柚希さんからの贈り物で、「サンケツ★ブラボー」のおまけに収録させて貰った柚希さんのネタの続き。 サンジは悩んでいた。 悩みの種ははっきりしているのだ。 しかし本当にそれが悩むべき問題なのかすらあやふやだから、解答なんか出るはずもなく、ただため息をつく回数だけが増えていく。 もう何度目か分からないが、鏡越しに自分の尻を見ては首をひねる。 そう、この毛糸のイチゴパンツが問題なのだ。 前の島に立ち寄った時、何を考えたのかゾロはこれをくれた。 なんだかものすごく男前に「やる。・・・身体を労われよ」と渡されたのだ。 何を考えてるんだ、あの毬藻は。 緑藻植物の思考はさっぱり分からなかったが、ちょうど冬島へと入る時期でもあり、隠れ冷え症のサンジは早速夜間使用してみることにした。 すっごく良かった。 質のいい毛糸できているので吸湿性も良く締めつけず、仕立てが良いので繰り返し使っても型崩れしない。 なんでイチゴ?とは思うが、リアルな毒々しいイチゴではなく、ピンクの「イチゴちゃん♪」がふわふわの真っ白な毛糸に上品にモチーフとして用いられているため、元々可愛いもの好きのサンジの好みジャストミートだ。 お腹も冷えない。 腰も痛くならない。 いいじゃんコレ! 嬉々として愛用していたら、一緒に風呂に入っていたチョッパーが気付いた。 「どうしたんだ?これ」 「ああ、マリモ野郎がくれたのさ。結構いいぜ、これ」 「そっか、良かったな。サンジのお尻の傷、気にしてたみたいだったから、それでかな?」 「傷?」 「ほら、俺がガラス置きっぱなしにして、サンジがその上に尻もちついちゃったことあったじゃないか。あれ、悪いのは置きっぱなしにしてた俺なのに、ゾロ気にしてたみたいで。何回もサンジの尻に傷は残らねぇのかって聞かれたもん」 「そっか・・・あいつそんなの気にしてたのか・・・」 「喧嘩ばっかりしているように見えて、ほんとは仲良しなんだな」 エッエッエッ♪と笑うチョッパーをよそに、サンジは考え込んだ。 それからサンジは悩み続けている。 もう大丈夫だよ、気にしなくていいよ、プレゼントありがとう、と伝えたいのはヤマヤマなのだが、何しろ今まで喧嘩腰にしか会話をしてこなかったせいで、うまく口が回らない。 船の上ではなかなか二人きりになれる時間が無く、いざ二人きりになると緊張して余計に喧嘩を売ってしまうのだ。 ゾロはゾロで、今まで鍛錬しているか寝こけているかの生活だったのに、暇になると腹から何やらカタログのようなものを出して眺めているから、声もかけ辛くなったし。 どうしようかと気ばかり焦っていたら、そろそろゾロの誕生日なのに気がついた。 毎回誕生日は盛大な宴をして祝う。 サンジのプレゼントは毎回主役に合わせたスペシャルディナーだが、今回は他にちょっとしたプレゼントを付けたらどうだろう? そして手渡す時に、おめでとうと一緒に気持ちを伝えるのだ。 なかなかいいアイデアだ。 しかし、そうなるとプレゼントのチョイスが難しい。 毛糸のパンツに見合うぐらい、実用性があって心がこもっているもの・・・。 考えれば考えるほど難しくなり、サンジの頭でイチゴがクルクル回るのだった。 * * * その頃、展望台から双眼鏡でキッチンを見つめる影二つ。 「ヨホホホ、サンジさん、まだ悩みがつきないようですね〜」 「無益。しかし、その若さ故の無益が、また良い」 麦わらの音楽家ブルックと、鷹の目のミホークである。 ゾロもサンジも知らないことであるが、ミホークはメリー号時代からちょくちょく忍んで遊びに来ている。 まさに遊びに。 退屈しのぎにゾロの成長具合を見に来ているのだ。 もちろんルフィは知っている。 一番最初に遊びに来た時に一応筋を通して「遊びに来ました、いーですか?」と尋ねたからだ。 