彩乃様のリクエスト〜
「サンケツ★ブラボー!」







「てめェ、今なんつった!?」
「あぁ?そりゃ悪かったなアホアヒル。てめェの低脳ぶりじゃ理解できねェ台詞だったか?」
「頭蓋内にマリモが詰まった男に言われたかねェよっ!」

 いつもどおりにいつもの二人が、メリー号のキッチンで低脳な喧嘩を繰り広げている。仲間達は下船してしまって二人きりなものだから、止める者とておらず舌戦はエスカレートする一方だ。
 切っ掛けは互いに何だったか忘れてしまった。相当どうでも良いことだったのだろうと思う。単に言い回しにカチンと来たか何かで、サンジが突っかかっていったのだ。

 ただ、いつもの違ったのはこのキッチンの中に、ゾロもサンジも知らないものが複数あったということだ。それが次の瞬間、サンジを羞恥の渦に巻き込むことになる。

「あっ!」

 ゾロの拳を避けた先には、床板にルフィが悪戯で開けた孔があった。そしてよろけたその先には更に、チョッパーが割ってしまったガラスが木箱に入れた状態で置いてあった。結果、最悪なことにサンジはガラスの山に尻餅をつく形になった。

「お…おいっ!?」

 これには流石のゾロもぎょっとして駆け寄ってきた。《ガシャン!》と嫌な音がして硝子同士がぶつかりあい、寸前で体勢を捻って自重で刺さるのだけは免れたものの、サンジのボトムは所々裂けて、血が滲んでいた。

「やべェ…クソっ!痛ェ…」
「刺さったのか?尻か?見せてみろっ!」
「や…やだ…っ!誰がてめェなんかに…」

 サンジは恥ずかしさのあまり逃れようとするが、ボトムの中に硝子片が入り込んでいるのか、鋭い痛みが奔る。

「く…っ!」
「言わんこっちゃねェ。あ、コラ。手で払うな。指切ったらどうする!見せてみろ、取ってやっから。一時休戦だ」
「……わァったよ」

 サンジが指を傷つけることを何より嫌がるのを、ちゃんとゾロは知っている。どんなに喧嘩をしても、積極的に《怪我をさせてやろう》という意図を感じたことはない。今まで一度だってゾロの刀がサンジを傷つけたことはないのだ。だから硝子の山にサンジが突っ込んでしまったのも、きっとわざとではないのだろう。
  
 羞恥心を押さえ込んで四つん這いになると、ゾロにされるがままズボンを引き下ろされていった。バックを取られるような姿勢は気にくわないが、さりとて尻の傷なのだから正面を向くのも恥ずかしい。まんぐり返しにされるのは余計に嫌だし、中途半端に立ちバックの姿勢を取って、《もっと脚開けよ》と言われるのもやっぱり嫌だ。

『ぅわ…っ』

 ふぅっと風が吹き込んで、普段は滅多に晒すことのない素肌を撫でていく。それが擽ったいような、心許ないような気がして酷く落ち着かない。

「パンツの中まで入ってんな。下ろすぞ?」
「ぅ…」

 ここまで預けたら今更だ。我慢して歯を噛みしめていると、肌から引き離すようにしてゆっくりと下着がずらされていく。確かに浅いとはいえ硝子が刺さっているらしく、時折刺すような痛みと、《チャリン》と破片が床に落ちる音がした。

「まだ刺さってっか?」
「おう。中に入りこんじまうとコトだからな。慎重に見ていかねェと」
「…ぅん」

 心細そうな声をどう思ったのか、ゾロは意外なほど丁寧な所作で傷口の検分をしていく。…と、急に尻の皮膚に熱感を覚えてビクリと震えた。

「え…?なんだ、今の…」
「動くな。破片が入りこんじまう」
「…っ!?」

 肌の至近で喋られると熱い息が肌に触れて、ぞわりと鳥肌が立つのが分かった。意外に気色悪いというのではなく、ただ他人がそんな場所に触れているという事実に吃驚したのだ。

「てめ…っ!し、尻にキスって…っ!」
「何がキスだ、アホコック。大人しくしてろ。吸い出してやっから」
「あ…ああ、そっか」

 理由が分かって抵抗は止めたものの、真っ赤に火照った頬が収まることはない。だって恥ずかしいという事実に変わりはないのだから。

『は…早く終われよぉおお…っ!』

 居たたまれ無さに床に擦りつきながら、サンジはぐっと奥歯を噛みしめた。



*  *  *  


 

