おやゆび陛下−10
〜ちっちゃな陛下のすてきな日常〜
ばばんばばんばんばん(あ、びばのんの)
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眞魔国の魔王陛下であるユーリは、上機嫌でぱしゃぱしゃとお湯を跳ね返しながらお風呂に入っております。
なにしろちっちゃな親指サイズ陛下ですので、湯船もミニミニサイズです。
毎回お風呂の度におぼれていては大変ですからね。
ドールハウス職人さんが造ってくれたお家の中に防水加工を施した浴室がありまして、ここに大振りな陶磁器のカップを置いているのです。
しかも、カップは複数あるのです!
しかもしかもですよ?その中身は日ごとに違うのです。
ぷくぷくとクリーム状に泡立つ石鹸の泡風呂。
蜜柑皮のエキスをたっぷりと注ぎ込んだみかん風呂。
蒼い小花を散らしたお花風呂…。
そのほかにも色々と趣向を凝らしているのです。
ああ…魔王様だからってこんなに贅沢をして良いのでしょうか?
ユーリ陛下はちょっぴり気になってしまいます。
「ねぇねぇコンラッド、おればっかしこんなにステキなお風呂に入っちゃって良いのかな?」
「何を仰います。魔王陛下なのですからこのくらいの贅沢は許されますよ。それに…こんなにちっちゃなお風呂なら、母上が使っておられる風呂の何千分の一にも満たないですよ?」
コンラートはくすくすと笑いながら、人差し指で掬った泡をユーリの首筋に押し当てます。今日の一押しお風呂は牛乳に泡立てた卵白のメレンゲを載せたものです。ヴァニラオイルも入っていますから、とっても甘い香りがします。
ただ、このまんま上がると凄い匂いになりそうなので、最後はさっぱりとした普通のお風呂に入ります。
泡を沢山つけたユーリをひょいっと指先で摘んでお皿に載せると、銀色のミルクピッチャーで掛け湯をしてあげました。
魔王陛下のドールハウスは広々とした魔王陛下居室…の、飴色をした猫足テーブルの上に置かれておりますから、コンラートが椅子に腰掛けますと、丁度良い位置で陛下のお世話をすることが出来ます。
コンラートは軍服の上着を脱いで白いシャツを肘まで捲っておりますので、いつもよりずっとラフな格好に見えます。でも、そんな格好をしていても尚、今日はとっても暑いですから、幾らコンラートでも汗を掻いているのではないでしょうか?
「ねぇねぇコンラッド、コンラッドも一緒に入れたらいいのにねぇ」
「ふふ、俺が入ったらカップが割れてしまいますよ?」
「じゃあ、俺がおっきいお風呂に入るよ!」
「ですが…溺れてしまいそうで怖いですね」
「コンラッドは心配性だなぁ」
ユーリはぷくっとほっぺを膨らませました。
コンラッドはとってもやさしいのですが、その分ちょっと過保護すぎるのです。
「ねぇねぇ、入りたい。入りたいったら入りたいっ!」
「う〜ん…どうしてそんなに入りたいんですか?」
「だって、ヨザがコンラッドと一緒にお風呂に入った事を自慢するんだもん。そういうのって、友達の証明みたいじゃない?」
「そうですかねぇ…?」
ぱしゃぱしゃと湯を跳ねさせて主張するユーリに、コンラートは小首を傾げました。
「あと、友達はおしっこの飛ばしっことかするんでしょう?それもやってみたーい」
「いや…その……。お風呂で止めときましょうよ…」
「おしっこはだめ?雨上がりの晴れた日に崖っぷちからやると、虹が見えるよって教えてもらったのに…」
「出来ませんよっ!そんなので虹見てもしょうがないしっ!」
ユーリが素直なのをいいことに、あの男は一体何を教えているのでしょう?
