〜先生と俺の日常生活シリーズ〜
「夏の君もぴかぴか★」



18.暑くて食欲が湧きません【微エロ】

  

 ぐ…っと喉奥がつかえる。
 普段はぱくぱくと食べられるウィンナーが、どうしてだか脂の味をしつこく感じる。
 健康優良児の有利としては珍しい症状だ。

「…残して良い?後で食べるから、ラップ掛けて冷蔵庫に入れておくね」
「珍しいね」
「夏バテかなぁ…」

 確かに今日は記録的な暑さで、昼食を食べている今も風のない蒸し暑さが食欲を削いでいる。

「コンラッドももう良いの?」
「うん、俺も食欲がないな…」

 そう言うと、かたりと箸をテーブルに置く。
 皿に載せられた食べ物はサラダだけが減って、ウィンナーやフライは囓った様子もない。

 そういえば、コンラートは有利がこのマンションに来てからずっと食欲がない様子だった。
 《論文が忙しいときは食欲が湧かないんだ》と言っていたけれど、ひょっとして有利の好みに合わせて冷房をつけていないせいではないだろうか?

「あのさ…コンラッド、冷房つけても良い?」
「良いけど…ユーリは嫌いじゃなかっけ?」
「最近、好きになったんだ」
「そう?」

 くすりと微笑むと、コンラートは冷房を掛ける。
 久し振りにつけたから最初は機械音のわりに熱風しか来なかったけれど、その内ひんやりとした空気が室内を満たし始めた。

「んー…気持ちいい」
「おやすみモードにして、少し昼寝でもする?夜…眠れなかったろ?」
「…うん」

 返答が少し遅れたのは、昨夜のことを思い出していたからだ。

 コンラートが、有利の想いを認めてくれた。
 二人は、まだキスしかしていないけれど…《恋人》というカテゴリーに配せられる関係になったのだ。

 それが嬉しいのも勿論だったのだが、実のところ…盛り上がりかけていた下半身を押さえ込まなくてはならなかったから、別の意味でも眠れなかったのだ。

 少量とはいえ食べてすぐ寝るのには抵抗があったけれど、大きなソファに肌触りの良いタオルケットを敷かれると、冷気に包まれていることもあって横になるととろとろとした眠気が押し寄せてくる。

「ねむ…」
「30分くらいしたら起こしてあげるから、ゆっくりお休み」

 やさしく髪を撫でつけてからコンラートが去ろうとするから、反射的にシャツを掴んでしまった。

「なに?」
「コンラッドも…昼寝しよう?あんただって寝てないだろ?」
「うーん…そこで一緒に?」

 困ったように小首を傾げるから、狡いと分かっていても仔猫みたいな甘えた声を出してしまう。

「恋人らしいこと、ちょっとはしたいよ…」
「ユーリ…」

 コンラートは口元を覆うと、くらりと眩暈でもしたみたいに目線を泳がせた。
 ちょっとずつ分かってきたのだが…コンラートはこういう直球のおねだりに滅法弱いのだ。

「添い寝するだけだよ?」
「うん」

 半ば眠りかけているせいか呂律が回らぬ舌で答えると、コンラートにするりと腕を回して一緒に横たわる。
 冷房はお休みモードのわりによく効いているみたいで、寒くてタオルケットと一緒にコンラートを更に手繰り寄せていった。

「あんた、良いにおい…」

 くんかくんかと鼻面をすり寄せれば、コンラートもお返しとばかりに鼻を利かせる。

「ユーリも良い匂い。ああ…困ったな。食べてしまいそうだ…」
「食べて良いのに」
「駄目だよ。我慢するって約束したばかりだからね」
「絶対内緒にするから、食べて…?」
「この誘惑猫…」

 甘えた声を出して擦り寄れば、コンラートの長い指で鼻先を摘まれてしまう。

「痛い…」
「こんなに一生懸命我慢してるのに、誘うようなこと言うからだ」
「だって俺は我慢するの苦手なんだもん。あんたと違って、俺は欲しいものはすぐに欲しいの。現代っ子だからね!」
「全く…困った子だ」

 苦笑しながらも、コンラートは有利がとろとろになるようなキスをしてくれた。
 身体が熱くなってしまうから困るのだけど、それでも粘膜を触れあわせる情熱的なキスは嬉しくて、ごろごろと喉を鳴らすようにして溺れてしまう。

 その内、とろりと意識が溶けたように眠りに就いてしまったのを、目覚めてから知る事になる。



*  *  *




「ホント…困った子だ」

 《はぁ》…っと息を吐いて、コンラートは魅惑的すぎる恋人にもう一度キスをする。
 あどけない寝顔を晒して眠る有利は子どもらしい健やかさを持っているのに、ぷくっとした唇を唾液で濡らす様は艶やかで…欲情を押さえきることが困難でならない。

 眠る有利の唇に触れたいのは、この唇だけではないのだと教えたら…真っ赤になって怒るだろうか?
 それとも…。

『《俺は平気!》…なんて言って、積極的にお口をあーんと開けそうだよなぁ…』

 想像してみて、くらりと眩暈を感じる。
 妄想だけで達しそうになったのは少年の頃以来だ。

 こんなに可愛すぎる恋人を、あと2年半も我慢しなくてはならないなんて、ちょっとした拷問だと思う。

 けれど…それでも、この子が無防備に腕の中に収まってくれる事実は、コンラートに至福の喜びを与えてもくれるのだ。

『可愛い可愛いユーリ…約束を守るから、この我慢を無駄にしないでね?』

 お預けを喰らうだけ喰らっておいて《やっぱり女の子を好きになりました》等と言われたら、どういう行動に出てしまうのか自分でも分からない。

 《性犯罪なんて可愛いもんでした》というような大罪を犯さないよう、どうか約束を守って欲しい。

 眠る有利の舌に名残惜しげに自分のそれを絡ませながら、コンラートは《目覚めないでね》と祈りつつ、自分の欲望を処理するのだった。



* どういう処理法だったかは聞かないで下さい。 *
 

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