〜先生と俺の日常生活シリーズ〜
「夏の君もぴかぴか★」
17.寝苦しい夜の過ごし方【微エロ】
リィン…リリ…
リリリリ…リィイン…
秋だと寂しげに感じる虫の音も、何故だか7月頃には賑やかに聞こえるのはどうしてだろう?
仲良しの友達や恋人と楽しく語り合っているように思えてならない。
『眠れない…』
ちょっと前まではコンラートと引っ付いて寝ていたから、互いに暑かったはずなのだけど…どうしてだかとてもよく眠れた。
けれど、今は別々の布団に転がっているから、虫の音さえも羨ましく思えてしまう。
別々に寝ることになったのは、勿論コンラートが想いを明かしたことで一次的接触を避けているせいだ。
更には、有利の方もコンラートに対するもやもやした欲望がどういう形を為しているのか、その外形が見え始めたことで戸惑ってもいる。
『キスマーク付けたのが俺だって、バレバレだったよな?』
立場が逆だったら絶対に気付かなかったと思うのだが、そこはコンラートの方が経験値が豊富なのだろう。あっさりばれてしまった。
『コンラッド…どう思ったのかな?』
少なくとも、嫌悪感は示していなかったように思う。
寧ろ、《おかしくてたまらない》という顔をして吹き出すのを押さえているように見えた。
『コンラッドは俺にああいうコトしたくなったりしないのかな?』
もしかすると、笑ってしまうくらい幼い行為だったのだろうか?
突き上げる熱情のままに肌へ所有の痕を刻むことは、有利としては物凄く《大人の世界》に所属することだと思っていたのだが、もっと凄いことがあるのだろうか?
『知りたいな…』
そうしたら、もっともっと奥深くまでコンラートの事が分かるのだろうか?
有利のことも知って貰えるのだろうか?
「眠れない?」
「…っ!」
ごそ…っと身動ぐと、コンラートの方から声を掛けてきた。
思わずびくりと震えたものの、有利はおずおずと返事を寄越した。
「うん…。何か最近、寝苦しいんだ…」
「そう。蚊に食われるからかな?」
くすくすと含むような笑いが少々かちんとくる。
有利としてはいっぱいいっぱいの行為だったのに、そんな風にいつまでもからかうことはないではないか。
だから、有利はちょっと挑戦してみたくなった。
き…っと上目づかいにコンラートを睨み付けると、挑むような口調で告げた。
「ううん…あんたを食いたくなっちゃうからだよ」
「…っ!」
これは流石に効いたらしい。
さしものコンラートも言葉を失って、布団の上に半身を起こして有利を見つめる。
宵闇の中でひかる琥珀色の瞳には驚愕の色が差し、形の良い唇は物言いたげに淡く開かれていた。
あの唇が、アイスに濡れた有利にキスをした。
その事を思い出すと、カ…っと身体の芯が熱を持つようだった。
「……俺、コンラッドのこと好きだよ。前は…一緒にいるだけで嬉しかったけど、今は…なんか苦しいくらい、あんたをもっと欲しいと思ってる」
「ユーリ…?」
「ねぇ…これでもコンラッドが俺を想ってるのと違う?あんたは俺を欲しくない?」
狂おしいほどの声が喉奥から絞り出されれば、コンラートの方も眉根を寄せた。
「…欲しいに、決まってる…っ…」
つい先程まで大人の余裕に満ちていた瞳に、焦燥が滲む。
思いがけず吐露された熱情に触発されそうになるのを、懸命に押し殺しているようだ。
「でも、駄目だ…」
「どうして?俺が大人になるまで、待たなくちゃ駄目なの?」
「そうだよ…。こうして密接な空気を共有して、特別な時間を過ごしていることがユーリの感情を一時的に昂揚させているだけかも知れないだろう?学校が始まって、また友達と普段の暮らしを始めたら…」
それ以上は言わせなかった。
飛びかかるようにしてコンラートに抱きつくと、荒っぽい仕草でその綺麗な唇に自分のそれを押しつける。
カチ…っと前歯がぶつかってしまったけど、構わずに唇をぎゅうぅ…っと押しつけたら、涙が目元に滲んだ。
だって、悔しかったのだ。
