「クリスマスあくま★ハロウィンさんた」−9






 いつもなら、ユーリは子どもらしく《きゃあ!》と叫んで転がりました。
 ですが…この日は違っていたのです。

「…っ!」

 びくん…っと華奢な背を弾ませると、耳まで真っ赤に染めて俯いてしまいました。
 大きく開いたドレスの背中で、ちいさな蝙蝠の羽根が小刻みに揺れています。
 魔法が掛かった猫耳も、ぺたんと寝たままぷるぷる震えていました。



「…ユーリ?」

 この様子に、コンラートもドキドキするのを止めることが出来ませんでした。
 これまでもユーリを《舐め転がす》ようにして可愛がってきたのですが、どうしたことでしょう…コンラートは別の意味で《舐め回したい》と願っていることに気付いて吃驚しました。

「コンラッド…」

 振り返ったそのお顔に、コンラートは瞳を奪われて立ちつくしました。
 しっとりと濡れた眼差しは、鮮やかに綻ぶ寸前の蕾のようです。眼差しには真っ直ぐな子どもらしさと同時に、思いの丈を口に出来ない大人のはにかみも含んでおりました。

「コンラッド…あのね、俺…今年の7月に、16歳になったんだよ」
「そうか…大きくなったんだね」
「16歳ってね、サンタの世界では《大人になった》ってことなんだよ?」

 ただ、サンタの世界では大人になったからってそんなに暮らしぶりが変わるわけではありません。サンタの世界には女の子がいませんから(サンタギャルは人間がやっているだけなのです)、結婚したり子供を作ったりすることもありません。

 ですが…どうしてもユーリはコンラートの気を引きたくて、大人であることを主張したかったのです。
 《今までみたいな子どもじゃないんだよ》…どうしてそのことをこんなにも主張したいのか、自分でもよく分かりません。
 
「大人のサンタになったのか…」
「そうだよ、俺…大人なんだよ?」

 一生懸命…瞳に淡く涙さえ湛えて主張するユーリを、そのまま放っておくことなんて出来ませんでした。
 コンラートは狂おしい気持ちが込み上げてくるのを感じると、我を忘れてその身体を抱き寄せ…唇を重ねてしまったのです。

「…ん…っ」

 甘い鼻声を漏らして、ユーリが喉を反らします。
 吃驚しているけれど、同時にとても嬉しそうに綻んだその唇を、もっと味わおうとしたその時です。




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