルッテンベルク軍…っ!!」
「ウェラー卿コンラート閣下…獅子軍団長だ…っ!」


 思わず、塹壕から頭を出したカティー達が子どものような顔になって叫んだ。


 切り立ったビリルビン山脈の断崖をものともせず、精強な騎馬兵が見事に足並みを揃えて楔状に斬り込んでくる。

 ルッテンベルク軍はその麾下にあった騎兵大隊を更に強化させ、歩兵については原則ウェラー領に残して要塞防衛に専念させている。
 この為、極めて高速で動き回るこの騎兵大隊は、小隊に分かれて諜報活動を行っては矢文の形で眞魔国正規軍に知らせたり、戦況を見て大隊全軍を投入しては効果的に敵の陣営を崩し、十分な効果を得たところで離脱して行くのだった。

 今も、あれほどシュピッツヴェーグ軍が苦戦した敵兵が見る間に陣形を崩し、分断され…散り散りになって潰走していく。

 そもそも、《騎兵》というものはこのように、戦況を一変させるほどの威力を持っているのだ。
 それでは何故、シュピッツヴェーグ軍を初め、眞魔国正規軍にはその動きが出来ないのか。
 答えは…《天才がいない》としか言いようがない。

 実のところ、過去の戦場においても騎兵を十分に操り効果的に扱ってきた者と言えば、眞王とその軍師であった大賢者以外にはいないと言われている。

 馬というのは基本的に臆病な草食生物なので、これを並べて疾駆させる為には極めて粘り強い、長期間の調教を必要とする。更に戦場の怒号や流血にも耐えられる素質を持つかどうかは、育てて戦場に立たせてみないと分からないものなのだ。掌中の珠のように金を掛け、時間を掛けた騎兵はしかし、突撃力と表裏一体の脆さも持っている。

 騎兵は一度突撃してしまう転進が難しい。しかも、囲まれて動けなくなると高い位置にいる分、恰好の攻撃目標にされてしまう。
 時期を間違えて投入すれば高価なこの宝玉は無意味に砕けてしまい、全滅することさえざらではないのだ。
 《ここぞ》という一瞬を逃さず捉えて騎兵隊を突入させることが出来る能力は、おそらく教育の力ではどうにもならない。基本原則はあるのだが、天性の勘による察知無しにその一瞬というものは見抜けないようなのだ。
 
 結果、騎兵は多くの軍の中で単なる兵站運搬の道具にされたり、高級士官を飾るための装具となったり、温存されて無意味に草をはむだけの存在に堕してしまう。

『ウェラー卿は、騎兵を用いた用兵については間違いなく天才だ』

 おそらくはそれ以上の能力…複数の軍団からなる大兵力を指揮する能力さえも有しているのだろうが、残念ながらその能力を発揮する機会は彼に与えられなかった。
 あの《反逆》事件さえなければあるいは今頃…と、大抵の兵士が想像するようなことをベルボッチもまた考えてしまう。

 けれど…それはやはり不可能なことなのだろう。
 反逆自体が捏造であるとこれほど市井に流布していたとしても、絶対的な証拠がない限りコンラートの罪を濯ぐことは出来ない。
 それこそ、眞王陛下の計らいでもない限り…。

『そうだよ…眞王陛下さえ、一言仰ってくれりゃあ…』

 ベルボッチは思索の淵に沈み掛けたが、大隊長からの手旗信号を受けて、浮かれきった小隊の面々を軍隊に戻さねばならなくなった。

「第11小隊、大隊長殿の笛と同時に塹壕から出て白兵戦に移るぞ」
「はいっ!」
 
 ピイィィィィィィ………っ!!

