「夢幻軌道」
第3話
「それで、コンラートは見事に呪われた双黒を討ち、救国の英雄として世界から喝采を浴びたのか?」
グウェンダルは彼らしくもなく気が逸る様子でわくわくと身を乗り出し、淡く頬を紅潮させて瞳を輝かせた。その様子はまるで、英雄歎の続きをせがむ男の子のようだ。
「……それは…ですね…………」
急にオードイルが言い淀み、視線が明後日の方を向いてしまう。先程まであれほど熱く語っていたというのに、どうしたことだろう?
「どうしたのだ、オードイル殿。そのように焦らさず、話を続けてはくれないか?」
「そうだ。中途半端に止めるな!」
ヴォルフラムまでが一緒になって、焦らしプレイ(?)に非難を投げかける。実は熱心に聞き惚れていたのか。
「先程申し上げたように、コンラート閣下はそれはそれはグウェンダル閣下の行為に感動しておられました。必ず命じられたとおりにしようと、困難を極める探索の旅を経て、双黒の君に相まみえたのです。それは、真実です。ええ…」
真実なら、どうしてそんなに言いにくそうにしているのか。
不審に思ったグウェンダルが睨むような眼差しを送ると、オードイルは言いにくそうに口を開いた。
「結論から申しますと、コンラート閣下は双黒の君の首級をあげることはできませんでした。葛藤の末、生きたまま眞魔国に連れ帰る事を選択されたのです」
「…なに!?」
言いにくいわけだ。
あれほど《いい話》的な展開で盛り上げておいて、それはないだろう。おかげで、こっそり感動しかけていたヴォルフラムも《騙された!》と言う顔をして激高している。
「コンラートが裏切ったというのか!?」
「違います。避けきれぬ偶然も大きく関与しておりますし、なにより…双黒の君は、斬り殺してしまうにはあまりにも清廉な方でした。遠い国から突然、右も左も分からぬうちにサマナ樹海に放り出され、怪物スクルゥーに丸飲みにされるところだったそうです。咄嗟に、コンラート閣下はスクルゥーを斬り殺された…丸飲みにされては、証拠となる首を持ち帰る事ができなくなるからです」
「ふむ…それはそうか」
確かに、《双黒は化け物に丸飲みにされました》等と言っても通るものではあるまい。虚偽を口にして身の安寧を測ろうとしているか、最悪の場合は、双黒を発見したことを秘密にして匿い、機を見て利用しようとしているのではないかと疑われるのがオチだ。
「この時、コンラート閣下に救われた双黒の君は深い感謝を示され、言葉も通じぬ土地で、コンラート閣下だけが唯一人頼れる存在だとお感じになられ…懐に収まった小鳥のように懐いてしまわれたのです。一心に感謝の言葉を繰り返し、愛らしいお顔で《だいすき》という想いをつたえてくるのですよ?コンラート閣下に、そういう存在を斬れるとお思いですか?」
「……………無理、だな…」
「そうね、無理だわねぇ…」
「ぐぬぅ…コンラートの奴」
オードイルの苦笑混じりの言葉に、家族は三者三様の反応を返した。
グウェンダルは困ったように、ツェツィーリエはころころと笑って、ヴォルフラムは呆れたように頬を膨らませて…。
「それに、コンラート閣下の決断は結局、世界を救う事になったのです。斬り殺されることなくコンラート閣下に護られた双黒の君こそ、後に眞魔国第27代魔王シブヤ・ユーリ陛下となられる方であり、4つの《禁忌の箱》を全て昇華した上に、世界中に平和をもたらした奇跡の王であらせられるのですから」
咄嗟に、声が出なかった。
あまりにも突飛すぎるその発言をどう捉えて良いのか分からないまま、ゴトン…と馬車は停まった。
* * *
オードイルと懇意にしている領主は聖都の人間ではなかった。この土地は聖都とシマロンの境にあるのだという。オードイルが手短に話してくれたところによると、現在のシマロンはアルティマート・サーティガル・バンドッグという3つの国に分裂し、広い意味では同盟関係を保っているものの、どれが上位ということはないのだという。それぞれに独立国の体を採っているのだ。