こんなに大好きなのに…コンラートだって好きだと言ってくれるのに、有利の気持ちは《単なる思いこみ》で済まされてしまうなんて冗談じゃないと思ったのだ。
「好き…大好きだよ…。信じてよ…っ!」
啜り泣くようにして首筋に顔を埋めれば、押し殺したような息がコンラートの唇から漏れ…そっと触れるようなキスが頬や額、髪の毛に降り注がれる。
「ゴメンね…俺は、きっと…ユーリを信じ切れないと言うより、期待しすぎて自分が傷つくのが怖いんだ」
「期待してよ…信じてよ…!あんたが信じてくれたら、俺…なんでもできるよ?」
「うん…うん……ユーリ。ありがとう…」
ぽろぽろと涙が零れていくのが情けない。
男らしくコンラートに関係を迫ろうと思ったのに、これでは駄々っ子みたいだ。
けれど、コンラートに気持ちが伝わらなかったわけではないようだ。
「ユーリを好きだと言いながら、からかうみたいな言い方をしたり、気持ちを試すようなことばかりしてたね。ゴメン、ユーリ…」
「あやまんなくて良い…俺だって一緒だもん」
考えても見れば、裸にタオルを巻いただけの姿でコンラートの前に現れたのは、自分からは何も言わずに想いを確認しようとした狡い行為だった。
きっと、コンラートが言うように自分はなるべく恥ずかしい思いをせずに、傷つかないように…相手の思いを先に知りたいと思ったのだ。
でも、そんなのもういい。
どんなにみっともなくても良いから、有利はこの人が欲しいのだ。
「大好き…。これって、きっと…あ、愛してるっていうのと一緒だよ?」
《好き》は言えても《愛》というのはなかなか恥ずかしくて口に出せない。
けれど、精一杯の想いを伝えるとしたら、やはりこの言葉なのだと思う。
「愛してるよ、ユーリ…。俺も…ずっと、君だけを想ってる…」
「コンラッド…」
静かに囁きかけるコンラートに唇を寄せれば、彼もまた堪えきれなくなったみたいに唇を重ねてくる。
するりと忍び込んできた舌は、まるで独立した生き物みたいに縦横無尽な動きを見せて有利を翻弄すると、息が荒く乱れるまで…水音が淫らに響くまで続けられた。
「…っ!」
不意に、身動いだ二人の身体が交差するように押しつけられて、互いの熱情を知った。
有利はもっと欲しくて仔犬みたいに性急な動きでそこを押しつけたのだけど、コンラートは意志の力で押さえ込むみたいに唇を離すと、熱を持つ部分をずらした。
「コンラッド…!」
「駄目…。ここまでだよ」
苦しそうな声と表情だったけど、その瞳には決意が込められていた。
自分も有利も誤魔化すことのない眼差しに、有利はもどかしい熱情を少し冷却することが出来た。
「ユーリを信じる。だから…ユーリが高校を卒業するまで、キス以上のことはしない」
「卒業したら…してくれる?」
「必ず」
《ユーリがその時、気が変わっていなければね》…等と、からかうように条件を付けたりはしなかった。
コンラートは、心を決めてくれたのだ。
有利の心もまた変わらないだろう事を、信じることを。
それが嬉しくて…飛び上がって踊り出したいような気分だった。
「誓うよ。この魂にかけて」
「俺も、誓うよ!絶対、あんた以外に目移りしたりしないからな!絶対絶対約束だよ?」
「うん…約束だ」
にっこりと微笑んで、厳かなキスが額に寄せられる。
それは、先程まで交わしていた情熱的なキスとは違っていたけれど、皮膚に触れた箇所から…じぃんと染み入るように想いが伝わるようなキスだった。
「エッチなことしなくても、俺達…恋人って言って良いんだよね?」
「二人きりの時にはね」
「えへへ…」
『父さん、母さん、俺…恋人が出来ました』
『紹介するのはまだ先のことだけど…その時、腰を抜かさないで下さい』
母親はともかくとして、父と兄は無理だろうな…。
そんなことを思いつつ、有利はコンラートをもう一度強く抱きしめた。
* ラブカポー成立。でも、卒業まで2年半の我慢大会開始です(笑) *
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