「今日から主役!」−7








 その後も撮影は順調に進んでいった。
 撮影の順序は季節やロケ地優先な為に、殆どの場合が話の順序通りでないことが多いのだが、それでも役者達の関係は次第に深まっていった。

 勿論、有利たちのように《物凄く深い関係》にまで到達した者はいないかも知れないが。

「ヴォルフ、そこのドライヤー取ってー」
「ああ、ほら」

 撮影初期であれば《何で僕がっ!》と憤激していただろうヴォルフラムとも、今では自然に物の貸し借りも出来るようになっていた。そもそも、自然の色濃いエリアでの撮影が続くと、ホテルではなくキャンピング機能を併せ持つ大型車両に何人かで乗り合わせることになるのだが、言ってみれば《同室》に近いこの関係を、ヴォルフラムの方から求めてきたのも意外だった。
 
『狙いがあるのかなー…とかも、思うんだけどさ』

 ヴォルフラムは兄であるコンラートに対して随分とツンケンした態度をとっているが、幼い頃には随分な《お兄ちゃんっ子》であったらしい。

 先日行った親睦バーベキュー大会でも思ったのだが、コンラートに声を掛けられると尻尾を膨らませるくせに、何かと視線はコンラートを追っている。
 
 幼馴染みであるヨザックが言うには、ヴォルフラムは全寮制のギムナジウムに入学した時期から様子がおかしくなったのだという。多感な少年期に伯父が理事を務めるギムナジウムで偏った価値観を吹き込まれた彼は、コンラートの父親が財産狙いの悪党であるかのように思いこまされてしまったらしい。伯父は直接コンラートを誹謗したりはしなかったらしいが、それでも変に潔癖な十代前半の時期というのは、《坊主憎けりゃ袈裟まで憎い》という感覚が顕著なのだろう。

 その時期につまらないことでコンラートに難癖をつけて大喧嘩(一方的に罵倒したらしい…)したせいで、コンラートは一族の集まりに何かと理由を付けては出席しなくなってしまった。

 しかし、十代も後半になってくると舞台に立つ機会も増え、異なる価値観の役者達との交流や、第三者から見たコンラート評など聞かされると、流石のヴォルフラムも自分の方が悪かったのではないかと気づき始めたらしい。

 かといって、今更謝るというのも時期を外しすぎているし、そもそもプライドが邪魔をして出来ない。それで余計に、顔を合わせるとハリネズミみたいに毛を逆立ててしまうのだろう。

 きっと、有利を介してコンラートと再び縁(えにし)を結びたいのではないだろうか?

「なあ、ヴォルフ。撮影が終わったら今夜、トランプでもしない?」
「いいぞ。ふふ…しかし良い度胸だ!ポーカーで僕に勝とうと思うなよ?」
「ヴォルフ、ポーカーフェイスとか出来るの?」
「出来るに決まってる!馬鹿にしているのか、このヘナチョコ主人公っ!!」
「痛ててっ!やめっ!ぐるじい…っ!!ギブギブっ!」

 きゅうーっと襟首を締めあげられてジタバタしていたら、丁度良いタイミングで扉が開かれる。

「どうかしたの?ユーリ」
「あーっ、コンラッドっ!あんたんトコの弟止めてよ〜っ!」
「おやおや…ヴォルフ、ユーリが苦しがっているよ?少し手加減してあげてね」
「……僕だって、ちゃんと加減は分かってる!」

 つんっとそっぽを向きながらも拘束は緩めてくれたので、息をついてからヴォルフラムの肩を抱いた。

「なあ、ヴォルフ。今夜のトランプなんだけど…」
「ああ!僕と二人っきりでするんだよな?」

 《ふふん》と勝ち誇ったように胸を張るから一体何の真似かと思ったら、何故かコンラートに向かって誇示しているらしい。彼もこれから誘おうと思っているのだから、別に何の自慢にもならないと思うのだが?

