「お伽噺を君に」
第8話









 有利の魔力を別人格として独立させるという方法に、コンラートも最初は反対した。その人格が有利本来の人格を歪めるのではないかと恐れたのだ。
 だが、最終的には有利に説得された。

『コンラッド、大丈夫だよ。だって、別人格って言ったって、やっぱりそれは俺自身でもあるんだもん』

 それは確かにそうだが、やはり不安はあった。
 コンラートは縁側に膝を突いたまま、蘆花に硬直の術を掛けられている訳でもないのに微動だにせず有利の反応を待った。

『ユーリは確かに相手の心に呼びかけ、応じさせる力を持っている。それがユーリ自身の中に内包されているものであれば、なおのこと可能性は高いが…』

 有利が僅かでも有利らしくない存在に変わってしまうことが、コンラートとしては恐ろしくて堪らなかった。

 しかも、この時ゾクリとするような感覚が背筋を襲った。
 この感覚には覚えがある。ちらりと視線を向けると、蘆花も何かを察知したようだった。

「うむ」

 蘆花はパチンと指を鳴らして拘束していた眼鏡三人組を開放すると、もう一度指を鳴らして有利を覚醒させようとした。だが、戻る気配もなく呆然としたままの有利に、蘆花の顔色が変わる。 

「…戻らん」
「…っ!」

 絶望がコンラートを貫く中、来訪者達は荒々しい襲撃を有利に加えようとしていた。
 死神のような雰囲気の鎌遣いが飛来して、有利に襲いかかろうとしたのである。

 ビュン…っ!
 ガ…っ!!

 6人の鎌遣い達がバラバラにふるった剣はしかし、蘆花とヴィクサムによって止められる。その殆どは、一瞬にして妖狐に戻った蘆花であった。巨大な尻尾を自在に操って鎌を叩き落とすと、剥き出した牙で次々に鎌遣い達の喉頸を噛み裂いていく。地獄の番犬ケルベロスもかくやという凄絶な戦いぶりは、敵に回せばこれほど恐ろしい者もおるまいと思わせた。

 キシャア……っ!

 野生を取り戻したように咆吼をあげて、蘆花は玩具でも散らかすようにして敵を粉砕していく。

 だが、見る間に鎌遣い達が全滅するのを待たず、次々に種別の異なる使い魔達が現れては攻撃を仕掛けてくる。敵も相当数の魔力を動員しているのか、初回の襲撃からは考えられないほどに矢継ぎ早の攻撃が繰り出される。
 正直、蘆花のもとにいる時を狙ってくれたことを感謝せずにはおられない。

 それに、蘆花の元で最初に遭遇した妖怪《綾珠》は新たな主人を護ろうというのか、すっぽりと有利を囲み込んでいる。どこまでの防衛力なのかは分からないが、その心意気こそを買いたいところだ。

『これならば凌げるか…!?』

 そう感じ始めたその時、雷光のような光が流れ星のように蘆花を貫いた。

「か…っ!?」  

 それは蘆花にとっても予測不可能な攻撃であったらしい。何故なら、光の方向は天上からではなく、地中から垂直に立ち上がっていったのである。そこまでの攻撃が全て高い位置からの襲撃であっただけに、いかな大妖怪といえど無意識のうちに誘導されてしまったに違いない。

「ロカ殿ーっ!!」

 《ごふ…》っと口角から血飛沫を上げたものの、蘆花は崩れはしなかった。四つ足を踏ん張ると、巨大な尻尾を振るって毛筋を天に跳ねさせ、針金のように硬化させたものを槍のように地中へと突き刺していく。

 ドドドド…っ!
 ドフ…っ!