ここは分裂当初には《大シマロン北朝》と呼ばれていたアルティマート国の一地方で、領主の名はフォスター・コーネルという。彼は信用のおける男だそうだが、オードイルは混乱を避ける為にグウェンダル達を《遊びに来た眞魔国の貴族》という形で紹介してくれた。
民間企業と提携して、地方の伝令機関も務めている館には多くの白鳩・赤鳩が飼われていたから、その中でも《紅い閃光》と呼ばれて、他の赤鳩の3倍の飛行速度を誇る優れた鳩に、状況を記載した手紙を託して血盟城へと飛ばした。
そして昼食(グウェンダル達にとっては夕食?)を振る舞われた後、来賓室を借りて説明が再開された。
* * *
「コンラート閣下の名誉の為に念を押しておきますが、グウェンダル閣下の命に背くことに対して、強い葛藤を感じられたそうです。それこそ、血を吐くような思いで、二律背反する命題の狭間で苦しまれたのだと…」
「そう…だろうな……」
何度踏み躙られても、コンラートは極めて恩義に厚い精神を護り続けていた。その彼が、我が身を賭して自由を与えたグウェンダルの命に、そう簡単に背けたとは思えない。
「帯同していたグリエ・ヨザックも非常に強い葛藤の中で呻吟していたそうですが、最終的にはユーリ陛下を護ったまま、カロリア自治区のギルビット国際港から海路眞魔国を目指すところまで来ました。しかし、そこでも不測の事態が起こってしまった…当時の小シマロンが企てた恐るべき人体実験、ウルヴァルト卿エリオル閣下を鍵として用いた、《地の果て》開放実験に巻き込まれ、エリオル閣下を護るべく、半ば開放された箱の前に出て行かれたのです」
この時コンラートはユーリやグリエ・ヨザックと共に《地球》と呼ばれる国に運ばれたのだという。そこはユーリの生まれ故郷であり、眞王とは異なる価値観を持つに至った双黒の大賢者が、ユーリの身を護るべるく召還する際に、コンラートとヨザックがついていってしまったという流れであったらしい。
その後、眞魔国では激論がかわされたという。
双黒と共に《禁忌の箱》を開くはずだったコンラートが、何故か開放され掛けた《地の果て》を逆に封じてしまった事によって、初めて《アルザス・フェスタリアの予見が誤っていたのではないか》という疑惑が浮上したのだ。
こうなるとグウェンダルも黙ってはおれず、能動的に北の塔を出て眞魔国へと運ばれてきた《地の果て》を検分することで情報を得ようとした。
「しかし結果的には、この判断は危うく世界を滅ぼすところでした」
「…鍵が、私だったのか?」
「そうです。おそらく、僅かでも時節がずれていたら世界は崩壊の危機に瀕していた事でしょう。ですが、《地の果て》が激しく鳴動してグウェンダル閣下を捕らえ、箱の中に引きずり込もうとしたまさにその時、奇跡のようにコンラート閣下と、ユーリ陛下がお戻りになったのです」
「帰ってきたのか…」
ユーリの生まれ故郷である場所ならば、何の遠慮もなく愛を育み、護られたことだろう。けれども、コンラートは危険な眞魔国に帰る事を選択したのだ。
『あの子らしい…』
自らはどんなに傷つけられ、裏切られたとしても、なんと誠実に恩義を守り抜く男なのだろうか?切ないほどに真摯なあの性格が、愛おしくもあり心配でもあった。
「ええ、地球で閣下の身が鍵である可能性を示唆されたとき、コンラート閣下はなんとしても眞魔国に戻らねばならぬと決意されました。同時に、深い愛で結ばれたユーリ陛下も、グウェンダル閣下をお守りし、全ての《禁忌の箱》を廃棄すべく眞魔国にお戻りになったのです」
オードイルはそこで息をつき、しみじみと噛みしめるようにこう言った。
「そして見事、《地の果て》は昇華されました」
