「クリスマスあくま★ハロウィンさんた」-3
ふわりと路地裏に降り立てば、星明かりを背景にして大きく広がったマントと蝙蝠のような羽根に《ひぅ!》…っと子どもは息を呑み、吃驚仰天したせいか《ころん》と転がってしまいました。
ああ…なんて良い反応でしょう!
お顔だって素晴らしくコンラートの好みです。
ふっくらしたほっぺは大粒の黒い瞳から溢れた涙で濡れているのですが、ちっちゃくてぷくぷくしたお手々で擦りすぎたせいか、可哀相なくらい紅くなっています。
さらさらとした髪の毛は所々跳ねていて、それがまた子どもらしくてよろしいです。
5、6歳くらいの男の子でしょうか?でも、女の子でもおかしくないくらいに可愛らしいです。
ただ…ちょっと変わっているのは、ハロウィンだというのに真っ赤なサンタの服を着ていることでした。近頃は確かに《…ハロウィ
ン?》と首を傾げたくなるような仮装もありますが、流石にサンタの服は別のイベントの主張が激しすぎますからね。
「trick or treat…」
コンラートが雰囲気たっぷりに囁きますと、子どもは目をぱちぱちさせて小首を傾げました。
「あの…それって、どういう意味?」
「え?」
今度はコンラートが吃驚仰天する番でした。
まさか、ハロウィンを知らない子どもが居るなんて思わなかったのです。
そりゃあ、国によっては全くやらないところもあるとは聞いていますが、この街ではもうずぅっと行われていますからね。
「君はハロウィンを知らないの?」
「うん…あのね、街がなんだかとっても楽しそうだったから、俺はもうクリスマスが来たんだと思って慌てて出てきたの。寝坊したせ
いで、もうみんなプレゼントを配りに行ったのに、遅れちゃったのかと思ったんだ。でも…雪はまだ全然降ってないし、そんなに寒く
ないし…街の人たちはクリスマスには絶対着ないような変わった服を着て、《とりっくおあとりーと》って言い合ってるんだもん。び
っくりしちゃった」
「もしかして君は、クリスマスの子かい?」
サンタの子はこっくりと頷きました。
そういえば、聞いたことがあります。
クリスマスの国ではツリーに男の子が《実って》、それが段々大きくなってサンタになるんだそうです。
木の股から生まれた大きさのまま、成長しないハロウィンの国の住人とは随分と様子が違うみたいです。
ですが、あちらの国でも規則は一緒のはずですよ?
決められたお祝い事の日以外は、街に出てはいけないのです。
だって、街が一斉にお正月やクリスマスやイースターになったら吃驚するでしょう?
「どうしよう…おれ、おろおろして歩いてたら、帽子を落っことしちゃったの。あれがないと、クリスマスの国でおしおきされちゃう
…」
《ふぇ…》っと泣きじゃっくりが込み上げてくる様子がまたまた何とも愛らしくて…顔を真っ赤にして《ひっく、えっく》やってい
る様子を、コンラートは暫くうっとりと見詰めていました。
『どうしようかな…悪戯はともかく、お仕置きを受けるのは可哀相だね。だけど…俺はもっとこの子と遊びたいな』
《この子と》なのか《この子で》なのかで多少意味合いは変わってきますが、まあ良いことにしましょう。
「俺が探してあげようか?」
「ほんとう?」
ぱぁ…っと、子どもの顔がお日様みたいに輝きます。
『おや…』
泣き顔も可愛かったけど、笑顔はもっと可愛いではありませんか。
コンラートは、すっかりこの子のことが大好きになってしまいました。
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