〜先生と俺の日常生活シリーズ〜
「夏の君もぴかぴか★」

有利視点


15.じりじり。ちりちり。いらいら。

  


「よお、渋谷じゃん!」
「あれ?木村、豊中、ひっさしぶり!」

 バッティングセンターを出ようとしたら、中学時代の友人にばったり会った。
 二人とも野球部員で、有利が3年の時に監督を殴って退部した時には随分と心配を掛けてしまったし、慰めてもくれた良い連中だ。

懐かしさに歓声を上げながら駆け寄ると、向こうも親しげに肩を抱いてきた。

「どうよ、まだ野球やってんの?」
「俺は草野球チーム作ったんだ、そっちは?」
「俺たちは学校の部活だよ。ま、弱いとこだけどさ。先輩もわりといい人多いし」
「へぇ〜。そういや、お前らと仲良かった小波は?」
「ああ、あいつは河岸変えてサッカーやってんだよ」
「えーっ!あいつ一番上手かったのに、勿体ないなぁ…」

 賑やかに会話を交わしていたら、すっかりコンラートを置き去りにしていた。
 だが、向こうは大人だ。にっこりと優しそうに微笑んでこちらの動向を見守っていてくれる。

『ゴメンね?』

 盛り上がっている会話をなかなか断ち切れなくて、目で詫びを送ると鷹揚に頷き返してくれた。
 しかし、友人達はすっかり懐かしさがこみあげているのか、更に誘いかけてきた。

「なあ、渋谷一人?」
「だったら俺たちとこれからカラオケでもいかねぇ?」
「あ…えと、今日は連れがいるんだ」

 懐かしい顔ぶれと会話はしたかったが、コンラートを置いてはいけない。

「あの人…コンラッドっていうんだ」
「え?あのすげぇ格好良い外人さん?お前、英語とかしゃべれたっけ?」
「コンラッドはドイツ人だよ。それに、日本語凄く上手いんだ。うちの学校の先生なんだけど、もともと幼馴染みだったから仲良くしてもらってんの」
「なるほどなー。でもさ、休みに先生と一緒ってのもどうなの?」
「凄いノリが良くて、良い人なんだよ」

 手短にコンラートとの関係を説明すると、屈託のない友人達は親しげにコンラートへと声を掛けていった。

「こんちはーす!渋谷がお世話になってます」
「こちらこそ、ユーリが仲良くして貰ってたみたいだね。ありがとう」

 なんだろう…友人達とコンラートの間に、今…《じりじり》っとしたものを感じた様な…。
 気のせいだろうか?



*   *   *




『なんだこの人?』

 木村は間近に寄ると更に長身なコンラートに、初対面にもかかわらず妙な引っかかりを感じた。

 確かに高校に入ってから有利とは連絡を取り合っていなかったが、コンラートの言い方はどこか…短い語句の中に、《お友達》であったことが過去形になってるとか、《俺のユーリ》というあからさまな独占欲を感じるのだ。

「ええと…コンラッドさん?」
「コンラート・ウェラーっていうんだ。よろしくね」
「はあ…」

 《コンラッド》とは呼ぶなと言う意味か?
 有利にだけ認めさせた呼び名なんだと言われているようで、頭の後ろが《ちりちり》とする。

「コンラートさん…あの、俺たち渋谷とこれからカラオケでも行って、昔話に花を咲かせたりしたいんだけど…いいですか?」
「ああ、良いよ」

『あれ?意外と物わかりは良い…?』

 そんな風に思ったのは一瞬のことだった。

「奢るよ。この隣のカラオケで良いかな?つまみとかも充実してるし」

『一緒に行く気かあんたーっ!?』

 激しく《いらいら》っとしてしまう。
《空気読め》と言ってやりたくて有利に視線を送るが、当人はほっとしたように笑顔を浮かべていた。

「そーしよっか!えへへ〜。コンラッドありがとうね!木村、豊中、行こうぜ!」
「お…おう……」

 無邪気な笑顔が相変わらず可愛い友人に、それ以上何も言うことは出来ず…木村はせめて自慢の喉を見せてやろうとカラオケに乗り込んでいった。

 …が、それを遙かに突き抜ける勢いで、コンラートは美声の持ち主であった。
 麗しすぎる低音で謳い上げるバラードはよりにもよって木村の十八番であり…唇を噛みしめたまま気まずいひとときを過ごしたのであった。



* 大人げないコンラート先生。バラードは有利に向けて謳いました。 *


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