 槍は命中こそしなかったものの、地中に潜んでいた敵を炙り出すのには役立ったようだ。土煙を上げて、一人の男が空中に飛来してくる。

 その男は残忍そうな笑みを浮かべて、《ふっ》と鋭く息を吹きかけてきた。

 その口元から飛び出した細かな棘のようなものが、一斉に村田へと襲いかかる。
 最も肉体的な動きが悪いことを見抜いた上での攻撃だろうと分かっていても、蘆花は庇わないわけにはいかなかった。村田個人に対しての庇護と言うよりは、友人であるボブへの義理立てなのかもしれない。

「…っ!」

 蘆花は毒針と思しき武器を尻尾で叩き落とそうとしたのだが、何本かが命中してしまったらしく、ぐらぐらと身体を揺らしたかと思うと、ズゥン…っと地響きを立てて横倒しになった。
 周囲には敵の残骸が幾つも落ちていたが、地中から現れた男は何の感情も浮かべずにそれらを踏み潰しながら蘆花へと近寄っていく。

「ふん…。所詮は獣か」

 語りかけてきた言語はドイツ語のようだったが、蘆花には意味が汲み取れたらしい。
 《ぐるぅ…っ!》と咽奥で激しく唸る蘆花にとって、《獣》という単語は何よりも屈辱的な言葉であったらしい。悔しげな声音に深い憎しみが籠もっていた。

 見下ろす男は浅黒い肌に短く刈り込んだ銀の短髪、純度の高いサファイアを填め込んだように蒼い瞳をしていた。野性味は強いが下卑たところはなく、顔立ち自体は見惚れるほどに美しい。

 だが、おそらくはこの男こそがゲルトと呼ばれる《クリスタル・ナハト》の首領なのだろう。他を圧するような威迫には何とも言えない邪悪さがあり、見ているだけで脳をザラザラと刺激されるような不快感があった。

 ゲルトは視線も動かさずに手首の動きだけで暗器をふるうと、同じく隠し持っていた短剣を投げようとしていたヴィクサムの右肩を射抜く。

「くぅ…っ!」

 見る間に鮮血が迸り、ヴィクサムの濡れた白衣を鮮紅色に染めあげていく。

「あはは…お前、ヴィクサム・ベルドゥースだろう?ボブの奴を凌いで魔王を狙っていると聞いたが。やっぱり駄目だなぁ…弱すぎる」

 今度は流暢な英語を用いている。人を馬鹿にする為に覚えたのかと思うくらいに、侮蔑の言葉はするするとゲルトの口から出てきた。

「ぁ…ぐっ!」

 痛みを堪えて長剣を構えたヴィクサムの左手を、地中から長大な光の筋が射抜く。左手は甲を貫かれた上に蛋白変成を起こしているのか、大地と繋ぎ合わされたまま動かすことが出来ないようだ。

「がぁ…っ!」
「あの珠の中に隠れてる奴と番(つが)うつもりだったんだって?だから駄目なんだよなぁ。利口なつもりで誰かを利用しようとしても、結局、自分に力がなくちゃどうにもならないんだ」

 くつくつと咽奥で嗤って、ゲルトと思しき男は綾珠に近寄っていく。
 ヒュン…っと手を軽くふるっただけで見事に両断された綾布の中から、ころんとまろび出るようにして呆然とした有利が出てくる。一瞬遅れて聞こえた悲鳴は、綾珠のものであったのかも知れない。

「なるほどな、俺でさえ見惚れるほどの美貌だ。開発してやればさぞかし艶やかに乱れるだろう」

 感嘆したように吐息を漏らし、生々しく紅い舌で唇を舐めると、ゲルトは愉しそうに嗤ってヴィクサムを一瞥した。

「ふふふ…折角だ。お前の目の前でこいつをボロボロになるまで犯してやろう。そうすれば、死ぬまでの間にお前が如何に甘い男だったか、十分に反省できるはずだ。次の転生の時に活用できると良いなあ…その知識」

 うっすらと瞳を開けているものの、何も目にしていない有利の首をゲルトの手が掴み、更にもう一方の手で襟元を掴むと、まるで紙細工の出来が気にくわなかった子どものような無造作な動作で、一気に引き裂いてしまう。陽光を浴びて白い肌が露出している様子が、酷く生々しかった。それはこれからその肌が、何をされるのかどうしても予感させられるからだろう。