《廃棄》と《昇華》…敢えて使い分けられた語句に、グウェンダルは軽い引っかかりを感じていた。
「昇華…と言ったが、それは《地の果て》を打ち砕いたという意味ではないのだろうか?」
「少し違うそうです。私も人間ゆえ、詳しい機序は分からないのですが…双黒の大賢者たる猊下が仰るには、昇華とは、力に力で対抗するのではなく、そもそも原始的な要素の塊であった荒ぶる創主に呼びかけ、本来あるべき自由な姿にすることなのだそうです。私も、アリスティア公国の《鏡の水底》が昇華される際に居合わせましたが、それはそれは美しい情景でした。魔力を持たぬ私にも、水が大気に柔らかく溶けていく様を感じ取る事が出来ましたから…」
そう言われて、グウェンダルには得心いくところがあった。
こちらの世界に来てからずっと感じ続けていた事なのだが、ここは人間の土地であるにもかかわらず、何故か刺々しい雰囲気を感じないのだ。眞王が結んだ古(いにしえ)の契約の範疇には無いにも関わらず、この地の大気は自由な息吹を感じさせ、悠々として流れゆく。
それは、ユーリ陛下という奇跡の存在がもたらしたものなのだろうか?
しかも双黒の大賢者とは…かつて4000年の昔に存在した天才軍師の守護を受けているのか。
「《地の果て》を完全に昇華させた後、コンラート閣下とグウェンダル閣下は互いの思いを確認しあい、改めて深い愛情を結ばれたそうです」
「………」
きらきらと輝く瞳でオードイルに言われると、グウェンダルは真っ直ぐに前を向けない。《深い愛情》を結び合う自分たちの姿を想像すると、顔がにやけてしょうがないのである。
「…それで、その時…僕はどうしたのだろうか?」
ぽつん…とヴォルフラムが問いかけると、またオードイルの表情が言いにくそうな顔になってしまう。
「ヴォルフラム閣下は…最初の内は、当主であられたヴァルトラーナ閣下の意図に従っておられたそうです」
「それはつまり、コンラートとは対立する陣営にあった…と、いうことか」
「はい」
オードイルが頷くと、ヴォルフラムの眼差しが揺れた。
『この子は、やはりどのように口にはしていても、コンラートを想っているのだな…』
グウェンダル以上に不器用な末弟は、おそらくコンラートに強い思慕を抱いている。一体何がきっかけであったのかは不明だが、少なくとも、伯父であるヴァルトラーナに何事か吹き込まれて、コンラートと袂を分かったのは確かだ。
その立ち位置が、コンラートが反逆者ではないと証明されてからも続いていたのかと思うと、兄として忸怩たるものを感じる。
「それで、コンラートとユーリ陛下は眞魔国に祝福を受けながら迎えられたのか?」
「いいえ、王都に戻られたコンラート閣下は、そこでまた大きな難関に出くわします」
…一体どれだけ難関があるのか。
我が弟ながら、不憫でならない。
「シュトッフェルがまた奸計を巡らせたのか?」
「いえ、眞王廟からの通達で、ユーリ陛下の肉体を眞王陛下の《器》として差し出すよう求められたのです。元々、そうするべく数千年の時間を掛けて魂を熟成してきたのだと。ユーリ陛下の肉体と魔力はそのまま眞王陛下のものとなり、ユーリ陛下本来の精神は意識の奥深くに封印される筈だったと伺っております」
「それでは、殆ど死ぬ事と一緒ではなくて!?」
「全く、その通りかと思われます」
ツェツィーリエはまた慄然として口元を押さえ、グウェンダルは苦虫を噛みつぶしたような顔になる。なるほど…ここまでの経緯で言えば、それは十分にあり得る事であった。眞王陛下は治世当時、《禁忌の箱》を完全に始末できなかった。本人にとってもその事は相当な心残りであったろう。だからこそ、長い年月を掛けて特殊な方法で強力な魔力を持つ《器》を完成させたのだ。
『よりにもよって、眞王陛下の《器》となるべく生まれた娘と恋に落ちたのか…』