 しかし、そう訂正しようとしたところで背後からコンラートを呼ぶ声が聞こえてくる。少し惑うようではあったけれど、切羽詰まったような声でもう一度呼ばれると行かないわけにはいかないのか、ちらりとこちらに視線を送ってから声の方に向かっていく。

『あ…っ…』

 どうしてだか、コンラートの視線には不安が滲んでいた。

『まさか…ヴォルフと俺の仲とか、変に勘ぐったりしてないよな?』

 コンラートは大人だし、恋にも手慣れているからきっと有利が周囲の人々に対してどういう感情を持っているかくらい分かっているはずだ。
 ちょっと一声掛けて、《何でもないんだからな?》くらい言っておけば、きっと笑って《分かっているよ》と返してくれることだろう。

『そうだ、コンラッドの用事が終わったら速攻で声を掛けに行こう』

 勢いよく車両から飛び出していこうとするのだが、その肩をがっしりと掴まれてしまう。

「この馬鹿!そんな頭で撮影に臨む気か?役者失格だぞ!」
「あ…」

 そうだった。今日の撮影ではメイクさんが別の登場人物の特殊メイクに追われているから、自分で《旅疲れた様子》を演出しなくてはならないのだ。顔は少し汚すだけで良いが、髪は横合いからの風を受けた時に丁度顔を掠めていくようにブローしておかなくてはならない。

「ああ…もぅ…っ!」

 デート前に慌てる女の子の気持ちが今なら少し分かる。どうしてだか、この髪の毛というヤツは焦れば焦るほどキマらないのだ。
 結局、用意が出来て撮影現場に向かった時には、コンラートは別の場所に移動していた。



*  *  *




 そうこうしている間に、コンラートのドラマ収録が始まってしまった。
 ちょうどこちらのスケジュールの谷間を縫って、短期間オークランドに行くだけなのだが、飛行機で行けば1時間程度の距離とはいえ、何だか物凄く離れているような気がしてしまう。

『寂しい…』

 元々はコンラートが一人で使っていた部屋なのに、彼が居ないとなると急にがらんとした空虚な感じがする。電気を消してベッドに入っても、その感覚はあまり変わらなかった。やたらと布団の中でもぞもぞしてしまい、眠りが遠ざかっていく。

 村田は《その間だけでも僕といたら?》と勧めてくれたのだが、《どうせ短期間だから》と断ってしまった。

『ちょこっと、コンラッドのベッドに寝てみようか?』

 ふと思い立って隣のベッドに乗っかると、きちんと従業員の人がクリーニングやベッドメイキングをしてくれているはずなのに、何故か…ふわりとコンラートの香りがした。…ような気がする。

『コンラッド…』

 今頃、どうしているのだろう?撮影初日で顔合わせをした後、早速シーンを流したりしてみたのだろうか?その現場を想像してみたら、そういえばあのドラマの悪女役は、最近ニュージーランドで売り出し中の美人女優なのだと思い出す。普段は全くそんなニュースを気に留めたりしないのだが、テレビでコンラートの写真と並べて扱われていたから覚えていたのだ。

 まだ二十台前半というのだが、日本人の感覚からいくとかなり成熟した魅力があって、写真の中では扇情的なイブニングドレスを身につけていた。大きくカットされたデコルテも、スリットから覗いた脚も物凄く綺麗で、細いのに肉感的でもあった。

 あの脚をするりと伸ばして、跪くコンラートを嬲るシーンがある。

『うわ…』

 リアルに相手を設定して想像してみると、群雲のような感情が胸の中に沸きだしてくるのを感じた。コンラートと《恋人》なんてものになる切っ掛けとなったドラマではあるが、設定からいくとどうしてもやきもきするのを止められない。

 あの女優はコンラートにどういう感情を抱くだろうか?
 コンラートの方はどうだろう?