「お〜いいぞ、飯食ってけよ」と快諾されたが(どうやら100%暇つぶしで、危害を加えるつもりは一切無い事を直感で見切ったらしい)、ロロノアに内緒で成長を見守る、というところがポイントなので、それはお断りした。 ミホークの完全に絶った気を検知するほどになれば、ロロノアも腕を上げたといえよう、とほくそ笑んでいたが(かくれんぼの気持ち)、出入りする内にもっと興味深い対象ができた。 赫足の秘蔵っ子、黒足のサンジだ。 赫足の船に出入りしていた時から存在を知ってはいたが、こんなにきれいで可愛い男だとは気がつかなかった。 ミホークがバラティエを訪れる時は、いつも厨房担当だったからだ(補足;ミホークのスキモノっぷりを知っているゼフが遠ざけていた)。 ロロノアとサンジは喧嘩を繰り返してばかりいるように見えたが、戦闘を重ねるうちに、徐々にその距離を近づけていった。 そしてどうやらミホークが来ていない時に一波乱あったらしく、ロロノアはサンジを熱い視線で見つめるようになったし、サンジはサンジでロロノアを見つめて切なげにため息をつくようになっていた。 いいじゃない、美味しいじゃない!!!←心の絶叫 興奮したミホークは、偶然出会ったブルック(こっそり樽に潜んで双眼鏡を見ていたら、夢中になりすぎて他のクルーには見つかった)と『二人の恋を応援し隊♪』を結成し、定期的に隊の唯一の活動である監視を続けているのだ。 「ヨホホ、しかし、進展しませんねぇ。このままでは、せっかくの誕生日という一大イベントが不発に終わってしまうではありませんか!」 「うむ。いいとこ腹巻き買って終わりであるな」 「もっと甘酸っぱいナニカや、ドキドキ♪なナニカが欲しいものです」 「ロロノアはロロノアで、通販カタログ片手に妄想で終わっておるしな。一体何回一人でヌけば気が済むというのだ。せっかくの有益なサイズのブツが無益この上ない!」 「ミホークさん。どうでしょう・・・この辺で『二人の恋を応援し隊♪』として事を起こすべきではないでしょうか?」 「うむ。俺もそう考えていた。そこで、こんなのはどうだろうヒソヒソヒソ」 「ええっ!そんなことをするのですか是非やりましょう!」 「分かってくれると思っていたぞ我が友よ!」 ガシィィィ! 熱い抱擁を交わす二人であった。
* * * ゾロの誕生日に合わせるかのように、前日の昼過ぎには秋島についた。 冬から秋へ逆戻りした感はあるが、グランドラインなので良くあることだ。 昼下がり柔らかな光の中で舞い散る紅葉は、言葉に尽くせないほど美しかった。 「はい、じゃあめでたくサニーも港に預かってもらうことができたし、今日は宿屋に泊ります。各自で宿を取ってね。明日は一旦船に戻ってゾロのお誕生日の宴会。時間厳守よ!」 「「「「はぁ〜い」」」」 海賊らしからぬいいお返事が飛び交い、三々五々と散っていく中、サンジはゾロにこそっと声をかけた。 「あ〜・・・んんっ。よぉマリモ。お前宿もう決まった?」 「・・・今船降りたとこだろが」 「かっちーん!・・・いやいや、ゾロ、ちょっと時間あったら、顔貸してくんね?そう時間は取らせないからさ」 「・・・おう」 よしっ! サンジは小さくガッツポーズを決めた。 手近な宿を取り、ゾロを部屋に引っ張り込む。 明日まで待っていたらみんなの前で公開プレゼントになってしまう。 一日前だが致し方あるまい。 「ちょっとここで待ってろよ〜♪」 部屋にゾロを待たせ、いそいそと風呂場に行こうとすると、ゾロに腕を掴まれた。 「待て。何が始まるんだ?」 「?あ、そっか、俺説明してなかったっけ?誕生日プレゼントだよ、お前明日誕生日だろ?」 「・・・なんで風呂に入る必要がある」 「風呂じゃねぇよ、着替えんだよ。いいからちょっと待ってろって」 ゾロをベッドの方へ押し戻して脱衣所に入る。 そうか、俺説明してなかったもんな。 あいつ戸惑うとあんな凶悪な顔になるんだなぁ。 