「クリスマスあくま★ハロウィンさんた」−8





「コンラッド…今年は、俺…自分で着替えるから、あっち向いててくれる?」
「おや…そう?」

 ユーリが16歳になった年のハロウィンには、コンラートの前でお着替え出来ませんでした。
 去年まではてんで平気だったのですけど、どうしてだか今年はコンラートの姿がいつも以上に眩しく見えて、なんだかとっても恥ずかしかったのです。

 それに、コンラートに勧められたこの服は特段に恥ずかしい代物でした。
 濃い紫と黒で作られたミニスカートドレスには猫の耳と尻尾がついていて、背中は大きく開いています。そこに透明なヒモがバッテン型になっていて、ちいさな蝙蝠の羽根を取り付けるのです。そうすると、素肌から直接羽が生えているように見えて随分と色っぽくなります。
 黒くて長い靴下は膝の上までありますが、腿の辺りは素肌が見えてしまいます。それに…黒いヒモのパンツはお尻がはみ出てしまいそうです。

 それでもどうにか着てみたのですが、どうしても腰の部分のファスナーが上手く上げられません。
 ちらりと後ろを振り返ると、コンラートは約束通り後ろ向きに立っていました。
 背筋がすらりとしているせいか、唯そうして立っているだけでこの人は格好良いです。

「コンラッド…あのね?腰のところだけファスナー上げるの手伝ってくれる?」
「ああ、いいとも」

 コンラートはくるりと振り返ると…目を大きく開いて驚きました。

「…に、似合わない…?」
「いいや…あんまり色っぽくて綺麗だから、驚いてしまった…」

 《いつの間にか、こんなに大きくなったんだね…》コンラートがしんみりと囁きながらファスナーを上げると、ユーリの胸にも切なさが過ぎりました。

『そうだ…コンラッドは全然大きくならない、ハロウィンの国の人なんだ…』

 ハロウィンの国の住人は、生まれた時の姿のまま何百年も生きて、ある日急に死ぬのだそうです。きっかけはよく分かりませんが、 《生きることに飽きるか、辛くなってしまった時》死ぬのだとコンラートは言いました。

 それに対して、サンタ族は人間と同じくらいの年の取り方をして、お爺さんになったら眠るようにベッドで死ぬのです。

 二人の間には…そんな違いがあるのです。

『俺はコンラッドを置いて、お爺ちゃんになって死んじゃうんだ…』

 その事を実感すると、足元がぽっかりと開いて…どこまでも落っこちていくような心地になりました。
 ユーリがしょんぼりしているのに気付いたのでしょう。コンラートは気持ちを明るくさせようと、いつものように悪戯を仕掛けてきました。

 剥き出しになったユーリの首筋に、ドラキュラみたいに歯を立てて《trick or treat》と甘く囁いたのです。





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