 もやもや…チクチク。

 考えたってしょうがないような話なのに、どうしても噴出してくる感情を抑えることが出来ない。おかげで眠れやしないが、村田が《どんなに眠れないと思っても、翌日営業があるときには絶対に起きてゲームとかせず、目を瞑っておくんだよ。それだけでも随分と翌日の身体が楽になるから》と言っていたのを思い出す。

 そうだ。有利はコンラートの恋人である前に、今は役者なのだ。どんなに半人前でも…いや、そうであるからこそ仕事を疎かにすることなどできない。
 
『眠るんだ…!』

 ぎゅ…っと瞼を閉じながら、《俺は役者だもん》と自分を鼓舞するうちに、脳の何処かで《ああ、これって役の中でも同じようなことを考えていたよな…》と思い出した。

 やはり半人前とはいえ一国の主を任された有利は、コンラートを追う為に行動することは出来なかった。それでも結果的には行く先々でコンラートと遭遇してしまい、もう自分のものではない大切な人に苛立ちと憎しみ…それでも失われることのない愛情を感じて、心が引き裂かれそうになるのだ。

 一度、コンラートに冷たくされる演技をされて実感したように思っていたが、改めてしみじみと感じてしまう。有利にとって、コンラートはなくてはならない人なのだ。

『でも…撮影って、あと数ヶ月だよな?』

 10ヶ月という撮影期間は半ば近くまでが過ぎ、季節は冬に移ろうとしている。次の春が終わる頃には、大規模な撮影はそれで終わりとなる。
 そこからCGなどの特殊効果を足したり、編集をしていく中でどうしてもしっくり来ないシーンの追加撮影は行われるが、かなり部分的なものだから必ずしもコンラートと会えるとは限らない。

 この映画の後も営々と役者としてのキャリアを積んでいくだろうコンラートと、芸人に戻っていく有利とでは生きる世界が変わっていく。勿論、約束をしてなるべく会おうとは思うけど、その度にちょっとした海外旅行並みの準備と資金が必要となるだろう。

 撮影期間中みたいにべったりと一緒にいられるのは、本当に貴重な時間なのだ。

『俺は…それを、大切に使っていたかな?』

 今になって思い出す。コンラートがどれほど心を尽くして有利に話しかけ、演技の面倒を見、優しくしてくれたのかを。愛の告白だって、勘違いして演技を始めてしまった有利の相手をした上で、気まずかったろうに改めて口にしてくれた。

『そういえば俺…告白返し、してないんじゃない!?』

 お試しセックスをした後に《恋人だろう?》なんて言いはしたけれど、恥ずかしくてずっと《好きだ》とか、ましてや、《愛してる》なんて口にしたことがない。コンラートはその間、不満や不安を感じたりはしなかったのだろうか?

 有利ときたらちゃんと口にしていない上に、ヴォルフラムとのことで変な行き違いまでしてしまったのだ。コンラートは嫌な気分で旅立ってやしないだろうか?

『ああ…ぐるぐるする…』

 硬く目を閉じてもコンラートの姿は浮かんできて、自然と溢れた涙が枕に滴っていく。映画の中での有利は公開処刑の時までコンラートを想って涙することはないけれど、きっとこうして一人横たわっているときには、思い出して滲むような涙を味わっていたのではないだろうか? 

 ごくごく当たり前のように存在していたコンラートが、どれほど得難い存在であったのかを思い出して、自分がそれに足る王だったろうかと考え始めたら、泣かずにはいられない。

 ましてや、《かならずしもあなたが最上の王というわけではない》なんて駄目出しを喰らった後なら、煮え立つような憎しみと共に、自分の至らなさに対する後悔と劣等感が込みあげてくるはずだ。

 劣等感…それは、ラストシーンでの創主も同様かもれない。

 圧倒的な力を持つかに見えた創主は、あくまでもコンラートの取り込みに腐心する。それは物理攻撃を防ぐ道具としてだけだったのだろうか?どこかで、この誠心の忠義を貫く男を自分のものにしたいという、創主自身の欲望があったのではないだろうか?