「よせ…っ!その子に手を出すな…っ!」
「有利に何をしやがる…っ!」
「渋谷…っ!」

 絶叫するヴィクサム、勝利、村田の足下でまた光の筋が立つかに思われたその時、一瞬の隙を突いて攻撃を仕掛けた者がいた。

 怒りに身を震わせ、今か今かとその時を雌伏して待っていたあの男が《ここしかない》という一瞬に全てを賭けたのである。

 使い込まれた鎧には獅子章が刻まれ、戦場で幾多の敵を打ち倒した長刀もかつての姿を蘇らせる。何より、その甲冑を纏う男こそは《ルッテンベルクの獅子》と謳われた英雄、ウェラー卿コンラートその人である。

 真っ正面という思わぬ方向からの攻撃を受けたゲルトは、小さな銀細工の騎士が存在することなど気付いていなかったのだろう。例え気付いていたとしても、極めて無力な存在としか認識していなかったに違いない。

 その驕りを砕くように、コンラートは神速の剣でゲルトの心臓を刺し貫いた。

 ド…っ!
 
 鋭い突きがゲルトの胸骨左際に、肋骨と肋骨の間をすり抜けて見事に貫通する。覚えたかったわけではないが、気が付けば正確に会得してしまった人の殺し方だ。

「…っ!?」

 人であれば、間違いなく死んでいる。
 いや、魔族であってもそうだったろう。

 だが、ゲルトは魔族の中でも特段に魔力が強いのと同時に、極めて慎重な性格であったらしい。コンラートは自分の剣がゲルトの体内で砕かれたのを感知した。突然の攻撃にも対応できるように、体内に何らかの仕掛けが為されていたのか…!

「…っ!」

 ブン…っ!とゲルトの手から出現した斧が空を切る。咄嗟の判断で退かなければ、具現化したコンラートは瞬時に破砕されていたに違いない。
 
 まさに一瞬の判断で生死が決まる、恐るべきレベルの鬩ぎ合いであった。

『それにしても…何という魔力なのだ!?』

 地球における魔族の生態についてコンラートはそう詳しく知っているわけではないが、この男の力は異常としか言いようがない。純粋に魔力という意味だけで言えば、ボブよりも遙かに強い力を持っているに違いない。
 魔族は魔力の強さによって老化の速度も変わってくるが、要素の少ない地球でこれだけの若さを百年以上保っているのであれば、やはり桁違いの実力といえるだろう。

「お前、こいつの魂を運んだとかいう眞魔国の民か」
「…そうだ」
「ふぅん…俺としたことが油断したな」

 ごふりと血反吐をはくゲルトは、やはりダメージ自体は喰らっているらしい。だが、コンラートが安心など出来る筈もないほどに、その表情には余裕があった。身に纏う黒衣に赤黒く伝っていく血は見る間に止まり、引き裂かれた胸の布地の隙間からは、ゴボゴボと肉芽組織が盛り上がって再生していく。

『ああ、くそ…っ!』

 あと一息で、完全に殺せるはずだった。いつものコンラートなら心臓を貫くだけでなく、一撃目が外れた時の為に、返す刀の勢いを殺さぬまま首を落としていた筈なのだ。先程のタイミングならばそれが出来たし、幾らなんでも首と胴を切り離せば再生も出来なかったろう。
 だが、具現化した時に行使できる力には限りがあり、最初の一撃に賭けるほか無かった。

 具現化を維持することも難しくなり、コンラートは口惜しさに歯がみしながらも、ぽむんっ!と小さな銀細工人形の姿に戻ると、這うようにして有利に近づいていく。

 どんなに卑怯な手を使ってでも、絶対有利には手出しをさせない。
 その為ならば騎士の誇りも何もかも捨てて良いと思えた。そんなものでは引き替えに出来ないくらいに大切な人なのだ。

