おやゆび陛下−7
〜ちっちゃな陛下のすてきな日常〜
眞魔国のちぃちゃな魔王陛下は、今日も愛のお勉強に励んでおります。
勿論、お相手は大好きなウェラー卿コンラートです。
単にいちゃいちゃしているだけに見えるかも知れませんが、この日々がユーリ陛下の健全な肉体と精神を育成するのですから、立派なお仕事なのです。
絶対他の人にはあげたくないようなお仕事ですけどね。
「わぁあ…っ!凄いねぇっ!王冠のケーキだね?」
「ええ、ユーリ陛下の御代を祝福するケーキだそうですよ」
コンラートが今日のおやつに買ってきてくれたのは、城下町のお菓子屋さんで買ってきたとっときのケーキです。
そのお菓子屋さんの作るケーキはもともとユーリが大好きなものでしたが、今日は特に素敵な形をしております。
王冠を模した繊細なパイ生地は見るからにサクッと仕上がっており、それが艶々とした飴細工を絡めてお日様の光りを弾いているのです。そして、その王冠の中にはふわっふわのクリームが形良く盛られ、その中にたっぷりと熟した彩りの良い果物が載せられているのです!
ああ、見ているだけで涎が出てきそうですよっ!
「えへへぇ…おれ、ここのケーキ大好き!見てるだけでふくふくって幸せな気持ちになるねぇ」
「ええ、本当にそうですね」
コンラートは甘いお菓子には興味がありませんが、自分の身体と同じくらいの大きさのケーキを前にして、ふくくっと笑っているユーリを見ていると、やっぱりふくふくっとした幸せな気持ちになります。
そう言った意味では、ケーキによって幸せになっているとも言えるでしょう。
ところで、ユーリがひとこと言えばその職人さんを血盟城…いいえ、ユーリの専属にしてしまうことも可能です。
でも、ユーリはそれはいけないと言います。
だって、城下町の人達がとっても楽しみにしているケーキを独り占めするなんて、とっても欲張りなことだと思うのです。
『おれたちとおんなじケーキを見たり食べたりして、幸せになってる人達のことを思い浮かべると、ケーキはもっとおいしくなるねぇ』
頬にいっぱいクリームをつけて、お日様みたいな笑顔を浮かべるユーリはそりゃあ可愛らしいですから、コンラートは決してそのお菓子職人を《専属にしましょう》なんて言い出したりはしないのです。
コンラートは念のため、ユーリのために毒見をしようとフォークを伸ばしましたが、それはユーリが止めました。
「あ、ちょっと待って?俺、自分でフォークを使ってみるよ」
「え?ですが…やはり毒見は必要かと…」
どんな食べ物もコンラートが先に口にする理由を初めて知ったとき、ユーリはぼろぼろ泣いて《そんなのやだ》と言いました。自分のためにコンラートが危険な目にあったりするのが嫌だというのです。
ですが、コンラートは辛い境遇で育ったせいなんだかお陰だかで毒に身体が馴れていますし、致死量になる前に毒に気付くことが出来ます。他の人では、本当に死なせてしまうかも知れないのですから、これはやはりコンラートの仕事だと説明したら、渋々納得したと思ったのですが…。
ユーリは自分の身の丈ほどのフォークを苦労して操ると、どうにか一口分ぷすりと刺しました。
そして…コンラートに向けて斜めに掲げたのです。
「はい、あーん」
「………え?」
「いつも俺ばっかり食べさせて貰ってるもん。俺だって食べさせてあげたいよ」
重たすぎるフォークを抱えて頬を赤くしているユーリに、コンラートはきゅうんと胸をときめかせました。
ああ…ユーリのために尽くすのは勿論嬉しいですが、彼が自分に尽くそうとしているのだと思うと、背中から羽が生えてぴょうんとお空に飛び立ってしまいそうです。
「で…では…。頂きます」
「はい、どうぞ」
ぱくり。
まむまむ…。
甘い物は苦手なはずのコンラートですが、今日はサクサクのパイ生地とふんわりクリームの配合を、至上の美味として感じました。
感情が味覚に与える影響って甚大ですね。
「では、今度は俺の手から食べて下さいね?」
「うん、いただきますっ!」
ちょうど良い大きさに取り分けたケーキをぱくりと口に含むと、ぷっくらと膨らんだほっぺを両手で押さえてユーリが叫びます。
「うぅん…おいひいっ!」
「それは良かった」
大好きな人に食べさせて貰うこと、食べさせてあげること…それ以上に、大好きな人と食べるって事がとってもとっても幸せなことですね。
※いつもは味重視のケーキ選択をしているのですが、本日はユーハイムのひたすら形が可愛いケーキを買いました。
くるみ割り人形モチーフのケーキが可愛かったので、単にそれを食べる陛下を想像しただけの話です。
よく見たら6の終わりのシーンと何一つ変わっていないような気も…。
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