 まさか、あんな場所に硝子の山があるとは思わなかった。木箱に入っていたから、ゾロの位置からは見えなかったのだが、それにしたって別の方角にどついてやれば良かったのだ。もしも手首や脚の腱をザックリやっていたらと思うと、ゾロらしくもなくゾクリと背筋が震える。

 尻だから多少は傷ついても大丈夫だろうと思ったものの、コック自身は確認の出来ない場所に深く刺さっていて、抜けなくなったりしたら動きに支障が出るだろう。常になく慌てていたゾロは恥ずかしがるコックを説き伏せると、すぐにズボンと下着を下げていった。

 尻を剥き出しにする瞬間まで、ゾロの中にあったのはただ純粋な心配であり、意図せずして傷つけてしまった事による罪悪感だった。
 しかし、つるんとした綺麗な尻が出現した瞬間、ゾロの脳内円グラフに劇的な変化が生じた。《心配》と罪悪感は合わせて50%程度の版図を確保していたものの、残る50%に突如として《感動》とか《好奇心》といったものが現れ、刻々とその版図を広げていったのである。

 コックの尻は、素敵な尻だった。
 それはもう、今まで見た中で
ベストオブ★ナイス尻だった。
きゅっと締まった小尻はゾロの両手にすっぽりと収まるような大きさで、やはり締まった腿へのラインも美しい。感動するほどに透明感のある真っ白な肌で、触れれば度肝を抜かれるくらいに滑らかなそこには、現在幾つか紅い筋がついている。そのことに、今更ながらに悔いが生じた。

『疵がない状態で見てみたかったぜ』

 薄々自覚はしていたのだが、どうやらゾロは尻フェチのケがあるらしい。正確に言うと、尻から下肢にかけてのフェチだ。女は顔や胸よりも尻がキュッと締まって脚が真っ直ぐスラリとしているのが堪らない。ガーターベルトだなんだといったあざとい服飾品よりも、素っ裸にしたときに綺麗な肉体的ラインを描く方が重要だ。しかもコックは腰までほっそりしているのだ。多分、ゾロが両手を添えればくるんと一包みに出来るだろう。

 そこに紅い疵があって、あまつさえ無粋な硝子が入り込んでいるなんて冗談じゃない。こんな場所にずっと疵が残ったりしたらおおごとだ。大浴場にでも仲間達で行ったときに、また見る機会があるかも知れないから、その時にはつるんと無傷の状態に回復していて欲しい。

 ゾロはカッと目を見開くと、小さな疵一つ残すものかという意図を固めた。幸い、チョッパーが言うにはゾロの唾液は随分と消毒力に長けているらしい。《舐めてたら大抵の傷が治る》と言ったら真面目なチョッパーはちゃんと実験をした上で、それが真実であることを突き止めて驚いていた。口内にIgAという粘液に含まれる免疫グロブリンが大量に存在していて、しかも虫歯などに通常含まれる雑菌が皆無だというのだ。なので、ゾロの唾液が消毒液以上に効力があるのは医師のお墨付きなのである。

 早速小さな欠片を見つけて歯先で除去すると、傷口の中に小さな破片が残っていないか舌先で確かめていく。最初は鮮紅色の血がぷくんと溢れてきたが、何度も唾液を塗り込んでいくとすぐに薄皮ができた。
 ただ、コックは物凄く恥ずかしいらしく、耳まで真っ赤にしてぷるぷる震えている。よく見ると、尻や内腿もぽうっと色づいてなんとも美味しそうだ。


『こ…これは伝説の桃尻…っ!!』



 水蜜桃のような透明感を持つ、美しい尻…。それはゾロの想像の中だけに存在するものだと思っていたが、まさかこんな凶暴コックのズボンの中に存在していたとは。
 灯台もと暗しとはこのことか。 

 こんな素晴らしい尻に疵があるなんて許せない。ゾロは更に真剣な態度で尻に臨むと、熱心に舌を這わせて疵という疵を余すところなく舐めあげていった。

『ぅおぉ…。こいつ、舌触りも最高じゃねェか!』

 見た目だけではなく食べても美味しいとは、流石はあれほどの美味を作り出すコックだけのことはある。メリー号が食糧危機に襲われて、一週間くらい飯を食えない事態に陥っても、コックを嘗め回していれば凌げるような気さえする。