 戦場には不似合いなくらいの高い警笛音が鳴り響くと、大隊の軍勢が塹壕から出て一気に攻撃を仕掛けていく。ルッテンベルク軍の騎兵隊に散々に散らされた敵兵は、もはや集団としての機能を果たすことは出来なくなっており、個々の戦意はともかくとして、もはや軍隊ではなくなっていた。

 手負いの獣を狩るような戦いはしかし、決して気持ちの良いものではない。
 寧ろ…饐(す)えたような心地が胸に広がって、剣に伝わる肉の感触…血飛沫を上げてなお掴みかかってくる痩せ衰えた人間達に、憐憫の情まで浮かびそうになる。きっと…ずっと前から慢性的な栄養失調状態なのだ。

 だが、情に溺れてはいけない。

 彼らに情を見せ、眞魔国に入り込まれれば…魔族を生理的に嫌悪すること甚だしい人間達によって、自分たちの国土や大地が荒らされてしまうのだ。
 
 彼らはついつい…目の前にいる無惨な敵よりも、鮮やかな攻撃を仕掛けた後、疾風のように去っていくルッテンベルク軍の後ろ姿を追ってしまうのだった。
 
 悠々と駆けていく騎馬の群は、ここが戦場であることを忘れるくらいに雄壮であり…とても、うつくしい。

 あの場所だけがこの陰惨な時代の中にあって、切り取った絵画のように色鮮やかな光彩を保っており、軍人として…一人の魔族として、あの中に在りたいと願ってしまうのだ。

 ベルボッチ少尉は、無意識のうちに敬礼の構えをとってルッテンベルク軍を見送っていた。

 カティーには厳に戒めた…ルッテンベルク式の敬礼で……。



*  *  *




「何とか、防いだか…」
「コンラートのお陰ですよ」

 フォンヴォルテール城で戦況の報告を受け取ったグウェンダルは、訪問してきたフォンクライスト卿ギュンターが誇らしげに胸を反らすのを横目で見やった。
 
『3年前とは随分様子が違うものだな…』

 薄く苦笑が沸いてくるが、笑っている場合ではないことを思い出す。
 
 3年前…コンラートが反逆者として追われたとき、グウェンダルもギュンターも力を尽くしてその罪を濯ごうとした。だが、結局の所なに一つ彼の力になることは出来なかった。

 彼が独力をもってルッテンベルク師団…現在の軍を確保してウェラー領に拠ったときには、あまりの準備の良さにグウェンダルまでが反逆の噂を信じそうになったものだが、現在では人づてにグリエ・ヨザックからの情報を漏れ聞くことで、真実に最も近い立場になっている。

 ただ、それでなくともコンラートの兄であり、脱出の手引きをしたヨザックを部下としていたことからも、グウェンダルの十貴族に於ける立場は微妙なものとなっており、持ち得た情報をそのまま流すことは彼の首を絞めることにもなりかねない。

 そこで、彼は珍しく搦め手を使うことにした。
 ヨザックからの情報を報道機関に匿名で伝えたのだ。 

 地道ながらこの方法は功を奏し、少なくとも市井の民の間ではコンラートの罪は完全に払拭されている。

『あとは…眞王陛下さえ動いて下されば…っ!』

 灼けるような思いで活動しているというのに、眞王廟は黙したままであり…コンラートの扱いはおろか、眞魔国の行く末に関しても何一つ眞王陛下から詔が出ることは無くなっていた。

 思えば…《禁忌の箱》開放から11年に渡って、眞王廟は完全に沈黙を護っているのだ。これは異常な事態と言っていい。

 何とかしてグウェンダルは眞王陛下に意向を問いただそうとするのだが、母もシュトッフェルも頑なに伝達を拒否し、諜報員を差し向けても異常に警備が厳重となった眞王廟には、一歩たりとも踏み込むことが出来ない。

「ギュンター…眞王廟のあの警備をどう思う?」 
「ええ、奇妙な程の警備ですね。あれは眞王陛下をお守りしていると言うよりは…」
「そうだ。もともと、眞王陛下は絶大な魔力を持っておられるのだから、侵入者がいたとしても眞王陛下自体に恐るべき反撃を受けることだろう。あの警備は、眞王陛下をお守りしていると言うよりは、眞王廟に関わる何かを見せないように秘しているかのようではないか」

