おやゆび陛下シリーズ 青いそ〜らはぁ〜 ぽっけえっとさぁ〜 しあわせつっつむ〜 ぽっけえっとさぁ〜 楽しそうに歌いながらお空を飛んでいるのは、ちいさな魔王陛下です。 勿論、陛下が直接飛んでいるわけではありませんよ?飛猫族の姐さんの背に載せて貰っているのです。 大空から望む王都はとても素晴らしい眺めです。たくさんの人たちが行き来して賑わっていますし、どんな場所で何が行われているのか一目瞭然ですからね。こうして上空から眺めて感じの良いお店を見つけると、今度はウェラー卿コンラートをお供に連れて…というか、コンラートの鞄の中に入っておでかけをするのです。 血盟城の中では肩に乗っているんですけど、街の中ではみんなが歓声をあげて寄ってきてしまいますからね。お忍びにしなくてはならないのです。 すると、今日も素敵なお店が見つかりました。頑固そうな職人がコッコッと蚤をふるい、見事な金属加工をしております。目立たないように降り立ってみますと、それは男性用のバックルや、剣帯留めの装飾金具を作っているお店のようでした。革製品の加工もとても素敵です。 『コンラッドにこういう贈り物をあげたら喜ぶかなぁ?』 ユーリの胸はわくわくと弾みます。 いつもは色んな事をして貰ってばかりですけど、ユーリだっていつもコンラートに何かしてあげたいと願っているのです。 斜めがけにした鞄の中を探りますと、大きな金貨が入っています。一枚あったら足りるでしょうか? 金貨を両手に抱えてとてとてと駆けていこうとすると、姐さんにぱくりと襟首を銜え上げられてしまいました。 「わーっ!」 ユーリのちいさな身体は、まるで仔猫みたいにぷらりとぶら下がります。嫌々をして暴れると、姐さんは溜息をつきながら降ろしてくれました。 「何するんだよー」 「ダメだってば。あんたは魔王様だろう?そのまま行ったら大騒ぎになっちまうよ。酷い奴だっていないとは限らない。あんたを浚って一攫千金…なんて輩もいるかもしれないからね。あたしゃコンラートの旦那に重々あんたのことを頼まれているんだ、頼むから無茶をおしでないよ」 「む〜…」 姐さんの言い分は分かりますが、ユーリだって自分でお買い物をしたいです。コンラートと一緒の時に何かを買ってあげたいなんて言うと、恐縮して貰ってくれないか、もっと高価なお返しを貰うことになりますからね。 「じゃあ、おれは一体いつコンラッドへの贈り物を買ったら良いんだよぅ…」 「別の魔族の護衛をつけてくりゃあ良いじゃないか」 「あ、そっか!」 ぽんっと手を打つと、ユーリは早速誰に頼もうか考えました。 * * * 「コンラッド、今日はヨザックと一緒にお買い物に行っても良い?」 「ヨザですか?どうしてまた…」 「気分てんけんだよ」 「気分転換?」 「うん、まあそんなもん」 こっくりと頷きますと、少しコンラートは黙ってしまいました。 『どうしたのかな?』 不思議に思って顔を上げますと、いつも通りのお顔でした。 「では、すぐに手配しましょう。俺も後からついて参ります」 「えと…コンラッドは来ちゃダメ」 「え…?」 ぴくん…っとコンラートの表情が強張るのが、今度こそ感じられました。一体どうしたのか、コンラートのお顔は泣きそうにさえ見えました。 「コンラッド、どうしたの?お腹痛い?」 「いいえ…何でもありません。ただ…どうして、俺はユーリとお出かけをしてはいけないのでしょうか?」 「ええと…秘密なの」 「どうしても?」 「うん。コンラッドには言えないの」 「そう…」 どうしましょう…。コンラートに内緒で贈り物を買いたいのに、その本人にこんな顔をさせて良いのでしょうか?もしかして…何か気分を害したのでしょうか? ドキドキします。 はらはらします。 コンラートをじっと見つめていたら、寂しそうに微笑んだ彼が、ふ…っと視線をずらした瞬間、ばちーんっと胸を撃たれたように感じました。 痛い痛い痛い。 とっても胸が痛いです。 「うぅ…っ…ふ…」 「ユーリ…!?」 ぽろぽろと涙を零してしまったユーリに、コンラートは慌ててしまいます。 ああ…何て事でしょう?コンラートに喜んで欲しくて精一杯考えたことですのに、哀しませてしまった上に心配を掛けてしまうなんて…。 どうしてこんなに上手くいかないのでしょう? 「コンラッド…好き…だい好きだよ…。かなしませたかったんじゃ…ないよぉおおぉ〜…」 ふぇぁああぁん…と、しゃくり上げながら泣いていたらコンラートが両手でそっと包み込んでくれました。 「ユーリ…訳を聞かせてくれる?」 「ぅん…うぅん…」 こくっこくっと頷くたびに、ぽろりんぽろんと涙が零れます。その滴を唇で吸い取りながら(ちょっと吸引力が強くてほっぺたごと持って行かれそうでしたが…)、コンラートは優しく囁きかけました。 「ね…落ち着いて?俺のことを好きでいてくれるんなら、哀しんだりはしないよ?」 「ほんとう?」 「ああ、本当だよ」 力強い答えを聞いた瞬間、ぽぅん…っ!とユーリの身体が弾んだように感じました。 「わぁ…っ!」 「おや、また少し大きくなりましたね?」 大好きなのに報われない哀しみと、誤解が解けた嬉しさのせいでしょうか?ユーリはコンラートの両手に余るくらいの大きさになっていました。肩には乗っかると言うよりも、座った方が安定が良いことでしょう。 「そうだ。あのね、コンラッド。今日はコンラッドを仲間はずれにしたかったんじゃあないんだよ?その…コンラッドに、内緒で贈り物をしたかっただけなんだ」 「そうなんだ…。俺のことが嫌になったんじゃないかなんて、心配してゴメンね?」 「ううん。おれの方こそ、しんぱいさせてゴメンね?あのさ…コンラッド、もらってくれる?俺が買った贈り物」 「ええ…喜んで」 「あっ!高いお返しとかはしちゃダメだよ?」 「ううん…それは難しいですねぇ」 「どうして?」 「だって大好きな人から贈り物を貰うのに、返さないなんて事が出来ますか?」 「うーん…」 それは確かにそうです。 「それに、俺は無理をして高価なものを買っているわけではないんです。商店に並ぶ素敵な品物を見た時に、ユーリの喜ぶ顔が目に浮かぶから…それを実際の目にも楽しませてあげたくて買うんですよ?言ってみれば、自分の為の買い物と一緒です」 「そういえばそうだねぇ」 大好きな人の笑顔が見たくて贈り物を買う…。それは、ごくごく当たり前のことなのかも知れません。 「ね…二人でお買い物に行きませんか?」 「うんっ!」 こっくりと頷いたユーリがコンラートの鞄にはいると、少し狭苦しく感じられましたが、とても楽しいお買い物になりました。 『だい好きな人がびっくりしながら喜ぶのも楽しいけど、こうしていっしょに買うのも楽しいなぁ…』 すれ違いで少し成長したユーリ陛下、次はどんな感情に目覚めて成長するのでしょうね? |