 けれど、コンラートは有利しか見ない。全てを委ねて封じられているかに見える有利へと懸命に呼びかける姿は、創主に激しい嫉妬をもたらすはずだ。

『今なら…分かる。創主の苛立ちが』

 先日やった演技では子どもの駄々っ子のようになってしまったが、今ならもう少しはまともな演技が出来るのではないだろうか?

『それを理解する為に、この悶々はあるんだと思おう…』

 これもまたコンラートのくれたものだ。
 甘いのも苦いのも辛いのも、きっと咀嚼していけば自分の力になる。

 無駄にせずに、飲み込むんだ。
 くわ…っ!と大きく口を開けて、ぱくんと銜え込むような動作をした後、もぐもぐと口を動かした有利は、涙を幾筋も頬に伝わせながら、粘っこく絡みつくような眠りの中に落ちていった。



*  *  * 





 コンラート不在中の有利の演技は、寂しさと苦しみを自然に滲ませていた。
 ヴォルフラムや村田、ヨザックと共に行動して冗談を言い合ったり、笑ったりもするのだけど…ふとした瞬間に見せる沈思な表情はどこか大人びて、滲むような色香さえ漂わせ始めていた。

『これだけ《咲かせる》とは思わなかったな…』
 
 ヨザックも傍らで見守りながら感慨を深めている。既に幾つかのシーンで彼を驚かせている有利だが、ここ最近の色香はどうだろう?表に出さないように秘しているだけに、ふと漏れだした瞬間には目を惹きつけずにはいられない力を持っていた。

 撮影が休憩に入って、ほぅ…っと吐いた息も夕闇の中に悩ましく流れている。これは、すっかり恋をしてしまっているのだろう。

「おい、ユーリ。今夜こそ僕の部屋でトランプをするぞ!」
「あ…ごめんな、ヴォルフ…今夜は止めとくよ」
「なんだとー!?何の用事があるわけでもないのだろう?」

 最近、妙にべったりと有利に張り付いているヴォルフラムは、有利が今まで見たこともないほどしっとりとした微笑みを浮かべると、苛立たしげに地団駄を踏んだ。こちらはあまり成長していないのだろう。

「大体、こないだだってお前の方から誘ったんだぞ?」
「うん…悪かった。ゴメンな?」
「お、お前…そんな風に笑うなっ!」
「え?」

 ふわ…っと浮かぶ表情は、笑顔なのに抱きしめたくなるような寂しさが滲んでいる。堪らなくなったヴォルフラムは一歩進んで腕を伸ばそうとするが、丁度その時…スタッフの一人が噂話を始めた。

「ありゃ、コンラートさんってばヤッパリやるねぇ…!リタ・ジョンストンと熱愛発覚だってさ!」
「……っ!」

 スタッフは撮影が休憩に入ると同時に、携帯のワンセグ機能を使ってニュースを見ていたらしい。有利はその声に反応して駆け寄ると、ちいさな画面を見つめて硬直していた。
 懸命に表情を取り繕おうとはしているけれど、唇は色を失ってちいさく震えている。

『こりゃあ…すっかり、やられてるらしいな』

 ヨザックの見たところ、有利はもう身体でもコンラートと繋がっているのだろう。さて…恋人の醜聞にどんな反応を示すだろうか?
 役者が撮影中にデキてしまうことは良くあることだが、問題はそれを役柄に上手く結びつけられるかだ。反映して役の心境に深みを持たせられるか…あるいは、感情に振り回されて役処を滅茶苦茶にしてしまうかで役者の力量が分かる。

 有利はどちらだろう?