一度きっちり締めておかなくてはなりませんね。
「あとねぇ、おちんちんからおしっこじゃない白いのを飛ばし合いすることもあるってホント?」
「それは嘘です。信じちゃいけません」
決めました。
ユーリが寝付いたらあの男を始末します。
「う〜…じゃあ、お風呂もウソなの?ヨザはおれをだましたの?」
うるりと涙目になったユーリはとても可愛いですが、同時に可哀想でなりません。
「そ…それは嘘じゃないですよ?後のも…その……嘘っていうのは語弊がありましたね。俺はあいつとやってませんけど、ちょっと下品な友達同士ではやる者もいるようです」
「品がないの?」
「ええ、とっても。ですから、一人前の王様や騎士がやることではないのですよ?」
「そっか!じゃあおれやらないっ!良い王様になれなくなっちゃうもんね?」
にこにこ顔が戻ったユーリをカップごと持ち上げると、水面が揺れないようにそっと持ち上げて湯殿に運びました。魔王陛下専用の湯船にユーリが漬かることはありませんでしたが、時々ツェツィーリエが入るので毎日夕刻になると湯は満たされているのです。
ユーリにとっては湖みたいに大きな湯船にやってきますと、《入りたい》と言った癖にちょこっとユーリはもじもじしてしまいます。やっぱり、いきなり脚が全然届かないところに入るのは怖かったのです。
「コンラッド…つかまってても良い?」
「良いですとも。どうぞ俺の掌の中にいてください」
初めて目にするコンラートの裸身はとても引き締まっていて、たくさんの傷がありましたがそれすらも素敵に見えました。それに、傷がないところの肌はとってもすべすべで如何にも《王子様》なのですよ?
皆さんに見せて差し上げられないのが申し訳ないくらいです。
「えへへぇ…おれたち、いっしょにお風呂に入ってるんだね!」
「ええ、そうですね」
「これでともだちかぶがまた上がったのかな?」
わくわくとして待ちますが、なかなかユーリは大きくはなりませんでした。
「おかしいなぁ…またコンラッドの愛で大きくなるって思ったのにな?」
「まあ、良いじゃありませんか…ゆっくり大きくなったら良いんですよ」
「それもそうだね、こんなに気持ちが良いんだもの…ゆっくりもったり、お風呂を楽しまないとねぇ…」
ちょっと大きな湯船になれてきたユーリは、思い切ってコンラートの掌から泳ぎだしてみました。
とはいえ、外洋(?)に出るのは心配ですから、湯船に漬かったコンラートの胸目がけて犬かきで進んでいるんですけどね?
「むむむ…つ、ついたーっ!」
「あはは…くすぐったいですよ、ユーリ」
頑張って泳いで辿り着いた胸にタッチしますと、それは丁度コンラートの乳首でした。
淡い鳶色をした突起は、他の所よりもくすぐったいものなのでしょうか?またコンラートの掌に支えて貰ってからぷにぷにと自分のを押してみますがよく分かりません。コンラートよりも淡いピンク色をしたちっちゃな粒は、やわらかい乳輪ごとぷっくらと膨らんでおりますので、押すとふにふにしてマシュマロみたいです。
でも、別にくすぐったいほどではありませんでした。
「そんなにくすぐったい?」
「ええ、自分にされると平気だけど、人にされるとくすぐったいのかも…」
そういって、何気なくコンラートの指がユーリの胸の桜粒をつくんと突きました。
その途端…
「…ゃあんっ!」
ユーリは弾かれたように甘い声を上げて叫びました。
コンラートの指が触れたところから胸がじんじんして…鼓動がばくばくと跳ねたのです。
「わぁ…わ…っ…」
「ゆ…ユーリ!?」
女の子みたいに両腕で胸を隠して、ユーリはおずおずとコンラートを見上げますと…目があった途端に顔が真っ赤になりました。
その瞬間です。
むくむくむくっ!
ユーリは目に見えて大きくなったのでした。
こんなに大きくなったのでは、コンラートの胸ポケットに入るのはギリギリでしょう。
「お…おっきくなったけど…今のって、何の愛?」
「え…?そ…それは……………」
思いがけず発生した《愛欲》らしきものに、コンラートはすっかりドギマギしてしまいました。
おやおや、二人は一体どうしてしまったのでしょう?
次回のお話しでまたユーリは別の愛を知って大きくなるのでしょうか?
それは誰も知らないことです。
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