この時、グウェンダルの中に漠然とイメージされていたのは、《たおやかだが芯の強い、女神のような双黒の娘》というものであった。長く優雅な黒髪を靡かせ、漆黒の瞳でコンラートに微笑みかける美女は、並べばさぞかし麗しい恋人同士に見えるだろう。
だからこそ、彼女から独自の精神を失わせ他人の為の肉の器として使うなど、コンラートには耐え難い苦痛であった筈だ。それが実現していたならば、コンラートはどれほど宮廷内で栄達を極めたとしても、仕えるべき主君が人格を失った恋人だという現実に苦悩したに違いない。最も残虐な形で、生きながらにして心臓を引き裂かれるようなものだ。
眞魔国への忠誠心と愛の狭間で桎梏を受けたコンラートは、あるいはそのまま発狂していたか、はたまた自決の道を選んだのではないかと、身の毛もよだつような想像が脳裏を過ぎる。
「オードイル殿。私は、その時どのような反応をしたのだろうか?」
怖い。
本当は、聞くのがとても怖い。
十貴族会議の決定に逆らったと言うだけでも、これまでグウェンダルが培ってきた精神土壌から言えば、およそ考えもつかないことであった。そこにもってきて、魔族にとって心の拠り所とも言える眞王が、《禁忌の箱》を真の意味で滅ぼし、眞魔国を救う為に《器》が必要なのだと要求してきたのであれば、幾らなんでも反対はし切れないだろうと思ったのだ。
『私はおそらく、コンラートの恋を認めなかったはずだ』
執着心の薄いあの子が唯一人、何もかも捨ててしまってさえも《欲しい》と熱望した娘を、きっと生け贄のように差し出す事に同意したに違いない。その後どのような経緯を経て二人が結ばれたにしても、グウェンダルとの関係は再び複雑なものになったのだろう。
しかし、オードイルは鮮やかな笑顔を浮かべてこう告げた。
「グウェンダル閣下は、断固としてユーリ陛下が《器》とされることに反対なさいました」
「…なにっ!?」
全くもって思いも寄らなかった発言に、グウェンダルは二十数年後の自分が劇的な変化を遂げている事を知った。
「ユーリ陛下が自ら望んで危険に身を投じ、眞魔国の危機を救おうとされた恩義を強く主張され、ユーリ陛下の精神が封じられてしまう事を頑として拒否されたのです」
「そんな馬鹿な…!し、眞王陛下の命ということは、拒否しようのない勅令ではないか!?兄上が、勅令に逆らうなど考えられない…!」
がしゃんと荒々しい音を立てて、ヴォルフラムが茶器をテーブルに叩きつけると、オードイルは苦笑に似た表情を浮かべて頷いた。
「ヴォルフラム閣下は、確かに仰る通りの思考展開をされたようですよ?少なくとも、全く同意の主張をされた伯父上に、反対はされなかったと聞いております」
「…それは、そうだろう…眞魔国の民として、当然のことだ」
《当然》とは言いつつも、ヴォルフラムは苛立たしそうに指を噛んでいる。頑是無い子どものような所作に、オードイルは困ったような表情を浮かべた。
「ヴァルトラーナ閣下は、そもそも眞王陛下の勅令である以上、審議する必要もないことだと主張されました。けれど、眞王廟から来られた巫女のウルリーケ殿が、《選択権はある》と言われたので、審議は再開されたそうです。その席で、グウェンダル閣下は何としてもユーリ陛下を御守りしようと尽力されたそうです」
「……」
オードイルは続けて、会議の席で起こった劇的な状況変化について語ってくれた。ツェツィーリエが初めて、現実を見据えた発言をしたこと、そもそもの元凶であったアルザス・フェスタリアが土下座までして謝罪し、ユーリの精神を護って欲しいと訴えた事…。
そして、そもそも眞王が大貴族達に二択を迫った事自体が、新たな時代の到来を占うべく仕掛けた試練であった事が明らかにされた。
結局、ユーリは王太子という身分となって、《禁忌の箱》の完全な昇華を進めていく過程で、信じられないほど人間世界との宥和を果たしたことも語られた。
