〜先生と俺の日常生活シリーズ〜
「夏の君もぴかぴか★」
有利視点
14.どこへ行っても混んでいるので
「うっわ…凄い列!」
高校生と非常勤講師のメリットを生かして平日に遊園地へと出かけたのだが、あまりの行列にいきなり怯んでしまった。
どうやらその遊園地の設立何十周年記念とやらで各種のイベントや限定販売物があるらしく、日本全国から学生を中心とした来客が詰めかけているらしい。
「やっぱ止めとこっか?」
「俺はいいけど…ユーリは平気?」
「うん、無茶苦茶遊園地好きって訳でもないしね」
コンラートと一緒に居られれば大抵のことが楽しい有利としては、街をぶらぶらしているだけでも別に構わないのだ。
けれど…昼時に狙っていたラーメン屋に行っても、やはり大行列が出来ていた。普段の3〜4倍はあろうかと思われる長い列に、地元民としては回避を試みたくなる。
「ちぇ…。やっぱ夏休みってどこ行っても込んでるなー」
「しょうがないよ」
それでも、今日は一日遊ぶつもりでいたから真っ直ぐ帰るのも癪で、どうしようかとナップザックの中に入れていた情報誌を見たりする。
しかし、ふとラーメン屋の列を見ると何人かが同じ情報誌を持っていた。
「うーん…こういうのに載ってるってことは、込むって事だよね」
「この情報を頼りに動けば、自ずとそうなるね」
「くっそー…俺、絶対デートコースの準備とか出来そうにないや」
口走っておいて、不意に唇を閉じてしまう。
今まではこういう会話だと決まって《コンラッドは良いよな、経験豊富だから詳しそうで》なんて繋げていたものだが、今は何となく気まずい。
《デート》が誰を相手に設定したものかで話題の流れが変わってくるからだ。
今までは漠然と同じ年頃の女の子が好むような所をデートコースと呼んでいたのだが、コンラート相手だとどうなるのだろうか?
コンラートの方はどう思っているのか、苦笑しながら有利に誘いかけてきた。
「俺の設定したデートコース、行ってみる?」
「う…うん!」
こくこくと頷いて、一も二もなく同意した。
* * *
カキーンっ!
「うぉ…っ!凄い、コンラッド、またホームランかよ!」
「まだまだ…!」
時速150qの速球を軽々とホームランゾーンに運んでしまう腕前は、非常勤講師にしておくには勿体ないくらいだ。
コンラートが選んだデートコースは、思いっきり有利設定だった。
そう、バッティングセンターだったのである。
それなりに人はいるが大行列が出来ると言うこともなく、適度なざわめきの中で思いっきりバットを振るのはやはり楽しい。
有利ばかりが楽しかったら悪いなと思ったけれど、コンラートも満更でもない様子で打ち込んでいるから、どんどん気兼ねはなくなっていった。
思う存分打ち込んだ後、有利は満足しきってベンチに腰を下ろした。
「あ〜…打った打ったぁ…」
「はい、水分取っておこうね」
コンラートは汗を掻いた有利の頬に好みの銘柄のスポーツドリンクを押し当てると、更に濡らしたフェイスタオルを掛けてくれた。この辺りの配慮は流石である。
「気持ちいい〜っ!コンラッド、ありがとうね」
「どういたしまして、俺も楽しかったよ」
「本当?」
どうやら本当らしい。
淡く汗を掻いて、シャツの襟元を緩める仕草は爽やかで、頬には心地よさそうな笑みが浮かんでいる。
こういうデートコースを本気で楽しんでくれる女の子は滅多にいないだろうし、そもそも、きっと気を使ってしまってこんなには楽しめない。
『あ〜…やっぱさ、コンラッドが一番大好きだな…俺』
野球繋がりで決めてしまってはいけないのかも知れないが、それでもコンラートと一緒にいる時が一番楽しくて嬉しいのは間違いないのだからどうにも出来ない。
一生一緒にいたい人なんて、少なくとも今現在はコンラート以外考えられないのだから。
『早く大きくなりたいなぁ…』
この人を、《欲しい》と大きな声で言える年に、早くなりたい。
この人が、有利を欲しいと言っても捕まらない年になりたい。
切ない思いを抱えつつ、有利はこくりと冷えたスポーツドリンクを飲み下した。
* 未成年の悩み。 *
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