 恥辱に歯がみしながら懇願しようとしたコンラートを、ゲルトは分厚い靴底でぐしゃりと踏みつけた。瓦礫を踏んでも大丈夫なように金属板でも入っているのか、やたらと硬い。

「見たところ、お前が先程のような姿になれるのは短時間だけのようだな」
「…く…っ」
「しかもお前、気付いていないだろう?その力は有限のものだ。その人形には強い魔石が埋め込まれているようだが、幾度か使ったせいで消耗しているからな。使用頻度が限界を超えれば、そうやって人形の姿で動くことも出来なくなるぞ」
「…っ!」

 単なる脅しではないだろう。その可能性は十分にあるし、そもそも、そのような脅しでどうにかしなくてはならないほど、今のコンラートの存在は脅威ではないはずだ。

「ははは。無力って嫌だなぁ。見苦しくって、自分に嫌気が差すだろう?死にたいだろう?でも、手伝ってはやらないぞ。お前はそうやって這い蹲りながら、主が汚されていくのを見ているが良い」

 その慢心を、いつか必ず砕いてやる。
 
『死にたいなんて、絶対に思うものか…!』

 自ら死ぬなど、逃げ以外のなにものでもない。
 どんなに見苦しくても無様でも、生きて生きて生き抜いて、最後は必ず立ち上がって見せる。
 それが有利から学んだ生き方だ。

 有利は昔からあまり器用な方ではなかった。眞王のシールドのせいもあったのかもしれないが、集団の中で注目されることはなく、大好きな野球にしても勉強にしても、何かと恥ずかしい目に遭う事も多かった。

 それでも有利は誰かを恨んだり、諦めきって《死にたい》と願うことは無かった。
 《きっとこれって、いつかおれの糧になる》そう信じて地道な練習を続ける有利は、コンラートにとってはどんなに素晴らしい選手や優秀な生徒よりも輝いていた。

 コンラートは力尽きたように見せかけて、泥だらけの身体を大地に平伏した。必ず機会を伺って、寝首を掻いてやると心に誓いながら。



*  *  * 




「…?」

 ゲルトの腕の中で、無力なはずの少年がぴくりと動いた。

 異世界から送り込まれた魂は確かに凄まじい潜在能力を有しているらしく、ゲルトが百年以上の人生の中で感知してきた中でも、最も強い部類に入るだろう。だが、持ち主の渋谷有利とやらは綺麗なだけの人形だ。同じ人形なら、ゲルトに致命傷を与えかけた銀細工の方が余程興味深いと思っていたのだが、そいつを無造作な所作で足蹴にした途端、少年の中で何かが動き始めた。

「生意気に、抵抗する気か?」

 嘲笑しながら伸ばした手で喉を掴み、屠殺される豚のような悲鳴を上げさせてやろうと思った。
 ところが…どうしたものか、手は寸前のところで止まってしまう。
 ゲルトともあろう者が、有利から放たれる威迫に押されていたのだ。

「…我が忠実なる騎士を足蹴にし、愉快な崇拝者どもを血染めにするその所行…もはや許し難し…っ!」

 えらく古式ゆかしき口調で語られたのは、眞魔国の言葉だった。

「なんだ、お前…?」

 整えたように細いゲルトの眉がぴくりと跳ねる。有利から放たれる声の調子が、予想していたものとあまりにも懸け離れていたからだ。
 心なしか若武者風の顔立ちをした少年は、鋭い眼差しに怒りを込めてゲルトを一瞥した。

「止むおえん。お主を、斬る…っ!」
「はっ!やれるものならやってみるが良い…っ!」

 何だかよく分からないが、強い敵ならば打ち砕くまで。多少の違和感など後で解決すればいいことだ。
 この辺りの思考法は、長年に渡ってマフィア達と丁々発止の遣り取りをしてきた男らしい。すぐに気持ちを切り替えると、後は純粋に戦闘態勢に入った。

 ところが、今回の相手は色々と珍妙なタイプであるらしい。
 堂々たる態度で《お主を斬る》と宣言したくせに、近くにあった滝から水龍を引き寄せると、そいつをゲルトに向かわせておいて、自分は銀細工人形や瀕死の妖狐にヴィクサム、綾布の妖怪達の治癒を始めたのである。