『そういやァ、影になってるトコもちゃんと見とかねェとな』

 念には念を入れて…と双丘を割ってみると、案の定、小さな欠片が挟み込まれていた。ひょっとしたらもっと奥まで入り込んでいたりするだろうか?両手にすっぽり収まる尻を強引に開いていけば、むにんと広げられた蕾がこれまた愛らしいベビーピンクを呈している。何なのだこの尻は、ベストオブ★ナイス尻の上を行く
超☆絶美尻スペシャルではないか。こんな尻孔の奥が切れたりしていたらおおごとだ。つるりと舌を突き入れて、妙な物が入っていないか検査してやった。

「ひ…っ!」
「逃げんな。奥まで入ってたらどうするっ!」
「でも…んなトコ、き…汚ェし〜っ!」

 伊達に刀を銜えて闘っているわけではない。コックの尻穴を舌で診察しながら、迂闊な動きをするアホコックを叱りつけてやった。その口調からゾロの真剣みは伝わったようだが、段々コックが泣き声混じりになってくる。すんすんと啜り泣くような声音に、ゾロはビキリと眉間の皺を深めた。

「バカ言え、汚ェなんてことがあるか。大事な身体じゃねェか。傷物になったらコトだ」
「…っ!」

 何故だかコックは更に真っ赤になって、無理に身を捩るとゾロの様子を伺ってきた。コック自身は生意気で喧嘩ばかり売ってくるアホアヒルだが、やはり仲間には違いないし、何しろ超☆絶美尻スペシャルだ。ケツスキーとしては天然記念物に指定して手厚い保護を尽くさなくてはなるまい。

「だ…大事って…てめ……なに……っ…」
「あ?」

 尻ばかりを凝視していたゾロだったが、視線をふとコックに合わせていくと…そこに、驚くべきものを発見して動揺をきたした。

『…なにィ?』
 
 普段は目を眇めて皮肉げな笑みを浮かべた男が、今は頬を薔薇色に染めてくりんと後ろを伺い、眉根を下げている。けれどその表情には嫌悪とか怒りはなくて、ただ困惑したように淡く濡れた蒼い瞳が、じぃっとゾロを見つめている。その瞳の奥に、どこか喜びにも似た色が見え隠れするのはどうしてだろうか?

『なんだなんだなんだ?』

 ゾロの言葉の何がコックをときめかせたのか分からないが、ときめいているコックは派手にゾロをときめかせた。

『なんで……………』

 何故尻ではなく、コック自身に感嘆しているのか。
 《可愛い》なんて思うのか。

 尻に舌を突っ込むという豪快な状況の中、時間が止まったかのように思われたその時、ドタバタと甲板を揺らす足音がある。仲間達が帰ってきたのだ。
 コックは慌ててズボンを引きあげようとするが、それでまた破片が刺さってはいけないから、そのまま引き下ろして抜いてしまうと、片腕でひょいとコックを抱えて破片の無い場所に下ろしてやる。

「バカっ!ズボン返せよっ!俺ァパンツもはいてねェんだぞ!?」

 おお、確かに大問題だ。尻と顔だけではなく、シャツを両手で押さえて下ろす仕草もプリティシモ(←プリティの最上級)だ。しょうがない、保護が必要か。

「シーツでも被っとけ」
「テーブルクロスだバカ」

 テーブルに敷いてあったテーブルクロスを剥いで腰に巻き付けると同時に、仲間達がわらわらとラウンジに入ってきた。 

「サンジぃ〜、腹減っ…て、アレ?どうしたんだよ」
「あ…っ!サンジ、ひょっとしてこの硝子に突っ込んじゃったのか!?」

 ウソップとルフィが怪訝そうな顔をする中、チョッパーは飛散した破片を目にしてぎょっとしたように顔を歪める。

「あ…ああ、ちょっと掠っちまった」
「わぁあ!ご…ゴメンなっ!俺がちゃんと最後まで片づけしとけば良かったのに…。サンジ、すぐ手当てしようぜ!ほら、脱いで見せてみな?」
「大丈夫だよ。マリモが一応手当てしてくれたしさ」
「ゾロが?一応見とくよ」
「そっか?」

