〜先生と俺の日常生活シリーズ〜
「夏の君もぴかぴか★」
有利視点
12.裸でウロウロ
『あ…っ!』
頭が真っ白になった。
考え事をしながらお風呂に入ったら、有利はここがコンラートの家なのだと言うことをすっかり失念していたようだ。
渋谷家には脱衣所に壁付けの細長いタンスが置かれていて、そこにお風呂用品や着替え、タオルなどがコンパクトに収納されている。だから、有利はいつも着の身着のまま浴室に向かうのだ。
その習慣が身に付いていたせいか、何も考えずに同じ行動を取ったら…新しく着る服を脱衣場に持ってくるのを失念していた。
せめて入浴前に着ていた服でもあれば良かったのだが、日射病の影響もすっかり無くなったものだから、今日は朝から力一杯走り込みをしてしまい、汗をたっぷりと吸ったTシャツとハーフパンツ、下着はまるっと洗濯機に入れた。
洗濯は数少ない有利に可能な家事なので、頼んでやらせて貰っているものだから、条件反射のように脱衣籠にあったものは全てぶち込んでしまったのである。
ごうんごうんと勢いよく回っている洗濯機から衣服を回収しても、しっとり濡れ濡れで廊下を歩くという事態に陥ってしまうだろう。
明らかに不審だ。
これが、コンラートの想いを聞く前であれば羞恥は感じてもそこまで気配りはせずに、腰にタオルを一枚巻いて《見苦しくてゴメン》等と言いながら服を取りに行けたと思う。
または、着替え自体を取りに行って貰うとか。
『い…今それやったら、意味とか色々考えられちゃうかな?』
《俺を食べて★》的な何かをコンラートが感じたりするだろうか!?
…と考えてみて、ふと思う。
『じゃあ…むしろやった方が良いのか?』
有利は相変わらずコンラートに自分の思いをどう伝えて良いかよく分からずにいるが、そもそも、あまり頭が良くない男が思考をこねくり返してみたところで良い案など浮かぼう筈もないのだ。
それくらいなら、いっそのこと身体でぶつかっていった方が良いのではないだろうか?
『いや…でも、朝っぱらからそれはどーなの?コンラッド、引かないかな!?』
『いやいや…思い立ったが吉日って言うし!』
5分程度、真っ裸で自問自答していたのだが…結局有利が出した結論は、《当たって砕けろ》だった。
* * *
どき…っと胸の中で鼓動が跳ねた。
『ユーリ…どういう格好で……』
どうしたものか、有利は腰にタオルを一枚巻いただけの姿でぽてぽてとコンラートの方向に歩いてくる。
野球をしているから夏の日差しに顔と項、手の甲などは灼けているものの、対照的に胸や腿は透き通るような白を呈していて、胸に咲いた桜粒は可憐な淡紅色である。
微かに残る水気が濡れた白桃の風情を漂わせて、思わずむしゃぶりつきたくなるような艶があった。
「……シャワー、浴びたの?」
「うん、ランニングで汗かいたから…」
こくっと頷く有利はそのまま冷蔵庫に向かい、《牛乳貰うね?》と一言掛けると透明なコップに注いだそれを腰に手を置き背を反らせ、男前な仕草で一気飲みしていった。
ご…ご…っと、男の子にしては細い喉が鳴り、白い液体を飲み干していく。
反らした頚は伸びやかに瑞々しく、思わず触れたくなるような質感を湛えていて…コンラートの喉もごくりと鳴る。
『そんなに艶やかな姿で、見せつけるみたいにウロチョロしないで欲しいな…』
コンラートという男に自制心が乏しければ、即座に押し倒してあの布きれを剥いでしまうところだ。
無邪気なのは良いが、こんなに警戒心がないことでこの子はやっていけるのだろうか?
甚だ不安だ。
唇についた白い液体をぺろりと舐める舌は健康的に紅くて、以前誘惑されるままにキスをしたことが思い出される。
あの時も…何の気なしにアイスを舐めしゃぶる姿に、コンラートは欲情を堪えきることが出来なかったのだ。
『こちらが大人なんだから、耐えなくては……』
なるべく冷静なふりを装って、コンラートは麦茶を口にする。
そんなコンラートを、有利はまたじぃ…っと見た。
「……どうしたの?ユーリ」
「………俺、色気ない?」
「………………は?……」
「キス以上のこと、したくなんなかった?」
「え?……誘ってたの?」
いつものように無意識でやっているものとばかり思っていたコンラートは、少々調子はずれの声で呟いてしまう。
途端に有利の頬は真っ赤に染まり、ぷいっとそっぽを向くと全力で走りだした。
「ユーリ…!」
「もーいいっ!」
バターン!…と激しく音を立ててキッチンの扉が閉められる。
さて、機嫌を損ねてしまったらしいお姫様にどう声を掛ければいいだろうか?
* 有利君、気合いが空回り *
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