「お主ら、苦労を掛けたな。もう暫く我慢するのだぞ?今お粥が…出来たわけではないが、ひとまず癒しておいてやろう」
「おい…っ!俺の相手をするんじゃないのか?」
「喧しいっ!後でしてやるから、今はそこで水龍と遊んでおるがいい!俺はいま白衣の魔王様として多忙中につき、手出し無用だ!」

 ちなみに、着ている服は別にナース服ではない。
 ゲルトのせいでビリビリに引き裂かれた蒼いTシャツとハーフパンツ姿だ。あられもない姿のわりに全く恥じらう気配がないので、そういうデザインの服なのではないかと思いかねない。(←ビジュアル系?)

「やなこった!俺は無視をされるのが一番嫌いなんだっ!」
「何という我が儘者だ!そんなことでは公園デビューはままならんぞ?」
「馬鹿だろうお前!?」

 客観的に言えば、ゲルトの意見に賛同する者が多そうな気がする。
 無茶ぶりをするボケ芸人がいると、突っ込み芸人がまともな人に見えるというあの現象だろうか?

「ああ、くそっ!苛々するっ!」
「ああ、《30を越えた頃からかなぁ?》というアレか?所謂一つの更年期障害だな」

 なんでそういう知識だけはちゃんとあるのか。

「誰が…っ!」

 真顔で返す有利にゲルトの苛立ちが絶頂に達すると、西洋的な形態をした炎の竜が、三爪の東洋龍に巻き付いてぎりぎりと締め上げていった。

「あ、コラっ!貴様、癇癪持ちだと通信簿に書かれていた口だな?」

 今時そんなことをストレートに書けば、PTAが黙っていないだろう。
 どうやら有利の別人格は、昭和一桁生まれ並の感覚であるらしい。

「これ以上訳の分からんことを言うなら、その口を水平に切り裂いてやる!」
「ふむ。平家物語でそういうくだりがあったな。そこな銀細工の我が臣下が、語ってくれたことがあったぞ」

 楽しそうな思い出話をしているところにゲルトが突っ込んでくると、その顔に目がけて石礫が打ち付けられる。
 ゲルトが有利に気を取られているうちに、コンラートがその辺に転がっていた革と木の棒を組み合わせて投石を行ったのだ。

「…貴様っ!」

 今度はコンラートの方に気を取られたゲルトの側方から、怒濤の勢いで水が吹き寄せてくる。まるで重力の方向を違えた大滝のようだ。勿論、使い手は若武者風の有利である。

「な…っ!」
「吹っ飛べ、癇癪持ちよ…っ!!」
「ぐあぁあ……っ!!」

 水の勢いに圧倒されたゲルトが言葉通りに吹き飛ぶと、庭にごろりと転がっていた大岩に全身を打ち付けられる。

「ぐ…っ!」

 さしものゲルトも息を詰めて苦鳴を上げた。さきほどコンラートの一撃を受けた痛手が残っていたせいか、あるいは組織の挫滅には弱いのか、大地に叩きつけられると暫くは立ち上がれないほどに弱っていた。

「立ち去るがよい、下郎よ」
「…殺さないのは、辱めの為か?」
「馬鹿者っ!」

 ばばん…っ!と歌舞伎の大見得のような構えを見せて、有利は右腕を勢い良く前方に付きだした。

「殺すだ死ぬだ斬ったはったはは勢いだけでいう言葉!実際にやってしまったら洒落にならぬわっ!!」
「…その余裕、必ず後悔させてやるぞ!」
「うむ。忘れなければ覚えておいてやろう!!」

 ゲルトは鋭い舌打ちを残して、錐揉み状に旋回すると地中に身を隠してしまった。
 
「これにて、一件落着…っ!」

 再び有利は右腕を前方に翳してポーズを決めたが、《ドドン!》と心理的な音響が響いた直後、そのままバタリと垂直に倒れてしまった。





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