 チョッパーがテーブルクロスを剥がそうとすると、ルフィやウソップまで寄ってきてコックの生尻を覗こうとする。

「なんだ、脚怪我したのか?サンジ」
「あ、もしかして尻餅ついて尻に刺さったとか?だっせェ〜」
「うっせェっ!」

 笑いながら布地を剥ごうとするルフィとウソップの頭部を鷲掴みにすると、ゾロはそのまま平行移動で甲板に出ると、ぺいっと放り出してしまう。

「ぞぞぞゾロ君?ナニしてくれてんの?」
「わひゃひゃ!面白ェ〜っ!ゾロー、もー一回っ!」
「またな」

 軽く受け流して扉を閉めると、シャツ一枚のコックの尻をチョッパーが診察しているところだった。

「うん。奥の方にも入り込んだりはしてねェから大丈夫。掠った疵も血の量のわりに結構浅かったんだな。良かった〜」
「そっか」

 コックも安心したように胸を撫で下ろすと、またテーブルクロスを巻きスカートのように身につける。

 ゾロは愕然とした。船医の治癒証明を貰ってしまった以上、ゾロが出る幕はない。あんなに楽しかったひとときが、いきなり終止符を打たれてしまったことに今更気付いたのである。

 チョッパーがブルッと背筋を震わせてこちらを見る。

「ぞ…ゾロ、どうしたんだ?なんか顔が怖いぞ?」


「生まれつきだ…」


 仁王のような形相を浮かべたゾロは、それから暫くの間チョッパーを恐怖に震えさせたという。


おしまい




あとがき



 次回作はやっぱり、「あの素晴らしいケツをもう一度」でしょうか。(←あるんかい)
 それはさておき、何故か気が付くと下心があるゾロというより、迷惑なくらい純粋な尻スキー(しかも自己肯定感強い)になってました。
 でも、そんなゾロでもゾロである以上好きなんだね、サンジ…というお話。



おまけ

 以下、柚希様に頂いたリクエスト内容が面白かったので、まんま掲載。
 ありがとう柚希様!

 次に着いた島でチンピラに囲まれていたおっさんを助けるゾロ。
 おっさんは島一番のよろず商店の店長で「なんでもお好きな商品をプレゼントさせて頂きます!(でも酒類は取り扱い無い)」

 ゾロ「けつを保護するものをくれ」
 おっさん「・・・どなた様のお尻にお使いになるもので?」
 ゾロ
「可愛い男の、可愛い尻を守るものだ」
 おっさん「・・・」

 おっさん、何を間違えたのか、18禁部屋へ。
 貞操帯をおススメ。

「こちら超高級品で、不埒な輩から絶対確実に大切なお尻をお守りいたします」

 ゾロ険しい顔(に見えるだけ)。脳内では貞操帯つけた恥じらいサンジ。

「ああ、お気に召しませんでしたか!こちらはいかがでしょう?先端にバイブ機能付きで、いぢわるもできます」

 ゾロ凶悪な顔(に見えるだけ)。
 脳内では
「いぢわるっ・・・お願い早くぅ!」なサンジ。

「あああ、申し訳ございません!間違えましたでしょうか?こちらもおまけに付けますです!お尻を可愛く彩るしっぽ付きパンツ&ネコ耳、美脚強調スリットチャイナもろもろ」

 ゾロ、背後からどす黒いオーラ出る。脳内は大変なサンジ祭り。
 死を覚悟する店主。

 凶悪ゾロ、しかし、まず本来のベストオブ☆ナイス尻を取り戻してからが始まりだと思い直し、レジ脇の「プリティ♪もこもこ毛糸パンツ。バックプリントは可愛くもでっかい苺ちゃん」をチョイス。

 毎度あり〜の声を背に、満足げに帰る。

 帰船後、サンジに「やる。・・・身体を労われよ」と紙袋を渡し、昼寝に行くゾロ。
 腹巻にはさっきの店の、カモメ通販便チラシでんでん虫番号付きがin。

 サンジ、紙袋から出てきたバックプリント苺の毛糸モコパンを片手にポカン。

「藻類の考えることは分からねぇ・・・」

 その後、とある島ではチンピラ除けとして、店先に毛糸モコパンを飾る習慣ができたという…。