『ユーリ…俺は結構、お前を買い始めてるんだぜ?』

 そう思いながら有利を見やれば、彼はきゅ…っと唇を引き結び、台本を手にとって台詞を口ずさみ始めた。

『へ…え』

 小声でもなかなかに雰囲気が出ている。カメラの前で声を張れば、かなり良い演技が出来るだろう。
 ヨザックが感心して眺めていると、ヴォルフラムもスタッフの携帯を覗き込んで眉を跳ね上げた。

「あいつめ…またくだらない女優と噂になっているのか!尻軽にも程があるっ!!」
「違うよ。コンラッドは、そんなことしない」

 台本を握っていた手がちいさく震えるが、発した声は震えてはいなかった。有利は台本から顔を上げないまま、ヴォルフラムの言葉に反論していたのだ。

「あいつは昔から尻軽なんだ!だって、実際僕の…」

 言いかけて、ヴォルフラムは苦虫を噛みつぶしたみたいな顔で黙り込んでしまった。自ら過去の恥ずかしい話をしかけてしまったことを後悔しているらしい。

「…とにかく!ユーリ、あまりコンラートを信頼しすぎるな!可愛がられて調子に乗っていたら、どこで足払いを喰らわされるか分かったものではないぞっ!!」
「そんなことないだろ?コンラッドは誠実じゃん!」
「兄弟の僕が言っているのだ。他人のお前に何が分かる!」
「…っ!」

 ぐ…っと言葉に詰まった有利は、奥歯を噛みしめたまま俯いてしまった。確かに過去を多く知る家族に比べればね幾らもコンラートのことを知らないと自覚しているのだろう。

『だがねぇ…兄弟だったり、多くのことを知っているからといって、そいつの本質を理解してるってコトになるかねぇ?』

 何かひとこと言ってやりたい心地になって腰を上げたヨザックだったが、ふと動きを止める。

『おお…閣下のお出ましだ』

 《御大》が登場するのを目にしてニヤリと笑った。かつて戦争映画でヨザックの上官役を務めたこともある、グウェンダル・ヴォルテールがつかつかと近寄ってきたのである。

「いい加減にしろ、ヴォルフラム」
「あ…兄上、でも…っ!」
「ユーリ、気にするな」

 ぽすっと頭髪の上に掌を乗せられ、くしゃくしゃとかき混ぜられた有利は仔猫みたいな目できょとんとグウェンダルを見上げている。グウェンダルが有利を認め始めていることにヨザックなどは気付いていたが、未だに敬遠されていると思っていた有利は心底吃驚しているらしい。

「コンラートは、誠実な男だ。兄として保証する」

 グウェンダルがそう言うと、ヴォルフラムは不満そうに唇を尖らせるのだった。

「兄上は酷い目にあったことがないから…」

 グウェンダルは流石に声を潜めると、ヴォルフラムと有利にだけ聞こえる声で囁いた。

「自分の惚れた女性がコンラートに気があったからといって、あいつを責めるのは筋違いだぞ」
「あ、兄上ーっ!!」

 ヴォルフラムは飛びかかって口元を覆おうとしたが、グウェンダルが厳しい眼差しで一瞥を加えると、途端にふしゅんとしょげてしまう。自分に非があるのを流石に自覚してもいるのだろう。
 
「あれからコンラートが親族の集いに顔を出さない理由を、お前はもう一度考えるべきだろう」
「……はい」

 おそらく、憧れていた従姉妹か何かに告白しようと思ったら、《コンラートお兄さまって素敵よね》と出鼻を挫かれた…そんなところだろう。親族が一堂に会すると、その女性が親しげに喋っているのをヴォルフラムが見せつけられるから、コンラートは理由も言わずにそっと身を引いていたのだろう。

 コンラートは、そういう男だ。

 有利も同じ事を考えているに違いない。揺れていた瞳には確かな力が戻り、感謝を込めてじぃ…っとグウェンダルを見上げている。

「グウェン…ありがと」
「…うむ」

 映画の中と同じように愛称で呼んでも、グウェンダルは訂正させたりはしなかった。
 微かに口の端だけではあったが確かに笑みを浮かべると、いつもと同じように背筋を伸ばして立ち去っていった。
   



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