〜先生と俺の日常生活シリーズ〜
「夏の君もぴかぴか★」

コンラート視点

1.薄着にドキッ





「コンラッド、暑い〜…」
「そりゃあシブヤ君、夏だからね。あと、まだ学校にいるんだから先生だよ?」
「ふぁいー…」

『そんなに可愛く唇を尖らせないでくれないかな…』

 コンラートは表情一つ変えないものの、脳内では少々腐った思考を展開していた。
 暑さで脳が沸いているのか、生来のものなのかは自分でも不分明である。

「暑いー…」

 確かに教材準備室には昼過ぎから耐え難いほどの熱気が漂っており、うだるような暑さで肌にはシャツが張り付いてくる。

 ここは冷房なんて気の利いたものがない貧乏高校である。
 だからと言うわけではないが、2学期制なんてものを取り入れることもなく、昔と同じく1学期終業式は夏休み前に行われる。

 非常勤教師のコンラートは本来、授業がない日には講師料が支払われないので出勤する必要はないのだが…連休を前にして、夏休みの中程に行われる研究学会の為の資料を纏めるために、終業式が終わってからずっと国語準備室に籠もっている。
 一人で帰りたくなかった有利は、コンラートのデスク横でもちもちと夏休みの宿題をやりながら待っていた。

 コンラート・ウェラーはドイツ出身で、28歳になる美麗な青年だ。
 大学まではドイツにいたのだが、専攻していた日本古文の研究に熱を入れるあまり、日本で就職することになった変わり種である。
 
 有利は極々平凡な高校生…と、本人は主張しているし一見すると確かにそう見えてしまうかも知れない。
 だが、ふとした瞬間に視線を捕らえられると…心ごと捕らえられてしまう者はじつは多いのではないか…と、少なくともコンラートは懸念している。

 癖のないさらさらした黒髪が汗ばむ額に張り付いているのを無意識に指で払うと、形良い額の感触とか…目を仔猫のように細めている有利に、ドキン…っと鼓動が跳ねるのだった。

 伏せられた睫は長く、まだ15歳のあどけない顔立ちはおにぎりにして転がしたいような可愛さだ(具は鮭だ。なんとなく)。

『それでも、昔に比べれば大きくなった…』



 10年ほど昔、ドイツに住んでいた渋谷家とコンラートは面識があり、ちいさい有利とも仲良く遊んでいたものである。別れの日には目に一杯涙を溜めて縋り付いてきた有利に、《このまま離さずに浚ってしまおうか…》などという衝動が過ぎったものだ。
 ちなみに…有利が5歳でコンラートが18歳の時のことであり、実行していれば間違いなく異国で公職になど就けていなかったことだろう。 

ちなみに、初めて会ったときの有利は母親の趣味で愛らしいエプロンドレスに身を包んでいたものだから、コンラートはそれまであまり好きではなかった源氏物語の研究に没頭したことがある。
 幼妻を育てる《光源氏計画》を本気で計画しようと思ったのだ。

 その後、《実は男の子らしい》と分かってからも《今まで見たどんな女の子より可愛い》と思い続けてしまった自分に一番吃驚した。



「コンラッド…もー我慢できない……。脱いでも良い?」
「……我慢できない?」

 その結果、コンラートが《我慢できない》事になりそうなのだが…暑がりな有利は確かに限界に近いらしい。 

「…良いよ。帰るときにちゃんと着たらね」
「やった!」

 有利はいそいそと制服の白いシャツを脱ぐと、コンラートに宛われた細いロッカーからハンガーを取りだして掛けてしまう。
 すると、先程からシャツ越しに透けて見えていた青いタンクトップ姿になる。

「んはー…涼しい〜…」
「脱いだ最初だけだよ?」

 何でもないことのように苦笑できる自分に我ながら感心する。
 《俺はむっつりスケベなのかも知れない》とは、有利のことを好きになってから抱き続けている疑惑なのだが、目線もこれまで《いやらしい》と言われたことはないので、ちゃんとポーカーフェイスを保てているらしい。

 全く…《目の毒》としか言いようのない光景だ。
 視力を下げる目薬が欲しいくらいである。

 良く日に焼けた首筋と、ユニフォームの下に隠れてしまう(有利は草野球チームのキャプテンなのだ)部分との白さの対比が目に眩しい。特に、身を屈ませてこちらを見たりするのは本当に勘弁して貰いたい。時折…しゃがんだ拍子にタンクトップと胸の間が透いて見え、男の子の筈の有利の胸の谷間にときめいたりしてしまうのだ。

 向こうもコンラートに押し倒して貰いたくて誘惑しているというのなら話は別だが、絶対にそんなはずはないだろう。

『自制心…後、何年もつかなぁ…?』

 その前に、有利に彼女が出来た場合怒り出さずにいられるか…邪魔をしに行かずにおれるかが心配でしょうがないコンラートであった…。

「ねぇコンラッド…」

 甘えたような鼻声にときめいているくせに、PC画面に没頭したふりで意識を逸らそうとする。

「なんだい?」
「あのさ…ズボンも脱いで良い?」
「流石に自由すぎだよ、シブヤ君」

『君は俺を萌え殺すつもりか?』

 コンラートは愛しい高校生に軽く殺意を覚えた。



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* 突然始まりましたBL学園話…。最初は白鷺線の延長としてやろうと思ったのですが、あちらは既に夏前から夏の終わりまでの話をしてしまっているので諦めて、初めてのお話しにしてみました。「学校モノ」「告白前」スキーとしては書いてて激しく楽しいです。次男が情けないほどにクルクル回りそうですが、呆れずに見守って下さい。 *