 そもそも、眞王廟は原則として男子禁制であり、その警護には巫女兵をもって当てていたというのに、そこに男どもが大挙して配備され、それを言賜巫女ウルリーケが咎めなかったことも異常だ。

 しかも、配備している兵の数以上に、種別がただごとではない。
 シュピッツヴェーグ軍有数の剣技の使い手・弓兵…そして、要素を眞王廟全体に張り巡らせ、微少な虫が通っただけでも察知してしまうという、高度な魔力使いを配備しているのだ。

 気力を持つ者が極めて限定されているこのご時世においては、そんな能力は寧ろ、戦場でこそ意味を持つものであるはずだのに…何故、眞王廟に貼り付けているのか…。

 恐るべき想像に、ギュンターの声が思わず密やかなものになってしまう。

「……もしや、眞王陛下のお力が尽きてしまわれたのでは…」
「滅多なことを言うな、不敬だぞ」
「分かっています。ですが…そうとしか考えられないではありませんか」

 グウェンダルに遮られても、ギュンターは口にせずには居られない。
 相手もまた同じ事を考えていると、確信してもいるのだろう。

「《禁忌の箱》…その存在を、眞王陛下は長年気に病んでおられたと聞きます。全盛期の眞王陛下と大賢者の力をもってしても消滅させることが出来ず、忠実な臣下の力を借りて封印するのが限界であったという《禁忌の箱》…。不完全とはいえ、その開放がもたらした影響は、眞王陛下に及んでいない筈はありません」

 自分を長年封じてきた眞王に、《禁忌の箱》から放たれた創主の力がどのような影響を与えたのか知るよしもないが、おそらく、力の減少か…最悪、眞王陛下の存在自体が消滅してしまうような事態があったからこそ、シュトッフェルはその秘密を全力で封じているのではないか。

 今やその権威が地に落ちているシュトッフェルからすれば、妹である現魔王ツェツィーリエが眞王陛下に任じられた王であることだけが、自分の勢威を保つ上で唯一の札なのだ。それを無くしてしまえば彼に拠って立つべき力は最早無く、摂政の座から引きずり降ろされることは必至だ。

 ドドドン…!
 
 突然、扉が気忙しい勢いで叩かれた。

「閣下…!グウェンダル閣下…っ!!急報でありますっ!」
「報告内容は?」

 珍しく顔色を変えて部屋に入ってきた部下に、グウェンダルが報告を促す。
 
「フォンロシュフォール領で大規模な農民一揆が起こりました…!制圧の為に差し向けられたロシュフォール軍と農民団が衝突し、多数の死傷者が出た模様ですっ!」
「何だと…?ロシュフォール領で今年、そこまで飢饉が進んでいるという報告は聞いていないぞ?」
「はい、収穫高は確実に落ちてきているとはいえ大地の要素を操る魔力持ちを総動員して、何とか農民がかつかつ生きていけるほどの収穫はあったそうですが、フォンロシュフォール卿が摂政殿との間に金銭契約を交わし、シュピッツヴェーグ軍の糧食として回す分をかなり強引に税として納めさせたようなのです。このため、種籾すら奪われた農民が立ち上がったのですが…ピリッツァ地方の領主が税の緩和に応じなかったため倉が破壊され、その動きが近隣の領土にも飛び火してしまい、ロシュフォール軍が出ざるを得なくなったようです」
「…何ということだ……」

 慄然としてグウェンダルが呟く。
 これは…地方一揆だけの話では済まなくなるのではないか?そういう不安が過ぎったのだ。

 そしてグウェンダルの悪い予感というのは哀しいほど当たってしまう。

 
 この年、眞魔国の各地では農民一揆が多発し、内憂外患の様相は益々強化されていくのだった…。 






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