ぱぱぱと服を脱ぐと、早速装着する。 下着にベスト。 ふわふわしていそうに見えてぴったりしているので、ほとんど同じ背丈だとはいえ、ゾロがこれを着るのは無理だ。 サイズには注意するように忘れずに伝えねば。 色は黒だから似合うかもしれないけど。 でもあいつにこのふわふわって・・・いや、個人の趣味は追求するまい。 あいつは俺の趣味ストライクのイチゴパンツをくれた時、笑わなかったもんな。 カチューシャをバランスよく付けるのに悪戦苦闘していると、部屋からゾロの声がした。 「おまえは、なにを、かんがえている」 なんでひらがな? 「いや、前にお前、イチゴパンツくれたじゃん。照れくさいけどさ〜、あれすごく嬉しかったんだよな」 おお、顔を見ないとスラスラ言える。 「だからさ〜、お礼かな?あと、ちゃんと完治したぜ、って報告」 「おれい。かんちの、ほうこく」 だからなんでひらがな? 「よしっ、できた!」 鏡の前でターンしてチェックする。 ふわふわのねこ耳。 丈の短いふわふわベスト。 Tバックに長いふわふわしっぽ。 どこから見ても黒ねこルック♪ 思わず楽しくなって、くるくる踊りながら扉を開ける。 「お待たせ〜♪」 ゾロは静かに部屋で佇んでいた。 一人でテンション上がっているのが気恥ずかしくて、焦ってしゃべり続ける。 「これさぁ、お前カタログでずっと見てたんだって?ちょっと取り寄せてみたんだよ、モニターしてやろうと思って。あ、後さ、尻!尻も完治したから!ほら!」 後ろを向いてぺろん、としっぽをめくった途端。 ゴ。 「ゴ?」 ゴ。 ゴゴゴ。 ゴゴゴゴゴゴ・・・ 「な、何の音だ?・・・って、わぁ!」 ゾロからどす黒い何かが噴き出している。 「そうか・・・そういうことか・・・俺へのプレゼントなんだな?」 「あ・・・うん、でも、ちょ・・・ちょっと待て」 にじり寄るゾロ。 反射的に後ろへ下がるが、壁に阻まれてそれ以上後ろへは下がれない。 やばい、こいつ目がマジだ。 「ありがたく受け取る。お前からのプレゼント」 「いや・・・あの・・・ちょ、ちょっと待てぇぇぇ!」 窓の外の紅葉で一枚、はらりと落ちた。 * * * 「はぁい!そこまでッ!」 元気な声と共に、視界が真っ暗になった。 「何奴ッ!?」 「どなたですかッ!」 ミホークとブルックがそろって望遠鏡を下ろすと、ナミとロビンが笑顔でそれを取り上げた。 「ああッ!」 「ひ、ヒドイッ・・・」 「せっかくの初めてなんだもの、出歯亀がいちゃ可哀そうでしょう?」 ロビンが向かいの宿の窓に手を生やして、そっとカーテンを引く。 あの状態では二人とも気がつかないだろう。 「後はお若い二人に任せて、ミホークさっさと帰りなさいよ」 「無益・・・」 「同感ですヨホホ・・・ しょんぼりと部屋を出ようとしたミホークとブルックに、ナミがさっと請求書を出す。 「ちょっと待って。お代払ってってね」 「お、お代?」 「タダ見はダメよぉ♪お代は明日の宴会の資金にするの。明日はサンジ君起きられないと思って、街でレストラン予約したから。これがあたし達の誕生日プレゼント♪」 「・・・資金は俺達が出すのであろう?」 「あたし達は気づかいをプレゼントするの。あんた達は資金をプレゼントするの」 「鬼だ・・・」 「鬼がいますヨホホ・・・」 しょんぼりと財布を開くブルックとミホークを前に、ナミとロビンは微笑み合う。 今日のプレゼントはきっと世界で一番プリティね♪ END お礼 狸山ぽんです。 わはーいっ!お尻大好きゾロの熱い(黒い)情熱が伝わってきます。 しかしこのサンジ、別にそこまでゾロに対する恋心ないんじゃあ…(汗) いえ、あの衣装を着てお尻ぺろんしてくれた段階で誘ってるわけですから、遺伝子レベルで愛していたんですよね。流石ゾロサンクオリティです。 素敵なおばか話(←賞賛)ありがとうございます! |