「大陸で《風の終わり》と《鏡の水底》を昇華された後、ユーリ陛下は《凍土の劫火》に関する古文献を探す為に一度眞魔国に帰られました。この時、コンラート閣下はヴォルフラム閣下とも関係改善をされたそうです」
「…っ!僕たちの間に、何があったのだ!?」
ヴォルフラムは《信じられない》、《嬉しい》という両面の気持ちが混在しているのか、声を上擦らせてオードイルに問う。
「具体的に何があったのかは、実は教えていただいたことはないのでお伝えできませんが、コンラート閣下はそれはそれは喜んでおられて、《あの子にヴォルフと呼んでも、怒らなくなったんだよ》と言っておられました」
『たったそれだけで嬉しかったのか、コンラート』
決して豪奢な宝物や、きらびやかな勲章など望んでいるわけではない。そんな小さな望みで、十分に充足できる子なのだ。そんなコンラートが幸せを掴めた事実が嬉しいのと同時に、一体どうしてそのような変化が起きたのか知りたい気持ちが高まってくる。
グウェンダルにしてもヴォルフラムにしても、コンラートを想っている事は間違いない事実だけれど、何か彼に対して具体的な行動を起こすに際して、きっかけがあったはずなのだ。
「鍵であったヴォルフラム閣下のご活躍もあり、ユーリ陛下は聖砂国から運び込まれた《凍土の劫火》を昇華させると、四つの《禁忌の箱》昇華を完了させ、全ての要素を自由な姿に戻されました」
「僕が…箱を」
《信じられない》という顔で呆然としているヴォルフラムに代わって、グウェンダルがオードイルに問いかけた。
「それで、流石にコンラートとユーリ陛下は平穏な生活に戻ったのか?」
《もしかして》という不安を感じつつ恐る恐る聞くと、オードイルは畏まった顔をして否定した。
「いや、それが…もう一山あったのです」
「まだあるのかっ!」
我が弟は、一体どれだけ変転とした生涯を送っているのか。
オードイルが言うには、コンラートはあくまで眞魔国軍人であるという肩書きは残したまま、《友邦国への派遣》という形で大シマロン北朝の警備部隊指揮官として活動したのだという。
『望めば、統一シマロンウェラー王朝を再興する事も出来たろうに』
実際、大シマロン北朝からは《そうするべきだ》と勧められてさえいたのだと言うが、それでもなお眞魔国の一軍人であろうとしたコンラートは、どれほど恵まれた立場になっても、何一つ変わらぬ《真》を持った男であったのだ。
『お前は何時だって名誉や栄達よりも、大切なものを護る為に生きてきたのだな』
改めて、コンラートの真価を感じ入るグウェンダルだった。同時に、そんな彼や現在の自分自身に会いたいという気持ちが高まってくる。特に後者と会っておくことで、元の世界に戻れたとき、コンラートに無用な苦労を掛けずに済むのではないかとも思った。
そうすれば、アルザス・フェスタリアの託宣によって名誉を剥奪される事もなく、正式な指令に基づいて、十一貴族の一翼を担う《フォンウェラー卿コンラート中将閣下》として精強な《ルッテンベルク軍》を率い、ユーリを尊貴たる双黒の君として眞魔国に迎え入れる事が出来る。そうすればコンラートは祝福に包まれながら麗しき魔王陛下を妻として、晴れ晴れとした暮らしを送れるに違いない。
誰にも、《世界を滅ぼす悪鬼》等と非難させるものか。
『何としてもこの情報を持って、元の世界に戻らねばならぬ!』
グウェンダルが未来を変えるのだ。
汚辱に満ちた世界で30年近くもコンラートに無駄な苦労などさせず、彼本来の能力と忠誠心に見合った祝福を与えるのだ。
『会いたい。早く…早く…!』
疼くような期待感に、グウェンダルは全身の肌泡立つのを感じた。
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